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2020年02月26日(水)

BPRとは?ビジネスプロセス・リエンジニアリングの進め方と手法、導入事例と成功のポイント

経営ハッカー編集部
BPRとは?ビジネスプロセス・リエンジニアリングの進め方と手法、導入事例と成功のポイント

デジタルトランスフォーメーション(DX)、グローバル化、日本の社会構造の変化に伴い働き方改革が進む中、今、日本企業は転換期を迎えています。企業体質を変革し、飛躍的な生産性向上を目指すために業務プロセスのイノベーションが求められます。そのような中、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)は、ゼロベースで抜本的に業務プロセスを革新してビジネスや組織を再構築する手法が再び注目を集めています。本稿では、BPRの本質的な意味、過去のBPRとの違い、業務改善やBPOとの違い、最新のBPRの進め方と手法、成功事例とポイントを紹介します。

BPRとは?業務改善、BPOとの違いは?

BPRの定義

BPRとは「ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(Business Process Re-engineering)」の略称です。企業の目標を達成するために、事業・組織・業務を全面的に見直し、再設計して抜本的に再構築することです。業務プロセスにイノベーションをもたらすことから「業務改革」と訳される場合もあります。

BPRを世界に広めたベストセラー書籍「リエンジニアリング革命」(マイケル・ハマー&ジェイムズ・チャンピ―著)では、「コスト、品質、サービス、スピードのような、重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために、ビジネス・プロセスを根本的に考え直し、抜本的にそれをデザインし直すこと」と定義しています。

BPRと業務改善の違い

BPR は「業務改⾰」を意味しますので、いわゆる業務改善とは異なります。

業務改善は、トヨタの「カイゼン」に代表されるような現場レベルで業務フローの最適化等を行う改善活動の積み重ねからビジネスプロセスを再構築していく取り組みです。業務改善は主に商品やサービスの品質向上、コスト削減、組織体質の強化などを目的に、業務の一部のプロセスの業務のムリ・ムラ・ムダを排除し、現在の業務をより良くしていくための段階的な改善活動のことを意味します。業務改善の進め方も現場が小チームを作り、組織的な改善活動を行っていくボトムアップ型のTQC(Total Quality Control)活動が中心となります。

一方、BPR(業務改革)は、企業活動全体の業務プロセスを最適化するために、ゼロベースで事業構造や業務プロセス全体を抜本的に見直して、顧客志向で統合・再編するための取り組みです。

トップダウンによって、顧客ニーズや市場構造の変化に対して自社の事業構造を抜本的に改革したり、取引先や組織構造の再編も含めたビジネスの構造改革を行い、、飛躍的な生産性向上の実現、イノベーション効果を目指すものです。

BPRと業務改善の比較

  BPR(業務改革) 業務改善
目的 企業目標の達成 業務の効率化、生産性向上
対象範囲 企業活動全体、バリューチェーン 業務フロー、部門単位
推進方法 トップダウン ボトムアップ
手法 アウトソーシング、BPO、ERP、シェアードサービス、シックスシグマ、サプライチェーンマネジメントなど TQC活動、マニュアル化、手順見直し、アウトソーシングなど

BPRが注目される背景

BPRの歴史

BPRは、1990年代初頭に、不況下における米国企業が経営を立て直すために元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー博士と経営コンサルタントのジェームズ・チャンピ―氏の共著「リエンジニアリング革命」によって世界的に普及されました。

同書ではアダム・スミスの「国富論」以来、近代化で追及してきた業務の細分化・専門化によって業務プロセスが複雑化し、非効率さやコスト増が発生していることを指摘し、1980年代に台頭した日本企業の事例も参考にビジネスプロセスのシンプル化が必要であるという趣旨でBPRの必要性が述べられています。

日本型BPRの誕生

日本では1993年に発刊され、バブル経済の崩壊に伴い経営危機に直面する企業の改革手法として脚光を浴びました。当時は、米国流のトップダウン型の大胆なリストラの手法のように扱われたこともありました。その後、国、地方自治体、民間企業で導入が進み、日本型の改善活動とBPRの融合による「日本型BPR」の試みが進められてきました。

働き方改革で再び注目を集めるBPR

今、働き方改革の流れで、BPR(業務改革)が再び注目を集めています。
働き方改革は、少子高齢化社会における労働人口の減少、グローバル化、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、日本企業は転換期を迎えています。

