CFOとは?CFOの意味と役割、求められる人物像について解説
最近のベンチャー企業では、経理、財務部門の責任者にCFOの肩書を付け、そう呼んでいる場合も多く見受けられます。しかしながら実際にはCFOの責任や業務は幅広く、経理、財務の仕事に止まるものではありません。そこで今回、CFOの本来の意味と役割を考えてみたいと思います。文字面を見るとCFOは、「Chief Financial Officer」の略称で、日本語では「最高財務責任者」と訳されます。その名の通り、「企業会計」・「企業財務」部門の責任者を指すことに間違いはありません。しかし、CFOは私たちがイメージする従来の「財務部長」や「経理部長」とは異なり、お金の面から企業戦略や企業活動の全般をマネジメントする経営陣の1人なのです。
今後、企業が上場やグローバル展開を目指している場合は、本来のCFOの役割が求められるため世界共通言語としてのCFOの意味を理解しておく必要があります。
CFOの役割
「企業会計」と「企業財務」の違い
それでは、CFOが所管する中心業務である「企業会計」と「企業財務」とは、具体的には何を指しているのでしょうか?非常に混同しやすいポイントなので、おさらいしておきましょう。
企業会計
まず、「企業会計」とは、欧米では「アカウンティング」と呼ばれる概念です。これは、企業活動の結果として生じたお金の出入りを、財務諸表として厳正に記録・管理することを意味しています。つまり、「企業会計」は、企業活動の過去と現在のお金の流れに着目することとなります。ちなみに、「経理」という言葉は、「日々のお金の流れを記録・管理すること」を指し、「会計」の下位概念となりますので、ご留意ください。
ちなみに、「財務諸表」は、損益計算書や貸借対照表、キャッシュフロー計算書などに代表される計算書類のことですが、上場するためにはグループ内で連結した連結財務諸表が求められます。企業は、株主・債権者・税務当局など外部の利害関係者に対して、「自社がどれほど利益を上げているのか、どれだけの負債を負っているのか、どれだけの資金を抱えているのか、どれだけ効率よく運用しているのか」を報告するために、財務諸表を作成するのです。
近年、企業活動のグローバル化など、経営環境は目まぐるしく変化しています。そんな潮流のなかで、「企業会計」は、欧米を中心に現在100ヵ国以上が採用している国際会計基準の導入など、世界統一基準へ収れんしていく動きがあります。そのため、今後の上場企業のCFOには国際会計基準の知識が必要となってきます。
企業財務
一方、「企業財務」とは、欧米では「コーポレートファイナンス」と呼ばれる概念です。従来、「財務」(狭義の「ファイナンス」)という言葉は、「金融機関や投資家から資金を調達すること」と考えられてきました。しかし、「企業財務」とは、狭義の「ファイナンス」から一歩進んで、「集めてきた資金を企業の現状の資産に投資し、その資産から生じるであろう将来のキャッシュフローを増大させていくこと」を指すのです。つまり、「企業財務」は、企業活動の資金調達と運用、すなわち将来のお金の流れを設計することとなります。
「企業財務」で最も重要なポイントは、企業価値の極大化を目指すうえで、お金という観点から、企業活動を総合的にマネジメントすることです。そのため、CFOは、従来の「財務部長」のような一間接部門をまとめる中間管理職の延長ではなく、企業が成長するための経営戦略や財務戦略の立案や執行を行うなど、企業活動の意思決定に携わる経営陣としてのスキルも求められるのです。また、近年ではいかに短い期間でキャッシュフローを増大させていくかという、財務活動の効率化が必要とされているため、CFOの職責は今後、さらに重視されていくと言えるでしょう。
CFOの概念を構成する「チーフ・オフィサー」とは何か
ところで、CFOやCEOなど、「CxO」の形で表される役職名は、経営用語で「チーフ・オフィサー(Chief x Officer)」と呼ばれます。Chief=組織の責任者、Officer=執行役を意味し、xに入る頭文字がその職務や職責を指すのです。
この「チーフ・オフィサー」という仕組みは、アメリカ型の企業統治(コーポレート・ガバナンス)に基づいています。米国では、企業の所有と執行(経営)は別物として考えられており、所有者である株主を代理する取締役会が、業務執行を担当する執行役(経営者)を任命・監督しているのです。
そのため、米国企業では「株主の要求に基づいて、CEOが解任される」というケースが起こります。企業の所有と執行(経営)の境界線が曖昧な「会長」や「社長」という役職に慣れ親しんだ日本から見れば、非常に厳しい環境といえるでしょう。
さて「チーフ・オフィサー」のなかでも、よく耳にするのは、CEO、CFO、COOなどでしょう。CFOの役割を鮮明にするため説明しますと、残り2つの役職の違いは、次の通りです。
CEO:「Chief Executive Officer」の略称で、「最高経営責任者」を意味します。企業における経営全般を統括し、その最終的な経営責任を負う企業のトップを指します。具体的な業務は、企業の経営方針や経営戦略などについての意思決定をし、長期的な視点に立って経営課題に取り組むことです。そのため、業務の特性上、企業の法律上の代表権をもつ人物が、CEOを務めるケースが多くなります。
COO:「Chief Operating Officer」の略称で、「最高執行責任者」を意味します。CEOや取締役会が決定した企業の経営方針や経営戦略の執行を担当する役員のことで、CEOに次ぐ企業のNo.2となります。一般的に、CEOが経営責任を負い、COOが事業責任を負うというように、その責任範囲が棲み分けされています。米国の企業では、企業の会長がCEO、社長がCOOを兼務するケースが多く、また、CEO自身がCOOを兼任する場合もあります。一方、日本企業では、社長がCEO、副社長がCOOを名乗る傾向があります。
CFOに求められる人材像
