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2018年12月12日(水)

「アパレルブランド経営」の魅力と現実──経営者&会計士が、夢を追い続けるための資金繰り術を考える

経営ハッカー編集部
「アパレルブランド経営」の魅力と現実──経営者&会計士が、夢を追い続けるための資金繰り術を考える

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自分が思い描く「カワイイ」「カッコいい」「好き」を世界へ ──

アパレルブランドを立ち上げ、多くの人に製品を買ってもらうことで、世界を少しずつ自分の色に染めていくことができます。しかし、当然ながら誰もが参入できるほど、そして大きなブランドをつくれるほど簡単な世界ではありません。

今回お話を伺ったのは、上質なルームウェアなどを企画・販売するブランド「Foo Tokyo」を運営する株式会社 Next Branders CEO 桑原 真明さん、個人でも縫製職人に直接仕事の依頼ができるマッチングサービス「nutte」を運営する株式会社ステイト・オブ・マインド代表 伊藤 悠平さん。お二方ともに、アパレル業ならではの楽しさと苦しさを実体験として味わってきました。

そして大勢の経営者を経営面で支援してきたリライル会計事務所 代表 野口 五丈さんも交え、アパレル業界で生き残っていくための資金繰りについて話を掘り下げていきました。

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左から、nutteを運営するステイト・オブ・マインドの伊藤さん、Foo Tokyo運営のNext Brandersの桑原さん、リライル会計事務所の野口さん

──本日はよろしくお願いします。まずは簡単に皆さんのご経歴を教えてください。

Foo Tokyo・桑原:
私は去年の 12 月に株式会社 Next Brandersという会社を設立し、今は「Foo Tokyo」というライフスタイルブランドを運営しています。

大学時代にアパレルブランドでのアルバイトやファッションショーの企画をしたことで業界への憧れは抱いていたのですが、仕事にするのはなかなか難しいと感じていました。そこで大学院で経済、前職の投資銀行で金融を学び、自分がチャレンジしたい世界に戻ってきたところです。

nutte・伊藤:
私は縫製の仕事を 10 年ほどやってきており、当時は家にミシンを置いてずっと縫い続けていました。ただ、どれだけ仕事をしても生活は苦しかったので、縫製職人たちが安定して生活できるようになる事業をつくりたいと思いました。そこで、2015 年に、縫製職人へ小ロットから直接発注ができる「nutte」というマッチングサービスを立ち上げました。

また、縫製の仕事を始めたとき、洋服のブランドを立ち上げたこともあります。結局 2 シーズンで頓挫させてしまいましたが、ブランド側の苦労もわかったことで、職人側だけに肩入れするのではなく「業界の構造を改善したい」と考えることができています。

会計士・野口:
私はもともと有限責任監査法人トーマツで働いていたのですが、もう少し距離が近いところでお客様とお話をしたいと思い、7 年ほど前に独立しました。今は渋谷でベンチャー企業を中心に支援する会計事務所を運営しています。

freeeなどのクラウドサービスも積極的に活用し、経営者の方が本業に注力できる体制を整えることを仕事にしております。

Foo Tokyo・桑原:
私はブランドを立ち上げてようやく 2 年目を迎えるところですので、本日は勉強させていただければと思います。

──桑原さんはアパレル業界の現役経営者、伊藤さんは元縫製職人であり今はアパレル系 IT サービスの経営者、そして野口さんはアパレル業のクライアントも多く抱える会計士という顔ぶれになっています。今日はそれぞれの立場から「アパレル業の経営」について考えていきたいです。


「ほとんどの企業が 2 年目を迎えられない」アパレルブランド立ち上げの難しさ

──まずは縫製側とブランド側の両方の立場をご存知の伊藤さんに、アパレル業界のお金の流れを伺いたいです。

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nutte伊藤さん

nutte・伊藤:
商品をデザインして生地を買い、工場で縫ってもらってサンプルをつくる。できたら展示会を開催して、注文をいただけたら工場で指定のロットを生産して納品するという形です。