深刻な人手不足、後継者不在により中堅・中小企業は、企業体質の改善が迫られています。また、グローバル化、インターネット・AIなどのテクノロジーの進化により、企業競争力を強化するために飛躍的な生産性向上、イノベーションが期待されています。

ERPやRPAの導入に必要なBPRの視点

こうした背景から、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や、ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)の導入を検討する企業が増加しています。こうした新たな経営手法やITツールの導入にあたって、あるべき業務の流れ、顧客志向のバリューチェーンを組織全体で再構築する必要性があることから、BPRが再び注目を集めているのです。

BPRとBPOの違い

また、グローバル競争力を高めるべく自社の経営資源をコア業務に集中投下するために、コア業務以外の業務プロセス全体を外部の専門企業にまるごと委託するBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)という経営手法を導入する企業も増加しています。BPOは業務のアウトソーシングの一種であり、BPRの手法の一つとして位置づけることができます。

BPRの特徴と導入のメリット

このような背景から再び脚光を浴びているBPRですが、BPRによる業務改革の特徴と導入のメリットには以下のようなものがあります。

BPRによる業務改革の特徴

BPRによって業務改革を行う方向性には以下のような特徴があります。

①顧客志向で業務が統合されて1つの業務プロセスにまとめられること
②業務の意思決定が従業員によって行われること
③本来、何の次に何が行われるべきか、という必然的で自然な仕事の流れであること
④異なる市場、状況、インプットに合わせた複数のパターンのプロセスがあること
⑤業務が組織の壁を越えて連動して進められること
⑥業務のチェック回数を減らし、経済的に意味があるときのみ管理を行うこと
⑦外部との取引の接点の数を減らすこと
⑧複雑なプロセスと顧客との緩衝材としての「ケースマネジャー」が存在すること
⑨仕事の分権化と集権化の組み合わせがあること

参考
総務省「民間企業等における効率化方策等(業務改革(BPR))の国の行政組織への導入に関する調査研究」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)より
http://www.soumu.go.jp/main_content/000078231.pdf

業歴の長い企業にとっては経営環境の変化に適応するためにアップデートするために、あるいは事業規模を拡大してきた企業にとっては分業化・複雑化してきた業務フローを、新たなテクノロジーを活用して業務プロセス全体を見直すことができるイノベーション手法であるとも言えます。

そのため、BPRの取り組みには以下のような導入メリットがあります。

メリット①業務の抜本的な改革が可能

顧客を起点に企業活動全体を最適化するという発想をもって、機能別の組織を事業部制に再編したり、部署単位で細分化した業務や取引先を含めたバリューチェーンの視点で一貫性のある業務に統合するなど、より広い視野から全体最適化を図ることができます。

メリット②飛躍的な生産性向上が期待できる

これまで部署単位で活動してきた改善活動を、より全社的な視点や顧客の目線で、あるべき姿に向けて大胆にデザインし直すこともできるため、飛躍的な生産性向上につなげることも可能となります。これまでの業務や組織の延長線上のアプローチでないため、意外な生産性向上の視点や、部署単位ではあぶりだすことができなかった生産性阻害要因を抽出することも可能になります。BPRの効果を最大限に発揮できるようにBPOやERPなどの最新手法を活用して飛躍的な生産性の向上を目指すという発想が重要です。

メリット③顧客満足度の向上や従業員満足度の向上

顧客志向の業務の組み替えを行うため、顧客の利便性やサービスの向上など「顧客への新たな価値の提供」が可能となり、不満要因の抜本的な改革を図ることも可能となるため顧客満足度(ロイヤリティ)の向上が期待できます。また、従業員も顧客満足度の向上による働きがいやエンゲージメントの高まりや、BPRによる飛躍的な生産性向上の達成により、昇進・昇給などのインセンティブにもつながる効果が期待できます。顧客満足度の向上や従業員満足度の向上を図ることができる方向性で改革を進めることが重要、という意味合いも含まれます。

BPO導入のステップ

BPOは、一般的に以下の8つのステップで進められます。

1.目的・ゴールの明確化

まず、何のためにBPRを行うのか?どのような状態を実現したいのか?というBPRの目的・ゴールを設定します。BPRは一貫して「顧客志向」で業務プロセスの再編を行いますので、「お客様にどのような価値を提供できるか?」「お客様とどういう関係を築きたいか?」というバリューチェーンの視点で目指すべき姿を設定します。

