融資や補助金の交付が受けやすくなる事業計画書に欠かせない4要素
あなたは、自社の事業計画書を作ったことがありますか?よく、設計図がないところに家は建たないといわれますが、事業についても、計画(目標)がないことには、結果を受けての検証もできません。しかし、多くの会社は事業計画書を作成していません。
また、銀行からお金を借りたい、補助金をもらいたいというタイミングで初めて事業計画書の作成を迫られている方も少なくないのではないでしょうか。
今回は、銀行が思わず貸したくなる、また、補助金が採択されやすくなる事業計画書に欠かせない4つの要素について西村 賀彦 税理士に解説していただきました。
1)銀行や自治体を納得させる事業計画書とは
銀行からお金を借りる、国や地方公共団体から補助金をもらうということは、事業の発展を期待して資金を投じてもらうということです。銀行は、貸したお金によって事業が発展し、金利も含めてちゃんと返ってくるか、国は、税金を財源として交付した補助金を利用してその事業が発展し、結果的に経済の活性化につながるのかを考えて資金を投じています。そのため、事業計画は、事業が融資や補助金によって発展することが期待できる内容である必要があります。
それでは、融資や補助金の交付に必要な、事業計画書に欠かせない4つの要素を次の項目で見ていきましょう。
2)事業計画書に欠かせない4つの要素
1. 計画が具体的で実行可能な事業計画書か
例えば、後輩のA君とB君が、車を購入するための頭金が足りないのでお金を貸してほしいと言ってきたとします。 A君は「先輩、新しい車の頭金、20万円なんですけど貸してくれませんか?今は返せないですが、車が買えたらちゃんと就職して返しますから」と説明しました。 B君は「先輩、新しい車の頭金、20万円なんですけど貸してくれませんか?今は、お金が無いのですが、来月から正社員として就職が決まっていて、給料20万円のうち毎月2万円ずつ返しますので」と説明しました。
あなたが先輩だったら、どちらにお金を貸しますか?当然、B君ですよね?
これは、B君の方がお金を返す計画に具体性があり、返済してくれる可能性が高いからです。これは、簡単な例でしたが、実際の事業計画書でも具体性が無くて達成の可能性が見えないものがたくさんあります。
「我が国の経済状況は○○で、当社も例外無く○○となり、資金調達の必要性がでてきました。来年は、顧客満足を追求し、○○の売上予算を達成すべく努力する所存です・・・」というような具体性に欠けた内容では、銀行も国も資金を投じる気にはなりません。まだ、職にも就いていないA君にお金を貸す気になれないのと理由は同じです。
では、計画に具体性をもたせて、達成・返済の可能性を高めるにはどうすればいいのでしょうか。要件を見ていきましょう。
- 数値計画を達成するための具体的な行動計画が記載されているか
- 自社の取り組む課題が明確になっているか
- 自社の強みを踏まえた計画になっているか
- 市場のニーズを満たす計画になっているか
- 行動計画を実行するための資源(ヒト・モノ・カネ・知識・情報・ノウハウ・経験)が確保されているか
- 特許や商標、著作権などを侵害していないか
- リスク対策が盛り込まれているか
この中で特に大切なことは「数値目標を達成するための具体的な行動計画」ですので、この点について補足をしたいと思います。ここでいう「行動計画」の中でも特に「売上計画(販売計画)」が大切です。なぜなら、事業計画の中でも、売上計画(販売計画)は、作成する人により大きく異なるからです。目標の利益を達成するためには、売上を上げるか、経費を下げるかしか方法はありません。後者は経費を使わなければ達成できるので、売上を上げるよりは管理しやすいと言えるでしょう。しかし、経費削減にはいずれ限界が来てしまい、売上を上げないことには目標利益が達成できない状況になってしまいます。
多くの場合、売上目標は必要利益から逆算で算出しますが、算出した売上を達成するために、どんな行動をするのか(=行動計画)が明確でない事業計画がとても多いのです。先ほどのA君の例で言えば、売上目標は「どんな会社に就職して、いくらの給料をもらうか」ということです。A君はまだ就職が決まっていないので、売上目標は不確定です。
それでは、売上目標が不確定な状態では、お金を借りることはできないのでしょうか?
それではA君がこう言ったらどうでしょうか?「先輩、新しい車の頭金、20万円なんですけど貸してくれませんか?僕、今は職に就いてないですけど、経験があって一番得意な業界である飲食業の会社30社に、すでにエントリーシートを送りました。面接の予定も来週から数社入り始めています。そして、いつ面接が入ってもいいように、向こう1ヶ月の予定はあけてあります。将来は店長になりたいので、面接が無い日は計数管理を学ぶために簿記の勉強をします。」 冒頭のA君の発言よりは、先輩からお金を借りることができる可能性が上がりそうではないですか?
