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2016年03月22日(火)

飲食業の経理の特徴、資金繰りのコツをわかりやすく解説

経営ハッカー編集部
飲食業の経理の特徴、資金繰りのコツをわかりやすく解説

restaurant 飲食店経営を順調に行っていくにはもちろん味、サービスの質や立地条件等が大切ですが、小規模経営の飲食店、もしくはこれから飲食店を始めたいと思っている方を対象に経理と資金繰りについて押さえておくべき基本事項を説明します。

飲食業の経理

飲食業はほとんどが現金売上 飲食業は、仕入れは掛けで行っても、売り上げについては圧倒的に現金取引が中心の業種です。規模や業態にもよりますが、基本的には売上収入が仕入れ代金の支払いに先行するため、経営が順調であればお金の出入りの面については理想的な業種だと言えます。また、他の業種と比較して特殊な経理処理が必要という訳でもありません。   ただし、これは現金を取り扱う全ての業種についても言えますが、現金の管理については慎重な管理が必要です。「現金管理は信頼できるスタッフに任せているから大丈夫」という考えは禁物です。売上と現金残高の照合はできれば1日に複数回行い、経営者、もしくは管理責任者が最終確認することが必要です。担当スタッフの信頼性と内部統制は別物だとの認識を経営者がしっかり持つことが重要となってきます。

飲食業の経営指標

①FLコスト比率 飲食業界ではFLコスト比率と呼ばれる経営指標があります。 FLコスト比率とはF(Food食材費)とL(Labor人件費)の合計額を、売上高で割って算出します。このFLコスト比率の適正値は60%以下で、これより高い数値になると経営が厳しくなると言われています。FLコスト比率を算出する場合、スタッフの雇用に伴って生じる法定福利費(社会保険料の事業主負担分や労働保険料)なども含めます。

②FLRコスト比率 FLRコスト比率とは、賃貸物件で飲食業を営んでいる場合に必要となる経営指標です。FLコスト比率に店舗の賃借料を加味したものです。つまり食材費、人件費、店舗賃借料の合計額を売上高で割った数値となります。70%以下を目標とすべきと言われています。店舗が賃貸物件ではなく自己所有の場合は賃借料の代わりに、支払った固定資産税の金額を使います。

③原価率 他の業種と同様に経営判断の指標として原価率も重視されています。飲食業における原価率とは単純に食材費を売上高で割った比率で、人件費も店舗の賃借料も加味されません。30%程度が適正と言われていますが、競合他店との差別化を図るためにあえて30%を超えるぐらいがいいという意見もあります。

①FLコスト比率、②FLRコスト比率、③原価率から見えてくるもの

①FLコスト比率の適正値が60%以下、②FLRコスト比率の適正値が70%以下、③原価率の適正値が30%以下ということであれば、売上高に占める食材費、人件費、店舗賃借料(固定資産税)のおおまかな目安が見えてきます。つまり、飲食業における売上高に対する経費割合は、食材費は30%以下、人件費は30%以下、賃借料(固定資産税)は10%以下が経営的に理想的な数値だということになります。

飲食業の重要な経営指標をいくつか紹介しましたが、絶対的な数値ではないにしろ、いずれも飲食業界においては経営状態を判断する目安として広く一般的に使われている経営指標です。いずれの指標もきちんとした経理処理がなされて初めて有益な判断材料となるものです。

飲食業の資金繰りのコツ

減価償却費がお金の流れを見えにくくする

①概要 一般的によく耳にする言葉ですが、減価償却とは一体どういうもので、資金繰りにどのように関わってくるのでしょうか。「減価償却」とは、実は資金繰りを考える上で経営者が理解しておくべき大事な経費項目です。よく「支出を伴わない経費」と表現されます。内容を簡単に説明します。

既にお金を支払った店舗の内装費用、厨房機器購入代金や車両購入代金などの高額になりがちな支出は、経理処理上、その支出時に全額を一度に経費として計上することが認められないものがほとんどです。決して経費として計上できないという訳ではなく、税法の定める期間に従って何年間にも渡って各年に少しずつ経費として配分していくことと定められています。減価償却費とは、その各年に経費として配分されたその配分額のことです。 ②具体例 具体例で説明します(減価償却の計算方法には色々ありますが、ここでは考え方がわかりやすい定額法で説明します)。

