withコロナの考察 ”ニューノーマル”における経営とバックオフィスのあり方
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に伴う緊急事態宣言が全都道府県で解除されて1ヶ月以上が経過しました。しかし一部地域でクラスターが発生するなど、未だ予断を許しません。企業は当面の間、コロナ以前の状態には戻れないという認識のもと、withコロナの世界におけるあり方を考えなければならないのです。
本記事では、中小・中堅企業様をバックオフィスの面から支援しているfreeeがwithコロナ時代を考察しながら、企業にとって今後予測されるリスクと、それを乗り越えるために最初に取り組むべき"バックオフィスのニューノーマル化”についてお伝えします。
withコロナは不確実性の時代
終息まであと1年以上かかる? 医師の予想もさまざま
いまだ終息の兆しが見通せず、先の見えない不安が続く新型コロナウイルスの感染拡大。医師や専門家の間でも、COVID-19については未知の部分が大きく、終息時期の予測にはバラつきがあります。5月に「株式会社医師のとも」が1,346人の医師に対して行ったアンケート調査によると、国内における終息時期について最も多かった予測が「2021年7月以降」(33.5%)で、次に多かったのが「2020年8〜9月」(20.0%)と、専門家の医師でさえも終息時期の予測をすることが非常に困難であることがうかがえます。
<参考>医師が考える「新型コロナウイルス感染症」の国内での終息時期とは?/医師のとも
withコロナで予想されるビジネス上のリスク
終息時期が不明確な中、有効なワクチンが広く普及するなど、新型コロナウイルスがある程度コントロール可能な感染症になるまでは、感染リスクに注意を払いながらの行動が続いていくと思われます。それはビジネスの世界でも同様で、体調が万全でない社員を働かせる、ラッシュアワーに通勤させる、「3密」(密閉・密集・密接)状態のオフィスで働かせる、不要不急の往訪を要求する、といったことがリスクになることを企業は理解した上で事業運営を続けていくことが求められます。
都市部に感染拡大の第2波がやってくれば、再び通勤や営業活動の自粛が要請される可能性があります。不確実な状況が今後も続くことを前提としたときに、これからの企業経営にはどのようなことが求められるのか考えてみましょう。
求められる筋肉質経営
危機を乗り越えるのに必要な「筋肉質経営」
帝国データバンクが2020年2月から毎月実施しているアンケート調査によると、Covid-19により自社の業績に「既にマイナスの影響がある」と回答した企業は毎月増え続け、5月には62.8%に達しています。「今後マイナスの影響がある」と考えている企業も含めると、9割近くがダメージを実感している状況です。加えてCovid-19関連の倒産や休廃業、解散を選択する企業も少なくなく、コロナが企業経営に与える影響の大きさがうかがえます。
<参考>新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020 年 5 月)/帝国データバンク
このような不確実な状況下では特に、事業運営上の無駄を削ぎ落とし、有効な資産から最大限に価値を引き出すことが求められます。外出自粛による売上減、取引先の倒産、休廃業などによるビジネスの停滞や債権回収の困難、感染防止のための新たなコストなど、さまざまなリスクを見越し、その時期を耐えられるだけの体力を蓄えておく必要があるのです。
京セラの創業者である稲盛和夫氏は、企業が発展し続けるためには「筋肉質」(会社を人の身体に見立て、売上と利益を生み出す資産を「筋肉」、それらを生み出さない在庫や過剰な設備などを「贅肉」に例えている)な企業体質であらねばならないと説いています。この筋肉質経営の重要性が、withコロナ時代の今再認識されているのです。
「当然必要」とされていた資産もコロナ禍で見直しの対象に
そこで企業が最初にやらなければいけないのは、自社にとって何が「必要」で何が「無駄」なのかを再定義することです。フェイス・トゥ・フェイスで会うことや、現地に足を運ぶこと等に対する価値観の変化により、「必要」/「無駄」の基準が大きく変わる可能性があります。具体的にどのような変化が起こるのか見ていきましょう。
