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2019年07月11日(木)

健康経営とは?企業が従業員の健康維持・増進にかかわるメリットについて解説

経営ハッカー編集部
健康経営とは?企業が従業員の健康維持・増進にかかわるメリットについて解説

「人生100年時代」と言われる昨今では、今までよりも長い時間を会社で過ごす人も数多く出てくると予想されます。長く働き続けるためには、健康に毎日を過ごせることが何よりも大切です。また、近年問題視されている労働生産性の向上には、従業員の健康が不可欠となっているため、企業も無関心ではいられなくなっています。そこで今回は、近年注目の集まる健康経営について解説します。

従業員が活き活きと働ける職場環境づくりに欠かせない健康経営とは

従業員が健康で働くためには、食生活や運動などの生活習慣だけでなく、働きやすい職場環境づくりも必要となります。職場環境を変えるには、経営者自らがその必要性を自覚し、積極的に働きかけることが大切です。
 

健康経営とは

健康経営とは、企業が従業員の健康を重要な経営課題のひとつとして捉え、従業員の健康維持・増進を戦略的に実践することです。そうすることで従業員のパフォーマンスを改善し、労働生産性を高め、ひいては社内の活性化や企業価値の向上につながります。
 

健康経営の目的

健康経営の目的は、従業員の健康保持・健康増進です。人材不足にあえぐ企業が多い中、従業員の健康状態が良くなければパフォーマンスを最大限発揮することができず、労働生産性の低下につながります。またその影響が長時間労働などの形で周りの従業員にもおよび、人材の確保も困難になるかもしれません。そのため、健康経営を行うことは組織を活性化させて生産性をアップさせるためには必要不可欠なのです。
 

健康経営は「コスト」ではなく「投資」

従来、従業員の健康維持・増進に取り組むことは企業にとってコストだと考えられていました。しかし、それらに取り組むことによって、企業イメージや労働生産性の向上といったメリットが生じることを考えると、従業員の健康維持・増進に会社の経費を使うことは、「投資」であると考えられるようになってきたのです。
 

健康経営が重視されるようになった背景

昨今では大手企業を中心に健康経営に取り組む企業が増えてきましたが、そもそも健康経営が重視されるようになった経緯はどういったものがあるのでしょうか。
 

企業の医療費負担の増大

日本の人口は2010年頃から減少を続けているにもかかわらず、高齢化が進み医療費が増加の一途をたどっています。赤字経営の健康保険組合も全体の6割以上を占め、2019年度における経常赤字は986億円にものぼります。今後団塊の世代が75歳を迎える2022年ごろからは、健保組合からの拠出金は約5000億円増加するだろうと予想されています。(※)
 
※参考:健康保険組合連合会「2019年度 健康保険組合予算早期集計結果と「2022年危機」に向けた見通し等について」pp.2-3
 

プレゼンティズム・アブセンティズムによる労働生産性の低下

プレゼンティズムやアブセンティズムによる労働生産性の低下も、見過ごせない要素です。プレゼンティイズムとは、出勤してはいるものの、肩こりや花粉症などなんらかの心身の不調を抱えており、パフォーマンスを十分に発揮できていないことを示す言葉です。また、アブセンティズムとは、病気等により欠勤状態となっている状態のことを指します。これらが労働生産性の低下の一因となっていることも、健康経営に関心を持つ企業が増えた理由です。
 

リスクマネジメントにもなる

従業員が不健康な状態で業務にあたっていると、注意力散漫になってケガをすることも考えられます。それらのケガや病気が発生すれば、労災問題に発展する上に、労働安全衛生法上何か問題があったのではないかと世間から疑われ、企業イメージの低下を招く可能性もあります。健康経営は、そういったリスクを防ぐリスクマネジメントとしての役割も果たすのです。
 

健康経営を普及促進する経済産業省の取り組み

国も健康経営を積極的に行う企業を支援しようと、さまざまな策を講じています。その中で特にメリットが大きいものが、「健康経営優良法人」や「健康経営銘柄」の認定制度です。
 

