トラブルにならない契約書作成のポイントをわかりやすく解説
ビジネスでは、契約書を交わす場面が数多くあります。中には、契約書に記載されている内容によって、トラブルが起きてしまうこともあるでしょう。今回は、トラブルにならないための契約書作成のポイントを紹介します。
1)契約書を作成する目的
日本での契約は原則として口約束でも成立します。では、なぜ契約書を作成するのでしょうか。
1.紛争を「未然」に防止する目的
契約書を作成する目的に、契約に関するトラブルを「未然」に防ぐ目的があります。口約束だけでは相手方が忘れてしまったり、思い違いがあったりして後にトラブルになる可能性があります。
当事者間で合意した内容を書面にして明確にしておくことにより、契約内容について当事者が共通認識をもつことが可能になり、紛争を未然に防止することができます。
2.証拠作成目的
当事者間で契約(取引)に関する紛争が生じた際、取引の合意内容が契約書として書面で適切に作成されている場合には、仮に訴訟に発展した場合でも紛争の早期解決を図ることができます。
紛争が生じた際は、当事者の合意内容について争いになることが少なくありません。
裁判になった場合には、請求をする側がその請求を基礎づける約束があったことを証明する必要があります。口約束があったことの証拠を提出することはとても困難です。
口約束があったことが事実であっても、裁判ではその証拠を提出できなければ敗訴してしまいます。これでは、結果として権利行使ができないことになります。
そこで、契約書を作成して証拠として残しておくのです。契約書があれば、裁判では原則としてその通りの合意があったものとして取り扱われます。契約書の内容を覆すのはとても困難です。
3.紛争の解決促進目的
口約束では、担当者の変更時などに確認がとれず、迅速に対応をしてもらえない場合があります。
また、こちらもどのように対応すればよいのか判断に迷うことがあり、その間に損害が拡大してしまうおそれもあります。
あらかじめ、トラブルの発生時にどのように解決をするのかを契約書に明記しておくことで、トラブル発生時に迅速に処理をすることができます。
さらに、あらかじめ解決方法を定めておけば、トラブル発生を見越して準備しておくこともできます。
4.責任範囲の明確化目的
契約書に責任の範囲を明記したり、責任を限定する定めを置いたりすることにより、相互の責任の範囲等が明確になり、トラブルの際にどの程度の損害が発生するかが分かります。
思わぬ損害賠償責任を負ってしまうと、営業継続が困難となることもあるので、重要なものといえます。
5.取引の安全目的
口頭では合意が成立していたとしても、口頭で合意内容をしっかりと明確にすることは容易ではありません。信頼関係の構築は大前提ですが、たとえ信頼関係があったとしても、内容が不明確な状態で取引を進めるには取引の安全上、好ましくないでしょう。
2)契約書の性質の変化
1.従来
・どういった取引を行うのかを重視して契約書が作成されていました。
人と人との信頼関係が重視されていたため、トラブルが発生した際もその信頼関係の中で処理されていました。当事者による協議で解決される場合も多く、裁判になっても取引慣行を重視した和解がされることが多くありました。
「あの人にはお世話になったから、今回は損をしても我慢しよう……。」 「今回は我慢してくれ、次回この分割のいい仕事を回して埋め合わせするから。」
2.現在
・契約書に定めていないことは合意が無いものとして扱われる傾向が強くなってきました。
特に商取引では、契約書で細目を定めることが一般的になってきました。これにより、裁判でも、契約したのであれば、その内容は契約書に記載されているはずであるという判断がされる傾向にあります。契約書に詳細かつ明確な定めをおくことが重要になってきました。
「合意内容は契約条項に記載すべき。それをしなかったことによる損害は自己責任。」 「契約書に禁止事項の定めはないのだから、その部分は禁止されていない。やっても文句を言われる筋合いはない。」
3)交渉を有利にすすめるためのツールとして契約書を使用する
あらかじめ契約書を用意して交渉を開始すれば、有利にすすめられます。理由は以下の通りです。
1.相手方に、こちらの要望を検討させることができる
相手方が修正する際に、どう修正するか考える事で、一度はこちらの希望する条項を検討してもらうことができます。
