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2019年08月17日(土)

デジタルトランスフォーメーションとは?-デジタルトランスフォーメーションの全体像と活用方法

経営ハッカー編集部
デジタルトランスフォーメーションとは?-デジタルトランスフォーメーションの全体像と活用方法

近年、デジタルトランスフォーメーション(略称DX)という言葉を良く聞くようになりました。デジタルトランスフォーメーションとは「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」ということを指すと言われています。未来の変化のトレンドを描くデジタルトランスフォーメーションとは、いったいどのようなものなのか内容を見ていきましょう。

デジタルトランスフォーメーションの概要

デジタルトランスフォーメーションとは

デジタルトランスフォーメーションは、ITのさらなる進化形態として登場してきている「IoT」「AI」「DB」「RAP活用」等のデジタルテクノロジーを駆使し、ビジネス等を変革することです。様々な企業・各種団体、個人、デバイス・設備等がつながり、新たなや製品・サービスを創出させる。そして、付加価値や生産性を増大させ、ビジネスモデル自体を変革を遂げ、人々の暮らしや社会のあり方を変化させていくものと言われます。

さて、このデジタルトランスフォーメンションを「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と定義したのは、2004年、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によるものでした。 エリック・ストルターマン教授はデジタルトランスフォーメーションの特性として、

・デジタルトランスフォーメーションにより、ITと現実が徐々に融合して結びついていく変化が起こる。

・デジタルオブジェクトが物理的現実の基本的な素材になる。例えば、設計されたオブジェクトが、人間が自分の環境や行動の変化についてネットワークを介して知らせる能力を持つ。

・課題として、情報システム研究者が、社会的に有益な立場で、より本質的な情報技術研究のためのアプローチ、方法、技術を開発する必要がある。

といった点をあげています。

http://www8.informatik.umu.se/~acroon/Publikationer%20Anna/Stolterman.pdf

エリック・ストルターマン教授の定義は、具体的な取り組みよりも将来の科学者の研究ビジョンを示したものでした。しかし、この提唱を受けて様々な機関、企業がデジタルトランスフォーメーションを定義し、実装すべく取り組みが進められることになりました。ベンダーやコンサルティング会社などが具体的にトランスフォーメーションをブレイクダウンしていく中で、デジタルトランスフォーメーションのコンセプトを提言者として、エリック・ストルターマン教授の認知度も高まっていったようです。

デジタルトランスフォーメーションの背景や今後のインパクト

今後IT化がますます進展し、社会もビジネス界もITの活用が前提であり不可欠となっています。先進のITとビジネスモデルを武器に既存のビジネス常識を覆し、急成長する「ゲームチェンジャー」が台頭する一方、ITを活用しつつも、導入したIT資産の陳腐化、過剰な複雑化、ブラックボックス化に見舞われ、競争に後れをとる企業も出てきます。そのような状況下で、社会全体、企業全体において、改めてITの活用のあり方や実践が本質的に問われています。デジタルトランスフォーメーションはそのような課題に対する指針としても位置づけられています。
 
デジタルトランスフォーメーションへの取り組みが進む中、デジタルトランスフォーメーションがもたらすインパクトが具体的に予想されるようになっています。例えばマイクロソフトとIDC Asia/Pacificは、アジア15ヵ国・地域の1,560人のビジネス意思決定者を対象としたデジタルトランスフォーメーションに関する調査“Unlocking the Economic Impact of Digital Transformation in Asiaを実施しており、2018年2月に日本マイクロソフト株式会社から結果が公表されています。
この調査のポイントは以下のとおりです。
 