今年、60万円の業務用設備を購入したとします。しかし、その60万円全額が今年の経費として計上できる訳ではありません。税法で細かく定められた"経費の配分期間"(耐用年数といいます)が5年となっていれば、購入・使用開始から60か月(12か月×5年)に渡って経費として計上することになります。個人事業であれば12月が決算月となりますが、もしその60万円の業務用設備の購入・使用開始が12月だったとすれば、その年は60万円÷60カ月=1万円しか経費として損益計算書に計上されません。つまり購入した年は、60万円も支払ったのに税金の計算をする時は1万円しか経費にできない、ということです。ちなみに翌年は12カ月使用することになるので12か月分の減価償却費を計上できるので、60万円のうち12万円が減価償却費として経費に計上されます。 ③まとめ このようにして数年間に渡って経費を配分することを"減価償却"といい、その各年の配分額が損益計算書に計上される"減価償却費"となります。お金の動きと決算書に計上される経費の額が大きく食い違うため、損益計算書からお金の動きが把握しにくくなる原因の一つで、もちろん納税額にも影響するため経営者が理解しておくべき大切な経費項目です。

借入金の元本返済部分は経費にならない

減価償却の他、よく誤解されることが、借入金を返済する時の元本部分の取り扱いです。借入金がある場合は当然返済を行っていくことになります。通常であれば毎月通帳から自動引き落としという形で返済していきますがこのとき、通帳から引き落とされるのは元本部分と借入利息です。損益計算書上(税金の計算上)経費として計上されるのはあくまで利息の部分だけです。元本部分は確かに通帳から引き落とされているにも関わらず経費にはできません。もし、経費にできるということであれば、借り入れた時に借入額の全額も収入として計上すべきものとなってしまいます。

この「支出しているのに経費にならない借入金の元本返済額」も損益計算書からお金の動きを把握しにくくしている原因の一つです。

その他の注意すべき支出

減価償却費や借入金の元本部分などは、支出があるのに経費にならないものの代表ですが、現預金の動きと決算書の利益の金額にズレを生じさせるものは他にも様々なものがあります。 賃貸店舗の敷金やタクシーチケットの保証金など、のちに返金が予定されている支出額は支出時に経費にすることはできません。また美術的価値のある骨董品なども、経費にできないものとされています。個人事業の場合は事業主の生命保険料も経費になりません。もちろん、事業主の生活費等も経費にできません。また、逆に事業主が事業資金を立て替えている場合も収益として計上する必要はありません。

決算実務に詳しい方や税理士・会計士に決算書作成を依頼されていれば、未払金・買掛金・未収入金・売掛金の計上処理がされていることがあり、これらは損益計算書に影響するにも関わらず計上時点では現預金の動きをともないません。

その他、交通反則金、住民税、所得税なども事業にかかわる支出とも言えますが、税法の規定上経費とすることはできません(事業用店舗にかかる固定資産税は経費になります)。その他、繰延資産などのように減価償却と類似した処理が行われる特殊な項目もあります。

損益計算書からおおまかなお金の動きをつかむ

きちんとした経理処理が行われて正確な決算書(貸借対照表や損益計算書)が作成されていれば、以上を踏まえておおまかなお金の動きが把握できます。

   +期首の現預金の合計額    +損益計算書の利益の額(損失の場合はマイナスする。青色申告控除額がある場合はその控除前の金額。)    +減価償却費の計上額    -その期に減価償却の対象となるものを購入した場合の支出金額    -その期に土地など経費にならないもを購入した場合の支出金額    +期末の買掛金・未払金の残高    -前期末の買掛金・未払金の残高    -期末の売掛金・未収入金の残高    +前期末の売掛金・未収入金の残高    +借入金の額(その期に借入をした場合のその借入額全額)    -借入金の元本返済額    -事業主が個人的な目的で使用した現預金の額    +事業のために事業主が入金した現預金の額    -その他、経費として計上していない支出金額    +その他、収益として計上していない収入金額    =期末の現預金の概算額

上記の計算で把握できる期末の現預金の金額は、あくまでも目安としての概算額です。経費にならない支出項目や、収益にしなくてもよい収入項目等は他にも様々あり、また、事業所や年度によっても異なるため厳密に一致するとは限りません。しかし、もし、上記の計算を行った結果と実際の現預金有高に大きな差異が生じている場合は経営者が把握していない大きなお金の動きが生じている可能性もあり注意が必要です。上場企業であれば、もっと厳密かつ詳細な"キャッシュフロー計算書"の作成が義務付けられ公表されていますが、非上場企業や小規模な事業所でも損益計算書の利益の金額だけでなく、上記のような簡便的な方法などでお金のおおまかな動きを把握する努力が必要です。

 また、できれば決算の時だけでなく、月次決算等を通じて月単位で確認することが理想的です。日別にはその日の売り上げや支出を把握した上で現預金有高の確認が必要です。特に現金の過不足が後日判明した場合、時間がたっていればたっているほど過不足の原因追及は難しくなっていきます。