目的とゴールの設定を行うにあたって、働き方改革の動きと連動させる場合、「お客様にとって望ましい価値を提供するために、どのような人事面の課題を解決すべきか?」という視点も包含して、目的とゴール設定を行うと効果的です。

2.対象とする業務範囲の明確化

設定した目的・ゴールを達成するために必要な改革を行う対象となる事業領域、業務範囲(BSU:ビジネス・システム・ユニット)を明確にします。バリューチェーンの上流から下流まで、お客様に価値が提供されるまでの一連の業務プロセスをキープロセスとして設定します。

3.現状分析、課題抽出~業務の洗い出し、業務フロー、運用の見える化

顧客目線で業務のあるべき姿、理想的な流れの大まかな業務フローを策定します。この時点では、まだ業務フローを最終確定する必要はありませんので、先進的な取り組みを行っている企業の業務の流れをベンチマークするなど、競合他社よりも顧客にとって価値が高いと思われる状態や、顧客にどのような価値を提供できるようにしたいかをイメージして顧客目線で検討します。

お客様にとって望ましい価値が提供できる業務プロセスと、現状の業務プロセスのギャップを明らかにして課題を抽出するために、業務の見える化を行います。業務一覧、業務フロー図、ABC分析、業務工数や発生頻度、業務のQCD(品質・コスト・納期)などの定量化などを行い、課題を抽出し、BPRの対象となる業務領域やプロセスを絞り込み、プロセス毎の評価指標を設定します。

4.業務の再設計と実行計画の策定~戦略・方針の策定、ビジネスプロセスの設計、実行計画の策定

BPRによってもたらされる期待効果を最大化するための戦略、方針を検討し、詳細なビジネスプロセスの設計と導入計画を策定します。企業内部での業務や組織の再編の方針はもとより、外部に業務委託する場合のアウトソーシング・BPO企業や関係会社等も含めた業務プロセスの移行計画を策定して、シミュレーションを行います。

スモールスタートで新たなビジネスプロセスのテスト稼働を行い、調整事項や不具合があればPDCAサイクルで修正を繰り返しながら実効性高いビジネスプロセスへと設計精度を高めていきます。

5.BPRの実施

実行計画に基づき、トップ主導のもとで社内への理解を浸透させながら業務改革を実行します。BPR導入にあたっては、反発や軋轢を伴います。実行にあたっては多くの場合、ミドルアップダウンでの推進が効果的です。

6.効果測定、評価

新たなビジネスプロセスの本番稼働を行った結果を、定期的にモニタリング、レビューを行い、顧客評価、ビジネスインパクトも含めた効果測定を行い、さらなる改善活動を展開します。

BPRの導入手法

BPRは、ゼロベースでの業務の見直しを行い、全体最適化を目指す経営改革の手法です。全体最適化を目指すにあたって、抜本的な業務の再編を大胆に行う必要がある業務プロセスもありますが、一部の業務は既存業務の改善の延長が妥当である場合などもあり、様々な手法を駆使して改革を実行することになります。

BPRは業務の「廃止」も視野に入れる

その際に重要なのは、そもそも業務を廃止することはできないか?という視点です。

現状分析を行い、業務改革の対象領域が決まったら、お客様の視点と社内の現場の実情を踏まえて「業務を廃止できるプロセスはないか」も含めて検討します。

具体的には以下のような視点で、業務の再編を検討してきます。

  • 廃止できる業務はないか
    業務の必要性を顧客目線でチェックして、不要な業務、代替可能な業務は廃止する
  • 外部に委託できる業務はないか(効率化・高度化)
    外注したほうが効率的でコストダウンできる業務はないか
    あるいは専門性が高く外部の高度なノウハウを取り入れたほうが顧客への提供価値が高まる業務はないか
  • 重複している業務はないか
    部門横断の業務で重複するプロセスがあれば統合・集約する
  • 簡素化できる業務はないか
    管理指標やチェック項目を限定して効率化できないか
  • 自動化できる業務はないか
    入力ミスやチェックミスなどをシステム・ツールの導入などで対応できないか
  • 標準化できる業務はないか
    類似業務を共通化、マニュアル化することで作業負荷を調整できないか

このような視点で業務の仕訳を行った上で、たとえば、以下のようなBPRの手法が活用されます。

外部化(アウトソーシング、BPO、シェアードサービスの活用)