現金の動きでいえば、生地の購入やデザイナー・縫製工場への支払いがあります。展示会に出すまで、1 ロット 100 万円として、先に最低でも 1,000 万円は必要ですかね。しかも、企画からその売上が入るまでに半年ほどかかることもあります。

Foo Tokyo・桑原:
お金をかけて展示会を開いても発注がなければ売上はゼロなので、博打に近いですよね。しかも、たとえ売上が出なくても、次のシーズンも続けるためには生地を買わないといけないのでまた出金があります。

会計士・野口:
実際のところ、それだけ厳しい中でアパレルブランドを立ち上げて、継続できる方は多いのですか?

nutte・伊藤:
従来の方法でやると、ほぼゼロに近いんじゃないでしょうか。スタートアップより難しいかもしれません。2 シーズンまでは頑張れるかもしれないけど、3 シーズン目になると 95% は潰れると思います。

会計士・野口:
厳しい世界ですね…。

nutte・伊藤:
そうなんです。私の場合は、アパレル業界でのサービス開発をやる上で本当に良い経験になりましたが…。

それでも、桑原さんがすごいのは、未経験で参入して生地を買えたことですよ。普通は商社を通さないと売ってもらえないし、資金力も実績もないと、その商社との取引さえ難しいんです。生地を売ってもらえないと、そもそも参入自体できませんから。

Foo Tokyo・桑原:
私は知人にアパレル業界の方を紹介していただけたこともあって、助けられました。あとはもう地道に、飲みにいったりですとか…。

nutte・伊藤:
はは(笑)。そうですよね。

Foo Tokyo・桑原:
そういうことは嫌いではないので(笑)。ただ、アパレル業界は人との付き合いが大切だと感じました。

当社ではまだ小さなロットでの発注なので、自分で訪問してお願いしました。「お前に賭ける」と応援するような形で取引していただけると、本当に嬉しいですね。


資金繰りが苦しくなりそうなときに融資を受けるには?

──そのような厳しい世界で伊藤さんがアパレルブランドを経営されていた頃、資金が苦しくなったときにどんなことをされていましたか?

nutte・伊藤:
当時は個人事業主の規模だったので、資金繰りのテクニックというほどのものは知りませんでした。

銀行から融資を受ける、取引先に頼んで支払いを待ってもらうということはやった上で、最後の手段としてはカードローンくらいしか思いつきませんでした(苦笑)。他に手段はあるものですか?

会計士・野口:
一つは在庫を処分することですね。安く売ることは本意ではないかもしれませんが、短期的には資金繰り改善になります。

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リライル会計事務所の野口さん

支払いを後ろ倒しにするなら、現金払いをクレジット払いに変えることも手段の一つです。あとは税金の中間納付があったとして、税務署に相談すれば延納することもできます。ただ後者は手数料がかかるので、本当に困ったときの手段ではあります。

百貨店や大手ブランドなど一定規模以上の企業と取引している場合は、納品から入金まで時間がかかるので、「ファクタリング」という請求書を売却するサービスなどで売掛金を早期回収するのも一つの手かもしれないですね。

Foo Tokyo・桑原:
資金繰りが厳しくなったとき、銀行に新たな融資を相談することは可能ですか?

会計士・野口:
銀行から資金を調達する上では、常に “計画性” が重要になります。やむをえない事情があればいいのですが、資金不足になった理由が明確でなければ難しいと思います。

銀行からの融資を受けるための手段は大きく分けて二つあります。一つは担保を用意すること。もう一つは、売上が伸びていることを説明して「事業拡大のため」という名目で融資を申し込むことです。

nutte・伊藤:
保証協会は利用できるものでしょうか?