2.さりげなくこちらに有利な文言を盛り込むことができる
ぱっと見では有利・不利に関係ないようにみえる文言が、実は大きな意味を持つことがあります。
こちらに有利な文言がさりげなく入っていれば、相手方が見過ごしてそのまま契約してもらえる可能性が大いにあります。
3.原案の定めはそのまま合意に達しやすい
契約締結の際は、取引開始まで期間が無く、すぐに契約書にサインをしなければならない状況にあることが多いです。契約書全体を練り直す時間がないため、相手方は重要視している点のみ修正を依頼し、その他の部分はよほど問題が無い限りはそのまま合意に至るということがよくあります。
4)契約書作成の流れ
1.見本になる契約書を探す
書式集等の書籍等から類似の契約書のひな形を探して見本とします。例えば、賃貸借契約書なら、賃貸借契約書のひな形、売買契約なら売買契約のひな形を探します。
同じ賃貸借契約書や売買契約書の中でも今回の取引実態に合ったものを選びます。
2.修正が必要な部分がどこかを考える
一般的に、書式集は権利者も義務者も使用できるように作成されているため、中立な内容であることが多いです。そこで、自己に不利な条項は削る等の修正が必要になります。
また、個別の契約内容に即した修正も必要となります。(例えば賃貸借契約の場合は、目的物、期間、更新の有無等細かい修正が必要。売買契約なら目的物が動産か、不動産か、権利かによりそれに対応した修正が必要)
3.細かい内容に不備が無いかを検討する
①誤字が無いか ・一般的な誤字はないか ・誤って当事者が逆になってしまっていないか 等
②実現できる内容になっているか ・期間の定めが実現可能なものか ・入金が支払期限より先に来るようになっているか ・公序良俗違反の内容はないか 等
③履行確保の手段が定められているか ・履行確保のための罰則規定があるか ・債務不履行の際の期限の利益喪失約款はあるか 等
④全体のバランスをみる ・一貫性があるか(特に色々な書式集から切り取った場合には全体としてみた場合に矛盾する条項がないか注意する) ・一部の規定のみ詳細な定めになりすぎて、全体のバランスが悪くなっていないか
5)契約書を作成するうえで注意すべきポイント
1.当事者間で合意内容の詳細を確認しましょう
契約書を作成するにあたり、もっとも重要なのは当事者間で合意した「内容」です。お互いの合意がなければ、どのような内容にしても契約書としての機能を果たしません。どのような内容とするのかは当事者でよく協議しましょう。
最終的に出来上がったものを当事者で読み合わせるなど、内容について理解を共有しておくとよいでしょう。当たり前のように使っている語句について解釈に相違がありそうな場合は、語句を定義づけすることも重要です。
2.個別の取引にあった内容にしましょう
契約書を作成する際、ひな形を参考にする方が多いと思いますが、ひな形は一般的かつ債権者債務者に対して中立な定め方をしています。自己に有利不利を考慮したり、業界の特殊事情などをきちんと反映したりして、個別の取引にあった内容にするように心掛けましょう。
3.誰が見ても客観的でわかりやすい文章で作成しましょう
お互いの理解に齟齬が生じるのを防止するため、契約書の文章は「わかりやすさ」が必要です。取引とは関係のない第三者など、誰が読んでも契約の内容がわかりやすいよう簡潔に、具体的な文章となるようにしましょう。
ただし、わかりやすさを優先しすぎた結果、抽象的な表現になりすぎないように注意しましょう。抽象的な文言を使用してしまうと、権利義務の範囲が不明確になってしまいます。
その結果、思っていたような権利が認められず、思わぬ損害を被る可能性があります。特に、その契約書で発生する権利と義務、対価の有無やその金額、商品やサービス(役務)の提供の方法、提供の時期(納期)の記載には注意が必要です。
4.万が一トラブルになった場合に備えて、「契約の有効性」も重要
契約書が作成されたとしても、取引上の紛争を100%防止することは容易ではありません。万が一、訴訟まで発展してしまった場合、その「契約書」が訴訟において「証拠」として機能するためには、大前提として、契約書が「真正に成立した」ことが必要です。
「真正に成立した」とは、わかりやすくいえば「偽造ではない(本物である)」ということになりますが、このためには「本人の自筆での署名(自署) + 実印(法人であれば法務局への届出印)での押印」が望ましいと言えます。なお、公証役場にて「公正証書」という方法で作成する方法もおすすめです。