・2021年までに日本のGDP(国内総生産)の約50%をデジタル製品やデジタルサービスが占めると予測

・2021年までにデジタルトランスフォーメーションはGDPのCAGR(年平均成長率)を0.4%増加すると予測

・デジタルトランスフォーメーションは利益率向上、コスト削減、生産性向上、生産・運用時間の短縮、顧客獲得時間の短縮を実現し、3年間で約80%向上する見通し

・デジタルトランスフォーメーションの「リーディングカンパニー」は、「フォロワー」と比較して2倍の恩恵を享受

・デジタルトランスフォーメーションは最終的によりスマートで安全な都市とヘルスケアの向上を実現し、国民に利益をもたらす
 
この調査結果では、アジア経済全体において、デジタルトランスフォーメーションが劇的に加速することを予測、デジタルトランスフォーメーションは2021年までに、日本のGDPを約11兆円、年間成長率を0.4%増加させると推測されることに加え、2017年には、GDPに占める割合は約8%に過ぎなかったモバイル、IoT(モノのインターネット)およびAI(人工知能)といったデジタルテクノロジーを直接活用した製品やサービスが、2021年までに6倍以上、約50%までに到達すると予測しています。 
 
https://aka.ms/DTinAsia
https://news.microsoft.com/ja-jp/2018/02/20/180220-idc-digital-transformation-asia/
 
デジタルトランスフォーメーションが進展することにより、経済的なメリットも大きなものとなることが想定されてきています。大きなビジネスチャンスとして認識が高まってきており、ベンダーの経営戦略、営業戦略への取り込みが一層、本格化していくことでしょう。

デジタルトランスフォーメーションにかかる政府の動き

一方政府においてもこの流れを政策に取り込もうとしています。本分野の直接的な所管は、総務省と経済産業省になります。

総務省のデジタルトランスフォーメーションのイメージ

我が国の情報通信政策を推進する総務省では、産業界のみならず社会全体での情報通信技術の活用と最適化を考慮しデジタルトランスフォーメーションをとらえています。同省の平成30年版の「情報通信白書」でデジタルトランスフォーメーションに言及、現在はデジタルトランスフォーメーションが進みつつある時代にあるとし、「この変化は段階を経て社会に浸透し、大きな影響を及ぼすこととなる。まず、インフラ、制度、組織、生産方法など従来の社会・経済システムに、AI、IoTなどのICTが導入される。次に、社会・経済システムはそれらICTを活用できるように変革される。さらに、ICTの能力を最大限に引き出すことのできる新たな社会・経済システムが誕生することになろう。その結果としては、例えば、製造業が製品(モノ)から収集したデータを活用した新たなサービスを展開したり、自動化技術を活用した異業種との連携や異業種への進出をしたり、シェアリングサービスが普及して、モノを所有する社会から必要な時だけ利用する社会へ移行し、産業構造そのものが大きく変化していくことが予想される。」
と指摘しています。そして、これにより「特定の分野、組織内に閉じて部分的に最適化されていたシステムや制度等が社会全体にとって最適なものへと変貌する」と予想しています。


http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd102200.html

経済産業省のデジタルトランスフォーメーションへの取り組み

産業政策を通じ、日本企業の活性化を後押しする立場の経済産業省では、ユーザーとしての個別企業がデジタルトランスフォーメーションにどう取り組むべきか?デジタルトランスフォーメーションに対応すべくITシステムをどう革新すべきかを提唱しています。
 
同省は平成30年5月に「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置、平成30年9月に「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~』として報告書を公表しました。この報告書を踏まえ、平成30年12月に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」を取りまとめています。これによると、デジタルトランスフォーメーションの定義は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としており、その推進の骨子を「デジタルトランスフォーメーション推進のための経営のあり方、仕組み」「デジタルトランスフォーメーションを実現する上で基盤となるITシステムの構築」の二つにまとめています。
 
下記に同省の「デジタルトランスフォーメンション推進のためのガイドライン」で示されている推進のチェックポイントを紹介します。

<デジタルトランスフォーメーション推進のためのガイドライン>

1.デジタルトランスフォーメーション推進のための経営のあり方、仕組み

・経営戦略・ビジョンの提示

想定されるディスラプション(「⾮連続的(破壊的)イノベーション」)を念頭に、データとデジタル技術の活用によって、どの事業分野でどのような新たな価値(新ビジネス創出、即時性、コスト削減等)を生み出すことを目指すか、そのために、どのようなビジネスモデルを構築すべきかについての経営戦略やビジョンが提示できているか。

