決算書の税抜経理方式と税込処理方式、どちらがおトク?
税務署や銀行などに提出する残高試算表や決算報告書の金額表示方法として、「税抜経理方式」と「税込経理方式」があります。残高試算表や決算報告書を税抜または税込で表示するということは、日々の仕訳をどちらかの方法で行うということです。
税抜経理方式と税込経費方式ってなに? どちらを選べばいいの? そんな疑問にお答えしましょう。
税抜経理方式・税込経理方式とは
日々の仕訳をするにあたり、消費税をどう処理するかで2つに分かれます。
- 【税抜経理方式】…本体価格と消費税を別にして処理をする方法。
- 【税込経理方式】…本体価格と消費税を合算して処理する方法。
具体的な仕訳例で見てみましょう。 ↓ (例)ある小売店が商品を8,640円(税込)で掛仕入し、10,800円(税込)で販売しました。 ※消費税は8%で計算します。
税抜経理方式なら
●仕入時の仕訳
借方:仕入 8,000円 貸方:買掛金 8,640円 借方:仮払消費税等 640円
●売上時の仕訳
借方:現金 10,800円 貸方:売上 10,000円 貸方:仮受消費税等 800円
税抜経理方式の場合、仕入にかかる消費税等の額は仮払消費税等に、売上にかかる消費税等の額は仮受消費税等とします。
税込経理方式なら
●仕入時の仕訳
借方:仕入 8,640円 貸方:買掛金 8,640円
●売上時の仕訳
借方:現金 10,800円 貸方:売上 10,800円
税込経理方式の場合、仕入にかかる消費税等の額は仕入金額に含め、売上にかかる消費税等の額は売上金額に含めます。消費税等の納付税額は租税公課として必要経費または損金に入れます。
消費税課税事業者は税抜経理方式・税込経理方式のどちらかを選ぶことができます。届出も必要ありません。消費税の納税義務が免除されている免税事業者は、税込経理方式で仕訳を行います。
さて、消費税課税事業者の方は「どちらを選べばいいの?」と思うでしょう。以下に税抜経理方式・税込経理方式のどちらがおトクかをお話します。
ちなみに「消費税等」と表現しているのは、国税の「消費税」と地方税の「地方消費税」を合わせた表現です。「消費税率8%」と表現しますが、その内訳は消費税分6.3%、地方消費税分1.7%となっています。今後「消費税率」が10%になると消費税分7.8%、地方消費税分2.2%になる予定です。
税込経理方式のメリット
上記で見た仕訳の処理を考えると、税込経理方式のほうが楽ですね。税抜経理方式は、消費税分を分けて仕訳しなくてはなりません。しかし、会計ソフトを使えば自動的に税額を計算してくれるため、税込経理方式のメリットはあまり大きくないかもしれません。
税抜経理方式のメリット
①固定資産の減価償却の特例判定に有利
購入した固定資産のうち、次に該当するものは購入年度に全額を損金(経費)として上げることができます。
【少額減価償却資産】…10万円未満で購入したもの。消耗品費などの経費の科目で処理します。
【中小企業等の少額減価償却資産】…30万円未満で購入したもの。ただし、中小事業者(資本金1億円以下の中小法人と個人事業主)に限る。法人・個人ともに青色申告が条件です。
20万円未満で購入したものについては、中小事業者の方は【少額減価償却資産】として全額を損金(経費)として上げるか、【一括償却資産】として3年間かけて均等に減価償却をするかが選べます。【少額減価償却資産】を選んだ場合、法人と個人事業主とで処理の仕方が異なるので注意しましょう。
<法人の場合> 消耗品費などの損金(経費)として計上する。法人税申告書の別表に内訳を記載する。
<個人の場合> いったん固定資産に計上し、取得価額の全額を減価償却費として損金(経費)に計上します。
それ以外の事業者の方は【一括償却資産】しか選べません。
いずれの場合も、購入金額がカギとなるのですが、税抜経理方式を採用すると税抜金額が適応され、税込経理方式を採用すると税込価格が適応されます。
②接待交際費を計算する際におトク
資本金1億円未満の法人は年間800万円までの接待交際費を損金(経費)として上げることができます(800万円を超えると、超過分は否認されるので注意しましょう)。この金額を計算するときも、税抜経費方式を採用していると税抜金額が適応されます。
ちなみに一人5000円以下の接待交際費については、相手の名前や人数などを記載しておけば接待交際費にする必要がなく、福利厚生費などで損金(経費)に入れてもかまいません。
③建設業は税抜経理方式を
建設業の方で、許可を得たり公共工事に入札したりする場合、官公庁に申請書類を出すことになります。その際、添付する損益計算書は税抜経理方式のものが求められます。税務署などに税込経理方式でつくった損益計算書を提出した場合、作成しなおす必要があるので注意しましょう。
消費税等と印紙税について
話は少し変わりますが、消費税抜・込と印紙税に関する話をします。5万円以上の売上に関する領収書には、印紙を貼る必要があります。この「5万円」は税抜で5万円でしょうか? それとも税込で5万円でしょうか?
領収書に本体価額と消費税額を分けて記載している場合、本体価額で判断します。たとえば、「領収金額52,920円、うち消費税等3,920円」と書かれている場合、これによって本体価額49,000円であることがわかるので、印紙税はかかりません。
逆に「領収金額 52,920円」としか書かれていなかったり、「領収金額52,920円、消費税等8%を含む」とだけ書かれている場合は本体価額5万円以上と見なされ、印紙税(この場合は200円)が課税されます。