「健康経営優良法人」認定制度

 健康経営優良法人認定制度とは、従業員の健康管理を経営的な視点でとらえて戦略的に取り組んでいる企業に対し、経済産業省が認定を行うものです。2019年は、「健康経営優良法人2019」として、大規模法人部門に821法人、中小規模法人部門に2503法人が認定されました。
 

健康経営優良法人に認定されるメリット

健康経営優良法人に認定された企業では、従業員の健康に対する意識が向上、社内コミュニケーションの活性化、有給取得率アップや時間外労働時間の減少などの効果が見られました。さらに、企業イメージも向上し、他社からヒアリングの依頼や講演、取材依頼が増加しました。
 

健康経営銘柄の選定

健康経営銘柄とは、東京証券取引所上場企業における健康経営度の上位20%から経済産業省と東京証券取引所が共同で選定するものです。平成31年2月21日、健康経営アワードで、「健康経営銘柄2019」が発表され、28業種37社が健康経営銘柄に選定されました。増えている業種は、電気機器、情報通信、保険といった分野となっています。エントリー企業自体は前年対比で1,239社から1,800社に増えており、トップが最高責任者となっている比率が10%アップ、目的、体制、取り組み内容を公開する企業が9%アップと内容が充実してきています。
 

企業が健康経営を取り入れる4つのメリット

従業員にとって、会社は1日の大部分を過ごす場所です。企業が健康経営を取り入れるには手間も費用もかかりますが、そこにリソースを投入することでさまざまなメリットがあります。ここでは、主要なメリットを4つご紹介します。
 

労働生産性の向上

企業が健康経営に力を入れることで、従業員の欠勤率低下やプレゼンティズムの解消により、労働生産性が向上します。2011年のRachel M. Henkeらの論文によれば、ジョンソン・エンド・ジョンソンで従業員を対象に健康促進プログラムを実施したところ、労働生産性の向上などにより1ドルの費用あたり$1.88~$3.92ドルのリターンがあることがわかりました(※)。
 
※:Rachel M. Henke, Ron Z. Goetzel, Janice McHugh, and Fik Isaac ‘Recent Experience In Health Promotion At Johnson & Johnson: Lower Health Spending, Strong Return On Investment’” Health Affairs”
 

医療費の企業負担の軽減

従業員が健康になれば、その分医療費も削減できます。経済産業省の資料によれば、土木建築業種の大企業23社で健康経営度調査と過去3年分の健診・レセプトデータを突き合わせて調べると、年間医療費平均や各種リスクの割合が高スコア群が低スコア群を下回る結果となっています。(※)
 
※:経済産業省ヘルスケア産業課「健康経営の推進について」pp.15
 

優秀な人材獲得への期待

従業員の健康に配慮した経営活動を行っていると、優秀な人材が集まるようになります。経済産業省の調査によれば、就活生や就職を控えた学生を持つ親が就職先に臨む勤務条件として、「従業員の健康や働き方に配慮している」と回答した割合が、学生で43.8%、親で49.6%に達しました。親の回答では第1位となりました(※)。
 
※:前掲資料 pp.16
 

株式市場での評価が上がり、ESG投資も呼び込める

健康経営は、企業におけるESG課題に対応する活動のひとつであるともいえます。現在、ESG投資に対する認知度が世界中で上がっており、財務情報だけでなく非財務情報や事業環境などを評価して投資を行う機関投資家も国内外問わず増えています。ESG投資は通常の投資に比べ、高いリターンが得られることが特徴です。経済産業省の調査によれば、2005年1月末から2015年1月末にかけて、健康経営銘柄に選定された企業の株価がTOPIXと比較して優位に推移していることがわかっています。(※)
 
※:経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課「企業の『健康経営』ガイドブック
~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版)
」pp.4
 

