年間2,000件を超えて伸び続けるM&A市場
M&A市場の調査を行うレコフデータの調べによると、日本企業のM&Aの件数は近年増加傾向にあります。2000年以降の年間平均件数は、2000件に達し、17年には3000件を超えました。
中でも国内企業同士のM&Aが増加しています。その背景やM&Aを選ぶ企業の事情について見ていきましょう。
( 参照:株式会社レコフデータ「2017年のM&A回顧」 )
( 参照:株式会社レコフデータ「グラフで見るM&A動向」 )
中小企業までM&Aマーケットが広がる
国内企業のM&Aは、バブル崩壊後の1994年以降 2006年まで増加傾向が続きました。国内企業同士の売買である「IN-IN」がけん引し、その件数は9倍以上となっています。その後、リーマンショックのあった2008年を挟んで2012年ごろまで減少に転じたものの、再び増加傾向にあります。
1990年代の年間平均額は4.0兆円、2000年以降は同 10.1兆円と件数の増加に伴ってマーケットが拡大している一方で、一件当たりの金額は、前者が 60億円、後者が 49億円と約 20%減少しています。これは、企業規模の小さい中小企業にまでM&Aのマーケットが拡大していることを示唆していると考えられます。
( 出典:一般財団法人 商工総合研究所「中小企業とM&A」 )
少子高齢化による後継者難、M&Aを検討
「中小企業白書」のデータによると、M&Aの実施目的は「売上・市場シェアの拡大」が最多で、次いで「事業エリアの拡大」が多くなっています。ただ、年代別に比較すると2015年以降は、「新事業展開・異業種への参入」「技術ノウハウの獲得」のほか、「経営不振企業の救済」を挙げる企業が増加しています。このように、日本の中小企業の中でM&Aが増加している背景には、少子高齢化による中小企業の事業承継があるのです。
日本政策金融公庫が2015年に実施した、「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」によると、自分の代で廃業する予定の企業は約半数に上っています。高齢化の中で経営者の平均年齢は60歳を突破している一方で、国内市場の縮小や少子化により事業を承継させる後継者探しが難しくなっているため、廃業を考える経営者も増えているのです。
先ほどの「中小企業白書」のデータでは、経営者の年代別にM&Aの目的を調査しています。その中では、年代が上昇するごとに、事業承継を目的に挙げる回答がぐっと目立つようになります。経営者年齢が40歳代以下の場合は「事業の成長・発展」を挙げる回答が多いのとは対照的です。
日本の中小企業では過去、実子や親族が後を継ぐ「親族承継」が大半を占めていましたが、後継者難の中でM&Aによる企業の存続を目指す「第三者承継」が増加しているのです。
( 出典:中小企業庁「M&Aを中心とする事業再編・統合を通じた労働生産性の向上」)
( 出典:日本政策金融公庫「中小企業経営者の2人に1人が自分の代で廃業を予定」)
どうやってM&Aの相手先企業を見つけてマッチングするか
では、実際にM&Aを検討するとなった場合、どのように相手先企業を見つけてマッチングするのでしょうか。
再び「中小企業白書」によると、M&Aの相手先を見付けたきっかけは、「第三者から相手先を紹介された」が4割を超えます。具体的には、「金融機関」や「他社(仕入先・協力会社)」、「専門仲介機関」となっており、普段付き合いのある金融機関から紹介されるケースが多いようです。これは、中小企業が出資や増資などの直接金融ではなく、金融機関からの融資という間接金融に経営を依存していることとつながっているのでしょう。
「専門仲介機関」とは、M&Aの仲介を手掛ける業者のことです。マッチングを専門とする業者や、買収交渉や統合プロセスまでも網羅的に手掛ける企業などがあります。
近年、中小企業向けM&A市場の拡大に伴って、こうした仲介業者の業績も拡大傾向にあります。一方で、「相手先から直接売り込まれた」「自社で相手先を見付けた」という相対取引も合計で半数を超えています。地域に根差して事業を営んできた企業や、経営者の営業力や個性が業績をけん引してきた企業など、長年培ってきた信頼関係をベースに会社の未来を預ける相手を見つけているのでしょう。
( 参照:中小企業庁「2018年版中小企業白書・小規模企業白書概要」 )
中小企業のM&Aでは事業譲渡と株式譲渡が多い
一口にM&Aと言っても、その手法はひとつではありません。広義のM&Aは「資本業務提携」「合併」「買収」「会社分割」の4つに分かれます。一般的にその中でも「合併」「買収」「会社分割」の3つを狭義のM&Aとしてとらえることが多いようです。
買収の手法には、「株式譲渡」「事業譲渡」「第三者割当増資」「株式交換・株式移転」「会社分割」があります。「中小企業白書」によると、中小企業のM&Aでは事業譲渡と株式譲渡が約4割でほぼ並び立っています。
「取得したい資産や従業員、取引先との契約を選別できた」「簿外債務の引継ぎや想定外のリスクを回避できた」といったM&Aでのリスクを避ける意向から、事業譲渡を選んだ企業が多いようです。
M&Aの実施時に懸念すべきリスクのひとつに、貸借対照表上に記載されていない簿外債務(偶発債務)があります。これは、退職金や給与といったまだ支払い日が先となる費用に充てる引当金といった経理上のよくあるパターンのほかに、「他社の借入金の連帯保証人になっていた」「訴訟リスクを抱えていた」「デリバティブ取引で含み損を抱えている」「残業代が未払い」「社員が社会保険に未加入」など、違法・脱法行為や外からは到底うかがい知ることができないリスクなども含まれます。
こうしたリスクが統合後に発覚すると、買い手企業が痛手を被ることがあります。リスクを避けるには、買収交渉の過程でリスクや企業価値を査定するデューデリジェンスを徹底する、もしくは会社売却ではなく資産や従業員、取引先を個別に選別して譲渡契約を結ぶ事業譲渡を選ぶ、といった対策が必要です。
( 参照:中小企業庁「M&Aを中心とする事業再編・統合を通じた労働生産性の向上」)
M&Aに満足した企業は約7割
M&Aを実施した企業に総合的な満足度について問うと、「期待を大きく上回っている」「期待をやや上回っている」「ほぼ期待どおり」というポジティブな回答が計68.3%と、大半の企業はM&Aの成果に満足しているようです。
具体的には、「商圏の拡大による売上・利益の増加」「商品・サービスの拡充による売上・利益の増加」「技術・ノウハウ等の獲得による相乗効果」などがその理由に挙がっています。
一方、M&Aの満足度が期待を下回ったという企業は「相乗効果が出なかった」「相手先の経営・組織体制が脆弱だった」「相手先の従業員に不満があった」などの理由を挙げており、事前の交渉やデューデリジェンスによる見極め、統合後の「PMI(Post Merger Integration)」といったプロセスが大切であることが伺えます。
( 参照:中小企業庁「M&Aを中心とする事業再編・統合を通じた労働生産性の向上」)
中小企業のM&Aは今後ますます増加
少子高齢化とともに経営者の高齢化が進む中で、中小企業の事業承継手段としてのM&Aは今後ますます増加すると考えられます。廃業を検討している中小企業の中には、日本のものづくりに欠かせないオンリーワンの技術をもっている、もしくは、業績的には十分事業の継続が見込めるのに後継者問題で廃業せざるを得ない、といった企業もみられます。
地域の金融機関や事業引き継ぎ支援センターなどでも相談に乗ってもらえるので、後継者難で廃業を検討する場合は、その前に一度M&Aを視野に入れてみてはいかがでしょうか。