ホールディングスカンファレンス ~中堅企業の生産性を上げる「バックオフィステクノロジー」~ 第3部「経理部門の働き方を変える決定打『RPA(ロボティクス)』の実態と活かし方」公認会計士 中田清穂氏 [e-Disclosureセミナー(freee・ビジネストラスト・宝印刷共催)]
近年、収益認識基準が新設されたり、リース会計基準が変更されるなど、会計基準はますます難易度を高めています。
国際会計基準(IFRS)の適用が深く関わっているこの問題は、経理部門だけでなく、企業内の様々な分野に影響を及ぼす問題と考えられます。
そこで今回「ホールディングスカンファレンス ~中堅企業の生産性を上げる『バックオフィステクノロジー』」と題して開催されたセミナーでは、IFRSに造詣が深い公認会計士中田清穂氏を招き、新しい会計基準についてお話を伺いました。中田氏はこれからのバックオフィスで重要なキーワードとなるRPA(ロボティクス)にも深い見識を持たれており、その活用についても講演いただきました。
また、共催各社による最新ソリューション、そして各システムの連携機能についてのご紹介がありました。
第3回となる今回は、今注目されるRPAの経理部門での活用について公認会計士中田清穂氏に伺います。
中田:改めましてよろしくお願いいたします。公認会計士をしています中田です。私は2年くらい前からロボティクスの研究しています。今日は今、認知度が高まり注目されているRPA(ロボティクス)についてお話します。
ロボティクスは大規模なシステム投資をしなくても、人間の作業を自動化できる技術です。現在は契約管理とか顧客管理といった分野で活用されていることが多く、まだ経理部門にはあまり導入されていません。
汎く活用されているのは通信や生命保険、航空・旅行会社といった業種です。特に三菱UFJ銀行と日本生命など大手金融機関は既にロボティクスを使い業務改革をしています。最近もメガバンクが数千人減らすというのがニュースになりましたが、その裏側にはこういったテクノロジーの活用が潜んでいるのです。
大手金融機関が使っているということで、私は企業の経理部門でもこのRPAを活用することができると考えています。
何故なら、どちらの業務も間違いが絶対にあってはいけない業務だからです。
実際の効果について一般社団法人日本RPA協会の資料からご紹介します。
契約管理・顧客管理など、間違いが許されない業務が多い大手金融機関では、これらのチェックや登録業務を、おびただしい数のスタッフを使って行っていたそうです。
そのため、ある事務所では80人ものスタッフを抱えていましたが、ロボティクスを導入したことで、その数を僅か13人に減らすことができました。また従来ならばその人数を採用するために大都市に事務センターを構える必要がありましたが、人を減らすことができた結果、沖縄でできるようになった。これにより人件費も事務所の坪単価も大幅に減らすことができたので、コストは80分の13では済まないくらい下げることができたのです。
このように大きな効果を期待できるロボティクスですが、ではどのような仕事に適応するのでしょうか。
手作業が多いが、自動化による効果も大きい業務に関してはシステム投資が起案され、実際に予算も下りるでしょう。ERPの導入などがこれに当たります。しかし起案してもシステム投資予算が下りなかった業務や、そもそも最初から投資を諦めて起案すらされないジャンルの仕事もある。
この両方をロボティクスは救ってくれるのです。
これまでは業務現場で投資対象外だった仕事が、今は費用対効果よりも働き方改革の名の下に「多少のコストはかかっても残業を減らすんだ」と叫ばれ、多額のコンサルティング費用がかけられています。
しかし、ここに私は疑問があります。そもそも費用対効果の低いところなのですから、お金や時間などかけずにロボティクスを使うべきではないか、と。
人間がやる細々とした仕事、例えばIEで検索して、データをコピーしてExcelに貼り付けたり、集計して加工して、その結果を基幹システムにログインして登録したり、アウトプット帳票を出したり、関係各位にメールを送信したり。こういった些細な仕事にシステム投資をするなど、考えたことは無いと思います。しかしこういった仕事がロボティクスの得意とするところなのです。
ロボティクスを活用するにはプログラミングの知識は必要ないものもあります。ITスキルが全くなくても扱うことができるものもあるのです。また社内の既存のシステムを変える必要もありません。今の業務をそのままやらせればいいだけですから。
ロボティクスは人が指示した通りに、1年365日24時間休まず働いてくれます。これを人の労働単価で計算するととんでもないことになります。ですから、あっという間に投資した分の回収をすることができるのです。
ロボティクスでできる様々な業務
さて、今までお話してきましたが、ロボティクスと言っても、鉄やブリキでできたロボットの形をしているわけではありません。ここでロボットとはパソコンの中にあるソフトのことです。
ロボットですから人が指示した通りのことをやり続けてくれますし、品質と言う点では一回覚えた動作は間違えることがありませんから非常に優秀です。二重チェックなどの手間もいらなくなります。ですからロボットを作れば作るほどCPは良くなります。
