精度の高い実地棚卸のために ~種類と手順&その重要性について~
そろそろ、9月決算企業の年度末の棚卸や、3月決算企業の半年ごとの棚卸が行われる時期が近づいてきています。
棚卸とは、在庫の数量を把握する作業のことをいいます。ここで、在庫とは、企業などが将来の生産や販売のために保有している資産のことで、原材料・製品・商品・半製品・仕掛品・貯蔵品などがあります。ちなみに、通常、不動産は有形固定資産となりますが、不動産を販売している企業にとっては在庫になります。
実地棚卸は「一斉棚卸」と「循環棚卸」の2種類
在庫は、棚卸資産とも呼ばれます。棚卸は、カウントを行うかどうかにより、帳簿棚卸と実地棚卸に分けられます。帳簿棚卸とは、カウントはせずに帳簿上で棚卸を行うことを指し、実地棚卸とは、実際の在庫の数量を把握することをいいます。なお、法人税の申告書に添付して提出する勘定内訳明細書(棚卸資産の内訳書)には、これらを記載する箇所があります。
実地棚卸はカウントのタイミングにより、「一斉棚卸」と「循環棚卸」に分けられます。一斉棚卸とは、文字どおり、全品目を一斉に棚卸することです。循環棚卸とは、一定期間内に順次棚卸をしていくことです。
実地棚卸は、実際にカウントすることによって在庫の数量を把握し、これと帳簿上の在庫の数量とを比べて差異がある場合は差異を分析し、最終的に、帳簿上の在庫の数量をカウントした在庫の数量に置き換えるため、決算の数値に影響を及ぼすのです。
よって、実地棚卸の精度が低いと、決算見込額と実際の決算の数値が大幅にかけ離れるといった予想外の結果が生じてしまうことがあります。さらに、精度の低い帳簿上の在庫の数量に基づいて生産や販売を行うとなると、原材料が足りずに生産ができなくなったり、製商品が足りずに販売するものがなかったりして、販売の機会、ひいては得意先からの信用を失ってしまう可能性があります。
逆に、必要以上に在庫が積み上がってしまう可能性もあります。また、実地棚卸は期末棚卸高、つまりは売上原価に影響を及ぼすため、会計上の利益や税務上の所得に影響を及ぼし、本来は不要な借り入れが必要となって利息の支払いが生じたり、税金を支払ってしまうなど、キャッシュ・フローに悪影響を及ぼすことがあります。それゆえ、精度の高い実地棚卸は、健全な会社経営のために重要なことであると言えるでしょう。
精度の高い実地棚卸のために、カウントのルールを明確にする
それでは、精度の高い実地棚卸を行うためにはどうすれば良いのでしょうか? それは、網羅性(漏れがないか?)、実在性(本当に存在するか?)、評価の妥当性(いくらであれば売れるか?)を念頭に置いて実地棚卸を行うことです。簡単にいえば、漏れのないようにカウントする、存在するものを正確にカウントする、不動品・不良品などをピックアップするということです。
具体的に、ひとつ挙げるとすると、カウントのルールを明確にしておくことが重要です。 例えば、スーパーのように、複数の段がある棚に棚卸資産を置いているような場合、二人組(一人がカウントして読み上げ、もう一人が棚卸原票に記入します)を構成し、それぞれの組の棚卸の担当エリアをまずは一列くらい決め、そのエリア内に複数ある棚のうち、一番左にある棚の一番上の段の一番左端の棚卸資産からスタートして右に向かってカウントし、一段終われば一つ下の段の左端からカウントするということを繰り返し、一つの棚のカウントをすべて終えれば、一つ右の棚に移っていくというルールにします。
また、実地棚卸においては、差異分析が重要となってきます。差異分析とは、帳簿上の在庫の数量とカウントした在庫の数量を比較して、差異があるものについて原因を分析することをいいます。
これにより、帳簿上の在庫の数量またはカウントした在庫の数量の誤りなどが発見され、最終的な在庫の数量を確定することになります。結果的には原因不明のものが残ることもありますが、なぜ差異が生じたかが浮き彫りになり、実地棚卸の目的である最終的な在庫の数量を確定させることができるとともに、今後の購買・生産・販売・在庫管理・実地棚卸などの業務の効率化・適正化に活かすことができるのです。
最後になりますが、実地棚卸の精度を高めることは健全な経営に必須です。改めて、実地棚卸の重要性を確認していただきたいと思います。