【法人化後の経理のアドバイス】 個人事業主が法人化した後、経理で注意すべき&間違えやすい点
法人設立は、個人事業主にとってひとつの目標となる指標です。 しかし法人化すると、以前とは会計方法が異なるため、つまずいてしまう方もいらっしゃいます。
今回は、個人事業主が法人化した後、経理で気をつけることや間違えやすい点を紹介します。
1)個人事業を法人化した場合には法人サイドと個人サイドに分け、2点に気をつける
- 法人サイドでは資産負債の引き継ぎに関すること
- 個人サイドでは資産負債の引き継ぎに関することに加え、法人化した年の個人の確定申告について
2)法人化に伴う資産負債の引き継ぎについて
法人化に伴う資産負債の引き継ぎについては、現物出資や売買、賃貸借などの方法が考えられます。現物出資と売買については、どちらも資産の譲渡に該当することになります。 ここでは、金銭出資により法人を設立後に個人事業より資産負債を引き継いだ場合を想定して説明を行います。
1.売掛金・買掛金
売掛金や買掛金を法人へ引き継ぐ場合には、実務上は帳簿価額で引き継ぎます。
2.棚卸資産(在庫)
業種によっては法人化時点で棚卸資産(在庫)が存在します。 在庫を法人に引き継ぐ場合には、通常の売上高にその法人に引き継ぐ在庫の譲渡対価を売上高に加算する必要があります。
法人への譲渡価額については、仕入値(帳簿価額)とする場合が多いですが、通常の販売価額の70%に満たない価額で引き継ぐと「著しく低い価額の対価による譲渡」に該当し、その70%相当額で譲渡があったものとされます。そのため、在庫については、「帳簿価額」か「通常の販売価額×70%」のいずれか大きい金額で法人に売却します。 在庫の譲渡は消費税の課税取引となります。
3.固定資産
個人事業で使用していた車両や備品等の固定資産の譲渡については、譲渡所得となります。法人への譲渡価額については、実務上は帳簿価額とする場合が多いですが、時価の2分の1未満での低額譲渡の場合には、時価で譲渡したものとみなされますので注意が必要です。一括償却資産の未償却残高については、事業を廃止した日の属する年分の事業所得の必要経費に算入することになります。
土地や建物の固定資産については、個人から法人へ売却する際に売却益が発生したり、登録免許税や不動産取得税がかかりますので、個人から法人への「賃貸借契約」とするケースが多いです。この場合、個人は法人から家賃の支払いを受けるわけですから、家賃収入を確定申告する必要があります。土地以外の固定資産の譲渡は、消費税の課税取引となります。
3)事業を廃止した年分の個人の確定申告
事業を廃止した年分の確定申告については、2)で説明した点に気をつけて行う必要があります。所得税の計算は暦年で行います。1月1日から事業廃止までの期間の事業所得の金額とその他の所得を合算して翌年(通常は3月15日まで)に確定申告を行います。
事業所得と合算する必要があるその他の所得は、例えば下記のものが想定されます。
- 法人化後、その法人から受ける給与(給与所得)
- 法人化後、その法人から受ける家賃等(不動産所得)
個人事業廃止後に個人事業税が課税されることになりますが、実際に事業税を納税するのは事業を廃止した年の翌年になります。翌年は個人事業は既に廃止していますので、事業税を必要経費とすることができません。そこで、実務上は事業税の課税見込み額を事業廃止年分の確定申告において、必要経費に計上します。(見込控除)
また、法人化に伴い個人事業を廃止した場合には、例えば下記の届出書の提出が必要となる場合があります。
「所得税の青色申告の取りやめ届出書」 「個人事業の開業・廃業等届出書」 「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」 消費税の「事業廃止届出書」 「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」 など
4)その他の注意点
個人事業で従業員を雇っていた場合、法人化に伴う個人事業の廃止により、廃止日でその従業員は退職扱いとなります。事業廃止日までの給与計算を行い、それに基づき源泉徴収票を発行します。年の途中での退職ですから、この場合、年末調整は行いません。
事業を引き継いだ法人サイドでは、開業日でその従業員を新規雇用したことになりますので、個人事業で発行した源泉徴収票を前職分として、法人の給与と合算して年末に年末調整を行う必要があります。 その他、法人の設立初年度については、減価償却費の計算や法人税の計算、消費税の納税義務の判定等、特殊な処理をするケースが多いですので、専門家に相談されることをお勧めします。