業務のリスクとメリットを天秤にかける
「必要」/「無駄」の再定義
自社における「必要」/「無駄」を再定義するにあたっては、以下のような資産/業務が論点になると考えられます。
「仕事はオフィスに出勤して行うもの」「社外の人とは対面でコミュニケーションをとるべき」という前提の元では、交通アクセスの良い都心にオフィスを構えたり、営業が企業に訪問して提案を行ったりすることが「必要なコスト」だと考えられていました。それが営業活動の効率化、ブランド力や企業の信頼度の向上、人材採用力の強化などにつながり、利益を生むからです。
ところが、withコロナの状況では、そこから生まれる価値以上にリスクを気にしなければならないケースが増えています。さらに、テレビ会議やグループウェアなどを使うことで、移動時間やコストも節約できるなど、非対面でのコミュニケーションで得られる価値が対面でのそれを上回るケースが少なくないことに、多くの人が気づくようになりました。社員を出勤させること自体をなるべく避けるべきこととなった今は、オフィスの位置付けやコミュニケーションのあり方を見直す必要があるでしょう。
また、在宅勤務へのシフトを阻む問題になっている、紙の書類や印鑑を前提とした承認フローも見直すべき業務のひとつです。これまでは紙の書類と押印の習慣による非効率さは「許容できる無駄」と捉えている企業も多くありましたが、感染リスクを考慮に入れると、この問題はクリティカルなものになるでしょう。
このように、withコロナ時代を乗り越える筋肉質経営を実現するためには、今まで当たり前とされていた資産や業務を、リスクと照らし合わせて見直す必要があるのです。
企業の対応は、コロナ前に「戻る」傾向に
前章でコロナ前の当たり前が大きく変わるという話をしましたが、現状企業の対応はコロナ前に「戻る」傾向にあるようです。freeeの調査によると、緊急事態宣言解除後の出社方針について「毎日出社」という従来のやり方に戻すという企業が67.0%と、多くの企業がコロナ禍以前の体制に戻りつつあることがわかります。
一方で、個人の仕事に対する価値観はコロナの影響を大きく受けており、60.5%が働く企業を選ぶ際に「リモートワークに対応しているかどうか」を重要視すると回答しています。コロナ禍を経て仕事の価値観が大きく変わった個人と、コロナ禍以前に戻ろうとする企業。この意識のギャップが、やがて企業の人材採用力や離職率の差などに現れてくると考えられます。企業はこの意識のギャップを認識することが重要で、コロナ前に「戻る」のではなく、ニューノーマルに「進む」という意識を持つべきでしょう。
ここに挙げたもの以外にも、政府が示す「新しい生活様式」や業界団体などが業種ごとに策定している感染拡大予防ガイドラインなど、”ニューノーマル”を実践するために参考になる情報がありますので、ぜひ確認してみてください。
(表:政府が示す「新しい生活様式」の実践例(抜粋))
<参考>「新しい生活様式」の実践例/厚生労働省
ニューノーマル化は”Low-Hanging Fruit”であるバックオフィスから
企業がニューノーマル化に対応するには、社内のあらゆる資産や業務について見直しが必要だと述べましたが、同時にすべてのことはできないため、なるべく早く効果が出る”Low-Hanging Fruit”(低いところになっている果実=すぐに成果が得られること)から手を付けていくことが求められます。
(グラフ:部署別リモートワーク化状況 ※調査結果から事業内容や業界にかかわりなく存在する部署の結果を抽出)
リモートワークの実践において、まず問題になるのがコミュニケーション。そのため、オンライン会議ツールやチャットツールの導入は既に多くの企業が対応しています。freee が今年6月、20~60歳の経営者・役員・会社員を対象に実施した調査で、「営業・販売」が最もリモートワークが進んでいるという結果が出たことからも、現状の対応状況がうかがえます。問題は次にどこから手をつけるか。”Low-Hanging Fruit”が何を指すかは業種や業態によって異なりますが、多くの会社においてバックオフィスはそのひとつと言えるでしょう。
