メガバンクも強力なFinTech支援を本格化、MUFGとSMFGがオープンイノベーションで取り組み

一大ブームになった様相を見せていた「フィンテック(FinTech)」。さまざまな金融サービスをITのチカラで大幅に効率化するとして論じられており、バズワードにもなっていたように見える。他方で、さまざまな企業が実際に、フィンテックを自社のサービスにも活かせないか模索し続けてもいる。
その中でもフィンテックの取り込みに特に力を入れているのは、メガバンクの各行だ。決済や送金、融資などフィンテックが常識を塗り替えてしまうとみられているサービスを、現在進行形で提供していることもあり、危機感も大きいのか、他社に比べて取り組み方も真剣だ。
ただ、支援すれば自社が駆逐されてしまうかもしれないと危惧するメガバンクとフィンテック各社の関係は緊張をはらまずにはいない。つまり、メガバンクのフィンテック支援はそもそも相反するベクトルを内包しており、ビミョーな前提に立たなければならないのだ。
今回はそんな、メガバンクによるフィンテックへの取り組みに焦点を当てながら、最新の動きを紹介する。
フィンテック×オープンイノベーションで新サービスの実現へ
複雑にならざるを得ないメガバンクのフィンテックへの取り組みは、現状はITの特性をある程度は踏まえたものだ。公表されている各行の取り組みの中には、オープンイノベーションでフィンテックを活用した新サービスを開発したり、自行と良好な関係を築いていったりしようとする動きが見られるからだ。
ちなみに、オープンイノベーションとは、イノベーションの方法論の一つ。自社で独自に技術やサービスを開発するのではなく、ベンチャー企業や消費者、大学、地方自治体、社会起業家などの社外と連携して、革新的なビジネスモデルや製品、あるいは研究成果を生み出そうとするカタチでの取り組みだ。
アプローチとしては、さまざまなソリューションを組み合わせて新たな価値を生み出す「IT的」な道を選択している。特に、単一の製品やソリューションですべての機能を提供しきれないITの分野で、新たなサービスや価値を生み出す方法の一つとして注目されてきた経緯もある。
同時に、フィンテックという視点からメガバンクの取り組みを眺めたときに、非常に興味深い。というのも、(とりわけ)日系の銀行は自社でサービスや製品を取り扱う閉鎖的なアプローチをすることが多いと一般的にイメージされているが、フィンテックへの取り組みについては、あえて「IT的」な方法を選択しているからだ。
オープンイノベーションに取り組む三菱UFJフィナンシャル・グループ
具体的に見てみよう。ベンチャーの取り組みを広く知らしめるために、アイデアコンテスト(ベンチャーコンテストやピッチコンテストとも呼ばれる)がよく行われるが、メガバンク2行がまさに、こうした取り組みを進めているのだ。自行にはなかったノウハウだったからか、コンサルタントの支援も受けながら進んでいる。
オープンイノベーションの取り組みで成功していそうに見えるのは、三菱UFJフィナンシャル・グループだ。同社はすでに「FinTech Challenge 2015」として昨年、ピッチコンテストを実施しており、2016年も「MUFG Fintech Accelerator」としてコンテストを実施しているのだ。
「MUFG Fintech Accelerator」オフィシャルウェブサイトによれば、4月1日時点で、支援ベンチャーの選考を終え、プログラムを開始しているところだ。今後は、6月中旬をメドに、フィンテックへの支援の成果を内部でプレゼンする「インターナルDEMO DAY」を踏まえ、8月中旬をメドに「DEMO DAY」を設けて成果を公表する見通しだ。
現在のところ、公式サイトの参加企業リストには、AlpacaDB, Inc.、スマートアイデア株式会社、株式会社xenodata lab.、ZEROBILLBANK Ltd.、株式会社ナレッジコミュニケーションが名を連ねており、どのような成果に結びつくのか楽しみだ。
特に、Alpaca はフィンテックの一大イベントであるFIBC2016でも、証券取引アルゴリズムを作り出す「Capitalico」で最優秀賞を受賞するなど大きな注目を集めている背景もある。
三井住友フィナンシャルグループも同様の動きを見せる
他方で、フィンテックへのオープンイノベーションを進めるのは、MUFGだけではない。ライバル行の一つでもある緑のメガバンク(これでにお分かりいただけるだろう)である三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)だ。
同社は「未来2016」として、フィンテックだけではなく、メディカル・ヘルスケア、ロボット・AI、クールジャパン、IoT・IoEも含めた各分野をカバーするピッチコンテストを実施しているのだ。
SMFGのピッチコンテストに出ている、フィンテック企業ももちろん有望だ。4月18日に行われる予定の最終審査会に残っているのは、すでに良く知られるマネーツリー株式会社に、ソラミツ株式会社、ドレミングアジア株式会社を加えた3社だ。
後ろ2社について解説すると、ソラミツは公開鍵暗号、電子署名、分散型台帳などい応用したブロックチェーン技術を使って、金融機関が顧客の本人確認などを行う「KYC(Know Your Customer)」業務を支援するシェアリングエコノミーサービスの構築を狙っている。
また、ドレミングアジア株式会社はというと、クラウド型の人事、勤怠、給与管理システムの開発と提供で培ったノウハウと技術を生かして、給与担保型決済プラットフォーム「Payming」の提供開始を目指している。より詳しく説明すれば、新興国に狙いを定めて、銀行口座を持っていなくても、「働いて得られることになった給与を使って買い物をできる」機能の提供を目指す形だ。
ちなみに、「Payming」は、ふくおかフィナンシャルグループが九州の有力企業と共同で開催したベンチャーコンテスト「X-Tech Innovation 2015」で、決済部門の特別賞を受賞。ほかにも、総務省・国立研究開発法人情報通信研究機構主催の「NICT Entrepreneurs’ Challenge 2Days」で、、「起業家万博」の総務大臣賞を受賞した経緯もある。
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まとめ
みてきたように、MUFGやSMFGといったメガバンクが、従来はそうした取り組みをしてこなかったオープンイノベーションという「IT的」な方法でフィンテックの事業化を支援したり、自社の事業に相乗効果を生み出すべく取り組みを進めている。
実際、両行だけではなく、みずほFGや証券会社各社もフィンテックを活用すべく、多角的なアプローチをしており、今後、どのような金融×ITサービスがさらに生まれてくるのか、見守る意義がありそうだ。