・経営トップのコミットメント

デジタルトランスフォーメーションを推進するに当たっては、ビジネスや仕事の仕方、組織・人事の仕組み、企業文化・風土そのものの変革が不可欠となる中、経営トップ自らがこれらの変革に強いコミットメントを持って取り組んでいるか。

・デジタルトランスフォーメーション推進のための体制整備

経営戦略やビジョンの実現と紐づけられた形で、経営層が各事業部門に対して、データやデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを構築する取組について、新しい挑戦を促し、かつ挑戦を継続できる環境を整えているか。

・投資等の意思決定のあり方

デジタルトランスフォーメーション推進のための投資等の意思決定において、

1.コストのみでなくビジネスに与えるプラスのインパクトを勘案して判断しているか。

2.他方、定量的なリターンやその確度を求めすぎて挑戦を阻害していないか。

3.投資をせず、デジタルトランスフォーメーションが実現できないことにより、デジタル化するマーケットから排除されるリスクを勘案しているか。

・デジタルトランスフォーメーションにより実現すべきもの:スピーディーな変化への対応力

ビジネスモデルの変革が、経営方針転換やグローバル展開等へのスピーディーな対応を可能とするものになっているか。

2.デジタルトランスフォーメーションを実現する上で基盤となるITシステムの構築体制

・全社的なITシステム構築のための体制

デジタルトランスフォーメーションの実行に際し、各事業部門におけるデータやデジタル技術の戦略的な活用を可能とする基盤と、それらを相互に連携できる全社的なITシステムを構築するための体制(組織や役割分担)が整っているか。

・全社的なITシステム構築に向けたガバナンス

デジタルトランスフォーメーションの実行に際し、各事業部門におけるデータやデジタル技術の戦略的な活用を可能とする基盤と、それらを相互に連携できる全社的なITシステムを構築するための体制(組織や役割分担)が整っているか。

・事業部門のオーナーシップと要件定義能力

各事業部門がオーナーシップを持ってデジタルトランスフォーメーションで実現したい事業企画・業務企画を自ら明確にしているか。さらに、ベンダー企業から自社のデジタルトランスフォーメーションに適した技術面を含めた提案を集め、そうした提案を自ら取捨選択し、それらを踏まえて各事業部門自らが要件定義を行い、完成責任までを担えているか。

・IT資産の分析・評価

IT資産の現状を分析・評価できているか。

・IT資産の仕分とプランニング

以下のような諸点を勘案し、IT資産の仕分けやどのようなITシステムに移行するかのプランニングができているか。
 
- バリューチェーンにおける強みや弱みを踏まえつつ、データやデジタル技術の活用によってビジネス環境の変化に対応して、迅速にビジネスモデルを変革できるようにすべき領域を定め、それに適したシステム環境を構築できるか
 
- 事業部門ごとにバラバラではなく、全社横断的なデータ活用を可能とする等、シス テム間連携のあり方を含め、全社最適となるようなシステム構成になっているか
 
- 競争領域とせざるを得ないものを精査した上で特定し、それ以外のものについては、協調領域(非競争領域)として、標準パッケージや業種ごとの共通プラットフォームを利用する等、競争領域へのリソースの重点配分を図っているか
 
- 経営環境の変化に対応して、ITシステムについても、廃棄すべきものはサンクコストとしてこれ以上コストをかけず、廃棄できているか 

- 全体として、技術的負債※の低減にも繋がっていくか

※IT システムの中には、短期的な観点で IT システムを開発し、結果として、長期的に運用費や保守費が高騰している 状態のものも多い。これは、本来不必要だった運用・保守費を支払い続けることを意味し、一種の負債ととらえること ができる。こうした負債は「技術的負債」(Technical Debt)と呼ばれている。

