予算実績管理、知っておくべき3つのこと
会社を設立してしばらくは帳簿をつけるのが精いっぱいで、決算が終了してようやく今年はどうだったかわかるという状況かもしれません。しかし、だんだん会社の基盤がしっかりしてくると、月次決算ができるようになってきて、それがだいたい1~2週間程度でできるようになったら、そろそろ予算実績の管理を始めてもいいかもしれません。
1)予算実績管理に向けた基本的な準備
事業計画をつくろう
結構事業計画をつくりましょうと提案すると、創業して数年程度の会社の経営者の方はびっくりされます。ただ、ここでいう事業計画は、大企業が作成しているようなパワーポイントのスライドが100枚を超えるような大げさなものの話はしていません。極端な話、紙一枚でもOKです。ただ、詳しく事業計画の話をすると一冊の本になってしまうので、ここでは以下だけ記載してほしいということにとどめます。
・事業の理念 -あなたの会社は何のために存在している?あなたの大切にしている価値観は? ・ビジョン -ここ2~3年の間に達成したいこと+財務目標(売上XX億、利益XX億など) ・戦略 -上記のビジョンを達成するために何をする?(何はしない?)
予算をつくろう
理想としては事業計画から中期の2~3年の予算を作成して、それから1年分の予算をつくるといいたいところですが、いきなりは難しいと思います。したがって1年分をつくることになると思います。
ただ、予算も大きく分けると、損益予算、資金予算、投資予算があります。このコラムでは予算実績管理を始める方、または始めて間もない方を対象としますので、損益予算いついて紹介します。もちろん資金予算と投資予算も重要ではあるのですが、今回は割愛いたします。
1.今年の月次損益計算書を眺めてみる 大きく分けると、売上、売上原価、販管費、営業外損益の4つに分けられるでしょう。借入が大きい会社や資産運用を積極的にやっている会社以外、営業外損益はほとんど無視していい数字だと思います。税金は特殊な要因のある際のみ考慮すれば十分だと思います。
2.売上予算を作ってみる 今年の損益計算書の売上、売上原価を商品・サービス別、または顧客・チャネル別などで分類してみましょう。商品・サービス別、顧客別粗利益率(売上利益÷売上)に売上げが分かれば、売上原価もわかるはずです。
これを基に来年の予算を立てていきます。当然新規の商品・サービス・顧客等もあるでしょうからそれも加味します。
3.固定費予算を作ってみる 月次損益計算書を眺めてみると、毎月売り上げが変動しても変わらない数値があります。一般的には事務所の家賃とか人件費などです。ただ、人件費はリストラや大量採用などがあると大きく動きます。
予算で大まかな人数(「ヘッドカウント」といいます)を管理して平均賃金を乗ずるような形で従業員の多い企業は予算を作成することがあります。
ただ、おおむね固定費予算は直近の月次の数字をそのまま使い、それを12倍すれば年間予算になります。そこに人員増加や事務所増設などがあれば加えていけばいいわけです。
4.変動費予算を作ってみる 逆に毎月売上に合わせて変動する費用があるはずです。代表的なものは売上の手数料やリベートなどがあげられると思います。これらは売上予算に一定の率をかけていけば数字は求められるわけです。
予算を作成する時、気を付けることは事業計画のビジョン・戦略との整合性です。よくあるのが、戦略を織り込んだ売上予算が作成されているのにそれの達成に必要なリソースが全く確保されない予算が作成されてしまうことです。要するに売上だけ増やして利益が上がっているように予算上は見えますが、単に戦略を実行する人員や設備などのコストが全く予算で入っていないということです。
2)予算実績管理の重要性
そもそも何のために予算実績管理を行う必要があるのでしょうか?少し考えてみましょう。
1.「計器」のチェック
まず、会社の財務的な目標があると思うのですが、現状それが目標通りにうまくいっているか確かめるために必要です。
パイロットは計器をみて目的地まで順調に進んでいるか、定期的に確認しています。これと同じように、企業経営でも今進んでいる方向ややり方が正しいのか、予算実績で確認することができます。
正しくない場合、どこかに数字で出てくるわけです。わかりやすい例だと、たとえばつい調子に乗って交際費などを使いすぎたときなどは予算に比べて大幅にオーバーしてしまいますので少しブレーキを掛けることができます。
2.原因の探索
ただ、目標どおりにいかなった場合、その原因を突き止めないといけません。予算実績で問題があるなと思ったことは調査する必要があります。例えば、売上げが予算を達成していない場合、どの商品・サービスなのか、どの顧客に対するものなのかを探っていくわけです。
3.アクションプランの作成
一番大切なのは目標に近づくためのアクションをそこから考えることです。つまり、予算実績管理をすることによって、改善アクションが取れる、逆に言えば改善アクションが取れないような予算実績管理は意味がないわけです。
ただし、ここでいう改善アクションは東芝の事件の「チャレンジ」のような無理な目標を与えて、ひたすら担当者を叱責して会計操作をさせるようなものであってはなりません。
例えば、商品の不振が売上未達の原因であったら、具体的なアクションプランとして、新しい顧客を開拓する、既存顧客へのアフターサービスを見直すなどさまざまなことを考えていくわけです。
3)予算実績管理に際して気を付けること
1.ドリルダウンできる数字
予算と実績差異が出ても、その原因がわからなければ意味がありません。例えば、売上が達成できなかったとしても、それが価格の要因なのか数量の要因なのかブレークダウンできないと意味がありません。どちらかによって打つ手は違ってくるはずです。要するに手が打てるレベルまでドリルダウンできないと意味がないわけです。
2.細かすぎる数字はNG
比較科目は細かすぎない方が役に立ちます。中小企業であればパートと正社員の人件費が分かれていれば十分です。
ある会社で人件費を給与の他に、厚生年金、健康保険、労災、労働保険…などと細かく分けて予算実績をやっていましたが、細かすぎてかえって人件費全体が見えなくなっていました。
3.分析で気を付けること
差異分析に一所懸命になってしまう方が少なからずいます。そのような人はとにかく差異を細かいレベルまで説明しようと頑張ります。しかし、最終目的は差異をつぶすことではないです。
本質は改善行動を起こすことですから、重要性があるものだけピックアップすればよいのです。経営者も細かい数字の不整合で部下を叱責するようなことは控えましょう。
4.会議で気を付けること
予実会議は改善アクションを考える会議です。したがって、予算未達の部下を叱責してつるし上げる会議ではありません。経営者も一緒にアクションを考えます。できる限り前向きな雰囲気を作ることに気を付けましょう。萎縮している中では何も考えは浮かびません。東芝ではこの予実会議が廃止されてしまいましたが、予実会議が悪いのではなく、運用のやり方がまずかったのです。
まとめ
私は世界的な大企業の米国本社で全世界の予算の取りまとめをしていましたし、一方でベンチャー企業のCFOとして小さめの会社でも予算の責任者を務めました。感じたことは大きな会社でも小さな会社でも基本は一緒です。
何度か強調していますが、予算実績管理は改善アクションを起こすためのものです。ただ、身の丈に合った労力のかけかたがありますので、そのあたりを忘れずに作成していただければよいかと思います。多少雑でもいいのでまず始めてみましょう。