後継者がいない場合の農家の後継者対策について
平成27年度食料・農業・農村白書によれば、基幹的農業従事者(自営農業に主として従事したい世帯員のうち、ふだんの主な状態が「主に仕事(農業)」である者。いわゆる専業農家に近いイメージです。)は一貫して減少しており、平成27年は20年前と比べて31%減少、175万人となりました。うち、65歳以上が65%を占めています。
今回は後継者がいない場合における個人農家の後継者対策について考えてみます。
個人農家における後継者不在の類型
個人農家における後継者不在には、大きく2つの類型があります。
- そもそも後継者になりうる子がいない。
- 後継者になりうる子はいるが、農業を継がない。
1.そもそも後継者になりうる子がいないの対策
まず、前者の後継者になりうる子がいない場合は、養子をもらって引き継ぐか、他の経営体に事業を引き継ぐかの2択になります。いずれにしても、後継者を外部に探す必要があります。他産業と異なり、農地という「土地」を経営資源としている以上、誰かがその経営資源を受け継ぐことになるため、単に廃業すればいいというものではありません。しかも、土地は公共財という側面がありますので、誰にでも渡せばいいというものではなく、地域との調和を図る必要があります。
では、その後継者はどこで探せばいいのか。
国の施策としては、農業会議所等による新規就農相談センターが就農希望者の相談に対応しています。また、公益社団法人日本農業法人協会等が短期間の農業就業体験(インターンシップ)を実施しています。さらに、農業を仕事にしたいと考えている全ての人を対象として新規就農相談会「新・農業人フェア」が平成27年には全国3ヶ所で合計8回実施されました。こういったところに顔を出すのも一考です。
ただし、これらは法人向けの雇用者確保が主目的となっていますので、個人農家ではハードルが高いのも事実です。
個人経営の場合は、労働保険(労災保険、雇用保険)は従業員常時5人以上の場合には加入が義務付けられていますが、社会保険(健康保険、厚生年金保険)の加入は任意です。また、農業は労働基準法で定められている労働時間、休憩、休日、割増賃金、年少者の特例、妊産婦の特例が適用除外となっています。このため、個人農家は雇用確保が難しい形態であり、これまで家族経営が中心となってきました。
今後は、こうした個人農家も、後継者を含めた雇用者の確保という観点から、法人化等によって労働条件の改善に取り組むことが、後継者探しの第一歩になるでしょう。ただ、法人化さえすれば労働条件が改善するわけでもないため、将来の事業戦略や事業計画の再検討が重要になります。
2.後継者になりうる子はいるが、農業を継がない場合の対策
次に、後者の後継者となりうる子はいるが、農業を継がないケースを考えてみます。 なぜ親がやっている農業を継がないのか、2つの観点があります。
- 子の問題
- 親の問題
の2つです。子の問題としては、儲からないのではないか、やり甲斐がないのではないかといった不安が一般的に挙げられます。親の問題としては、子に農業を任せたくない、農業経営を委譲すると自分の居場所がなくなるのでないかといった不安が挙げられます。
いずれにしても、後継者となりうる子側からすると、親の農業経営の本質的な部分がつかめず二の足を踏んでしまう、親の側からすると、農業経営だけでは食っていけないという思い等から真剣に事業承継を考えていないことが問題です。
つまり、事業承継が相続とイコールになっています。相続と考えると、どうしても子の側は受け身になり、農業という事業そのものへの魅力への関心も薄れてしまい、後を継ぐかどうかは「現状儲かっているかどうか」といった外形的な判断基準に頼りがちです。
長年経営を継続されていれば、それなりの経営資源があるはずですが、その資源の活用に目を向けず、ずるずると時間だけが過ぎていきます。農地等を相続した時点で、農業経営をできる人材は体力的にも技術的にも家族の中におらず、事業は承継できないというケースが増加しているものと考えられます。
この対策としては、事業承継と相続は違うという観点、事業承継は子の側から見ると価値を生み出すために価値ある経営資源を超友好的かつ能動的に手に入れることだという観点を持つことが重要です。
そのうえで、個人農家ではありがちなどんぶり勘定から脱却し、経営状態を見える化し、自分の経営の資源や価値あるものとは何かを、親子で話し合い明確にすることが必要です。手段として、法人化して経営と世帯を区別することも有効だと考えられます。その結果、子が事業を承継することになるケースもありえます。
まとめ
類型を1と2に分けて検討してみましたが、対策としては重なる部分もあります。労働環境を改善して雇用者を探すこと、自分の経営の強みや経営資源は何かを捉え直すことが対策になります。いずれにしても、事業承継と相続は違うという観点を持つことが大切です。
それでも後継者が確保できないという場合には、外部の経営体への承継を検討することになります。この場合でも、自分の経営の価値あるものを明確にしておくことが、外部承継の際有利な交渉を可能とします。
どの場合でも、手段としては法人化が有効と考えられますが、法人化さえすれば問題解決できるわけではないことに留意しておく必要があります。