・刷新後のITシステム:変化への追従力

刷新後のITシステムには、新たなデジタル技術が導入され、ビジネスモデルの変化に迅速に追従できるようになっているか。また、ITシステムができたかどうかではなく、ビジネスがうまくいったかどうかで評価する仕組みとなっているか。

https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf

デジタルトランスフォーメーションとソサエティー5.0(Society 5.0)

日本政府が提唱するソサエティー5.0(Society 5.0)は、人類の歴史である狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続くものであり、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する新たな社会のコンセプトとなっています。一企業の取り組みに留まらず、社会全体に及ぶ変革を想定しており、人類社会の大きな潮流の転換を表す言葉であると言えます。デジタルトランスフォーメーションは、ソサエティー5.0(Society 5.0)の実現に不可欠であり、政府機関がデジタルトランスフォーメーションの後押しをするのはそのために他なりません。

企業のデジタルトランスフォーメーションの提唱例

クライアント企業に対してDXソリューションを提供するベンダー企業は、デジタルトランスフォーメーションを前提に各社それぞれのスタンスでユーザーに提案を行っています。下記に事例を紹介します。

マイクロソフト

同社では、企業がデジタルトランスフォーメーションにおける「リーディングカンパニー」になるための戦略として以下の点を推奨しています。

1. デジタル文化の育成

企業は、ビジネス機能の境界を越えてつながり、顧客とパートナーによる活気のある成熟したエコシステムを構築するために、相互にコラボレーションする必要があります。組織を横断してデータを活用することで、意思決定が改善し、最終的に顧客とパートナーのニーズにより適切に対応可能になります。

2. 情報エコシステムの構築

デジタルの世界では、企業は社内外で多くのデータを獲得します。「リーディングカンパニー」となるためには、データを資産へと変換し、オープンかつ信頼できるやり方によって社内外でシェアしていく必要があります。さらに、適切なデータ戦略があれば、企業はデータのつながり、洞察、傾向を発見するためにAIを活用することができます。

3. マイクロ革新(マイクロレボリューション)の推進

ほとんどの場合、デジタルトランスフォーメーションは大規模な変革ではなく、小規模な革新が繰り返されることによって進行します。これらの革新は小規模な短期プロジェクトですが、ビジネス上のメリットを生み出し、より大規模で野心的なデジタルトランスフォーメーションの取り組みへと積み上げていくことができます。

4. AIの活用など将来に備えたスキル育成

今日の企業は、デジタル経済に向けた複雑な問題解決、批判的思考といった将来に備えたリスクをワークフォースが備えるよう、研修制度を再考する必要があります。より重要な点として、重要なデジタル人材を確保・維持するためにワークフォースのバランスを調整し、スキルベースの市場を活用できる柔軟なソーシングモデルの創成をオープンに行っていく必要があります。 

https://news.microsoft.com/ja-jp/2018/02/20/180220-idc-digital-transformation-asia/

NEC

NECでは下記のような軸で、クライアントに対してデジタルトランスフォーメーションを提案しています。

エクスペリエンス変革

顧客への提供価値を変革します。たとえば、蓄積されたお客さまの情報と、社会のさまざまなデータをAIで分析し、お客さま一人ひとりに心地よい提案を行うことで、より深いコミュニケーションが生まれ、感動する顧客体験を作りだすことができます。

ワークスタイル変革 

 従業員の働き方を変革します。よりクリエイティブな業務に時間を使えるようになったり、一人ひとりのキャリアプランやライフスタイルなどの情報と求人情報をAIでマッチングしたりすることで、誰もがクリエイティブで生き生きとしたワークスタイルを実現できるようになります。

オペレーション変革

業務の手段や方法を変革します。たとえば、これまでベテランが支えてきた、複雑で高度な現場業務をIoTによって"見える化"し、リアルタイムで集まる膨大な情報をAIが分析することでサプライチェーン全体での需要の変化やトラブルの予兆を予測し、先回りして対処すれば、圧倒的な効率化を実現できます。

