シンガポール進出を成功させるために知っておきたい2つの税制
シンガポールには外国から富裕層が集まることで有名です。税率が低い、教育・医療レベルが高い、天災がほとんどない、など移住の理由は様々です。
また、法人の観点から見ても税率の低さ、租税条約の充実、地理的な優位性(ASEANへの事業展開の起点としてシンガポールをハブとして利用する)など、シンガポールは依然として魅力的と言えるでしょう。
今回は法人の観点から、シンガポール進出を成功させるために、必ず知っておきたい日本の税制を二つご紹介したいと思います。
1.設立後すぐさま節税メリットを受けられるとは限らない
「日本での事業が軌道に乗り、日本で多額の納税をしている。納税ではなく、投資に回したいため、節税目的でシンガポール法人を設立したい」といったご相談を受けることが多くあります。あながち間違いではありませんが、シンガポール法人を設立したからといって、ただちに節税メリットを受けられるとは限らないため注意が必要です。
シンガポールの法人税率は17%であり、日本よりも低い税率です。日本法人で計上されている売上の一部をシンガポール法人で計上できれば、日本法人の利益は減り(法人税等の額も減少)、一方でシンガポール法人の利益は増えることになります。
日本の高い税率で課税されていた所得の一部がシンガポール法人に移転し、シンガポールの低税率で課税されることになるため、もしこれが認められれば、グループ全体が支払う税金の額は大幅に減ることになります。しかし、もちろん自由にそのような所得移転を行うことはできません。それは、「タックスヘイブン対策税制」と「移転価格税制」が存在するためです。
シンガポール進出を検討するにあたり、税務だけでなく資金繰りや事業計画等が必要なことはもちろんですが、これらの日本の税制を考慮せずにシンガポール法人設立を進めた場合、後々大きな税務リスクを背負う可能性があるため、必ず知っておいた方がよい税制と言えるでしょう。
「タックスヘイブン対策税制」と「移転価格税制」について、その概要をご紹介します。
2.タックスヘイブン対策税制
正式名称は「外国子会社合算税制」と言います。税率の低い国への所得移転による租税回避を防止するために設けられたもので、所定の要件に該当する外国子会社の所得について日本の税率で課税する、という税制です。つまり、この税制の対象となる場合はシンガポール法人の所得に対しても日本の税率で課税されることになりますので、税務上のメリットを受けられないことになってしまいます。
その対象となる要件は細かく規定されていますが、ポイントを要約すると以下の全てを満たした場合は対象になります。
- 法人所得税率が20%未満の外国子会社
- 日本居住者、内国法人等が直接又は間接に50%以上保有している
- 適用除外要件に当てはまらない
シンガポールの法人税率は17%であるため、①を満たします。また、多くのケースではシンガポール法人の株主は日本人又は日本法人ですので、その場合は②も満たすことになります。従って、残りの③の「適用除外要件」を満たすかどうかが極めて重要になります。
「適用除外要件」を満たせば、一部の例外を除き、この税制の適用からは除外されることになります。低税率国であったとしても、ペーパーカンパニーではなく、実態をもってビジネスを行っているのであれば対象から除くことが「適用除外要件」が置かれている主旨になります。
「適用除外要件」は細かく規定されており、具体的な要件は省略しますが、進出するにあたり、この「適用除外要件」を満たせるかどうかの検討は事前に専門家に相談しておくべきでしょう。
3.移転価格税制
また、もう一つ重要な税制として「移転価格税制」があります。タックスヘイブン対策税制の適用除外要件を満たしているからといって、無制限に利益を移転することはできません。それは、「移転価格税制」が存在するためです。
移転価格税制とは、グループ会社間での売買や役務提供等に係る対価の操作による、グループ会社間での所得移転を防止するための制度です。この制度のもとで、グループ会社間での取引価格は独立企業間において通常設定される価格(独立企業間価格)にする必要があります。
たとえば、シンガポール子会社が日本本社に対して何らかの役務提供を行っていた場合、もし自由に価格を設定できるのであれば、市場価格を逸脱した高額な価格で請求することにより、利益がシンガポール法人へ不当に移転されることになります。もちろん、それは移転価格税制により認められません。
グループ間の取引価格は独立企業間価格とすることが前提となりますので、事業計画やスキーム等を考えるにあたり、移転価格税制を必ず考慮する必要があります。
独立企業間価格についても非常に難しい論点のため、特に取引金額が大きくなる場合には事前に取引価格の妥当性について専門家に相談した方が良いでしょう。
4.<補足>駐在員のコスト
シンガポール法人を設立するにあたり、重要になる日本の税制2つをご紹介しました。これらの税制をクリアした上で、シンガポール法人に適正に売上げが計上されるようになれば、グループ全体の実効税率は低くなる可能性があります。
タックスヘイブン対策税制の「適用除外要件」の詳細は省略しましたが、要件を満たすためにはシンガポール現地にパートナーがいない限りは、やはり駐在員を派遣する必要があります。
しかし、シンガポールの場合は駐在員の住居費など比較的駐在員を置くコストが高くなる可能性があります。節税メリットを受けられたとしても、駐在員の設置コストを加味すると、全体の資金繰りを見たときに結果としてマイナスになっていた、ということにもなりかねませんので、駐在員の設置コストは必ず事前に把握する必要があるでしょう。