会計不祥事を防ぐために企業が行っておきたいこと
会計不祥事は対岸の火事ではありません!
最近、各種メディアを賑わせている会計上の不祥事。現役、旧経営陣の処分や、株価の低迷、顧客離れ等、会計不祥事の影響はどこまで拡大するか予想が難しいほどです。
ただ、この会計不祥事は大企業だけの話ではなく、中小企業でも十分注意する必要があります。下手をすれば会社そのものが吹き飛んでしまう危険性もあります。そこで、本稿では最近メディアで取り上げられているコンプライアンスとコーポレートガバナンスにも触れながら、会計不祥事を防ぐために企業が行っておきたいことに触れ、さらに中小企業に焦点を絞った仕組みについても考えてみたいと思います。
1)会計不祥事に関する用語の確認
会計不祥事に関してメディアでは色々な言葉を使っていますが、本稿では下記の定義で用語を使用します。
コンプライアンス:法令や規則の遵守 コーポレートガバナンス:経営陣が暴走することなく、企業の目的達成に向けて行動するための仕組み 粉飾:意図的に実施した不適切な会計処理 誤謬:意図的ではない不適切な会計処理
2)経営者の役割に対するコンプライアンスとコーポレートガバナンスの関係
会計不祥事に関して、経営者の過度な利益追求の姿勢を問題視する指摘も見られますが、経営者が利益を追求するのは当然で、それ自体は問題ではありません。利益を達成するための手段として不適切な会計処理を行ったことが問題であるということを明確にしておく必要があると思います。
コンプライアンスとコーポレートガバナンスの関係を整理すると、利益追求という経営上の目的に対して、不適切会計という誤った手段を選択してしまうことがコンプライアンス上の問題で、誤った手段を選択せず正しい手段で利益追求を行うように経営者及び従業員を促す仕組みを作ることが、コーポレートガバナンスの議論ということになります。
3)粉飾と誤謬(ごびゅう)
会計処理には一定のルールがあります。このルールに反していると分かった上で行った不適切な会計処理を「粉飾」と言い、ルールに反しているとは知らずに行ってしまった不適切な会計処理を「誤謬」と言います。
例えば、不良在庫の会計処理で、評価損を計上しなければならない在庫があることを知っていたにも関わらず、評価損を計上しないのは粉飾です。一方、そもそも在庫管理がずさんで、不良在庫があることを管理上把握できておらず、結果的に評価損を計上していなかった場合は誤謬ということになります。
粉飾も誤謬も不適切な会計処理ではありますが、未然に防止するためのアプローチはそれぞれ異なります。 誤謬は知らずにやってしまった不適切な会計処理なので、誤っていることをキチンと発見することができれば解決します。
4)誤謬を未然に防ぐためには
誤謬は内部管理体制がきちんとできていないのが原因である場合が多いので、きちんとした管理体制を構築し、ミスを事前に発見するための仕組を構築することが最も有効な解決策となります。
ですから、誤謬の対策はコーポレートガバナンスの側面ではなく、業務フローの見直の側面になると言えるでしょう。
具体的な管理手法としては下記の方法が挙げられます。
ダブルチェック
ある作業について、作業担当者以外の者がその作業が正しく行われたかチェックする仕組みです。とてもシンプルですが、内部管理の基本ともいうべき手法で、重要性が高い作業については、たとえ単純な作業でも必ずダブルチェックは行うことが望ましいです。
上長のチェック
ダブルチェックの一種ではありますが、上長は複数の作業の承認を行っているため、業務全体を俯瞰してみることができます。そのため、異常な事象をより効率的に発見することが期待できます。
作業の定型化
作業を定型化・単純化することで作業の正確性を高めることができます。また、ダブルチェックにおけるチェックポイントも絞ることができ、作業の正確性と効率性を高めることができます。
業務フローの文書化
業務フロー全体を図式及び文書にまとめることも管理手法として有効ですが、その目的は文書化を行う過程で、業務の無駄やチェックが甘い部分を洗い出すことにあります。
5)粉飾を未然に防ぐには