アウトソーシング

アウトソーシングは一部の業務を社外の企業や専門家に委託する手法です。社内で実施するよりも外部に委託したほうが効率的でコスト削減が可能な業務、もしくは社内に専門家を抱えるよりも外部の専門企業に業務を委託したほうがより高度なニーズに対応できる場合などは、アウトソーシングによって大幅に業務を削減したり、高度化を図ることが可能です。

BPO

BPOは、アウトソーシングの一形態で、外部の専門企業に経理や人事などの業務をまるごと継続的に委託することで、自社のコア事業(中核業務)に経営資源を集中投下することができます。また、ノンコア事業(非中核業務)は外部化してコスト削減を図るのみならず、グローバル化や技術革新に柔軟に対応する専門的なノウハウを活用できるやめ、より一層の競争力強化を図ることができます。

シェアードサービス

シェアードサービスは、バックオフィス業務やコールセンター業務などの共通する業務を特定のグループ企業に集約して業務の効率化を図る手法です。外部企業に業務を委託するアウトソーシング・BPOと違い、顧客情報や経営資源の外部化は行わずにグループ企業内のガバナンス体制で情報を一元管理することができます。

IT化、システム化(ERP、RPA)

近年、ERP(統合基幹業務システム)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入を検討する企業が増加しています。企業がこれらの技術を導入する目的は、まさに業務プロセスを革新することにあります。他社のBPRノウハウによって開発されたERP、PRAパッケージの導入もしくはそのカスタマイズによってBRPを実現することができます。

マネジメント手法の導入

シックスシグマ

シックシグマとは、米国モトローラ社で開発された品質管理のフレームワームで、統計学的なアプローチにより業務プロセスを改善し、顧客の声を起点に製品やサービスのバラつきを改善し、顧客満足度の向上や不良品率の低下を図る手法です。日本のQCサークルのトップダウン版のような位置づけになります。

シックスシグマの代表的な活動プロセスのうち、既存業務の改善にはDMAICのプロセスが使われます。

Define(定義)
顧客の声(VOC)を起点に顧客の不満点を探り、改善課題、目標を定めます。

Measure(測定)
現状を図るためにデータを収集して業務フローを策定します。

Analyze (分析)
業務の問題点が明らかになっても、さらにその問題がなぜ発生しているのかを深掘りし、問題の構造を可視化するフィッシュボーンダイアグラムなどの手法を用いて問題の根本的な解決策を検討します。

Improve(改善)
複数の改善案からデータや費用対効果をもとに新プロセスの試験運用を行い検証します。

Control(管理)
先行して導入した部門から他の部門に改善を横展開して、継続的な効果測定を行い、改善を継続していきます。

バランス・スコア・カード(BSC)

ロバート・S・キャプラン(ハーバードビジネススクール教授)とデビッド・ノートン(コンサルタント)により提唱された業績評価指標です。財務(企業業績にどのように向上させるか)、顧客(顧客に対してどのように行動すべきか)、ビジネスプロセス(顧客満足度を向上させるための業務プロセスをどのように構築するか)、従業員の学習と成長(企業のビジョンを達成するためにどのように能力を向上させるか)という4つの視点があり、すべての指標が財務に反映されるという考え方です。KGI(重要目標達成指標)、KPI(重要業績評価指標)と連動させて定期的に進捗をマネジメントします。

サプライチェーン・マネジメント(SCM)

サプライチェーン・マネジメント(SCM)とは、商品やサービスの価値が製造から最終消費者までどのように提供されるかをマネジメントすることで、企業や組織の壁を超えたビジネスプロセスの最適化を図り、業務の効率化や収益の最大化を実現するための経営管理手法です。顧客への価値の提供という一連のプロセスを最適化することができるため一貫した顧客志向の取り組みが可能となります。

BPRの導入事例

以下に日本企業のBPR導入事例を紹介します。

【事例1】イノベーションの実現のためのトップダウンとボトムアップの融合

・ボトムアップ改善のみでの業績向上の限界、間接業務の飛躍的な生産性向上を期待
・シックスシグマ導入により全社的な取り組みを実施
・ハード面で年間数千億円の削減、ソフト面で人材の有効活用による効果
・歴代トップが重要性を認識し、トップのイニシアチブで推進
・イノベーションをプロセスイノベーションとバリューイノベーションに分けて定義
・ミドル層のモチベーションの向上が課題、トップダウンとボトムアップの融合が重要
・高い目標を設定してイノベーションを加速させた

