地元長野県でデザインの仕事を長く続けたいからこそ、勇気を持ってクラウド活用に踏み切りました——水野図案室合同会社
長野県上田市でデザイン事務所を経営する水野佳史さん。生まれ故郷の地でデザイナーとして活躍しつつも、バックオフィス業務や会社経営には課題を感じていたそうです。
ひとりで仕事をするデザイナーは経営に関して相談する相手がおらず、改善の手を打てないまま悩んでいる方も多いのが現状。水野さんもまた、その悩みを抱えるうちの一人でした。
今回は、クラウド活用に踏み切って業務を改善した水野さんが「少しでも同業の方の助けになれば」ということで、その経緯や導入による変化についてお話ししてくれました。
水野さん「上田市で、デザイン事務所『水野図案室合同会社』を経営しています。もともと個人事業主でしたが、2017年に法人化してからは、従業員1名とともにさまざまなデザインを手がけています。
デザイナーは名刺ひとつのデザインからブランディングまで、幅広い分野にかかわるお仕事。これまで10年以上続けてこられたのは、その自由さがあったからだと思います」
父に抱いた尊敬の念、経営者としての問題意識
広告デザイナーだった父の背中を見て育ったことが、自分のキャリアの原点になったと語る水野さん。意識したわけではなかったものの、気がつくとデザインの仕事をしたいと思うようになっていたのだとか。その一方で、会社経営においては課題を感じていたそうです。
「デザインをしている最中は、大変ながらとても楽しい時間ですし、起業してからは父に対する尊敬の思いも強く感じるようになりました。ただ、思い返すと父は、デザインは得意でもバックオフィス、労務や採用といった仕事は苦手。それが職人というものかもしれませんが、私自身の会社では『もっとできることがあるんじゃないか』と思っていました。
そういう意識があったからこそ、法人化を期に『もっとお金の管理や給与計算の体制をしっかりさせないと』と考えて、クラウド会計ソフトfreeeと人事労務freeeを導入することにしました」
経営数字を追いきれなかった、個人事業主時代
水野さんにインタビューする「つづく株式会社」の代表、井領明広氏。今ではクラウドを活用している水野さんですが、事業を法人化する前は経理・会計まで手が回らず、デザイン業務に割く時間が圧迫されながらも手を打つことができなかったといいます。
「正直、個人事業主時代は経営数字を見きれていませんでした。通帳の残高を見て「お、大丈夫だ...…」と安堵したりする程度。今では笑い話ですが、エクセルも苦手で請求書を1枚ずつ画像編集ソフトで作成してたんです。このままでは良くないと思いながら、対策が打てませんでした」
「しかし、相談先もなかった。デザイナー業界では、周りがどのように経営を行っているかとか、どんなシステムを使っているかなど、経営に関して情報共有するチャンスはほとんどありません。専門的なデザインの仕事はできるのだけど、意識がバックオフィスの仕事まで向けられない。
経営をわかっていなかったため、ひとりで抱え込んで悩む日々が続きました。個人事業主向けのさまざまなクラウドサービスの存在は知っていたのですが、どうしたらいいかもわからなかったんです」
そんな水野さんの悩みを解決するきっかけとなったのは、クラウド活用に関するセミナーへの参加でした。
クラウドを活用して組織づくりにチャレンジ
「たまたま参加した、つづく株式会社(上田市)のセミナーでクラウド会計・給与計算ソフトのことを聞きました。もっと人を育てて、安定した組織づくりをしたいと考えていた私にとって、ちょうど聞きたかった内容でした。
印象的だったのは、確定申告や決算のために会計ソフトがあるのではなく、日々のお金や数字の把握、経営のためのソフトなんだという観点です。たしかに、クラウド会計を使う前と今で比べると、以前より経営の数字が見え、指針を立てやすくなっています。法人化と同時に、経営のしくみづくりにチャレンジしよう。そう、考えました」
請求書の作成から入金管理まで自動化
請求書管理や従業員の給与計算などが効率化されたこうしてクラウド活用をはじめた水野さん。具体的に、なにが、どのように改善したのでしょうか?
「まず効果があったのが、請求書関係です。
デザイナーはプロジェクト単位で動くことが多く、定期的に請求書を作成します。手作業で作成・送付していたときは請求後の入金もれなどに気がつきませんでしたが、今では顧客から入金され次第、自動チェックされていて、驚いています。お金の心配をしなくていいので、デザイン業務に専念できています。
銀行についてもジャパンネット銀行の口座をfreeeと連携しているため、お金の状況もリアルタイムで把握できます。また、ジャパンネット銀行のデビットカードも利用していて、経費を使ったらすぐに会計ソフトに記録できる点も大きなメリットです」
給与・労務が整い、ようやく採用に踏み出せるように
「それと、非常に助かっているのが給与計算。保険料や税金のような難しい計算も、今ではすべて自動集計なんです。振込までほとんど手間がかかりません。法人化前の管理体制では雇用に不安があたのですが、給与計算や保険関係がきちんとできることで、胸を張って採用ができるようになり、次の目標に向かって踏み出す勇気をもらっています。
税理士さんとも契約し、クラウドで遠隔でサポートしてもらっています。今までよりもぐっと安心してデザイン業務に集中できるようになりました」
管理体制をより強固に、会社を充実させていきたい
長野県上田市にあるデザイン事務所「水野図案室」インタビューの最後に、クラウド活用をはじめて感じたことや経営者に伝えたいことを水野さんに聞きました。
「デザイナーをはじめ専門職の方はその仕事に長けてはいますが、経営にまで手が回らないことも多いと思います。やり方もわからず、相談相手もいないまま孤立することもあるかもしれません。であれば、依頼してでも社内に体制を作ったほうがよいと思います。
私の場合は、バックオフィスの体制が整ったことで、図案室を引っ張っていってくれる人材の採用と育成に専念できるようになりました。これから先、人を育て、自分が不在でも成長する水野図案室を育てていきたい。自分の手を離れても育つ永続的な図案室を、未来に描いています」
バックオフィスを効率化して、価値あるものを生み出す経営を
デザイナーに限らず専門性の高い職種で起業すると、バックオフィス業務に時間を取られ、本業に影響をきたすことも少なくありません。とはいえ、会計や給与などの事務作業は、商売をする以上避けて通れない道です。クラウド活用にできるのは、その悩みを解消して本当に打ち込みたい仕事に専念できる環境をつくること。水野さんのインタビューから、これからの時代における経営管理のあり方を学ぶことができました。
【水野図案室合同会社】
〒386-0024 長野県上田市大手2-2-27 26ビルヂング 2F info@zuanshitsu.jp
水野 佳史(みずの よしふみ)
長野県上田市生まれ。日本大学芸術学部卒業後、廣村デザイン事務所入社。個人事業主として水野図案室設立し、2017年に法人化。現在、水野図案室合同会社 代表。
井領 明広(いりょう あきひろ)
早稲田大学 商学部 卒業。株式会社NTTデータイントラマートにて、金融・製造業向けシステムコンサルティングに従事。後に、freee(フリー)株式会社にてクラウドサービスの導入支援コンサルタントを経験。現在、長野県 上田市で、中小企業のクラウド化・業務自動化支援を行う「つづく株式会社」を経営。