粉飾は意図的に行っているものなので、不適切な会計処理を行ってもどこかの時点で発見できるようにする、業務フローの改善と、そもそも、不適切な会計処理という欲求を起こさせないようにするための仕組みの二つの側面で考える必要があります。
業務フローの改善は誤謬を未然に防ぐ部分と重複するので、ここでは、不適切な会計処理という欲求を起こさせないようにするための仕組み、要するにコーポレートガバナンスの仕組みを考えてみたいと思います。
6)従業員が行う粉飾を未然に防ぐためには
粉飾は意図的に行っているため、書類の偽造や事実と異なる説明といった偽装工作を伴っている場合が多いです。その結果、一見して不適切であることがわからない場合もあり、ダブルチェックなどの業務フローの改善だけでは粉飾を未然に防ぐことには限界があります。
従業員が行う粉飾はノルマが未達だった場合など、保身のため行うことが一般的です。そのため、経営者がコンプライアンスを重視し、不正行為を許さない姿勢を明確にし、それを継続して伝えることが、従業員が行う不正を未然に防ぐ上で最も重要です。
また、経営者の姿勢を具体化する仕組みとして、内部監査の体制を構築するというアプローチや内部通報制度の構築も考えられます。要するに、悪さをしてもいずれは発見されるぞという意識を持たせることによって、不適切な会計処理を行う欲求を未然に潰しておくことができるということです。
7)経営者が行う粉飾を未然に防ぐためには
経営者は社内の内部管理体制の頂点にいるので、基本的にどんなに完璧な内部管理体制を構築していたとしても、経営者が行う粉飾には機能しません。
そのため、経営者が行う粉飾を未然に防ぐためには、社外取締役や社外監査役といった会社と利害関係のない者を社外役員として登用し、経営者のお目付け役とすることが最も有効な手段となります。
社外役員を登用する際のポイントとしては、財務会計に関する知識が豊富にあり、社外役員としての報酬に頼る必要がない者が望ましいです。また、処遇については経営者の意思決定に迎合することないように、任期中の雇用は原則保証し、高額な報酬は避けるべきです。ただし、社外役員の責任は最近より重要になっているので、その責任に見合った報酬にする必要があるでしょう。
8)中小企業における粉飾を未然に防ぐ方法
粉飾は百害あって一利なし
中小企業における粉飾を行う背景としては、金融機関から有利な条件で資金調達を行うため、優良企業と見せるための粉飾や、納税を回避するため所得を少なく見せるための粉飾(逆粉飾)などがあります。
中小企業における粉飾は百害あって一利なしです。例えば、利益を多く出す粉飾は不必要な納税によって資金繰りを圧迫しますし、粉飾が発覚した場合、金融機関からの融資資金の引揚げの可能性もあります。一方逆粉飾についても、納税資金が過少となっているので、発覚した場合多額の納税資金が必要となり、資金繰りが急激に圧迫されることになります。
しかし、中小企業は資金的に潤沢でないので、低コストでかつ効果の高い仕組みで粉飾を防止する必要があります。
9)従業員が行う粉飾を中小企業が未然に防ぐためには
従業員が行う粉飾は、上司に対する保身であるという点に変わりはないので、経営者が粉飾を許さない姿勢を明確にすることが最も重要であるという点は変わりません。ただ、内部監査等の管理コストにキャッシュを割くことは難しいので、経営者自身が財務会計に詳しくなることが、従業員の牽制上有効だと思われます。
10)経営者が行う粉飾を中小企業が未然に防ぐためには
中小企業においては、粉飾を防ぐ理由で社外役員を登用することは資金的に難しいと思われます。そのため、身近な財務会計の専門家として、顧問となる会計事務所が経営者の行う粉飾を未然に防ぐための牽制機能を担うことになります。
中小企業の経営者は会計事務所の選定において、節税に詳しいかどうかや、税務調査に強いかどうかの視点で選びがちですが、経営に関する理解がしっかりしているかどうかや、経営者に対して忌憚なく意見が言えるかどうかという点も選定基準としてもっておくことも重要です。
まとめ
今回は、不正会計を防ぐためのガバナンス体制や予防方法を紹介しました。中小企業では、コスト面での不安がつきまといます。なるべく会社全体で会計の知識を付け、不正を防止していくことが重要なのでではないでしょうか。