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2018年09月27日(木)

中小企業が自社の会社売却(M&A)を検討する場合に知っておきたいリスクとは?

経営ハッカー編集部
中小企業が自社の会社売却(M&A)を検討する場合に知っておきたいリスクとは?

事業承継や後継者探しに悩む中小企業がM&Aによる自社の売却を検討する場合、廃業を選択するよりも多くのメリットがあります。しかし、リスクがまったくないわけではありません。デロイト トーマツ コンサルティングの調査によると、日本で実行されたM&Aのうち、成功したと認識されているのは36%に過ぎないからです。

今回は特に、会社の統合後に起こりやすいリスクと、リスクを軽減するためのPost Merger Integration(PMI、ポスト・マージャー・インテグレーション)について見ていきましょう。

( 出典:デロイト トーマツ コンサルティング「2013年版 「M&A経験企業にみる M&A 実態調査」」

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M&Aのリスクは買収後(統合後)に高まる

M&Aによる会社統合は、まさに「結婚」のようなものといえるでしょう。別々の歴史を歩んできた両社がひとつになり、新たな歴史の一歩を踏み出すわけですから、しばしば軋轢も起こります。そのため、M&Aのリスクは買収後(統合後)に高まるとも言われているのです。

よくあるリスクとしては、以下のようなものが挙げられます。

1.元の所属会社ごとに派閥ができる

先にM&Aとは会社同士の結婚のようなものだとお伝えしました。愛し合って結婚した2人でも、育ってきた環境や生活スタイル、食べ物の好みなどが違えば、新たな家庭を築くまでにさまざまな困難が生じるものです。

M&Aもそれと同じで、異なる企業風土やワークスタイル、雇用条件の2社が統合するわけですから、社員の間に元の所属会社ごとの派閥ができ、波風が立ちやすくなるのです。

2.買収された側の社員の士気が落ちる

長年働いてきた会社が買収されるわけですから、多くの場合、買収された側の社員は納得がいかない部分もあるでしょう。また、統合後に自らの処遇がどうなるのかと不安を抱えています。

もし、売り手側の企業と買い手側の企業の間で雇用条件や待遇が異なるようなことがあれば、さらに士気が落ちるでしょう。社員のモチベーションが下がり、買収された側の社員が会社統合後に離職してしまうというケースも少なくありません。中には、M&Aに反発する社員や役員たちが水面下で団結し、統合を機に独立してしまうというケースもあるようです。

3.雇用条件が変更され、買収された側の社員が解雇される

統合後に、勝手に従業員の雇用条件が改められ、買収された側の社員が解雇されてしまうというケースもあり得ます。

4.長年の取引先や顧客から反発が起きる

買収を機に、取引条件が見直されることにより、取引先や顧客の反発を呼ぶことも考えられます。

 

M&Aのリスクを軽減するためのポスト・マージャー・インテグレーション

M&Aによる企業統合を円滑化するために、Post Merger Integration(PMI、ポスト・マージャー・インテグレーション)を行います。PMIとは、M&Aが成立した後、シナジー効果を確実にするための持続的成長を実現させる統合プロセスとマネジメントのことです。

統合する領域としては、経営戦略(企業理念、戦略、ビジネスモデル、マーケティングなど)、社内の管理体制(組織、業務管理、人事・雇用など)、運用体制(業務システム、従業員の意識改革など)などが挙げられます。

繰り返し述べているように、2つの異なる文化や歴史を持った企業同士が1つになるので、PMIの中でも企業風土や文化の融合が最重要課題となります。PMIをスムーズに実行するためにも、まずはM&Aの交渉過程でどういった対策を取るべきか、先に挙げたリスクごとに見ていきましょう。

1.元の所属会社ごとに派閥ができる

企業買収では、「買い手側は上、売り手側は下」というという意識が働きがちです。売り手側にせよ買い手側にせよ、経営者は統合前に、M&Aによるシナジー効果について社員にしっかりと説明することが大切になります。特に、社内で人望が厚く組織のキーマンとなる社員や、社内のエースと見られている有能な社員などを納得させることが大切です。

買い手側の企業の多くは、技術、ノウハウ、ブランドなど自社にない経営資源を得るためにM&Aを実施します。「人財」とも言いますが、企業活動には人(社員)が欠かせません。社員が抜けると買収目的が達成されないことも多いため、買収後のリテンション(引き止め)は慎重に行わなくてはなりません。

2.買収された側の社員の士気が落ちる

組織のキーマンになっているような人物や仕事ができる社員などは、他社からの引き合いも少なくありません。双方の経営者同士がよく話し合い、こうした社員の離職を防ぐための方策を立てておくことが大切です。売り手側の企業と買い手側の企業の間で雇用条件や待遇が異なるようなことがあると士気の低下や軋轢を招きやすいため、買収後の待遇についてもきちんとすり合わせをしておきましょう。

一般的には、「基本合意」の段階と、最終工程である「譲渡契約」段階において、従業員の雇用維持や処遇について確約を得るようにします。

3.雇用条件が変更され、買収された側の社員が解雇もしくは離職する

なかには、統合後に従業員の雇用条件が改められ、買収された側の社員が解雇もしくは自主退職してしまうというケースもあり得ます。市況の急激な悪化や経営状況の変化は予想できないものとはいえ、日本の労働法では従業員の解雇が非常に難しいため、不用意な解雇がトラブルやリスクを招く可能性があります。

全員の雇用が難しく統合後にリストラを行う場合、もしくは雇用条件の見直しをする場合は、M&A交渉の段階で早めに計画を決定し、引き止め対象者には継続雇用契約の条件を提示しておきます。引き止めプロセスを実行する際は、社内で人望が厚いリーダー格の社員に協力してもらうと良いでしょう。引き止めたい人材には「早め」に「条件(金銭面)」と「人間関係」の両面で安心感を与えることが大切です。

4.長年の取引先や顧客から反発が起きる

買収による取引条件の見直しはあり得ることです。売り手側の企業は、経営者としての最後の務めを果たすべく、長年の取引先や優良顧客、金融機関などに売却に至った経緯などをきちんと説明し、理解を得るようにしましょう。

一方、買い手側の企業は、統合前に見抜けなかった取引先とのトラブルや簿外債務などでリスクを得ることがないよう、M&Aの交渉過程で財務、人事、事業、法務の各分野におけるデューデリジェンス(事前調査)を徹底させるべきです。

 

事業承継に向けたM&Aはメリットも多い

ここまで、M&AにおけるリスクやPMIを円滑に実行するための対策などを見てきました。このように、M&Aにもまったくリスクがないわけではありません。しかし、少子高齢化が進む中で後継者が見つからない企業にとって、M&Aはメリットも多く、事業承継の手段として一般化しつつあるのです。

リスクばかりに目を向けるのではなく、メリットも踏まえた上で、M&Aに踏み切るかどうかを判断してみてはいかがでしょうか。

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