会計士・野口:
保証協会は枠こそあるのですが、どうしても時間がかかってしまいます。資金繰りが苦しい場合といえば 1~2 週間、あるいは数日後の支払いが原因ですので、間に合わないことがあります。

本当に急いでいるときの資金調達となると、ビジネスローンも選択肢になると思います。金利こそ高いですが、審査が早いことがメリットです。あまり知られてないのですが、ビジネスローンの中でも「極度型ローン」も一つの選択肢です。審査に通れば、無料で利用限度額だけ押さえておけて、必要なときにすぐ借り入れられる仕組みです。借り入れたときだけ利息が発生するため、備えは無料でできるんですよ。

freee 利用者なら、freee の会計情報を連携して審査が早く済むような銀行のサービス(資金調達サービス一覧はこちら)もあります。

アパレル業での資金繰り改善テクニック
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伸びている企業は「在庫との付き合い方」が上手い

──野口さんが見てこられた中で、創業期を乗り越えて事業を拡大できているアパレル企業に共通するポイントはありますか?

会計士・野口:
二期目以降、商売が軌道に乗ってきた後に伸びている企業は、在庫管理にとても気を使われている印象を受けました。

nutte・伊藤:
わかります。在庫が一番の悩みですよね。

会計士・野口:
在庫を抱えるほど資金繰りは厳しくなるので、品番ごとにどれだけ売れているのかを管理して、芳しくない品はセールで売る。店長に「在庫がこの量を超えたらセールで売ってしまうように」と徹底する。そのような基本対応ができている企業は経営が安定していますね。

Foo Tokyo・桑原:
他に、そもそも普段から資金繰りで気をつけておくべきことはありますか?

会計士・野口:
“資金繰り” と言うと難しく感じるかもしれませんが、要は資金繰り表と在庫管理表をしっかりとつけることが大切です。月ごとに、月初の残高がいくら、入金・出金がいくら、月末の残高がいくらという簡単な表を Excel でつくることに尽きます。

そういう意味では、どんな業種の経営でもやるべきことは同じです。ただ、アパレル業界は「仕入れのサイトが若干長い」「季節性が大きい」「在庫が残る」などの特徴はありますので、他の業種との違いには注意してほしいですね。

nutte・伊藤:
服を生産するロットが増えるほど出金の額も在庫のリスクも大きくなるので、経営が難しくなりますよね。

会計士・野口:
入金・出金の予測を間違えると大変です。アパレル業界だと "ニッパチ" が閑散期と言われますが、その分の売上減を見越して資金繰りをしていなかったせいで「家賃が払えない!」と困ってしまった事例もあります。

お金や在庫の管理を苦手にしていてどんぶり勘定で経営をされていると、いずれ資金繰りが苦しくなると思います。

企画から納品、入金まで最大半年ほどかかるため、計画性が重要
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 昔と比べ、創業期を乗り越える手段が増えた

──桑原さんは現在、ロット自体も小さく抑えて、慎重に経営されていますよね。どのような狙いだったのでしょうか。

Foo Tokyo・桑原:
最終的には大きなアパレルブランドを目指しているとしても、最初は小さなロットで始めてファンを増やしていく戦略が現実的だと思ったのです。今では nutte さんなどのマッチングサービスを使えば、縫製も必要なロットだけ・適正な価格で取引できるんですよね。

nutte・伊藤:
はい。ブランドを立ち上げた経験から、どんな規模の企業でも在庫管理が大変になることは分かっていました。

今は業界の課題解決に使えるサービスが増えましたし、アパレル業界も大きく変わりました。10 年前に比べると、ブランドを立ち上げてから生き残れる確率は上がっていると思います。桑原さんが “D2Cモデル”(商品を百貨店などに卸すのではなく、顧客に直接販売すること)でやっているように、今はインターネットで商品を売ることもできる。だから、創業期に無理して展示会をやる必要も、店舗を構える必要もなくなりました。

Foo Tokyo・桑原:
当社もまだ実店舗は構えていないのですが、柔軟な意思決定がしやすいことはメリットですね。
最初は自分のためのルームウェアとして商品を企画したのですが、いざブランドデビューしてみるとギフトや御祝品として使われることも多いという嬉しい驚きがありました。そこで「次の施策としてギフトボックスの強化をしよう」と考え、すぐに実行できましたが、もし店舗を構えて大規模に宣伝・生産していたら難しかったと思います。

nutte・伊藤:
最初からフルアイテムを売る必要はないし、ニッチなところから始めるほうがいいのかなと。特に今は、ストーリーを伝えやすい時代ですよね。先に何かの物語から入っていって、Instagram や note のフォロワーが増えてから商品を売っていくこともできる。極論ですが、コアなフォロワーが 1,000 人もいれば、創業期は十分に経営できると思います。