健康経営のために企業がすべき4つのこと

健康経営を実践するために企業は何をすべきなのでしょうか。ここでは、企業がすべき4つのことを解説します。
 

健康経営を行うことを社内外に宣言する

「健康経営を始めよう」と経営者が思っていても、人任せにしていてはなかなか実践に移すことができないでしょう。そのため、まずは経営者自らが「わが社で健康経営をする」と社内に宣言し、リーダーシップをもって取り組んでいく姿勢を見せることが重要です。同時に、取引先などの社外にも健康経営が円滑に進むよう協力を要請しておきましょう。
 

組織体制づくり
 

次に、健康経営を効率的に実行できる組織体制を構築します。できれば、健康経営を統括する専門部署を設ける、総務部や人事部に専任者を置くなどして対応するのが望ましいでしょう。また、担当者には専門の資格を取らせる、健康経営に関する研修を行うなども必要です。企業の規模が大きくなるほど、社内のリソースだけで従業員の健康を維持・管理することは難しくなるため、産業医や管理栄養士、保健師など外部の人材とも連携するほうがよいでしょう。
 

制度・施策の実行
 

組織体制が整ったら、従業員の健康維持・管理のために必要な制度を構築し、施策を実行に移していきます。具体的な施策としては、健康保険組合(保険者)の持つ健診のデータを健康増進に活用する、従業員のヘルスリテラシー(自ら必要な健康に関する知識を調べて効果的に利用する術)を向上させるなどが期待されます。また、健康保険組合や産業医、管理栄養士等とともに従業員の健康維持・管理を行う「コラボヘルス」にも積極的に取り組むべきでしょう。
 

取り組みの評価

健康経営への取り組みについて、制度や施策を実行した後は、忘れずに振り返りや評価を行いましょう。制度や施策が従業員の体調やプレゼンティズム・アブセンティズムにどのような影響をもたらしたか、またモチベーションやコミュニケーションの活性度はどうだったかなどをきちんと評価することが大切です。反省点があれば次なる施策に生かせるよう、PDCAサイクルをしっかり回していけるようにしましょう。
 

健康経営に向けた企業の取り組み事例

ここでは、健康経営優良法人や健康経営銘柄に選ばれた企業が健康経営に関して行っている取り組みについて紹介します。
 

KA・RA・DAいきいきプロジェクト~Healthy Lifestyle~

大和証券グループ本社では、CHO(チーフ・ヘルス・オフィサー)主催の「健康経営推進会議」を開催し、健康経営におけるPDCAの確認を行っています。また、2008年度には人事部・総合健康開発センター・健保組合が三者一体となった体制を構築しました。具体的な取り組みとしては、従業員の健康意識向上を目的に、健康増進イベントを実施。参加者には健康関連グッズや慈善団体への寄付に利用できるポイントを付与しています。ほか、女性の健康やがん患者の支援にも力を入れています。
 

「健康推進センター」を社長直轄組織として設置

ローソングループでは、社長自らがCHOに就任し、健康経営を強化・牽引しています。また、専門スタッフを有する健康推進センターを社長直轄組織として設置したり、産業医や健康保険組合理事長をCHO補佐に選任するなど組織体制づくりにも力を入れたりしています。身体だけでなく心の健康も増進するためにメンタルヘルスe-learningを全員実施したり、健康大運動会などのスポーツイベントも施策として行っていたりします。
 

健康増進のための「ヘルスマチャレンジ」

サントリーでは、「ヘルスマチャレンジ」と称して、社内で行うウォーキングイベントやラジオ体操などに参加した従業員にポイントを付与し、賞品と交換できる仕組み作りをしています。また、一部の拠点にマッサージ師による施術が受けられるヘルスケアルームを設置し、健康改善やリフレッシュに利用されています。また、病気の治療を受ける際には、失効年休を利用した特別休業を取得したり、差額ベッド代やがん先進医療費の補助も受けたりできるようになっています。
 

まとめ

従業員の健康は、企業の業績やブランドイメージだけでなく、採用活動や資金調達にも直結します。近年は投資家のほか、企業を取り巻くステークホルダー全体が企業の経営姿勢に注目しているため、健康経営への取り組みが今後ますます重要になってくるでしょう。

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