家事費との区分を明確にする

個人経営の事業所で特に注意すべきことは、事業用資金と生活資金の明確な区分です。預金通帳は必ず事業専用通帳として事業主個人の通帳とは明確に使い分けてください。生命保険料など、事業の経費にならないものが事業用の通帳から引き落としされたりしていると、事業の資金繰りの把握が困難になってしまい、なんとなく資金繰りがきついような気がするけど原因がわからない、といった状態になりがちです。理想としては毎月、定額を生活資金として事業主個人の通帳に振り替えるようにして、事業用通帳からはできるだけ事業に関わる入出金だけ行うようにすることをおすすめします。レジや金庫の中の現金も、現金出納帳できちんと管理し、毎日の現金残高が現金出納帳の残高と一致するように管理するのが基本的な原則です。

事業計画書を作成する

事業計画書は自主的に作成するものなので対象期間の設定は自由です。例えば短期事業計画は1年、中期事業計画は5年、長期事業計画は10年など、必要に応じて自分で期間を定めて作成します。しかし銀行から融資を受けて新規開業する場合は必ず要求される資料なので銀行とも十分な打ち合わせが必要です。

ただ、融資を受けるためだけに作るのではなく、開業後は1年単位の事業計画書だけでも毎年作成することをお勧めします。過去の実績を元に、来年度に予想される支出額を月ごと、勘定科目ごとに計上し売上目標も計上する形にすれば、事業計画書でもあり予算書にもなります。作成中に店舗の外壁塗り替えや厨房機器の入れ替えなど忘れていた大きな支出を思い出すことも少なくなく、そのような支出をあらかじめ計画書に織り込んでおけば、早めに高額な支出に備えることができるので資金繰り管理のためには必要不可欠な書類と言えます。事業計画書の作成段階で資金が足りない、とか、赤字になりそう、ということが考えられるときは売上目標も必然的に決まってきますし、そのためにどうしていくか考えることになるので計画的な経営にもつながっていきます。

翌月の資金繰り表も毎月作成することができれば、さらに的確で迅速な経営判断も可能となってきます。毎年の事業計画書の各項目の計画額(予算額)の横に実績額を記入していけば、来年度の事業計画書や予算書を作成する際の参考にもなり、早めにその年の所得予想ができるので節税対策にも役立ちます。

適正在庫を心がける

在庫を一切持たない無在庫での経営が可能であればそれが最も理想的ですが、飲食店では飲料類、食材などの在庫が必ず発生します。どうせ必ず使うからと、必要以上に在庫を持つとその分資金繰りに悪影響を及ぼします。逆に欠品が起きれば機会損失につながり、それもまた資金繰りへの悪影響となります。業態、季節、業者の配送スケジュールなどでも異なってきますし、競合店の出店(または撤退)や店舗周辺の地域環境の変化による客数の増減なども影響することなので、一般論で片づけられない難しい経営課題です。適正在庫をどれくらいにするかは、様々な情報や経営状態から自身の事業所に合うやり方を試行錯誤しながら、自ら構築していく努力が必要です。特に仕入れ金額の大きいものから在庫管理の方法をを重点的に検討していけば効果的に資金繰り改善に繋がっていきます。

固定費と変動費を区別し経費削減に努める

資金繰りの改善や競争力の向上のためには経費削減は欠かせません。しかし、必要な経費まで削減すれば経営的にマイナス効果になってしまいます。品質の維持・向上を図りつつ無駄な支出を減らすにはどうしたらいいか慎重な検討が必要です。 まず経費は固定費と変動費に分類されます。

固定費とは人件費や地代家賃などのように売上げに関係なく一定額が必ず発生するもの。変動費は食材費のように売上に連動して増加したり減少したりするもの。どちらにも当てはまらない中間的なものもあり、全ての経費項目を厳密に区分するのは困難ですが、効果的な経費削減を行うために必要な視点です。事業が利益を出すために最低限必要な売上高はいくらかという損益分岐点の計算に不可欠な分類でもあります。損益分岐点を意識した経営は資金繰り改善や競争力向上のためにも必要です。なお、固定費や変動費が変われば損益分岐点も当然変わってきます。

固定費の削減 作業内容を再検討して、必要に応じて機械化できる部分があれば機械化することで人件費削減につながります。機械購入の初期投資やメンテナンス費用などが新たに発生しますので結果的に経費削減につながる作業について検討します。大手の外食チェーンなどでよく目にする券売機の導入などは機械化による経費削減の良い例ですが、個人経営の飲食店でも最近よく目にするようになってきました。厨房内の作業などでも機械化できることがないか検討することをお勧めします。