他にも、24時間365日仕事をしてくれるということには、このようなメリットがあります。例えば時差のある海外にグループ子会社がある場合に、レポーティング・パッケージの提出が遅れた子会社に対して、日本時間の真夜中に、海外の子会社に最速のメールを送ることができます。
また、基幹システムの夜間バッチが終わった後に動き出して、基幹システムにログインして、前日残を反映した帳票をCSVファイルでダウンロードしておいてくれたり、さらに、ダウンロードしたCSVデータをExcelファイルに読み込ませておくこともできます。そうすると人間である社員か出社した時には最新のデータが、いつものExcelファイルに既に張り付いている状況で仕事をはじめられるのです。つまり、RPAを使う前では、毎朝基幹システムにログインしてデータを取得して、Excelに読み込む時間を浮かせることができるのです。
このように、「ロボットにいつ作業をさせるのか」ということを考えることも、効果を生む大きなポイントです。
さらに、RPAは採用のために面接などの手間をとることもありませんので、上司の時間を割くこともありません。辞めさせる時も消去するだけで、手間もかからず、情報漏洩などの心配もありません。
以上のように、ロボティクスはこんな効果がある、ということを利用者の皆さんに考えてもらいたいのです。ただ費用対効果だけでRPAを導入すべきかどうかを考えるのでは、本当のメリットを享受することができないと思います。
経理業務でのロボティクス活用法
さて、ロボティクスのデモを見たことがあるけれど、いまいちピンとこない、という話をよく聞きます。それは何故かというと、コンサルティング会社や開発ベンダーが見せてくれるデモは、経理業務に特化していないので、イメージが湧かないからだと思います。だから経理部門の方々にもイメージできるように、こんなストーリーを考えました。
例えば輸出入をやっている会社では、IEやクロームなどで、毎日銀行のサイトを開いて為替レートをコピーして、Excelに貼り付けるといった作業をしていると思います。その数字はその後、フォーマットを整えて基幹システムに登録されるでしょう。
これをロボティクスにやらせるには、RPAのソフトを立ち上げ、今まで人の手でやってきた手順をそのまま記憶させるだけです。毎日指定した時間に銀行のページに行き、為替レートをコピーしExcelに貼り付ける。この手順を記憶させれば、もうロボットが1つできあがります。プログラミングなどは一切不要です。
<講演では、ここで中田氏が実際に作成した「銀行のサイトを開いて為替レートをコピーして、Excelに貼り付けるロボを『作る』動画」と「作ったロボを『実行させる』動画」をスクリーンに投影して解説していただいた。>
では改めて経理でどのようにロボティクスが役立つか、というのを矢野経済研究所のデータからお見せします。
某通信事業会社の入金管理業務の例です。この会社では毎日、銀行業務が終了した午後3時過ぎに、銀行のオンラインシステムにアクセスし、その日の入金データを抽出していました。その数、毎日9000件。そしてそれをその日のうちに会社のシステムに登録しなければならなかった。この仕事を毎日10人でやっていました。月末繁忙期には入金データが多いのでさらに10名増員して計20名、1人当たり2.5時間をかけて入金業務を行っていました。
しかしそれだと業務負荷が大きく、またミスも多くなった。業務と品質の両面で課題が大きかったのです。
そこでここにロボディクスを導入しました。すると作業時間はなんと9割もカットされたそうです。
次にヨーロッパのあるメーカーの例です。ここは既にERPを導入していましたが、買掛金業務は自動化できていなかった。そこでそれをロボティクスにやらせようということになった。今まで人間が請求書を読んで内容を理解し、それを受発注システムに入力、そしてそのデータをチェックし、会計帳簿に転記するという作業をやっていたのですが、ロボティクス導入で6、7割をカットできたということです。
そして経費精算です。毎月末月初に集中する経費精算は件数が多く、さらに上長の承認が必要になります。この上長の確認作業の負担は大きく、承認時の確認精度が低くなりやすい。実際にはほとんどチェックなどしていないでしょう。しかし、この上長の承認をロボットにやらせると社内規定を参照してキッチリチェックしてくれます。その点、人がやるよりも精度が高いのです。
上長承認をロボットにやらせることは驚かれるかもしれませんが、上長がやるべき仕事、すなわち「人間がやらなければならない仕事」は、難しい判断が必要な仕事です。規定に準拠した経費申請かどうかなんて、人間でなくてもきちんとチェックできます。しかし、「この支払いは会社の費用なのか、部下の個人的なものなのか」といった判断こそ、人間である上司がやるべきでしょう。
また、RPAの導入当初にロボットにやらせる仕事は、会計監査とかかわりが出てくる内部統制に関わらない作業にした方が良いと思います。
それは主に基幹システムの帳票のダウンロードや、Excelへのデータの貼付などです。会計監査人の判断が必要になると思いますが、内部統制に関連する、マスター登録や仕訳入力などについても信頼性が高いと認められれば、それもロボットに任せることができるようになるでしょう。
ロボットが普及すると、人の仕事は無くなる?
