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2018年09月19日(水)

江戸時代から続く老舗お菓子メーカーを事業承継するってどんなかんじ? ~若手後継者に訊いてみた~

経営ハッカー編集部
江戸時代から続く老舗お菓子メーカーを事業承継するってどんなかんじ? ~若手後継者に訊いてみた~

中小企業や小規模事業者を中心に大きな広がりを見せている後継者問題。継ぐものと継がれるもの、双方の課題を一つずつ解決することが求められる事業承継は、現在も多くの人の頭を悩ませています。

そうした中で、freee株式会社パートナー事業本部でシニアマネージャーを務める出雲達成さんは、現在は叔父が経営する創業200年以上の長崎のお菓子屋「杉谷本舗」を継ぐことを決めました。

その背景にはどんな出来事や、困難があったのでしょうか。今まさに、事業承継という問題に真っ向から向き合う出雲さんに、その想いを語っていただきました。 

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必要としてくれている人がいるからこそ、守っていきたい

――まず初めに、出雲さんが後を継ごうと考えている家業について教えてください。

長崎に本社を持つ、お菓子製造販売の会社です。創業は江戸時代後期の文化8年(1811年)と200年以上の歴史があります。

現在はカステラがメインの商品ですが、創業時から米菓子「おこし」の製造販売を行っています。また、現在の経営者は母方の叔父ですので、正確に言えば家業ではないのですが、幼い頃から慣れ親しんだ店でもありますし、後継者問題にも直面していたので、私が手を挙げたのです。

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――事業承継となると、リスクや不安も頭をよぎると思います。継ぐことを決めたきっかけなどはあるのでしょうか?

昔から販売や接客、店舗運営といったことに興味があったこともありますし、何よりそのお店が、地域の人たちの“拠り所”のような存在であり、また同時に自分自身や、親族たちの拠り所でもあったことが大きいですね。

カステラと言えば、長崎には有名なお店がたくさんありますし、味も確かに美味しい。そうした中でも、お客様があえて杉谷本舗を選んでくださっているのは、単なる味や商品のラインナップによるものだけではないはずです。

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 先代たちがこれまで守ってきたこと、歴史や伝統を積み重ねてきたことを絶やさないという考えはもちろん大切ですが、それにも増して、私たちのことを必要としてくれている人が確実にいて、親族の中心的な存在にもなっていた店を他の人に任せたくはありませんでした。また、叔父の店は幼少の頃から私の誇りでもあり、店の将来設計について考えることも少なくありませんでした。

そうして、自分が後を継ぐことで、なんとしても杉谷本舗を残したい、という気持ちが強く芽生えたのだと思います。

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 将来のために、今得られる知識を無駄にしない

――出雲さんは現在freeeで働いていますが、大学卒業後すぐに後を継ぐ、という選択肢はなかったのですか?

当時はまだ絶対に後を継ごうと決めていたわけではなく、なんとなく継ぐかもしれない、という曖昧な気持ちだったのが正直なところです。でも、もしも経営者として将来やっていくのであれば、お菓子作りや店舗運営だけでなく、もっと幅広い見識が必要だと考えていたので、大学卒業後は医療・介護に関するITサービスを提供している会社に入社し、WEBマーケティングや商品開発、コールセンターの設立・運営さらには営業など、さまざまな仕事を経験させてもらいました。

そうした中で、せっかくなら転職も経験しておこうと思い、2社目として選んだのがfreeeでした。当時は経営に関する仕事に就きたいとも考えており、freeeは経営におけるあらゆる数字を扱う会社でしたから、そこがいちばんの魅力でした。当時でも300人を超える大きな組織であったにも関わらず、会社を自分のこととして考える自発的な社員が多いことにも驚きました。freeeという会社が、どのように組織作りをしているのかを学びたいという好奇心が強かったと思います。

また、近い将来的に家業を継ぎたいと思っていることは面接の時から話していて、「正直、1年足らずで辞めるかもしれません」と言った私を採用してくれたfreeeの懐の深さには感動しました。

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――事業承継の準備を進めるにあたり、苦労されたことや壁を感じたことなどはありますか?

まず、精神的な苦労というのは大きかったですね。長く続いてきた歴史のある店だからこそ、「本当に自分が継いで良いのか」「失敗するのではないか」という気持ちになりました。その想いは今でもあって、自問自答するときもあります。

幅広い見識を得るためとはいえ、今までお菓子の製造や販売に関する仕事もしてこなかったわけですから、実務部分での不安は拭えません。また、従業員の方も大勢いますから、彼らに認めてもらえるか、ちゃんと仲良くやっていけるか、ということも常に考えてしまいますね。

あくまでも家業ではなく、叔父のお店になりますので、どうやって継ぐのかという問題もあります。自分が養子として母方の実家に入るのか、それとも事業承継だけするのか、そうした家族間のナイーブな問題にも向き合っていかなければなりません。

 

 自分で自分の背中を押すからこそ、見えてくる世界

――そうした困難を乗り越えるために、出雲さんが現在行っていることを聞かせてください。

精神的な部分に関しては、“継ぐ”ということを積極的に人に話すようにしていますね。そうすれば必然的に、逃げ道が無くなるじゃないですか。「あいつ、継ぐって言ってたのに…」なんて言われるのはさすがに恥ずかしいですから、それを避けるためにも自然と頑張れるようになるんです。ちなみに、こうした取材に応じるのも、より背水の陣になれるように、という個人的な意図が隠されています(笑)。

また、定期的に地元に戻り、家族や叔父とのコミュニケーションを増やすようにもしています。継ぐ方はもちろんですが、継がせる方にも不安はあるわけで、そこはお互いに腹を割って話していきながら、今後の在り方を一緒に考えなければなりません。

私の場合は、プレゼン資料を作って、今後の事業計画や継ぎ方について説明したこともあります。あとはひたすら勉強ですね。さまざまなビジネスの仕組みについて学んだり、東京にいるからこそ可能なコネクションを構築したり、ある時には一般消費者としてスイーツを味わいながら勉強したり、長崎やカステラの歴史を学ぶ、カステラの作り方を学ぶなど、できることは何でもやっています。とにかくたくさんの情報をインプットしておき、いざ自分が経営者になってからの動き出しをスムーズにできればと考えています。

――逆に、「あの時これをやっておけば良かった」といった反省点などはありますか?

正直、挙げるとキリがないのですが、「今の状態に、1年前になれていたら」と思うことはありますね。継ぐという決心をして、家族ともしっかり話し合い、店のことも勉強し始めたことで、やっと見えてきた世界がたくさんあります。

そして、見えたからこそできること、やらなければいけないこともより明確になってきました。変に急ぐ必要はないとは思いますが、やると決めたらできるだけ早く動いた方が良いと思います。

――最後に、今後事業承継を考えている人たちに向けてメッセージをお願いします。

私自身は継ぐという選択をしましたが、その選択だけが正しい道だとは思っていません。しかし、少しでも心に引っかかる部分があるのであれば、ぜひ一度、真剣に考えてみることをおすすめします。

「なんとなく面倒だし」「どうせ自分には無理だろう」というような感じで、自分の気持ちを押し込めてしまったら、後で絶対に後悔することになるはずです。自分の気持ちに正直になり、意志を大切にする。誰かに頼まれたからやるのではなく、自分でやると決めるからこそ、前を向いて進めるようになるのではないでしょうか。正直ながら、私も現時点では不安しかありません。でも自分で決めたことだからこそ、諦めずに頑張れると信じています。


<お店の情報>
杉谷本舗

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