5.未然防止だけではなく、紛争に発展した場合を想定
上記以外にも紛争が生じた場合のことを考えると、契約書に盛り込んでおくとよいものがあります。
例えば、損害が発生した場合にあらかじめ賠償額を合意しておく「損害賠償額の予定」や裁判になった場合にどの裁判所に訴えを起こすかを合意しておく「合意管轄」条項などです。
6.「印紙税」についても要注意
契約は原則として口頭のみでも成立しますが、文書にした場合には、「印紙税」の課税文書に該当するか否かを考える必要があります。印紙の有無は契約の効力とは直接関係ありませんが、印紙税法違反にならぬよう、税理士や税務署に相談するなどして、注意するようにしましょう。なお、記載方法を少し変えるだけで印紙税額が異なるケースもあるため、契約の作成コストの観点からも、税理士等に確認するようにしましょう。
6)専門家に契約書の作成・チェックを依頼する場合の注意点
1.どういうときに専門家に依頼すべきか
①重大な文書であるとき 取引額が大きい、事業の根幹をなす契約であるといった場合には、専門家にチェックを依頼した方がよいでしょう。
すぐに請求できるか否か、どこまでの責任を負うか、保証人の保障の範囲等、ほんの少しの文言の違いでトラブルの際に大きな損失を被ったり、権利行使が十分にできなかったりすることがあります。
重大な文書については、契約書チェックのための費用を惜しんだことにより、後にとんでもない不利益を被る場合があります。
②ひな形では対応できない個別条項を定める必要があるとき ひな形は、個別の取引事情を考慮したものにはなっておらず、個別条項の定めを置く場合には、自分で考える必要があります。契約書作成に慣れていないと、うまく条項が作れない可能性があります。
また、ひな形は、一般的な取引を定めたものにすぎません。債権者・債務者双方が使用できるように作成されており、そのまま使用すると不利益な条項を盛り込んでしまう可能性もあります。
③交渉を有利に進めたいとき 交渉の初期段階でこちらの希望内容が記載された契約書を相手方に持参することで、交渉を有利に進められることは既に記載しました。
しかし、いくら契約書をツールとして使いこなすことができても、希望通りの内容が盛り込まれていなければ意味がありません。専門家に依頼して内容を作成してもらうのが無難でしょう。
2.どういう専門家に見てもらうのがよいか
専門家の中には、契約書の不備、法律違反が無いかだけをみて契約書チェックを終えてしまう方が少なからずいます。そこで、信頼できる専門家に依頼する必要があります。
具体的には、以下のことを考慮してくれる専門家に依頼するとよいでしょう。
①業界の特殊事情を理解してくれる 業界の特殊事情を理解していなければ、取引実態に合致した契約書になっているかどうかの判断はできません。きちんと話を聞いて、特殊事情を理解してくれる専門家に依頼しましょう。
②何を重要視した取引かを考慮してくれる 何を重視するかにより、契約書に記載すべき内容は変わってきます。
例えば、付き合いで仕方なくする契約については、すぐに撤退できるような定めを盛り込みます。薄利多売が重要な場合は、定型的かつ大量の取引をいかにコストをかけずに行うことができるかを重視した定め方をすることになります。
③主要な担当者の状況をきちんと把握してくれる 契約交渉を行うのは営業担当者で、実際にその契約に従い業務遂行するのは現場担当者であるということはよくあります。
この場合、関係者全員の状況を把握し、無理のない内容の契約書になっているかどうかを判断しなければ、実情に即した契約書はできません。
④他の専門家との連携をしている 契約書チェックにあたる専門家は、法律の分野には詳しくても、税務問題、保険業界、IT業界には詳しくないといったことはよくあります。
こういった場合に、他の業種との連携をとっている専門家であれば、必要な専門知識を踏まえて契約書作成・チェックをしてもらうことができます。
7)まとめ
以上の通り、契約書を作成するうえでは注意すべき点が多数あります。インターネットの普及により、契約書のひな形を入手することは容易になりましたが、トラブルを未然に防止し、取引の安全を図るものだからこそ、しっかりと専門家(行政書士や弁護士など)に具体的な事例を示したうえで相談、契約書添削サービスを依頼することが大切です。