原価計算をしてみたい人は必見!原価計算の基礎的思考
「費用」のうち、売上高に直接的な対応関係のあるものを「原価」と呼び、これをサービスや製品の売上に対応するものごとに集計・計算することが「原価計算」だと前回お伝えしました。
今回は、この原価計算を具体的にどのようにするのか? 原価計算をする上で何に気をつけたほうが良いのか? 原価計算の基礎的思考をご紹介します。
原価計算の入門書は製造業を題材にしている事が多いのですが、設備費用等がどうしても身近に感じられません。そこで、誰もが1度は見かけたことがあり、想像しやすいネイルサロンを題材にします。
1)原価の区分は3種類だけ
今回計算するのは材料費、労務費、経費の3種類の原価です。原価とは、この3種類の集合体なのです。原価計算の前提となる「原価計算基準」(昭和三十七年 企業会計審議会作成)より、この3種類の意味を抜粋すると、材料費=物品の消費によって生ずる原価、労務費=労務用役の消費によって生ずる原価、経費=それ以外となります。
ネイルサロンで発生する原価とは、材料費=マニキュア(主流はジェルネイルですが、分かり易くマニキュアに統一します)、労務費=給与、経費=家賃等になります。
例えば、マンションの一室を借りてネイルサロンを経営している麗子さんがいるとします。麗子さんのサロンの売れ筋商品は8,000円のシンプルなネイルで、マンションの家賃は月15万円(水道光熱費込)。自らの給与として手取りで30万円は欲しいと考えて経営をしています。しかし、現実は手取30万円を達成したことがありません。それでは麗子さんのサロンの原価計算をしてみましょう。
2)材料費の計算は、実務上あくまで理論計算
8,000円のシンプルなネイルの施術には90分を要し、使用する材料はベースコート、カラー、トップコートと3種類。材料使用量としては全部で1gほどです。
材料費計算の原則は、実際の消費量に消費価格を乗じて計算するとありますが、ネイルサロンでそんなことは不可能ですね。10本の爪に対してマニキュアの消費量を毎回把握出来るワケがありません。そこで登場するのが「標準原価」です。
特別なことがなければこの消費量が標準になるという「標準消費量」を設定し、ここに現在の仕入ルートであればこの価格で出来る「標準価格」を設定します。商品ごとに標準消費量と標準価格を設定し、標準原価を把握します。
この設定が甘いと業績が良く出てきてしまうので、リアルかつシビアに設定することが求められます。なお、ネイルサロンの材料原価率は10%を目指すといいとされていますが、麗子さんは大量仕入れの出来ない個人事業主なので、今回は15~20%に設定することにします。
とある1日に提供した商品は、売れ筋の8,000円のシンプルなネイルが5組でした。3組は標準材料原価率が15%、2組は20%だったので、材料費は6,800円と計算します。
3)標準材料原価率が分かったら次は固定費を把握
普通の原価計算の参考書は、この後に労務費→経費の説明となりますが、計算する前に一度立ち止まって欲しいのです。商品ごとの標準材料原価率が把握できたら、次は損益分岐点を把握してください。
「損益分岐点ってなに?」と思った方もいるでしょう。損益分岐点とは、簡単にいうと固定費をカバーできる売上高はいくらぐらいになるのか示したものです。
固定費なんて言われても分からない……という方は物件費(家賃)と人件費(給与)を把握すれば固定費の8割はカバー出来ますので、まずそこだけ把握してみてください。
麗子さんのサロンの物件費は15万円、人件費は約43万円(手取り30万円とした場合の概算です)となりますので、メインの固定費は58万円です。ここに通信費や広告費等のサブ固定費を加算して60万円。60万円をカバー出来る売上高を算出するには、この60万円を標準材料原価率で割り戻せばOKです。
60万円 ÷ 標準材料原価率(総平均16%) = 375万円
1ヶ月に375万円の売上があれば、手取30万円が可能ということです。週休1日として、1ヶ月で25日稼働した場合、1日あたりの必要売上高は15万円。売れ筋の8,000円コースを1日19人に提供すれば可能です。1回90分要するので、19人に提供となれば、28.5時間必要ということになってしまいますが……。
4)労務費→経費と計算する以前の問題が露呈する
原価計算はサービスや製品の売上に対応するもの毎に集計・計算することです。しかし、1つのサービスや製品に対応させる以前の問題で、固定費は絶対にカバーしなければいけません。原価計算を出来ていない企業は、損益分岐点の考え方が甘い傾向にあります。
自社の危機的状況を肌で感じていたが、原価計算へ取り組むことによってはじめて頭で理解出来たという経営者を何人も見て来ました。
固定費をカバー出来ているかどうかは、材料原価率を把握するだけで可能なのです。固定費をカバー出来ていなければ、原価計算以前に売価の設定を見直すか、固定費を減らす努力をすべきです。原価計算の基礎的思考とは「木を見て森を見ず」にならないように気をつけるべきだと私は思います。