また、業務用冷蔵庫や空調設備の保守料などは交渉次第で安くなることもあります。また、買い替えが必要となった際には必ず保守料も含めて複数の業者から見積もりをとって比較検討する必要があります。高い保守料を払って古い設備を使い続けるより、長く使用し修理の必要性があるものは買い替えた方が結果的に得になることが多いものです。リースの活用も考えられます。配達車両などを車検代等の維持費用込みのメンテナンスリースにすることで経費削減や車両管理の手間を削減できることもありますので、リースは高いと決めつけずに比較検討する価値はあります。機械の導入だけでなく作業手順の工夫で人件費が削減できないか検討することも必要です。

変動費の削減 飲食業における変動費として代表的なものは食材費です。この経費項目の経費削減は粗利の向上や、メニュー価格の維持・引き下げによる競争力強化にもつながります。共同仕入れや大量仕入れによる仕入れ価格の低減や、より安い仕入れ先への仕入れ業者変更などが考えられます。しかし、余剰在庫が生じて資金繰りが悪化する可能性もあり、また品質の低下にならないよう慎重な検討が必要な項目でもあります。

固定費の変動費化 忘年会、新年会などの繁忙期は人手不足になりがちですが、その時期に合わせて人を雇うと人件費が資金繰りを圧迫する原因となります。飲食業において最も悩ましいことかもしれません。固定費の変動費化はこのような飲食業の特徴を踏まえた最も重視すべき項目といえます。

わかりやすい例は外部委託です。従来の作業内容を改めて見直して、外部委託した方が質を落とさずに人件費削減につながるようであれば効果的な経費削減となります。元々、自身の事業所で行っていた作業をやめ、加工済のものを外部仕入れに切り替えることなどが一例です。本来固定費だった人件費を、売上の増減に応じて増減する変動費に変えたことになります。

助成金、補助金の活用

助成金や補助金は銀行融資と違って返済不要のものなのでぜひ活用したい制度です。(厳密には助成金と補助金には違いがありますが便宜上、”助成金等”とします。)

助成金等の制度は、厚生労働省、経済産業省、その他各市町村や県などが独自に行っているものまで様々なものがあります。また受給要件に該当するかどうか自分で判断できないことも多いため、最近は税理士、会計士等でも専門的に相談に乗ってくれるところが増えています。自身の事業所で利用可能なものが必ずあるとは限りませんが、資金繰り改善の有効な手段として検討の価値は大いにあります。特に開業時には多額の資金が必要となるため必ず調べて利用できるものがあれば受給することをお勧めします。

外部の専門家と上手に付き合う

税理士さんや会計士さんと顧問契約を結んでいるのであれば、記帳代行業者のような認識で税理士さん・会計士さんと付き合うのは経営的に損な付き合い方です。税理士さん・会計士さんは通常、多数の顧問先の経営や税務に関わっています。必然的に顧問先1件にかけられる時間は限られてきます。その限られた時間を領収書整理や帳簿作成で消費させていることになるので、とてももったいない付き合い方をしているということになります。

領収書や請求書の整理・帳簿作成は事業所側で行い、税理士・会計士の訪問時までに先月分の試算表の作成まで行っておけば、その月次試算表をもとに、積極的に資金繰りや経営的な相談ができます。毎月訪問してくれる税理士さん・会計士さんであっても、領収書の整理や帳簿作成に時間を取られるのであれば、経営状態の重要な判断資料である月次試算表の作成は1カ月以上先になります。もし、資金繰りが悪くなっているのであれば早期の対策が必要になってきますので、専門家から有意義なアドバイスをできるだけ早く得るためにも、事業者側の努力が必要になるでしょう。

まとめ

飲食業は比較的簡単に開業できる分、経理面がおろそかになりがちな業種だとも言えます。どの業種においても経理の重要性に変わりはありませんが、競争の激しい飲食業では経理の重要性がより高まってきます。『勘定合って銭足らず』や『黒字倒産』などは売掛金の回収ができないなどの原因もありますが、過剰な設備投資などで損益計算と資金繰りのバランスが崩れたことを原因として生じるとも言えます。事業を行っている以上、減価償却のしくみや借入金の返済が損益計算書に反映されないことはぜひ理解しておきたい点です。飲食業界の厳しい競争で生き残っていくためには味やサービスの質の追及なども重要ですが、経営状況を迅速に正しく把握できる経理体制の整備が必要なものとなってきます。

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