経営者が知っておきたい予算管理の基本を公認会計士が丁寧に解説
予算管理を初めて行う場合、なんとなく手を付けてみて活用できない状況になる方がいらっしゃいます。それは予算管理のポイントを押さえていないことによるものです。
完全な予算管理をするには、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の相互の関係を十分理解したうえで、業務フロー設計、経営計画、業績評価管理会計、責任会計などの高度な知識とノウハウを持っていることが必要ですが、これらがなくともポイントをしっかりと押さえれば、初心者でもある程度有効に予算管理が可能です。
今回は、初心者向けの予算管理の方法について滝 文謙 公認会計士に解説していただきました。
1)予算の目的を明確にしましょう
予算というものは、経営のための道具です。道具は、使い方でその効果は大きく変わります。では使い方はどうすればよくなるでしょうか?
それは目的をしっかり意識しているかどうかということです。具体的な管理方法に気を取られやすいところですが、まずは目的意識が何より大事なので、ここで説明させていただきます。
予算の目的はいろいろとありますが、次の目的が挙げられます。
目標の設定(目標利益を達成するためには、売上の最低目標はどれだけか、諸経費の上限はいくらか) 目標達成のための計画(予算を作る過程で、どうやったら目標が達成できるのか?目的達成のための資金は十分か?を考える) 戦略の伝達(経営者の戦略を予算作成過程で従業員に伝える) 責任者の決定(だれにどこまで責任(予算)を持たせるのか?どれだけ自由に使っていい金額とするのか?) 目標と実績の分析(後で実績と比べてどうだったか?) 責任者の評価(与えられた予算に対して責任者は責任を果たせたか?)
よく、予算を作って満足されるパターンが多いですが、重要なのは予算作成の「過程」とその後の実績との差についての取り扱い、そして責任範囲の決定です。責任範囲の決定がある点で「予算」と単なる「計画」は異なります。目的を意識したうえで、意義のある予算編成をしましょう。
2)予算の作成手順
予算の作成方法はいろいろで、作り方に決まった形はないのですが、ここでは初心者ができそうな簡単な方法を説明します。
1. 部門別の計画損益計算書を作成する
まず部門別(部門がなければ責任者別)の計画損益計算書を作るところからスタートします。初めて作る場合は前期の損益計算書を部門別(責任者別)に分けてもかまいません。
ここで注意が必要なのは、この部門別損益計算書はそこの責任者が管理できる金額を割り当てなければなりません。別の言い方をすれば、そこで計上されている経費はそこの責任者が、その割り当てられた経費の種類(科目)の中で自由に使ってもいい金額であり、その上限を表します。
例えるなら、遠足の時にあなたは「お菓子」500円という予算を与えられたら500円までならどんな「お菓子」でも好きなように買っていいですが「おかず」に500円は使ってはいけません。使ってもいい経費の種類(科目)を特定しない場合は「予備費」などとします。売上などの収益については、そこの責任者が負うノルマ(下限)を意味します。
2. 行動計画を立てる
次に、その責任者に新年度に新しくどのような努力をするのか行動計画を立ててもらいます。そしてそれを金額にするといくらになるのかを考慮してもらい部門別損益計算書を修正します。
3. 部門別損益計算書を合算・修正する
各部門の部門別損益計算書を合算し、全社の損益計算書として目標利益や資金繰りが大丈夫かを考慮し、必要に応じて各部門に修正を依頼します。この修正を繰り返して、確定したところで予算のできあがりです。
3)予算と実績を管理する
予算に対して実績が出たら、この差異を分析します。どの行動が成功して、どの行動が失敗だったのか、またそれらの原因を追究し、今後に生かします。分析はデータを分析することに加えて、本人や関係者に直接質問するとさらに効果的です。
また予算は部門の責任者の賞罰の参考とします。予算達成者に対して賞与を支給したり、昇給・昇格の参考情報として活用したりするのが定石といえます。予算未達成で罰を与えることは、実務上は少ないかと思います。
4)まとめ
予算管理は使い方を誤るとその効果を発揮しません。目的意識を十分に持って予算管理をすることが大事です。また公認会計士や監査法人などの専門家は予算管理の一部を代行したり、補助するサービスを行っている場合もありますので、これらを利用するのも有効な予算管理につながるかと思います。