中小企業を買収する側の立場で考える!M&Aのメリット・デメリット
「M&Aは企業同士の結婚のようなもの」と表現されることがあります。売り手企業だけではなく、買い手企業側にもメリットがなければ、M&Aは成功とは言えません。もちろん、M&Aを実行する買い手企業にも、メリットだけではなくデメリットも想定されます。
今回は、中小企業を”買収する側の立場”から見た、M&Aのメリット・デメリットを見ていきましょう。
中小企業を買収する!買い手側企業のM&Aのメリット
買い手側の最大メリットは、「事業を育てる時間を買う」という点に尽きるでしょう。新規事業への参入や事業の多角化で会社を成長させる、もしくは既存事業の市場シェアを拡大させようとしても、次の収益源になる事業のタネや新たな販売網を構築し、収益化するのは生半可なことではありません。
その点、事業譲渡や企業買収といった形で優良な中小企業や成長性が見込める事業を買収すれば、事業やマーケットを育てるコストや時間を削減でき、自社にはない技術や人材を手に入れることができるのです。
また、企業買収には税制面のメリットもあります。一定の条件の下で、買収した企業から繰越欠損金を引き継ぎ、その後に生じた所得と相殺することで、税負担を軽減できる方法があるからです。
M&Aのデメリットも把握しよう
一方、M&Aの実行には、メリットだけでなくデメリットも想定されます。
統合の失敗
企業にはそれぞれ社風や歩んできた歴史があります。それらを無視して統合を図ろうとしても、所属先の社員同士が派閥を作って反発するなどして、期待したシナジーが生まれないことがあります。
従業員の離職
企業内の統合がうまくいかず社内がぎくしゃくした結果、買い手・売り手企業双方から優秀な人材が離職する懸念があります。中には、M&Aに反発する売り手側社員が実は結託しており、統合後に社内のキーマンとともに独立してしまったというケースもあるのです。そのため、交渉の過程では、双方のキーマンやエースとなる人材とよく話し合い、金銭面での条件も含めた引き留め策を講じるべきでしょう。
簿外債務(偶発債務)
買収交渉後に、貸借対照表上に記載されていない簿外債務や経営上のリスクが発覚し問題となるケースがあります。事業のみの譲渡を受ける事業譲渡の場合は、個々の資産、負債、契約関係ごとに売り手企業と買い手企業の中で移転手続きを行うため、簿外債務を背負い込むリスクは少ないといえます。
ただ、会社の全てを譲渡する会社売却の場合、事前の審査を念入りに行わなければ、簿外債務の発覚で買収交渉が決裂したり、統合後にリスクが発覚したりする懸念があります。
M&Aで注意すべき簿外債務(偶発債務)とは何か
では、上記で挙げたデメリットのうち、中小企業のM&Aで懸念すべき簿外債務(偶発債務)について見ていきましょう。例えば、以下のようなものが簿外債務として考えられます。
- 賞与引当金
- 退職給付引当金
- 計上されていない買掛金や未払いの残業代
- 回収できる見込みが少ない売掛金
- 他社または他人の借り入れの連帯保証人になっている
- 従業員が社会保険に未加入
- 訴訟や脱法行為などリスクを抱えている
- 金融派生商品(デリバティブ)の含み損
税務会計をとる中小企業の場合、支払いがまだ先である賞与や退職金は、帳簿に記載されていないことも多いかもしれません。また、オーナー社長として経営者の個性や経営方針に依存することが多い中小企業の場合、業種によっては社長のプライベートがリスクになるケースもあります。
買い手側企業はM&Aのあらゆるリスクを軽減しておきたい
巨額の費用を投じて買収した後に大きなリスクが発覚した場合、「知らなかった」では済まされません。事前にリスクをできるだけ軽減するための機能として「デューデリジェンズ」と「PMI(Post Merger Integration)」があります。
1.デューデリジェンス
M&Aでのデューデリジェンスとは、買収対象となる企業に十分な価値があるのか、またリスクを抱えてはいないのかを詳細に検討する作業です。よく「デューデリ」などと略して呼ばれます。これは主に、次の3つの分野から調査を実施します。
- ビジネス・デューデリジェンス
生産・販売、研究開発、知的財産権、企業組織など。 - ファイナンシャル・デューデリジェンス
財務諸表の分析、資金繰り、簿外債務の把握など。 - リーガル・デューデリジェンス
訴訟リスク、法的な基本事項、重要な契約の内容など。
これだけの専門的な調査項目があるデューデリジェンスを、素人が実施するのはほぼ不可能と言わざるを得ません。そのため、M&Aアドバイザリーなどの専門家に依頼するのが一般的です。
ただ、専門家であっても限られた時間の中で全てのリスクを洗い出すのは難しいですし、中には悪意を持って隠ぺいされたリスクがある可能性もあります。簿外債務などのリスクをシャットアウトしたい場合は、会社をまるごと買収するのではなく、個別に譲渡契約を結ぶ事業譲渡に切り替えるという判断が下されることもあります。
2.PMI
PMIとはM&Aが成立した後の統合プロセスとマネジメントのことを指します。買収によるシナジー効果を最大限に発揮させるには、欠かせないプロセスと言えるでしょう。統合する領域は主に、経営戦略(企業理念、事業戦略、マーケティングなど)、社内の管理体制(会社組織、業務管理体制、人事・労務など)、運用体制(業務システム、従業員の意識改革など)などがあります。
PMIをスムーズに実行できないと、社員が派閥を作って反発し、最悪の場合は離職や分裂を招くことがあります。M&Aの交渉過程では、こうしたリスクを念頭に置いて双方の経営者同士が詳細まで話し合うことが重要です。
また、買収にあたって全ての社員の雇用が保証できない場合や、労働条件の変更が想定される場合などは、できるだけ早い段階で計画を策定し、引き止めたい社員をリストアップして個別に継続雇用について交渉します。社員のリテンション(引き止め)には、「人間関係」と「金銭条件」が重要になります。特にこの2点については不安を抱かせないよう、きちんと話し合い、納得させることが大切です。
M&Aの真の成功は、PMIの成功にかかっていると言っても過言ではありません。PMIをスムーズに実行するために、買収交渉とは別に専門家を雇って依頼することもあります。
M&Aの実現と成功に向けてのプロセス
M&Aは買い手側の企業にとってメリットが大きい一方で、リスクを最小化するためのさまざまなプロセスや知識が必要になります。買い手側の企業がメリット、デメリットを把握し、慎重にプロセスを重ねるには、売り手側の企業の情報開示をはじめとする協力が欠かせません。
双方にとってスムーズなM&Aの実現と成功のためにも、買い手側と売り手側の連携を密にして進めていく必要があるのです。