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2019年06月18日(火)

『経営に役立つ“管理会計”』第四回:このまま進んでOKですか?

経営ハッカー編集部
『経営に役立つ“管理会計”』第四回:このまま進んでOKですか?

皆さま、こんにちは、公認会計士・税理士の矢野です。この連載では、経営者の皆さまと、「経営に役立つ“管理会計”」について考えていきます。
第1回目は、「経営に役立つ“管理会計”」の大前提が「PDCAサイクルを回すこと」ということをお伝えしました。
第2回目は、PDCAサイクルの“P”を深掘りし、「経営者の方が自信を持って経営判断を下すため」の“計画”についてお伝えし、前回の第3回目は、掲げた計画を達成するためにはどんなことが必要か、“D”と“C”に焦点を当ててお伝えしました。
第4回目となる今回は、チェック(“C”)で現在地を確認した次のアクション(“A”)について考えていきたいと思います。

1.計画通りに進んでいなかったら?

前回の記事では、“カーナビ”は、常に現在地を把握でき、例え予定順路を外れたとしても、すぐに次の順路を提案してくれるから便利だ、ということをお伝えしました。

経営においても、計画通りに物事が進んでいない場合には、何らかの対応が必要になります。当初の計画から外れてしまっている状況で、計画した行動のみを実行し続けても、描いていた目標を達成することは難しいでしょう。
ここで、仮に計画通りに進んでいない場合に取り得る対応にはどのようなものがあるでしょうか?

私は、大きく分けて2つの対応策があると考えています。
一つは、「目標を変えずに、当初の目標を目指し続ける」方法。もう一つは「別の目標を設定する方法」です。

以下では、飲食店TSUBAME-BARをモデルケースとして、アクションの例を考えてみたいと思います。当初、TSUBAME-BARは以下のような計画を描いていました。年間の売上高目標は3,000万円、利益目標は700万円です。この計画を題材に、今回のテーマ、アクション(“A”)について考えてみたいと思います。

(単位:万円) 3月末累計 6月末累計 9月末累計 12月末累計
売上高 750 1,500 2,250 3,000
売上原価(変動費) 225 450 675 900
粗利益 525 1,050 1,575 2,100
販管費(固定費) 350 700 1,050 1,400
営業利益 175 350 525 700
客単価(円) 5,000 5,000 5,000 5,000
来客数(人)累計 1,500 3,000 4,500 6,000
原価率 30% 30% 30% 30%

 

2.当初の目的地を目指し続ける

6月の営業も終了し、半期の状況を確認すると、売上高は1,336万円、利益は236万円でした。
目標とする売上高1,500万円、利益350万円には到達していません。分析すると、どうやら、客単価が目標よりも500円低かったことが主な要因のようです。

6月末累計(単位:万円) 計画 実績 差額
売上高 1,500 1,336 -164
売上原価(変動費) 450 400 -50
粗利益 1,050 936 -114
販管費(固定費) 700 700 0
営業利益 350 236 -114
客単価(円) 5,000 4,500 -500
来客数(人)累計 3,000 2,970 -30
原価率 30% 30% 0

もし、このままのペースで1年が終了したとしたら、どのような経営成績になるでしょうか。売上高予想は2,673万円、利益予想が472万円となり、利益が当初見込みの30%以上も下回ることが想定されます。

12月末累計(単位:万円) 計画 見込み 差額
売上高 3,000 2,673 -327
売上原価(変動費) 900 801 -99
粗利益 2,100 1,872 -228
販管費(固定費) 1,400 1,400 0
営業利益 700 472 -228
客単価(円) 5,000 4,500 -500
来客数(人)累計 6,000 5,940 -60
原価率 30% 30% 0

ここまでの現状確認が、PDCAサイクルのうちの“P→D→C”です。では、この先、TSUBAME-BARはどのようなアクション(“A”)がとれるでしょうか?
もちろん、「目標に到達してないな。来月からはもっとがむしゃらに頑張ろう!」では目標達成の可能性は低いですし、従業員も疲弊してしまいますので、もう少し具体的に考えてみましょう。

当初の利益目標700万円が必達、原価率、固定費の計画は変更無し、追加で販管費200万円の予算を投じて何らかの対策を計るとした場合、下期に必要な売上は1,950万円、利益は464万円です。

(単位:万円)
6月末
実績

12月末
当初計画

12月末
修正計画
Ⓒ-Ⓐ
差額
売上高 1,336 3,000 3,286 1,950
売上原価(変動費) 400 900 986 586
粗利益 936 2,100 2,300 1,364
販管費(固定費) 700 1,400 1,600 900
営業利益 236 700 700 464