売上の目標を達成するための行動計画を具体的に伝えており、しかも、自分の強みとする業界に絞り、計数管理の課題が明確になっているため、冒頭のパターンよりも説得力が増しています。
この行動計画にも1つポイントがあります。それは「コントロール可能な行動にフォーカスする」ということです。
例えば、「営業担当の営業先を再検討し、月3件の新規顧客の拡大を目指します」という計画は「営業先の再検討」という部分がとても曖昧です。
対して、「従来、営業担当が行っていた電話のアポ取りをパート職員が担当することとし、営業担当は訪問に専念することで現状1日1件の訪問を、1日2件とします。現状の営業担当の成約率が○%なので、訪問数が倍増することで月々○件の新規顧客の獲得を目標とします」という計画であれば、「営業マンの訪問件数」というコントロールがある程度可能な事象にフォーカスしているため、行動計画が達成される可能性も高まります。
このように、事業計画書に欠かせない4要素のうちの1つ目は、計画が達成可能であるということであり、具体的には、計画を達成するための行動プランが明確になっているということです。そしてその行動計画は、コントロール可能な行動、つまり、お客様の行動ではなく自社の行動にフォーカスした計画であることが必要です。
2. わかりやすい事業計画書になっている
事業計画書で多いのが、書いた人しかわからないような内容になっているものです。専門用語が用いてある場合や、そもそも文章として伝わりにくいものがあります。書いてあることがわからなければ、当然、銀行や自治体も資金を投資することができません。そのような事態を防ぐためにも、事業計画書を提出する前に、顧問税理士などの専門家や、それが無理でもご家族など、第三者に読んでもらうことは必須です。
以下に、わかりやすい事業計画書のポイントを記載します。
- 適切なサマリー(要約・概要)がある
- 適切な長さになっている(場合にもよりますが、15分程度で概要とポイントがつかめるくらの量がベストだと思います)
- 専門用語を極力使わない
- 伝えたいことが主題になっている・伝えるべき内容の比重が適切である(文章量が多いと印象がいいというのは勘違いです。関係がない内容を長々と書くのは返ってマイナスとなることもあります)
- 補助金などで募集要項がある場合は、その要項に忠実に書かれている
- 必要な内容が網羅されている(後述してある事業計画書に盛り込むべき9項目を参照して下さい)
3. チェックに使える事業計画書になっている
事業計画書が一番使用されるのは、月次決事業計画書を企業が一番使うときは、いつでしょうか。借入の申請時や補助金の申請時しか使用しないというのは、事業計画書の本来の目的とはいえません。 経営計画書を一番使用する時は、月次決算(月々の締め)で経営の振り返りを行うときです。事業計画の数値計画や行動計画は、文字通り「計画」なのですから、必ずしも計画通りいくとは限りません。むしろ、うまくいかないことの方が多いでしょう。ですから、「計画」と「実績」の差がなぜ生じたのか、実績は良かったのか悪かったのか、さらに良くしていくにはどうしていけばいいのかを振り返ることが非常に大切です。
ここでのポイントは、上記の「計画が具体的で実行可能な事業計画書か」で触れたものと表裏一体となります。達成可能な事業計画書は、行動計画が具体的です。行動計画が具体的であれば、その行動が行われたか否かの検証が非常に明快にできます。つまり、達成可能である事業計画は、すなわちチェックに使える事業計画ということになります。 チェックをする際は以下の2つの項目に分けてチェックをしていきましょう。
- 行動計画で計画していた行動ができたかどうか
- その行動をした結果、計画通りの成果が出ているか
例えば、行動計画で、「DMを作成し、ポスティングをする」という行動計画があったとします。その場合、チェックする項目としては、
- DMのポスティングは実施できたのか
- 実施をしたならば、予定していた成果(=反応)が得られたかどうか
という2段階で検証する必要があります。前者ができていない場合と後者ができていない場合では、その後の行動が変わってきます。前者ができていない場合は、今後どのようにマネジメントをしていけば、計画通りにDMをポスティングすることができるかを検証する必要がありますし、後者ができていない場合は、DMの内容を見直す、DMを配るターゲットを変える、ポスティングではなく新聞折り込みにしてみるなどの検証をすることとなります。
事業計画は、計画を実施した後の経営をより良くしていくためにあるといっても過言ではありません。せっかく立てた事業計画をより活かすためにも、その後のチェックに時間を割いて、次の一手を考えていきたいところです。
また、チェックに使えるということは、対銀行、対自治体の観点からも有利となります。なぜなら、借入れをした銀行には定期的な報告が求められますし、補助金をもらった場合にも、自治体に対してモニタリングとして補助事業の経過報告をしなければならないことが多いからです。チェックに使える事業計画書の作成は、銀行や自治体の計画のチェックの補助になり、今後もフォローできそうかという可能性にもつながるのです。
4. 「ワクワクする」事業計画書になっている