ビジネスモデル変革

業種や地域の枠を超えてITプラットフォームやデータを共有したり、業務プロセスを連携させたりすることにより、自治体とサービス企業、農業とIT企業などのように異業種との共創やオープンイノベーションを実現し、新しいビジネスやサービスを創造することができます。

https://jpn.nec.com/dx/index.html

富士通

富士通では実現可能な技術をもとに次のようなサービスを紹介しています。

デジタルアシスタント

音声認識と音声合成の先端技術にAIを掛け合わせたデジタルアシスタントを開発。簡単なAI(スマート)スピーカーとは違い、AIによるパーソナル秘書と呼べるものとなっています。

デジタルプレイス

ARとVR、加えてMR(Mixed Reality)などのさまざまな技術を活用して、遠く離れた場所を目の前で再現したり、空間を超えた相手とのコミュニケーションを実現したりすることを、デジタルプレイスと呼称しています。デジタルプレイスでは遠く離れた製造工場を結んで技術を伝える遠隔支援等ができるようになります。

デジタルツイン

膨大な現実世界の情報をIoTでサイバー空間に送れば、現実世界がサイバー空間で再現される、いわゆるデジタルツインが可能になり、例えばデジタルツインを実現したスマートファクトリーでは、より直感的な工場の可視化やシミュレーションを行うことができます。

画像認識技術+AI

画像認識技術とAIでリアルタイムに都市全体の見守りを実現するものです。監視カメラによる24時間365日の大量の映像データをAIで正確かつ高度に理解することで、トラブルの未然防止や早期解決が可能となります。

https://www.fujitsu.com/jp/about/corporate/facilities/dtc/article/interview-15.html

中小企業のデジタルトランスフォーメーション導入事例

中小企業も必須のデジタルトランスフォーメーション

今後、ビジネス全般でデジタルトランスフォーメーションが推進されるようになっていくなか、中小企業はどのように取り組めばいいのでしょうか。企業、人、デバイス等がつながってビジネスが展開されるようになる以上、結論から言えば、取引先がデジタルトランスフォーメーションに対応することになり中小企業もデジタルトランスフォーメーションへの対応は必須となっていくでしょう。
大企業と比較して投資余力がない、何をしてよいかわからない、という声もありますが、中小企業向けデジタルトランスフォーメーションを念頭にクラウドサービスを提供するベンダーなど、中小企業向けソリューションも登場しており、これらのソリューションはさらに充実していくでしょう。デジタルトランスフォーメーションの推進には企業トップの意思決定が重要ですが、硬直しがちな大企業に対して、意思決定の速い中小企業は有利ともいえます。

元湯陣屋

例えば、神奈川県鶴巻温泉の老舗旅館「元湯陣屋」は、自社開発した「陣屋コネクト」というソフトを活用したおもてなしの強化(顧客情報を、SNS等を活用し従業員が共有、顧客の志向に合わせたサービス提供等、)、従業員の働き方改革(業務の効率化を図り、週休3日のシフトを導入しつつも給与水準を改善等)より、業績不振を脱却、業績を拡大させ注目されています。「元湯陣屋」は2018年、国内の全てのサービス提供事業者を対象に、“きらり”と光る優れたサービスを表彰する「日本サービス大賞」(サービス産業生産性協議会主催)において総務大臣賞を受賞しています。現在、経営立て直しに貢献した「陣屋コネクト」は同業者への提供を行っており、業界の底上げ・活性化に取り組んでいます。 

