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2019年10月08日(火)

「キャッシュフロー経営」を実現するために必要なこと

経営ハッカー編集部
「キャッシュフロー経営」を実現するために必要なこと

(※編集部註)こちらの記事は、株式会社船井総合研究所による寄稿記事です。プロの経営コンサルタントの視点で、経営者の悩みに応える連載第1弾。


経営者の方々と多くかかわっていると、「資金繰り」や「キャッシュフロー」についての悩みを頻繁に耳にします。このコラムをご覧の経営者や経理担当の方は、今までに1度は税理士や会計士、または経営者仲間に資金繰りの作成方法を確認されたことがあるのではないでしょうか。

ただ、資金繰りの管理と作成は難易度が高く、多くの方が挫折します。しかし、ここで資金繰り管理を諦めてしまうと、後々の会社経営に響いてきます。

逆に、きちんと資金繰りを管理・活用していれば、お金の流れ(現金収支)をくわしく把握でき、資金ショートしないために必要な売上や利益、資金調達を行う最適なタイミングを逆算できるようになります。

本記事をきっかけに「資金繰り」と「キャッシュフロー」に対する理解を深め、いわゆる「キャッシュフロー経営」を実現していただけると幸いです。

キャッシュフロー重視の経営にシフトした会社の成功事例

 

私が過去に担当した会社は、年商20億円で最終利益も8000万円という業績を出していたにも関わらず、当時その会社は現金(現金預金)が利益分貯まるどころか、むしろ減少する一方という状況に陥っていました。資金が尽きるタイミングや投資に回せる残り資金もわからない、不透明な経営から脱却できずにいたのです。

しかし、私たちがコンサルタントとして参画し、ノウハウを徹底的に落とし込んだ結果、資金繰りをベースに経営状態を数値で把握できるようになり、現金預金も貯まるようになりました。また、見えない恐怖(資金ショート)を可視化することができるようになったため、社長も以前より数値に基づいた経営判断を行うことに注力できるようになりました。

社長が経営者としての仕事に集中できるようになったことで、今ではより積極的な事業を進めることに成功しているようです。
 

キャッシュフロー経営を成功させるための5つのポイント

 

ここまでキャッシュフローを重視したことで経営が改善した例を紹介しましたが、具体的には何を意識すればいいのか? キャッシュフロー経営を成功させるための5つのポイントについて説明をしていきます。

 

ポイント①資金繰りとはそもそも何か

資金繰りを知らないと倒産の確率が高まる?

 あなたは、実際に今期いくらの現金を生みだしたのか(利益ではなく現金)、そして現金増減の理由をしっかりと把握していますでしょうか。

おそらく、そこまでしっかり管理されている方は多くはないでしょう。現金増減の理由を把握することができるというのは、いつどのタイミングでお金が入るのか、そしていつ出ていくのかも把握することができるということ。

そして、ここでよくあるのが、利益と現金の動きが一致していると勘違いしてしまうケースです。

「損益計算書上では利益が出ているから、現金も増えているだろう」と思われている方は、現金が利益と同じだけ増えていると勘違いしてしまっているため「想定している現金預金額>費用の支払い>実際の現金預金」という状況に陥ることもあります。

しかし、支払い分の現金がないことに気づいて、銀行などから資金を調達しようとしても、すぐに融資されるわけではありません。こうなると、費用の支払いができずに倒産してしまう可能性が高くなります。

このように、「利益は出ているのに支払い余力がないため支払いができない」という状況で会社が倒産してしまうことを「黒字倒産」と呼びます。

反対に、きちんと現金の管理ができている企業は事前にお金がなくなるタイミングを把握しているので、取引先に対する各支払いの遅延交渉や、銀行借り入れなどのアプローチを早めに取ることができます。このように先を見据えた行動を取ることで、倒産確率がグッと下がります。
 

資金繰りを管理するメリット

 資金繰りをしっかりと管理すれば、お金がいちばん少なくなるタイミングや資金調達に向けた行動をすべき時期を把握できるだけでなく、投資余力も逆算できるようになります。

投資余力の算定がなぜ大事なのか。これは、成長企業にとって投資が不可欠であることが関係しています。

自己資金の余力が見えないまま投資をすると予想を超えたスピードで現金が減少し、翌月の従業員給与や借入金の支払い、返済などができなくなる恐れがあります。そういったことを未然に防ぐために、資金繰りシュミレーションを活用する必要性とメリットが存在します。

 

ポイント②資金繰り表の構成の理解

資金繰り表の構成

 では、早速資金繰りの中身について見ていきましょう。実は現金の流れを管理する資金繰り表では大別して以下の3つの項目が存在しています。

  • 営業CF(キャッシュフロー)
  • 投資CF(キャッシュフロー)
  • 財務CF(キャッシュフロー)