私が事業計画の作成をサポートするとき、「この計画は大成功だ」と感じる瞬間があります。それは、事業計画書を作成している経営者の方が「ワクワクしてきた」と言うときです。本来、経営者は自ら選んで今の事業をしているはずです。ところが、お金を貸してもらうために、もしくは補助金をもらうために本来やりたくないことまで事業計画書に盛り込んでしまうと、事業計画書が経営者にとって「やりたくないことが書いてある、煙たい存在」となってしまいます。
そうなると、銀行や国に提出した事業計画書は、引き出しの中に保管され、二度と見ることは無い存在になってしまうでしょう。それは、上記の「 チェックに使える事業計画書になっている」でも記載した通り、本来の求める姿ではありません。 そうならないためには、経営者自身が「ワクワクする」計画でなければいけません。
「経営者がワクワクする計画」とはどういう計画でしょうか。経営者は目標を持って経営をしているはずです。日々の忙しさに追われて目標を忘れてしまう瞬間もあると思いますが、「なぜ経営をしているのか?」ということを深堀りしていくと、社会貢献や対消費者・対従業員への重い、自己実現などの目標が見えてくると思います。今、作成している事業計画を実践することで、やがてはその目標が達成できるという確信が芽生えたとき、経営者はワクワクするのだと思います。
つまり、経営を通じて、今後、どうしていきたいか(どう思われたいか)の未来像が明確になり、その未来像へ向かうための「矢印」がこの事業計画だと確信することが重要です。中には、経費削減やリストラなど、目標を達成するためには、やりたくないこともやらなければいけないことがあるかもしれません。しかし、それを乗り越えた先の未来像が明確にイメージできていれば、そこへ向かうまでの道のりはワクワクするはずです。
ワクワクできないとき、それは、どこへ向かえばいいのか分からないときや向かうべき先が決まっても、どうやったらそこへ行けるかわからないときだと思います。何事も目指すべき未来像が明確になったときはすごくやる気が出て、最大限の力が発揮できるものです。事業計画書も本質はそれと同じではないでようか。ワクワクする事業計画書を作成するための答えは経営者の中にあるということです。是非、ワクワクする事業計画書を作ることにチャレンジしてみて下さい。
銀行からお金を借りる、自治体から補助金をもらう場面でも、経営者がやる気に満ちあふれているということは大きなプラス要因となります。それは、事業計画書を見れば分かってくるものだと思います。
3)事業計画書に盛り込むべき9項目
次に、事業計画書に盛り込むべき項目を解説していきます。抑えるべきポイントは以下の9つあります。
1. 経営理念・ビジョン・目指すべき未来像
2. 計画の概要(どういう市場に、どういう製品・サービスを、どのように売るかを軸に簡潔にまとめたもの)
3. 経験・経歴・実績(今後の計画と整合性のあるもの)
4. ターゲット・市場ニーズ
5. 製品(商品)・サービスの概要
6. 計画を進める上での強み・弱み(ヒト・モノ・カネ・知識・情報・ノウハウ・経験等の経営資源という観点から分析するとよい)
7. 競合分析(既存の類似製品・サービスとの違い)
8. 行動計画(時系列で記載し、数値計画と連動していること)
9. 数値計画(販売計画・利益計画・投資計画など)
4)最後に
冒頭で多くの会社は事業計画書を作成していないと書きました。つまり、事業計画書がないのです。ところが、銀行からお金を借りたい、補助金をもらいたいという場合には事業計画書が必要になります。融資や補助金を得るために経営者は、経理担当者や顧問税理士に事業計画書の作成を頼む場合が多いです。その結果、出来上がるのは、「事業計画書」ではなく、ただの数字合わせの根拠の無い「売上予想」です。「計画」と「予想」の違いは、達成しようという意思が入っているかいないかです。
つまり、「売上予想」には「社長の想い」と「社員がやるべきこと」が入っていないのです。
「現在はこういう売上で、これくらいの利益が出ていて、だから5年後にはこうなりたいです。そのために、社長は○○をします。社員は○○をします。」一言でいうと、これが事業計画書となるのです。
さて、それでは、今まで事業計画書を作ったことがない会社はどうやって事業計画書を作るのが正しいのでしょうか。それは、「TTP(「徹底的にパクる」と読みます)」ことです。最初にも書いた通り、多くの会社には事業計画書がありません。何も無いところからオリジナルで事業計画書を作成しようとすると、あっという間に挫折をします。まずは、自分が良いと思った事業計画書(インターネットで検索したものでも、尊敬する経営者の会社のものでもいいです)を真似て作ってみることです。そこから書き換えていけばいいのです。書き換えていくことで、ドンドン自社のオリジナルな事業計画書になっていきます。大切なのは、とにかく作ってみることです。
今回は、銀行から資金を借りたい、自治体から補助金をもらいたいという場面を想定して、記事を記載しました。事業計画書は、経営をする上で事前の計画は必要不可欠のものです。きっかけは借入や補助金だとしても、結果的に会社のための事業計画になるのであれば、非常に良いことだと思います。この記事が皆様の事業計画を作るきっかけづくりに、少しでも役立てていただけたら幸いです。