https://www.jinya-inn.com/

https://www.jinya-connect.com/

日進工業株式会社

また、愛知県碧南市にある自動車用プラスチック部品メーカーの日進工業株式会社は、自社工場の生産ラインの監視、トラブル対応等の継続的な改善を行ってきましたが、近年は工場のIoT化を進めることにより、大きく生産性を向上させ、従業員の残業や休日出勤を減少、売上・利益を向上させています。スマート端末の普及、超高速のネットワークの整備が進み、機械の情報収集、システム管理が安価にできる時代になったところから、自社のIoT化のノウハウを生かし、異なるメーカーの機種が混在する製造装置ラインの状態を一括、リアルタイムに把握、稼働状況管理、稼働実績データ収集、稼働監視モニタ、要員分析・解析データができるMCM(Machines Concentrated Machines)システムの外販もおこなうようになりました。

https://www.enissin.com/theme65.html

中小企業庁

また、中小企業庁は、「中小企業のIT導入を加速するためには、自社の経営に係る各プロセスを単純にIT化に置き換えるだけでなく、ITを経営に導入することにより収益を伸ばしている企業」を「スマートSME(中小企業)」として「スマートSME(中小企業)研究会」を設置しています。

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/smartsme/2017/170329smartsme02.pdf

同研究会において紹介されている企業事例をあげます。

1.電化皮膜工業株式会社

事業内容:アルミ表面処理及びめっき化工

同社では従来、紙ベースのアナログな処理が大半だった下記のような業務においてデジタル化を進めました。
・見積管理
・指示書発行
・出荷管理

例えば見積管理では、DBに過去の見積情報を蓄積、過去の見積情報の検索、新規の見積書作成のスピード向上、ミスの減少、ひいては顧客対応のレスポンスの向上が実現されたそうです。同社では、現場実績管理についてもデジタル化を進めさらに生産性の向上を図る計画としています。
 
また、課題・気づき事項として、同社は下記の点をあげています。
・IT化して浮いた時間を何に利用するかが重要
・プロセス単位でのカイゼンの積み重ね (部分最適から全体最適へ)
・現場は便利なものは使うが、面倒なものは使わない
・定期的な専門家とのコミュニケーションが必要

そして、中小企業が取組むための課題解決として下記を挙げています。 
・無償やローコストアプリの利用によりコストを下げる
・お試し運用時の人的支援(ITコーディネーター等)を受ける 
・IT人材育成の仕組み化 (定期的に導入したアプリの利用具合や問題点のフォロー)を行う

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/smartsme/2017/170329smartsme04A.pdf

2.コマースリンク株式会社

事業内容:商品データ(Product Data)を取扱う技術を基にEC事業者(ネットショップなど)の集客支援事業を展開

販売管理導入プロジェクトを実践、移行前は下記のような状況だったそうです。
・見込みや引き合いの管理は既存のSFAパッケージ
・見積書は営業担当者が個別にExcelで作成
・受注後、営業事務担当がスタンドアロン型の請求書発行システムに再入力して売上集計及び請求書発行を管理
・多様な請求書に対応できず、最終的には全体の6割が手書きで発行していた複数のシステム間でのコピペ作業

こうした状況下では正誤性に関するチェック業務に時間を要するなど、非効率、間違いや漏れが発生しやすく見つかりにくい状況にあったとのことです。
 
こうした課題に対して販売管理のためのERPパッケージをおよそ6か月の期間をかけて導入・稼働し、生産性の向上を果たしています。

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/smartsme/2017/170329smartsme04B.pdf
 
多種多様な事業活動を行う中小企業。デジタルトランスフォーメーションへの取組内容や目的は様々ですが、中小企業でもデジタルトランスフォーメーションを活用する企業が、今後増えていくことでしょう。大企業でのデジタルトランスフォーメーションの取組が紹介されることが多い中、ERPなどのパッケージを活用すれば、中小企業向けデジタルソリューションの汎用性も高く、取り組みやすい手法になると考えられます。

デジタルトランスフォーメーションの課題と解決の方向性

デジタルトランスフォーメーション推進の留意点

デジタルトランスフォーメーションの導入にあたり、経営者に求められる判断基準や、全社的な体制整備については、前述の「デジタルトランスフォーメーション推進のためのガイドライン」が参考になるものと思われます。
 
