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2018年08月01日(水)

ドラマ「マチ工場のオンナ」に学ぶ 事業承継と事業再生で大切なこと

経営ハッカー編集部
ドラマ「マチ工場のオンナ」に学ぶ 事業承継と事業再生で大切なこと

昨年11月からNHKで放映され年末に最終回を迎えた「マチ工場のオンナ」は、ゲージ(基準の寸法,角度,形状などをもつ測定具)を主力製品とする町工場・ダリア精機を舞台にドラマが展開していきました。町工場が主舞台になるドラマは珍しく、最終回にはTwitterのおすすめトレンドに載るほど話題になりました。

原作は、東京都大田区にあるダイヤ精機株式会社の社長である諏訪貴子さんが自らの体験と信念を綴った『町工場の娘』です。ドラマは原作にほぼ忠実に進んでいて、事実に基づいているからか、リアリティのあるドラマになっていました。それだけに、いまの日本の、特に中小企業が抱える問題とその打開策のヒントがあふれていたように思います。

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事業承継の準備と後継者

社長が緊急入院をして余命4日を宣告される。余命宣告通りに急逝し、娘である32歳の専業主婦が後を継ぐ。ドラマはそうやって始まります。演出だと思われるかもしれませんが、ほとんど事実に即した話です。

実印や通帳をしまってある金庫の暗証番号がわからない。それであたふたしてしまうシーンが描かれていました。中小企業では同じように、社長がすべてを管理して、他の人が知らないとの事例を耳にすることがあります。

暗証番号であれば、他の役員や経理担当者と共有しておけば済む話かもしれません。しかし、社長が抱えていることはそれだけではありません。代表権を持っているのが社長一人の場合、社長がいなくなった時点でさまざまな業務が止まってしまいます。

そう考えると、早めに後継者を決めておき、権限を徐々に委譲していくのが重要だとわかります。中小企業庁による「事業承継ガイドライン」でも、承継には10年程度かかるから、早めに手を打つことが大切だと書いてあります。

しかし、「中小企業白書」や「小規模企業白書」を見れば、後継者が決まっていない企業が3割程度存在します。決まっていないというより決められない企業の方が多いでしょう。候補者がいない、いても本人の承諾は得ていない、とのケースが多数見られるからです。

後継者が決まっていない企業が、同じような状況に陥ったらどうするか。「対策を立てておく」との答えはあり得ません。誰もが漠然とは考えている問題です。でも、さまざまな理由で答えを出せないでいます。出せないまま先送りにしていたら緊急事態が発生したわけです。そんなときはどうすればいいのか。

正直、ベストの回答はあり得ないでしょう。状況にあわせて手を打っていくしかない。ただ、もし自分が、周囲から後を継ぐことを期待される立場にいるなら、承継する選択肢を排除しないでほしいと思います。会社は続けるにして止めるにしても、売却するにしても「代表者」が必要です。その覚悟を決められるのは、親の背中を見て育ってきた人だと思うのです。

テクニカルなことは専門家に相談して進めればいい。大切なことは、会社への想い、従業員とその家族への想いです。それを一番持てるのは誰なのか、その視点で事業承継を考えるべきではないでしょうか。自分がやりたいことをやるのも人生ですが、自分にしかできないことを引き受けるのもまた、意義のある人生だと思います。


改革を進めるのは、原理に基づく原則

「売上から費用を引くと利益になるって、家計と同じだね」
社長を引き継いだばかりのシーンで、このようなセリフがありました。現実の経営はそれほど単純ではありませんが、逆に複雑に考え過ぎて基本を忘れていることはないでしょうか。

実際の諏訪社長の経営哲学は「物事には原理に基づいた原則があり、基本がある。基本があるからこそ応用ができる」だそうです。これがあるからこそ、工場内の整理整頓を進める、立って行っていた作業を座ってやるようにする、IT活用による進捗管理を行う、など前例にとらわれない改革が断行できたのです。

原理原則さえ押さえておけば、業界経験のあるなしはあまり関係がありません。ないほうが、前例にとらわれない改革を進めえる可能性が高くとも言えます。


危機を乗り切る運を呼ぶのは決断と努力

ドラマでは、リーマンショックによって売上が大幅減になり、存亡の危機に立たされる場面が描かれています。

取引先の工場に社員を出向させるなど、さまざまな策を講じこの状況を乗り切ろうとします。しかし、万策尽きて会社をたたむことを決断します。

そこに、海外に進出した自動車メーカーから、本業であるゲージの大量発注があり息を吹き返します。

ドラマの中では劇的に描かれてはいますが、事実関係としてはこの通りです。ミクロン(1000分の1ミリ)単位の精密さを要求されるゲージだけは海外での調達が難しかった。だから、海外に出ていった日本企業から大量の受注をすることができたのです。

人によってはこれを、奇跡だとか運が良かったとか言うでしょう。確かにそう言えるかもしれません。ですが、運を引き寄せることができた要因もあると思います。

「奇跡は”起きるに値する人間”として用意ができたときに舞い込んでくる」
これはハーバード大学のドリュー・ファウスト氏が卒業生に送ったメッセージの一節ですが、この時期、ダリア精機は“起きるに値する”会社だったのではないでしょうか。

リスクが高いとの理由で撤退を考えたゲージの製造を、創業の原点だからと継続する決断をしていたこと、危機に際してありとあらゆる方法を考えて、最後の最後まであきらめずにカードを切り続け、それをやり続けたこと。こうした条件があったからこそ、急に吹いてきた追い風に乗ることができたのでしょう。

ゲージの受注が増えたのは確かにラッキーかもしれません。しかしそのラッキーは間違いなく、自分たちの決断と努力で引き寄せたのです。

企業経営には危機がつきものです。先代ほどの経験がなければうまく対処できないかもしれません。しかし、簡単にはあきらめない。手持ちのカードは全部使い切ったかどうか。あきらめる前に、本当にカードが1枚も残っていないかどうか考えてみる。最終的に後継者に求められるのは、その粘りと覚悟だと思います。


〈参考記事〉

中郡久雄 中小企業診断士

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