CFOは、法律に裏打ちされた役職ではないため、必須となる資格や免許があるわけではありません。しかし、上記のように職分が広いことから、CFOに求められる知識や能力は多岐にわたると考えられています。なかでも、とりわけ求められる知識や能力は、次の4点です。
経営陣の一員としての意識
CFOは、お金の面から企業活動や経営戦略を支える、いわばCEOの参謀役です。企業価値を極大化するためには、M&Aや戦略的提携など他の企業とのパートナーシップを活用する、また採算性が悪い事業を売却するなど事業ポートフォリオを健全化する、といったように、CEOと同様のリーダーシップが求められます。「自身も経営者である」というマインドセットをもって、企業経営に当たる必要があるのです。
海外の投資家からは、日本企業に対し事業ポートフォリオの見直しが必ずしも十分に行われていないとの意見があります。その背景として、経営陣の資本コストに対する意識が未だ不十分であることが指摘されています。このため事業ポートフォリオの見直しなどの果断な経営判断が重要であることや、そうした経営判断を行っていくために、自社の資本コストを的確に把握する必要があると言われており、留意する必要があります。
会計・財務知識
CFOは、「企業会計」と「企業財務」のプロフェッショナルであるため、会計・財務部門の専門知識が求められます。理想を言えば、上場企業の会計・財務部門やIR部門で実務経験を積んでいること、企業のIPO経験を有していること、税務知識に長けていることなどが挙げられるでしょう。そういった経験がなくとも公認会計士の資格やMBA(経営学修士)の学位を取得する努力をすることは有効です。また、専門的な知識をもった人材を採用しマネジメントしていくといったことでも対応は可能です。
企業が持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現していくためには、そういった知識や人材を活用し、戦略的・計画的に設備投資・研究開発投資・人材投資等を行っていかなければなりません。その際には、投資戦略と整合的で、資本コストを意識した適切な財務管理を行っていくことが重要となってきます。
法令知識
財務会計の実務知識だけでなく、その背景となっている金融商品取引法などの法体系をはじめ、銀行法、保険業法などのファイナンスにかかわる事業者の業界に関する法令知識が必要となります。また、コンプライアンスの観点から、労務や個人情報にかかる法令知識も重要です。
コミュニケーションスキル
CFOは、財務戦略を企業の経営戦略に反映させるために、時には、CEOに臆せず意見する「嫌われ役」も演じなければなりません。また、金融機関や投資家から資金調達する際には、「自社の企業活動が、いかに確実に、なおかつ大きなリターンを見込めるか」と、ロジカルかつ安心感を与えて、自社の財務計画をステークホルダーに説明することも求められます。
そして、会計・財務部門の業務がITによって自動化された現代において、社内の情報技術に関する役員・CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)との協働も欠かせません。加えて、経営のグローバル化が進展していくなかでは、外国語のスキルも必要となってきます。そのため、CFOには優れたコミュニケーションスキルが必須条件となるのです。
日本におけるCFOが取り組むべき課題
最後に、日本のCFOが取り組むべき課題についてもお伝えします。
第一の課題:CFOが企業の経営戦略を支えるうえで、組織的なバックアップがまだまだ足りないこと
EY新日本有限責任監査法人が2013年に調査した結果(※1)によると、約70%のCFOが、企業において経営戦略策定の中心的な役割を果たす経営企画部門を管轄していないことが明らかとなりました。これは、企業の資金調達の主流が、投資家による直接金融ではなく、メインバンク制による間接金融であったという歴史的な背景から、CFOの役割も会計・財務部門に限定される傾向にあったためと考えられます。
第二の課題:企業内でのCFO教育体制を整備できていないこと
日本CFO協会が2016年に行った調査(※2)では、「グローバル化においてCFOが対応すべき課題」として、78%の企業が「グローバル化をリードする人材の獲得・育成」と回答しています。また、同調査では、「財務部門における人材教育」において、87%の企業が「OJT重視」、8%の企業が「社内試験・研修を重視」と回答しています。ファイナンス人材やグローバル人材は、将来的にはCFOへ昇格する幹部候補生であるため、企業にとっては喫緊の経営課題といえます。
第三の課題:企業活動のデジタル化への対応の遅れ
デロイトトーマツグループが2017年に調査した結果(※3)によると、「同業他社と比較したデジタル化への取り組みの進捗状況」について、53.2%のCFOが「同業他社に比べて遅れている」と回答しています(「一定の進捗があるが、同業他社からやや遅れている」46.0%+「かなりの遅れがある」7.2%)。今後の経営環境において、ビッグデータやAI(人工知能)、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション:ソフトウェア型ロボットによる定型デスクワークの代行・自動化)など、デジタル技術の活用が必須となります。CFOは、積極的にデジタル化を経営戦略に取り込むよう、提言していくべきでしょう。
これらの課題をCFOが中心に解決していくことで、日本企業の経営はより洗練され、その企業価値もより一層増大していくことでしょう。
※1:EY新日本有限責任監査法人
「グローバル化時代の日本企業のCFOの役割」CFOサーベイ2013
※2:日本CFO協会 財務マネジメント・サーベイ
「企業のグローバル化に伴う財務・リスク管理体制の実態と課題」
※3:デロイトトーマツグループ
「CFOサーベイ2017」経営環境及び課題認識等の調査結果発表
まとめ
ベンチャー企業が上場したり、グローバル化したりする際に必要なCFOの責任と役割を知っておくことによって、早期に準備に取り掛かることができます。また、日本CFO協会などCFOが集まるコミュニティに参加し、経験者から知見を得ることも有効です。