会社を継ぐって、こんなにお金がかかる?!知っておきたい「事業承継税制」
会社を引き継ぐときの費用について、「完璧に理解できている」という人は決して多くないでしょう。中小企業であっても、業績の良い優良企業だと株式の評価額が予想以上に高くなり、莫大な買い取り費用がかかることがあります。
親の所有している株式を相続するのであれば、相続税や贈与税もかかります。こうした資金面での問題がネックになって、事業承継をためらう人も多いものです。今回は、そんなときに知っておきたい「事業承継税制」について紹介します。
4社に1社以上の企業が「自社株式評価額が予想より高い」と感じている
「2017年版 中小企業白書・小規模企業白書」によると、中小企業の経営者に自社株式評価額の印象を尋ねたアンケートでは、売上高経常利益率がマイナスの企業でも「予想より高かった」が25.7%となっています。ゼロパーセント以上3パーセント未満で30.2%、3パーセント以上10パーセント未満で40.9%に上り、業績が良い企業ほど自社株式評価額が高く見積もられることがわかります。全体的には、4社に1社以上の企業が「自社株式評価額が予想より高い」と感じているようです。
次いで「資産の引継ぎの課題と対策・準備状況」について聞いたところ、後継者が親族の場合で「後継者の資金力」が課題の企業が69.0%、「贈与税・相続税の負担が大きい」と答えた企業が64.5%に上りました。
スムーズな事業承継には、資金面でのプランニングも重要です。
(出典:中小企業庁「2017年版 中小企業白書・小規模企業白書」 )
事業承継に必要な資金項目
では、ここで事業承継のパターン別に、必要な資金の項目を見てみましょう。
<親族内承継の場合>
- 自社株式や事業用資産を買い取るための資金
- 他の相続人などに分散した自社株式や事業用資産を買い取るための資金
- 自社株式や事業用資産を相続や贈与で取得した後、相続税や贈与税を納税するための資金
<親族外承継(MBOやM&Aなど)>
- 株式や事業を取得するための資金
廃業するにしても意外に費用がかかる!
では、資金面での課題から事業承継が難しく、廃業を選択するケースはどうでしょうか。
実は、会社を廃業するという選択をしても、意外に費用がかかることがあります。まず、廃業にかかる手続きを行う費用や、弁護士、税理士といった専門家への報酬があります。さらに、税金の支払い、業態や業種にもよりますが店舗や営業所を借りている場合の原状回復費用、機材や設備の廃棄費用も必要でしょう。
中小企業の場合、経営者が会社の債務を個人保証していることが多いため、廃業後も金融機関への借入金返済に追われる可能性があります。しかし、廃業後も生活は続きますので、年金などの社会保障に不安が残る昨今は特に、廃業後の生活費の算段をつけておく必要があるでしょう。
家業を継ぐ後継者の税負担を減らすための「事業承継税制」
最近、法改正で相続税の基礎控除額が引き下げられたため、ますます後継者の税負担が重くなっています。
一方、高齢化社会が進む中で経営者の高齢化と後継者問題は、見過ごせない問題になりつつあります。そこで、政府は平成21年に経営承継円滑化法を制定。事業承継税制が設けて、家業を継ぐ後継者の税負担を減らすための特例を認めています。
事業承継税制は、中小企業の後継者が現経営者から会社の株式を承継する場合に、相続税・贈与税が軽減されるという制度です。相続分については80%、贈与は100%全額、5年間にわたって納税猶予が受けられます。
後継者が死亡したときや、後継者がその次の後継者(3代目)に贈与した場合は、猶予分の税が免除になります。
以前は特例を適用されるためには厳しい条件がありましたが、平成25年、平成29年、平成30年の税制改正でだいぶ緩和され、使いやすくなったという声もあるようです。主な改正点は以下の通りです。
その1:手続きを簡略化
平成25年以前は、制度を利用するために経済産業大臣の「事前確認」を受ける必要がありましたが、平成25年以降は事前確認を受ける必要がなくなり、手続きが簡略化されました。
その2:親族外承継も対象に
平成27年以降、現経営者の親族以外が後継者となる場合にも事業承継税制による優遇が受けられるようになりました。親族外承継も対象とすることで、後継者選びに悩む中小企業の選択肢が広がりました。
その3:雇用確保要件の要件緩和
事業承継税制を利用する際の課題に「8割の雇用維持」が求められるという点があります。もし、従業員4人の小規模な企業なら、1人が退職してしまえば全体は80%を下回ってしまいます。ただ、雇用は経営者や会社の都合だけでなく従業員本人の意思もあるので、経営者の努力だけではどうにもならず、事業承継税制を利用する場合の最大リスクと言われるほどでした。
それが、平成25年の改正では、「雇用の8割以上を5年間毎年維持」から「5年間の平均で80%を維持する」と緩和され、さらに平成29年には「相続、もしくは贈与時の常時従業員数に80%をかけて端数が生じた場合、切り捨てた人数と比較する」と改正されました。この場合、従業員4人の会社なら雇用の8割は3.2人となりますが、端数は切り捨てるので「3人いれば良い」ということです。5人以下の会社であれば、1人辞めても即猶予打ち切りにはならないことになります。
また、大規模な災害の発生や景気変動などに備えて臨機応変に対応させていく「セーフティネット規定」も設けられました。
その4:相続時精算課税制度を適用
平成29年の改正では、相続時精算課税制度の適用が可能になりました。納税猶予を受けた株式に対して相続時精算課税制度が適用された場合、20%の相続税税率以上には課税されなくなり、リスクが限定的になります。
さらに、平成30年度税制改正では、これまでの措置に加え、10年間の措置として、これまで総株式数の3分の2までに限定されていた納税猶予の対象となる非上場株式等の制限を撤廃。そして、納税猶予割合を80%から100%へ引き上げるなどの特例措置が創設されました。
その5 :雇用要件が実質上撤廃
承継後5年間、8割の雇用を維持しなければならなかった雇用要件が、実質上撤廃されました。これにより、人手不足に直面する事業者でも、使いやすい制度になりました。
その6 :過大な税負担のリスクがなくなる
仮に後継者の事業がうまくいかず、事業を売却・廃業する場合でも、これまでは、承継した際の高い株価に基づく相続税・贈与税を支払う必要がありました。30年度の改正で、売却・廃業の際の低い株価を基に税額を再計算できるようになりましたので、過大な税負担のリスクがなくなりました。
親族内承継を選択するなら、事業承継税制を活用すべき
事業承継税制の適用に当たっては、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく認定等が必要になりますが、親族内承継を選択するのであればぜひ活用すべき制度だと言えるでしょう。
スムーズなバトンタッチのためにも、事業承継にかかる資金について、早めに検討していくことをお勧めします。
(出典:国税庁「事業承継税制特集」)