【事例2】業績悪化に伴う大規模なコスト削減の断行

・中核事業の売上悪化から大規模な構造改革を断行
・新中期経営計画により連結経営の強化、構造改革への取り組みを強化し、シェアードサービスを導入
・間接業務のトータルコストが1/2に
・社長の強力なリーダーシップで社内の広報活動も連動して展開
・マネージャークラスの研修により人材強化を実施
・業績回復基調でも継続的な改革を推進

【事例3】成長ステージでの収益性と成長性を重視した構造改革

・業績が好調なタイミングでこそ本質的な改革が必要との判断で大規模改革を断行
・成長力と収益力のバランスを重視
・BPRとSCMの業務改革を、収益体質作り、収益と成長のバランスづくり、成長構造の実現の3段階で展開
・製造固定費を90億円圧縮、改革に係る投資を3年で回収
・業績が良い時に一気に改革を推進できたため、中長期的なコスト構造の改善のための積極的な投資が可能となった
・千人規模の異動を行ったが1名のリストラも行わずに職種転換を実現した
・国際競争力の強化という前向きな改革であることを社内に浸透させた
・業績が良い時に短期間で改革をする疑問や抵抗感に、マネジメント層、現場リーダーを巻き込んで推進した

【事例4】行政の既存事業の見直し、共同化等による業務プロセスの改革

・行政(市町村)がBPRを導入することで、職員の意識改革と大幅なコスト低減を実現
・既存事業の見直しで4年間で事業経費100億円の削減、新規事業の計画の見直しで建設費80億円の節減を実現した
・組織の意識改革が重要。
・民間人材の登用で仕事の進め方の見直し、利益を上げるための必死さ、スピード感などを繰り返し語り実行していくことでノウハウ以上に意識変革が進んだ
・小さな成功体験を積み重ねて改革の継続につなげる
・単一の組織でなく関係機関などを巻き込んだ取り組みで大きな効果が期待できる

なお、事例の詳細は以下の資料を参照ください。

参考
総務省「民間企業等における効率化方策等(業務改革(BPR))の国の行政組織への導入に関する調査研究」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)より抜粋
http://www.soumu.go.jp/main_content/000078231.pdf

BPRの成功のポイントと注意点

BPRはゼロベースでの抜本的な事業や業務の再編を伴うためステークホルダー(利害関係者)の反発や軋轢が生じることがあります。BPRを成功させるために注意すべき点には、以下のようなポイントがあります。

顧客目線で判断する

BPRはゼロベースで業務を再編することになります。その再編の基軸は一貫して「顧客目線」であることが重要です。企業の目的は「顧客の創造である」とドラッカーが述べるように、顧客を基軸に、自社は顧客にどのような価値を創造して提供するか、(潜在顧客も含め)顧客が本当に求めているものは何か、という視点でBPRを推進する必要があります。

顧客に価値を提供するために、業務プロセスはどのようにあるべきかを追求していくと、従業員にとって不都合が生じる場合があります。たとえば、これまでの仕事の仕方、業務やり方を変えなければならなくなるため、現場の協力が得られない場合があります。

お客様に提供する価値が高まることで、社員がどのようなメリットがあるのか、顧客のメリットと従業員のメリットの相乗効果を見出せるように、顧客目線を基準にBPRの意味を全社員が判断できるようにすることが必要となります。

本質的な課題の解決を重視する

BPRはゼロベースで業務を見直し、本質的な課題の解決策を実行していくことになるため、検討段階から様々なハードルが想定されます。また、当初は想定しきれなかった問題が導入後には発生してきます。BPRの推進時に細部のハードルに拘ってしまうと、そもそも解決すべき課題は何だったのか、本質を見失うケースが出てきます。

抜本的な業務プロセスの再編を行うBPRでは、解決すべきである課題の本質に絞った解決策の実行にフォーカスすることが重要です。その他の付随する小さな課題は、BPR実施後の改善活動で解決すればよい、という優先順位づけをして業務の全体最適化に段階的に取り組むとのが効果的です。

シンプルさを重視する

BPRは大胆な業務再編を行える反面、これを機にあれもこれも多くの問題を解決しようとしたり、とりあえずスタートしてから走りながら暫定的な修正を加えていく方法では、かえって複雑なプロセスになってしまうことがあります。

BPRは、考え方も実行手段もシンプル化が重要です。顧客目線のできるだけシンプルなコンセプト、目標(KPI)、タスクになるように引き算の発想で業務を整理し、社員が業務に集中できるようにすることでBPRの導入効果が高まります。