こうやって考えていくと、ロボットが触れないシステムというはほとんどないことが分かると思います。
そもそもRPAはロボテックス・プロセス・オートメーション、ロボットがプロセスを自動化する、という意味です。
しかし長いプロセス全てを自動化する、となると、難易度が高くなって、途中で諦めてしまう人が多い。ですので、最初はシンプルな仕事を対象にしてロボを作るのが良いと思います。基幹システムからCSVを吐きまくるロボットですとか、エクスポートしたデータをExcelに貼り付けるロボットとかです。
つまり定型業務については、短い作業をロボットにやらせよう、ということです。だから最初から経理業務にロボットができることはありません、と決めつけないでもらいたいのです。私はいっぱいあると思います。手数が少なくて、その作業を自動化するだけでは費用対効果が低い作業でも、どんどんロボットにやらせればいいと思います。そうして、短い作業のロボを作っている間に、慣れてきて長いロボットも作れるようになります。
次に留意点を上げておきます。
まず、ロボット専用の端末を用意してください。ロボットが動き出すと勝手にPCのポインタを動かしたり、キーボードでの入力をしたりしてしまいますので、人間が使っているPCで、同時には作業ができなくなります。
ロボットにIDとパスワードを与えて下さい。基幹システムにログインしたり、データを引き出す必要があります。ですから社員・派遣社員にログインを限定したりしている会社などは、アクセス規約を変更しないといけないかもしれません。
ロボットが増えてくると「野良ロボ」の管理も必要になると思います。「野良ロボ」とは、誰がどのPCでどんな作業をさせているのかわからなくなったロボットのことです。他にもロボット同士の機能がぶつかり合ってしまうので、同時に動かしてはいけないロボットなども生まれてくる可能性があるので「ロボット人事部」を作る会社も出てきました。そこでロボットの一覧表を作って管理するようにします。
ロボットにメールアドレスを与えれば、メールでロボに実行指示を出せるようにもできます。そしてロボが作業を完了した後に、メールで社員に報告させるように指示しておけば、ちゃんと作業をしたかどうかの確認ができてよいでしょう。
また、ロボットも作りっぱなしというわけにはいかず、メンテナンスが必要です。システムやアプリの画像が、バージョンアップなどで変化したり、データの表示場所等が変わってしまったりすると、ロボットは動かなくなります。ロボが実行する前にバージョンアップなどを確認し、ちゃんと指示通りに動くようにメンテナンスしていかなくてはなりません。
それでは最後になります。
ロボットが普及することで、人の仕事が全く無くなるから不安になり、RPAの導入に関して抵抗勢力も強いのではないか、という話がありますが、そんなことはありません。元々、人は単純作業を続けることが苦痛です。そして、自分はもっと考える仕事、創造的な仕事をしたいと考えている社員は多いそうです。
ですから、手間がかからないから効果も少ないということで、ロボ化の対象外にするのではなく、人間でなくてもできる仕事は全部ロボットにやらせるべきではないでしょうか。そして、人間は人間にしかできないことに絞ってやればいいのです。
これからの経理部門は財務数値を根拠にして、経営判断に役立つ情報をどんどん提供していく部門になっていくべきではないかと思います。そうして、ITテクノロジーを活用して、企業の中長期的価値を増大させる経理人材の育成をしていただきたい、と考えています。
これで話を終りにいたします。本日はありがとうございました。
有限会社ナレッジネットワーク 代表取締役 中田清穂
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、ナレッジネットワークで活動開始、代表。キヤノン電子株式会社社外監査役、株式会社アドバネクス社外監査役、一般社団法人日本CFO協会主任研究委員。