バックオフィスでニューノーマル化の成果を出しやすい理由
バックオフィスのニューノーマル化が成果を出しやすい理由は、①自社内だけで完結しやすい②会社全体への波及効果が大きい、という2点です。
①自社内だけで完結しやすい
バックオフィスのニューノーマル化を妨げている主な要因は、「出社しないとアクセスできないシステム」や「取引先等との紙の書類のやり取り」の2つが考えられます。このうちシステムの問題は、自社だけで方針を決めることができるため取り組みやすい問題だと言えるでしょう。
問題になるケースが多いのが「取引先等との紙の書類のやり取り」です。実際に、freee株式会社も完全にバックオフィスのリモートワーク化ができているわけではなく、一部紙の書類のやり取りで出社することがあります。しかし、請求書等の書類は取引先に対してPDF等でやり取りしてもらうよう依頼することで、大半のケースは紙ベースでのやり取りをなくすことが可能です。
つまり、週の多くの日をリモートワークで対応するというオペレーションは、自社の判断だけで実現できることなのです。
②会社全体への波及効果が大きい
バックオフィスは、申請や契約、請求周りなど、社内のあらゆる職種の人たちと業務上接触機会が多い職種です。そんなバックオフィスが非対面でできるようになると、バックオフィスはもちろん、フロントオフィスのメンバーの感染リスクの減少にもつながります。
また、「会社に来ないとできないと思っていたことがリモートでできる」と多くの社員が気づくことで、他部門でも業務の見直しが進んでいくきっかけにもなり得ます。バックオフィスのニューノーマル化は、会社全体に与える効果が大きいのです。
バックオフィスからニューノーマル化に取り組むにあたって
バックオフィスのニューノーマル化に取り組むことの重要性について前章でお話しましたが、この章ではバックオフィスのニューノーマル化を実際に取り組むにあたって、大切な考え方をお伝えしたいと思います。記事の前半で述べた、「筋肉質経営」と関連する内容です。筋肉質経営を実現するには、利益にならない無駄なものを削ぎ落とす必要があると説明しましたが、それと同時に企業の財務状況をリアルタイムに把握する必要があります。
一般社団法人日本 CFO 協会が企業のCFOや経理・財務部門の幹部を対象に実施した調査によると、Covid-19の財務業務への影響を感じている担当者の多くが、影響が出ている業務として「銀行振込/入出金管理」(48%)、「借入金管理(借入実施、借入残高管理)」(35%)、「現預金残高管理」(24%)等を挙げています。
<参考>【緊急アンケート】新型コロナウイルスによる経理財務業務への影響に関する調査/日本CFO協会
この結果は、企業がリアルタイムに自社の財務状況を把握する上で問題を抱えていることを意味しています。バックオフィスをニューノーマル化する上では、この問題をいかに解決するかという観点が非常に重要なポイントです。
リアルタイムに正確な経営状況を把握するために必要なこと
withコロナ時代を生き抜く経営をするためには、経営者は会社の現預金の状況をリアルタイムに把握し、問題があれば素早く対処する必要があります。
そのためには、単に「クラウドツールを導入すれば解決する」という発想ではなく、あるべき全体の業務フローをまず設計し、それに合わせてシステムを導入するという発想が重要です。入出金の管理や経費精算、購買・出張申請など、お金にまつわるさまざまな業務をそれぞれシステム化しようとすると、システムの分断が起こり情報の連携で余計な手間がかかってしまう場合があります。リアルタイムに経営状況を把握するためには、既存の業務のどこを残し、どこを変える必要があるのか。そういった思考で既存業務を整理することが、本来成し遂げたかった筋肉質経営の実現につながるのです。
ニューノーマルにおける経営とバックオフィスのあり方についていろいろ述べてきましたが、withコロナ時代に適応した経営をする上でのヒントにつながれば幸いです。
(執筆・編集協力:やつづかえり、有限会社ノオト)