トップダウンとボトムアップを使い分けてミドルアップダウンの流れをつくる

BPRの最大のハードルは、抵抗勢力の存在です。顧客目線であるべき姿を追求するためにゼロベースで業務プロセスを破壊して新たに創造することになります。多くの場合、これまでのやり方を否定することになりますので、取引先や従業員などのステークホルダー(利害関係者)からの反発は必ず発生するという前提で取り組む必要があります。

そのためトップダウンだけではBPRを成功させるのが難しい場合が多いのが実際です。現場の本音や取引先の事情をトップやキーマンに代弁できるミドル層の存在、現場の理解が重要です。BPRが、お客様にとってどのような価値をもたらし、それが現場にとってどのようなメリットがあるのか、お客様のために現場が何を変えれば皆がWin-Winの関係になれるのか、などを現場の言葉で語れるようなミドル層のリーダーシップが重要です。ミドルが現場を牽引し、その活動の中で生じてきた本音をトップ層に代弁することでトップが現場の改革をサポートすることで、現場が顧客目線で主体的に改革を推進する構造をつくりだすミドルアップダウンの流れをつくることがポイントです。

スモールスタートで周囲を巻き込んでいく

ミドルアップダウンの構造をつくるには、小さくはじめて成功体験を積んで、周囲を巻き込んでいくことが重要です。たとえば、アウトソーシングやERPなどのツールを全社的に本格導入する前に、一部の部門に限定して四半期程度のスパンで目標を設定してトライアルをする、という方法があります。社内での取り組み結果を検証、微修正を加えるなどして、先行して導入した社員が自らの経験を語りながら他部門への横展開や、上流や下流の業務プロセスへの垂直展開を図るなど、段階的な展開が可能です。

ステークホルダーとのパートナーシップ

BPRは既存業務の破壊と創造、企業と企業、人と人との関係性の再構築を伴いますので、多くのステークホルダーとの利害関係の調整や心情的な配慮が必要となります。その際に重要となるのは、顧客目線での一貫した課題解決に向けた取り組みと、ステークホルダーとのパートナーシップです。多くの場合、ステークホルダーは何らかのデメリットも許容して協力してくれていますので、運命共同体となるパートナーとしての感謝の気持ちと、ビジネスの相乗効果を共に目指せるWin-Winの関係を維持するために、互いに感情的なもつれを生じさせないことが重要です。

変革し続けることを前提とする

BPRでは抜本的な業務の見直しを行いますが、課題の本質にフォーカスした改革を行いますので、一度大きく変えてそれだけですべての問題が解決されるわけではありません。
細部の課題は不断の業務改善が必要ですし、顧客目線での業務プロセスの最適化を行うため、市場や顧客ニーズが大きく変化すれば、それに合わせて軌道修正をしたり、再度抜本的に業務を見直す必要性も生じます。また、競合企業の魅力的な新商品・サービスの出現、テクノロジーの進歩により新たなアウトソーシングサービス、RPAやERPなどのシステム・ツールが開発されるなど、企業経営を取り巻く環境の変化に応じて、あるべき業務プロセスも変化していきます。BPRは環境変化に適応するための手段の1つですので、顧客を基準に自社のあり方を変え続けることを前提とすることで、組織や社員もBPRの必要性が企業風土として浸透してきますので、従業員のエンゲージメントの観点からもBPRは導入してからが本番であるともいえるでしょう。

まとめ

BPRは、企業目標を達成するために、顧客目線で業務プロセスをゼロベースで抜本的に見直し、全体最適化のために業務を再設計するイノベーション手法です。1990年代に日本企業でのリストラ手法として導入が進みましたが、現在は、グローバル化や少子高齢化などの社会構造の変化、デジタルトランスフォーメーション(DX)などのテクノロジーの進化を背景に、働き方改革の動きの動きと連動して飛躍的な生産性向上の手法として再び注目を集めています。

BPRはこうした経営環境の変化に適応する企業改革手法の1つです。時代の潮流の変化、企業のライフステージの変化によって、BPRの手法や最適解も変わっていくことが前提となります。ERPやRPAなどのシステムやツールの導入やBPOなどのアウトソーシング手法によって、BPRのパッケージ型のソリューションも数多く見受けられるようになりました。過去の日本企業のBPRの導入の成功・失敗を教訓に、顧客ロイヤリティと従業員のエンゲージメントの観点からも、変化し続ける最適解を追求していくことが重要であると言えます。

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