中小企業は電子帳簿を導入するべきなのか【電子帳簿保存法】
税法では帳簿等の国税関係書類の作成・保存義務が定められていますが、これらの書類は紙で保存することになっています。ですので、会計ソフトを使っていても、その保存データは税法上の書類とは認められず、出力して初めて税法上の書類になるため、紙での保存が必要です。
しかし近年のIT化進展に伴い、コンピュータを使用した帳簿作成が一般化していることから、電子データによる保存が認められるようになりました。この、法律で認められた「電子的記録」が「電子帳簿」です。
「電子帳簿」は帳簿だけではなく、決算関係書類や取引関係書類も対象
「電子帳簿保存法」は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」という長い名前の法律の略称です。その略称から、対象が帳簿だけと勘違いされやすいのですが、帳簿だけではなく、その内容は多岐にわたり、現在保存が義務付けられている国税関係帳簿書類のほぼ全部を対象にしており、電子保存が可能となっています。
電子保存にするためには税務署の承認が必要
このように、単にハードディスク等に電子的に保存されているだけでは、税法上「電子帳簿」としては認められません。税法上認められる電子保存にするためには税務署に申請書を出して承認を受ける必要があり、承認まで3か月かかります。国税関係帳簿書類の一部だけを電子保存にする申請も可能です。
電子保存のメリット
電子保存のメリットは、なんといっても、「紙での保存が不要になる」ということです。紙の原本の廃棄も可能になります。税法上、帳簿関係書類は原則7年間(欠損会社は9年)の保存義務があります。7年(9年)分の書類となると、それなりのボリュームになり保管コストもバカになりません。
また、IT化の進展により業務自体のペーパーレスが進む中、税法の要件を満たすためだけに帳簿等の紙へ出力・ファイリング・保存する業務がなくなることは、事務効率化に寄与します。
ただし、この法律は無条件に帳簿や書類の電子的保存を認めるものではありません。なぜなら、コンピュータによる処理は痕跡を残さず記録の遡及訂正が容易である等の特性があることから、無条件で帳簿書類を電子データで保存できることとした場合には、改ざん等が行われる可能性があると考えられるからです。そのため、一定の要件が課せられています。
この要件には、主にシステム的なものと、社内の業務体制整備に関するものがあります。中小企業が電子保存のメリットを享受するためには、これらの要件を検討し、自社に適用可能かどうかを検討する必要があります。そこでそれぞれの要件を以下見ていきましょう。
帳簿を電子保存する場合の主な要件
(1) システム的な要件として、訂正・削除履歴が確認できること、帳簿同士の相互関係性が確認できること、ディスプレイ等に明瞭に表示・出力できること、データの検索が可能であること、等が求められます。
これらについては、まさにコンピュータ処理そのものであり、現在の市販の会計ソフトやクラウド会計サービスの多くは電子帳簿保存対応とうたっていますから、電子保存のハードルは低いでしょう。
(2) 業務体制的な要件として、システム関係書類等として、操作説明書、事務処理規程等の備付けが必要です。
具体的には、操作マニュアルを備えおくほか、「電子帳簿事務取扱規程」といった名称の社内規程を整備し、この規程通りに電子保存の手続きを行う等の必要があります(税務署に提出する申請書への添付も必要)。場合によっては業務フローの変更も必要になることもあるかもしれません。この点について自社に適用可能かを検討する必要があるでしょう。
決算関係書類を電子保存する場合の主な要件
(1)システム的な要件として、ディスプレイ等に明瞭に表示・出力できること、データの検索が可能であること、等が求められます。現在の市販の会計ソフトやクラウド会計サービス、表計算ソフト等はほとんどこれらの機能を持っていることから、電子保存のハードルは低いでしょう。
(2) 業務体制的な要件として、帳簿保存と同様、システム関係書類等として、操作説明書、事務処理規程等の備付けが必要です。
