起業の前に簿記を学ぶべき3つの理由
起業を決心した際、どうやって売上を上げるのか、というビジネス面にばかり目が行ってしまいます。売上がないと、自らの給料も出ないのでやむを得ない面がありますが、将来的な起業にまだ時間があるようなら、ぜひ簿記の勉強も行うべき。
簿記は企業の共通言語。一度簿記をしっかり学んでおけば通訳なしで、自社の決算書の内容や数字が出来るまでを把握できるようになります。また当然、他社の決算書も読めるようになります。
本稿では、売上を上げるためにビジネス面に目が行きがちな起業家にとって、簿記(できれば2級レベル)を学ぶべき3つの理由を挙げてみました。
1. 簿記は企業の共通言語
会社はどんな時も数字で評価されます。売上・利益・費用等、全て数字から構成されています。会社と数字は切っても切り離せない関係にありますが、簿記はその企業の数字を語る言語に相当します。
例えば売上100という数字、どうやってできているのか、仕訳はどのようになっているのか、貸借対照表との関係は等、全て簿記を通じて表現可能です。(正確には“複式簿記”と言われますが、一般的には“簿記”と表現されるので、本稿でも“簿記”とします)
これらの数字を経理部門等の通訳を通さずに自ら理解できるかどうか?確かに企業が小規模な頃は自社の数字も感覚的に分かり、簿記を理解するメリットも少なく感じますが、企業が大きくなるにつれ、金融機関等と数字を巡る折衝も増え、また他社の決算書を目にする機会も多くなります。よって、企業の共通言語とも言える簿記を、経理等の通訳なしで理解できるメリットは非常に大きいものがあります。
簿記により各数字の成り立ちが分かるのは、自らの会社及び他社の数字の分析において、非常に優位に働きます。「勘定合って銭足らず」という昔からの言葉もありますが、まさにそんな事態に陥らないためにも、起業家は最低限の簿記の知識を有した上で事業を起こすべきと考えます。
<勘定合って銭足らずとは>
帳簿上では収支の計算が合って儲かっているはずなのに、手元の現金を数えてみると足りないこと。理論と実際とはなかなか一致しないことのたとえ。
2. 簿記2級の知識で簡単な確定申告は自力でできる
せっかく簿記の勉強をするのであれば、日商簿記2級の資格取得を目指すべきです。簿記2級は商業簿記と工業簿記から構成されていて、一般の企業では工業簿記の知識はそれ程利用する機会もありませんが、簿記2級レベルの商業簿記の知識は企業の経理や決算では不可欠の知識となります。
尚、簿記3級の資格もありますが、2級と3級のレベルは全く異なります。簿記3級であれば、1週間程度の一夜漬けでクリアできる内容です。
そして簿記2級の知識レベルの最も具体的な効果は、簡単な確定申告であれば自分一人でできるようになる点。企業の確定申告と言えば税理士にお願いして・・・、というイメージがありますが、起業後すぐの段階では、それ程数字も大きくないでしょうし、何より税理士に払うお金も抑えたい、というのが人情。そんな中、簿記2級の知識があれば会計ソフトを用意すれば、一人で簡単に確定申告を行うことができます。(決算書の作成、確定申告書の作成等)
簿記2級が分かればおおよその経理の仕訳が理解できるので、経理ソフトの力を借りて簡単に決算書の作成ができます。そして決算書及びその背景が分かれば、確定申告書の作成もそれほど難しくはありません。
企業が大きくなれば、いずれ確定申告の作業は税理士に任せする、ということにはなりますが、起業直後の段階で自ら確定申告の作業をすることで、学ぶ部分もありますし、何より費用をかけずに確定申告が可能です。起業家が簿記2級資格を取得しておいて損はありません。
簿記3級は独学で問題なく対応できますが、簿記2級となるとハードルが上がるため、独学か専門学校に通うかで迷うと思います。独学でも簿記2級の資格は一定の時間をかければ取得可能です。
ただしオススメは専門学校。簿記2級レベルであれば、専門学校ではテーマの考え方から問題の解き方まで、既に確立したノウハウがあります。独学者が専門学校の講義の内容を見ると、目から鱗が落ちるケースもあります。 専門学校に通うと相応の金額が必要にはなりますが、その分勉強に費やす時間の短縮も可能です。時は金なり、ということわざもありますが、可能であれば専門学校に通って講師から学ぶのが簿記2級に関しては一番効率的となります。
3. 事業拡大後も簿記の知識は会社の把握に必要不可欠
企業が成長すると、ほとんどの会社は経理部門を設けて、数字に関することは経理部門が扱うことになります。そして社長となった起業家は、経理部門から上がってくる数字を見る役目を担います。
経理から上がってくる数字が読めるのは社長としては必要不可欠ですが、簿記の知識があれば、その数字の成り立ちから理解することができるため、その数字が出しているアラームをいち早く察知することができます。
また企業規模拡大にともない、銀行からの資金調達を行うケースも発生しますが、その際には事業計画書の作成が必要不可欠です。事業計画書は社長の思いを数字に落とし込んだものとなりますが、その数字で銀行を説得できる内容を示すことができるかどうか、この点においても、企業の共通言語と言える簿記の存在は非常に重要です。 サラリーマン社長であれば、「私は営業畑だから……」と逃げられるかもしれませんが、起業家は自ら企業の全責任を負う立場ですのでそうはいきません。会社が大きくなっても、それは変わりません。よって会社の数字を成り立ちから把握することができる簿記の知識は、会社の大小を問わず必要不可欠と言えます。
まとめ
以上、起業家に簿記の知識を必要とされる理由を3点ピックアップいたしました。忙しい中で学んだ簿記の知識は、事業進捗の過程で「勉強しておいてよかった」と思う時が、必ずやって来るはずです。
起業家は事業立ち上げに注力して、数字面に時間を使う機会が限られてしまいますが、起業の後、一生使えると言っても過言ではない簿記の知識(できれば簿記2級)は、ぜひとも身に着けておきたいものです。