併せてデジタルトランスフォーメーションを進めるに伴い、ビジネス上、発生してくる思わぬリスクの発生も考えられます。

つながるリスク

IPO社会基盤センターの片岡氏はデジタルトランスフォーメーションの進展により生じうるビジネス上のリスクについて下記のような点をあげています。
 
・従来は想定されなかったようなモノ・コトのつながり
→つながる相手への迷惑、相手からの迷惑が発生するリスク

・隣接する分野の事業への進出
→単一分野でのビジネスルールが通用しないリスク

・新サービスが生まれることによるビジネス環境の変化
→現ビジネス領域の衰退のリスク

・考慮すべき条件の拡大
→考慮もれによる失敗(不備、遅延、事故)のリスク
 
また特に製品供給者にとって想定しない、把握できない次のような課題が発生する可能性も指摘しています。

・様々なモノがつながる 
→1つの製品の不具合による影響が拡大

・異なる分野のサービスがつながる 
→相手の信頼性レベルが分からない(不安)

・IoT技術は日進月歩
→時間がたつにつれて、今までの安全安心対策技術が劣化

・サービス企業やユーザーがモノをつなげられる
→メーカーが想像もしないつなぎ方、使い方も生じうる

https://www.ipa.go.jp/files/000067935.pdf

「2025年の崖」と呼ぶ課題と解決の方向性

先述の、経済産業省が公表した「D X レポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」では、経営者デジタルトランスフォーメーションの導入の重要性が認識されていく中で次のような課題を指摘しています。

・既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされていたりするなどにより、複雑化・ブラックボックス化している

・経営者がデジタルトランスフォーメーションを望んでも、データ活用のために上記のような既存システムの問題を解決し、そのためには業務自体の見直しも求められる中(=経営改革そのもの)、現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題である

この課題を克服できない場合、デジタルトランスフォーメーションが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性があります。 この大きなリスクのことを「2025年の崖」と呼んでいます。
これを克服できない場合、ユーザー、ベンダーサイドにとって下記のような状況に陥る可能性を示しています。
 
ユーザー:
・ 爆発的に増加するデータを活用しきれず、デジタル競争の敗者に
・ 多くの技術的負債を抱え、業務基盤そのものの維持・継承が困難に
・ サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失・流出等のリスクの高まり
 
ベンダー:
・ 技術的負債の保守・運用にリソースを割かざるを得ず、最先端のデジタル技術を担う人材を確保できず
・ レガシーシステムサポートに伴う人月商売の受託型業務から脱却できない
・ クラウドベースのサービス開発・提供という世界の主戦場を攻めあぐねる状態に
 
これに対する課題解決のシナリオとして下記の点をあげています。
 
ユーザー:
・技術的負債を解消し、人材・資金を維持・保守業務から新たなデジタル技術の活用にシフトする
・データ活用等を通じて、スピーディな方針転換やグローバル展開への対応を可能にする
・デジタルネイティブ世代の人材を中心とした新ビジネス創出へ
 
ベンダー:

・既存システムの維持・保守業務から、最先端のデジタル技術分野に人材・資金をシフト
・受託型から、AI、アジャイル、マイクロサービス等の最先端技術を駆使したクラウドベースのアプリケーション提供型ビジネス・モデルに転換する
・ユーザーにおける開発サポートにおいては、プロフィットシェアできるパートナーの関係になる

https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180907010/20180907010-1.pdf

まとめ

デジタルトランスフォーメーションの導入・実践により自社の生産性の向上、競争優位が期待されますが、一方、デジタルトランスフォーメーションは、様々な企業、人、機械等がつながり、一体となっていくものであることから、上記のような「つながること」から生じるリスクについて適切な対応をとっていくことが重要です。またデジタルトランスフォーメーション導入のためクリアしなければならない課題も多く、これらのポイントをクリアしていくことがデジタルトランスフォーメーションを活用するにあたって重要となるでしょう。

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