具体的には、操作マニュアルを備えおくほか、「電子帳簿事務取扱規程」といった名称の社内規程を整備し、この規程通りに電子保存の手続きを行う等の必要があります(税務署に提出する申請書への添付も必要)。場合によっては業務フローの変更も必要になることもあるかもしれません。この点について自社に適用可能かを検討する必要があるでしょう。
取引関係書類を電子保存する場合の主な要件
自社で発行したものについては電子データでの保存をすることができます。この保存要件は、決算関係書類を電子保存する場合の要件と同じです。
取引関係書類をスキャナ保存する場合の主な要件
(1) システム的な要件として、まず、スキャンしたデータ1件ごとに「タイムスタンプ」を付与しなければなりません。タイムスタンプとは電子的な時刻証明書で、一般財団法人日本データ通信協会が認定する事業者のみ発行できます。
次に、スキャンしたデータと帳簿の相互関係性が確認できるようになっていなければなりません。単にデータをスキャンするだけではだめで、そのスキャンデータが帳簿のどの伝票や仕訳とリンクするのかが明確になっていなければいけません。
そのほかに、明瞭にスキャンすること、訂正・削除履歴が確認できること、ディスプレイ等に明瞭に表示・出力できること、データの検索が可能であること、等が求められます。スキャナは、2017年からは、台と一体化したものに限られなくなりますので、スマートフォン等で撮影することによるスキャニングも可能です。
(2) 業務体制的な要件として、文書管理及びスキャニング作業に関する「適正事務処理規程」「事務分掌細則」「スキャナによる電子化保存規程」といった名称の社内規程を整備し、この規程通りに電子保存の手続きを行う等の必要があります。(税務署に提出する申請書への添付も必要)。この規程には、①相互牽制、②定期的なチェック、③再発防止策を含め、実施しなければなりません。また、定期的なチェック等の結果、検査報告書や事務処理不備報告書を作成する必要があります。
次に気を付けなければならないのはタイムスタンプ(電子時刻証明書)付与のタイミングです。2017年から受領または作成した本人がスキャンすることが認められますが、その場合は、書類に(手書きで)署名をしたうえ、作成または受領後3日以内にスキャンしタイムスタンプを付与します。(本人以外の別の担当者がスキャンする場合は最長で1か月と7日以内)このように、溜めておいた書類を決算時にまとめてスキャンしてタイムスタンプを付与することはできません。
まとめ
帳簿や書類の電子化は、単に技術的な対応だけではなく、社内体制として規程の整備とそれに基づいた業務フローの実施が必要になります。これだけ聞くと大変なハードルのように見えますが、求められているものは相互牽制に基づくチェックで、これは今現在ほとんどの会社で行われている「経理部門や経理担当者による経理関係書類のチェック」とそれほど変わりません。
電子化に伴うこれらの規程はひな型が会計ソフトやクラウドサービスの会社や、税理士事務所から出ていることが多いので、法律の要件を満たしつつ自社の体制とうまく合うような規程を作成し実行することで、大きな業務効率化につながります。
既存の会計ソフトによる業務を行っている場合、帳簿の電子保存化は比較的スムーズだと思いますが、スキャナ保存の場合、タイムスタンプに関する費用が割高になりがちなこと、スキャンしたデータと帳簿の相互関係性をどのようにやっていくのか工夫が必要になるのではないかと思います。この点、クラウドサービスで会計処理をしている場合は、これらの機能をパッケージで比較的安価に提供してくれると思われるので、導入は容易でしょう。
ところで、社員が1ケタ、あるいは1人会社の場合もあきらめる必要はありません。2017年からは従業員5人以下(製造業の場合は20人以下)の小規模企業者の場合は顧問税理士が定期チェックすることを条件に相互牽制なしでもスキャナ保存が可能になります。
度重なる法改正により、電子保存のハードルはどんどん下がっており、2017年からはさらに導入しやすくなりますので、積極的に導入を検討されてみてはいかがでしょうか。電子帳簿導入にあたっては、顧問税理士、特にクラウドサービスに通暁している税理士に依頼するのがスムーズで間違いないでしょう。