どの項目も現金の動きに直結するものですが、それぞれ性質がまったく違います。詳細を確認していきまょう。
 

営業CF(キャッシュフロー)とは

 営業CFとは読んで字のごとく、会社が事業をしているときに出た売上や費用、利益などの視点から、現金がどのように増減をしているのかを把握するものです。

※営業CFは、メイン事業で現金がどれくらい増減したのかを示すため、最低営業CFはプラスにする必要があります。(ここがマイナスだと本業で儲けていないことになります)
 

投資CF(キャッシュフロー)とは

 投資CFとは、主に固定資産(建物や土地)の売買における支出金額や売却時の入金といった視点から、現金がどのように増減をしているのかを把握するものです。

※基本的に投資CFは固定資産の購入時・売却時の入出金なので、年度によって最終数値がプラスになる場合とマイナスになる場合とがあります。
 

財務CF(キャッシュフロー)とは

 財務CFとは、主に銀行借り入れによる入金や、借入金の返済などによる支出の視点から、現金がどのように増減しているかを把握するものです。

※財務CFは中小企業の場合、銀行借入や返済がその多くを占めています。銀行借入をした月には大幅なプラス、その翌月から返済が始まる場合は徐々にマイナスが続いていくイメージです。

 

 

 

ポイント③資金繰り表作成の落とし穴

営業キャッシュフローでの落とし穴

 営業CFを作成する上で、いちばん大きな落とし穴として挙げられるのは「現金の入出金タイミングのズレ」です。

売上と費用の現金すべてが試算表どおり、月内に出入りしてくれればいいのですが、正直そのような状況は少ないです。(現金ベースの試算表作成をしないかぎり難しいと言えます)

その理由として、売上が確定してもすぐに現金として入金されるわけではなく、売掛金として後日入金される契約をする場合が多いことが挙げられます。この場合、試算表の売上額と実際の売上入金額にズレが生じてしまいます。

 業種によってはこのズレがかなり大きくなるため、入出金のタイミングをしっかりと把握する必要があります。

“(例)1月にA社はB社に100万円売り上げました。その際の契約では、B社からA社に対して次月に入金されることが決まりました。しかし、その売上が1月中に入金されると勘違いしてしまった社長は、次の仕入や従業員の給与、借入金の返済分として残していた現金残高100万円を全額、投資に使ってしまいました。

 1月の各支払い期日時点では売上分がまだ入金されていないため、現金が底を着いてしまい、翌月用の仕入費用や借入金の返済資金を捻出できず、黒字倒産してしまいました。”
 

投資CFでの落とし穴

 投資CFのよくある落とし穴は、試算表に建物や土地を購入した表記があるにも関わらず、実際の出金が翌月になっており、資金繰りの予測と実際の現金残高がズレが生じてしまうケースです。特に、運送会社などは固定資産の売買が多いので注意が必要です。
 

財務CFでの落とし穴

 財務CFを管理する上で、意外と見落としがちなのが借入金の返済額。借入金の返済額を考慮し忘れて、感覚よりも現金が減っているように感じるといったケースも多くあります。借入金の返済額も忘れずに資金繰り表に追加しましょう。

 

ポイント④資金繰り予測の立て方

将来の投資や事業計画を資金繰り表に反映する方法

 今期の資金繰り表が完成したら、次は来期の資金繰り計画の作成です。精度の高い資金繰りを作成するためには来期の事業計画(BS、PL)が必要になります。

 なぜなら、PL(損益計算書)の計画がなければ営業CFの予測はできませんし、BS(貸借対照表)の計画がなければ投資CFの予測ができません。言い換えると、資金繰り計画の策定をするためには、営業CFと財務CFの状況から、現金が足りなくなりそうなポイントを見極め、借入が必要になる月と額を予測しなくてはいけません。

また、事業計画もあわせて作成した方が、より精度の高い資金繰り計画になります。

 

ポイント⑤資金繰りをより経営に絡める方法

資金繰りを「守り」から「攻め」に変える

 最後に、守りの資金繰りを攻めの資金繰りにするための方法をお伝えします。

 資金繰りの管理や表の作成は、資金がいちばん少なくなるタイミングや資金ショートをするのがいつなのかを把握するツールと思われがちです。しかし、資金繰りにはまだまだ使い道があります。たとえば、将来どのタイミングでいくら自己資金を投資に使い、それでも足りない部分をいくら金融機関から借りるかを逆算できます。

 ここまで到達するのは、最初こそ難しいかもしれませんが、現金の動きの「見える化」は事業を進めるにあたって必須事項になるので、将来に向けて今できるところから取り組みましょう。

 

執筆者:コンサルタント 篠原弘樹

山口県山口市出身、税理士事務所を営む父の元で育つ。大学卒業後、(株)船井総合研究所に新卒入社。入社後は主に部門別管理や資金繰り管理といった財務体制構築に従事。葬儀、運送、福祉、オートといった様々な業界を専門としており、それぞれの業界特性を理解した各企業への提案には定評がある。趣味は、財務関連書籍の読書。

プロフィール(財務コンサルティングドットコム - 船井総研のページへ)

 

 

 

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