では、この下期売上1,950万円を達成するためにはどのようなアクションが考えられるでしょうか。
例えば、下期の来客数目標を当初の3,000人から変更なしとした「単価UP」策をとる場合には、客単価を6,500円に高める必要があります。一方で、客単価は現状の4,500円と見込んだ場合、下期に必要な来客数は4,333人となります。
また、客単価目標を5,500円とした場合には、必要来客数は3,545人と計算できます。

  単価UP 客数UP 両方UP
売上高(万円) 1,950 1,950 1,950
客単価(円) 6,500 4,500 5,500
来客数(人)累計 3,000 4,333 3,545

「来客数増加を狙って新たな媒体で広告を出す」、「従業員に対しマナー研修を行い、顧客満足度を高め、客単価アップを目指す」など、目的によって打ち出せる対策は様々ですが、より効果的なアクションとするためには、何のためにどうするか、といった具体的イメージが必要です。
例え、当初の予定通りに進捗していなかったとしても、このような具体的数値目標のあるアクションを打ち出すことで、がむしゃらに頑張るよりも、リカバリーできる可能性が高まります。
客数を増やす施策と、客単価を高める施策と、よくよく考えると必要なアクションは異なってくるものです。客単価アップを狙うべきなのに、なぜか焦って不用意な値下げ策に走ってしまうなど、目的と手段が矛盾しないようにしましょう。

3.目的地を変更する

さて、PDCAサイクルの“A”、アクションですが、当初の目標を変更する、というのも一つの策です。このままでは目標に到達できない、何らかの対策を打とうとしても現実的に無理がある。
そんなときには、目標を下方修正するのが得策、という場合もあります。

12月末累計/見込
(単位:万円)

計画

対策なし

目標変更
Ⓒ-Ⓑ
差額
売上高 3,000 2,673 2,821 148
売上原価(変動費) 900 801 846 45
粗利益 2,100 1,872 1,975 103
販管費(固定費) 1,400 1,400 1,400 0
営業利益 700 472 575 103
客単価(円) 5,000 4,500 4,750 250
来客数(人)累計 6,000 5,940 5,940 0
原価率 30% 30% 30% 0

例えば、現状のペースで何も対策を打たないときの見込み営業利益が472万円(上記Ⓑ)なのに対し、接客の工夫をして、客単価を250円だけアップさせる取り組みをするとした場合には、営業利益見込が575万円までアップします。
目標を営業利益575万円に修正し、そのための手段として、「客単価250円アップの接客」というアクションを掲げることで、比較的無理のない形で、現状よりは状況が改善できる、という想定です。
目標の修正をする場合においても、何をどれくらい頑張るか、というアクションベースにまで落とし込んで対策を練りましょう。

私も、小規模なPDCAになりますが、100人の集客を目標としていたイベントが、どう頑張っても50人が限界、という状況がありました。このとき、目標をそもそも50人に修正し、ひとりひとりの満足度を高めるイベントにできるような取り組みに残りの時間を割くようにした結果、イベントにご満足頂けて、その後のつながりも深まった、という経験をし、当初目標に固執しないことの大切さを実感しました。

当初目標を下方修正することは、なかなか心理的ハードルの高いことかもしれませんが、PDCAのAとして、当初目標を達成するためのアクションだけではなく、状況に応じ、目標を修正して、それを達成するためのアクションを考えることにもチャレンジしてみてください。


さて、今回の記事はいかがでしたでしょうか?目標は一度立てて終わりではなく、常に現在地と目標とのギャップを把握し、必要があれば対策を打つ、というのがPDCAサイクルであり、そのための情報を整えるのが“経営に役立つ管理会計”です。
私がおすすめするクラウド会計freeeは、必要な情報がリアルタイムに集められ、いつでも経営者が意思決定できるようなプラットフォームになることを目指す「リアルタイム経営ナビゲーター」という思想のもとに開発が進められています。
その中でも、プロフェッショナルプランには、今回の連載で扱っているような管理会計機能が実装されており、今後ますます使いやすくなっていきます。このような便利なツールを利用して、皆さまの思い描く目標を達成していただければ幸いです。

執筆者:矢野裕紀(やの ゆうき)

公認会計士・税理士

矢野会計事務所/代表
つながるサポート株式会社/代表取締役

矢野会計事務所では、クラウド会計freee活用支援を主軸に、“数字や仕組み”でお客さまの目標達成をサポート。つなサポでは、~1/1のひとつなぎ~をテーマに、“場づくりやひとつなぎ”を提供。

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