当社は今年から「teshioni」というインフルエンサー向けのブランド立ち上げサービスも始めたのですが、実際に Instagram で集客をしています。すると熱心なファンの方が買ってくださるので、発表と同時に100〜200着が完売しますよ。

会計士・野口:
それだけのファンが継続的に買ってくだされば、次のシーズンには進めますね。

nutte・伊藤:
だから、アパレル企業の創業期の戦略は両極端になってきた印象があります。資金のある企業が大規模に始めるか、個人事業主に近い規模でやるか。その中間の規模だと、創業期を乗り越えるのは難しいのではないかと思います。

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Foo Tokyo桑原さん

Foo Tokyo・桑原:
わかります。そして小さく始めた事業者が規模を拡大していく段階になると、ロットの調整が大切になってきそうですね。生産ロットを増やすことでコストダウンができることは確かなので、当社も今後うまくバランスを見極める必要があるとは思っています。


経営が難しい分、アパレルの仕事には「夢」がある

──今の桑原さんのように生地屋と工場に直接発注して、自社で宣伝・販売もするとなると、経営者としては仕事が多くて大変そうですね。

Foo Tokyo・桑原:
アパレルブランドを大きく育てるには、「こうすれば上手くいく」という方法はまだないと思っています。D2C 自体も昔からあるビジネスの一手法ですし、今は全方位的にチャレンジしながら、経営が安定するビジネスモデルを模索している段階です。

nutte・伊藤:
でも、生産管理だけでもキツいですよね。

Foo Tokyo・桑原:
生産管理だけでキツいです。

一同:
(笑)

nutte・伊藤:
商社と取引をすれば生地は手配してもらえますし、商品を売る努力もしなくていいのかもしれないですね。ただ、それでは夢がないと思います。

Foo Tokyo・桑原:
そもそも私がアパレルからブランド創りをしている理由も「自分が伝えたい世界観を表現しやすい」からです。化粧品などに比べてもビジュアルで訴求しやすいと感じています。

会計士・野口:
D2C モデルだと仲介企業へのマージンがかからない分、製品の原価は多くかけられますよね。

Foo Tokyo・桑原:
そうですね。上質な生地はそれなりのお値段がします。ただ、触っていただいたときは直感的に「すごく良い」と感じていただけます。それが自分のやりがいでもありますし、将来的に他のブランドさんと差別化できるポイントにもなってきます。

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nutte・伊藤:
今 nutte で縫製職人さんに仕事を発注してくださるのも、企業というよりは個人に近い方が多いです。そうなると職人さんはお客さんから感想を直接聞けるので、すごく喜んでくださっています。

Foo Tokyo・桑原:
日本のベテランの縫製職人さん方は、技術力がとても高いですよね。仕事がなくなってしまったり、安く買い叩かれてしまったりという現状は本当にもったいないと思います。

私たちのようなアパレル企業がそうやってチャレンジすることが、微力ながら職人さんたちへの恩返しにもなるのではないかと信じて頑張っていきたいです。

──やりがいと経営のバランスを取ることも難しそうですね。今後も “すごく良い” をつくる仕事を頑張ってください!

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執筆:Hiroaki Takahashi
富山県高岡市出身。地方国立大学の工学部から音楽業界を経て、複数の IT 系事業会社にてマーケティングとクリエイティブの境界を消しながら "PR Editor (ディレクター)" として働く。「21 世紀における Public Relation とは、オープンソースの情報の塊である」という思想のもと、Web サイト・メディア、LP・SNS 広告、動画、プレゼン資料などの企画・制作業務を通して企業ブランドを編集する。
web ・blog ・所属

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