NPSとは?業績を向上させる顧客ロイヤリティと従業員エンゲージメントの関係は?
近年、SNSやWebマーケティング施策で、顧客ロイヤリティを測定するNPS®に注目が集まっています。これまでの顧客満足度調査では「満足」と答える顧客が、他社に乗り換えてしまう、リピート購入につながらないなど、業績との相関が明確ではありませんでした。そのような中で注目されているのがNPS®です。身近な人への「推奨意向」を確認する質問で顧客ロイヤルティを測定するNPS®という指標について、NPS®の考え方や調査や計算の方法、メリットと導入にあたっての注意点、従業員エンゲージメントとの関係性などについて詳しく解説します。
NPSとは?
NPS®(Net Promoter Score:ネット・プロモーター・スコア)とは「顧客ロイヤリティ」を測る指標です。直訳すると「推奨者の正味比率」です。身近な人への商品やサービスを推奨する意向を持っているかどうか、お客様が自社の商品やサービスに、どれだけのロイヤリティ(信頼、愛着、好感など)があるかを0~10の11段階で数値化して測定するものです。
これまでの顧客満足度調査よりも、業績に連動させやすくシンプルであることから、アップル、アマゾン、グーグル、フェイスブックなどの顧客志向の企業を中心に採用されており、米国フォーチュン500社のうち3分の1以上がNPSを活用し、商品やサービスの改善に利用しています。
NPS®の算出方法
NPS®の計算方法は以下の通りです。
以下のようなアンケートで、お客様の商品やサービスを身近な他人(友人や同僚)に薦める可能性がどれだけあるか?についてアンケートに回答してもらい、回答者を3つのグループに分類して、その比率で計算します。
顧客ロイヤリティを可視化する方法
1.顧客に「あなたはこの商品を親しいや友人や知人にどの程度おすすめしたいですか?」というシンプルな質問をする。
2.0~10までの11段階で評価をしてもらう。
3.回答の点数ごとに顧客を分類する。
9-10 推奨者(強い好感を持ち、熱心に友人や知人を紹介してくれるファン)
7-8 中立者(ファンでもないがアンチでもない。競合に流れ、ファンにもなる)
0-6 批判者(否定的な口コミの8割以上、何らかの不満があったり評価が分かれる)
4.NPS=推奨者の割合%-批判者の割合%で算出する。
顧客を3グループに分類して分析する
推奨者、中立者、批判者の特徴は以下のような点にあります。
推奨者(9-10)は、この商品やサービスに愛着や好感度が高く、他人に紹介してくれる可能性が高い。紹介されて利用することになった顧客のうち、推奨者から紹介された顧客が8割を超える。
中立者は、ファンでもないがアンチでもない。満足はしていても他社に移りやすく、積極的に推奨するアクションはあまり起こさない。ファンになる予備軍でもある。再購入比率が推奨者より低く、50%以上差がつくことも多い。ロイヤリティよりも惰性が動機づけになっている。
批判者は、否定的な口コミの8割以上を占める。批判や否定的な態度で企業の評判が傷つき、新規顧客の購入意欲に水を差し、従業員の意欲をそぐ。日本では中間の5の回答が多いため批判者の割合が高くなる傾向がある。「どちらでもない」という回答は、中立ではなく、ネガティブな反応であることが多いため批判者として分類される。
NPS®調査の種類
NPS®の調査には、3つの調査方法があります。
①リレーション調査
リレーション調査は、企業やブランド全体の評価を測定するための調査です。商品やサービスを通してお客様が感じている総合的な評価の変化を時系列で把握するため年1回程度定期的に行います。この調査によって重要な課題やポイントを知ることができます。
②トランザクション調査
トランザクション調査は、商品やサービスを利用した直後の調査です。商品を買った時、商品が届いた時、商品を使った時など重要なタイミングで調査します。回答内容とお客様の反応の関係が掴みやすいため、課題の早期発見、改善につなげることができます。顧客向けのNPS®調査では、この2つの調査を組み合わせると効果的です。
③従業員ロイヤリティ調査(eNPS®)
eNPS®は、従業員ロイヤリティ、エンゲージメントを測る調査です。「あなたの職場で働くことを親しい友人や知人にすすめたいですか?」「あなたの会社が提供する商品・サービスを親しい友人や知人にすすめたいですか?」といった質問をします。また、仕事の働きがいや職場での人間関係などを聞き、職場環境の課題を見つけ、改善します。
eNPS®を導入することで従業員の満足度、エンゲージメントを高め、生産性の向上や離職率を下げることにつながり、お客様のNPS®の向上へとつなげます。
NPS®と顧客満足度調査との違い
NPS®と顧客満足度(CS:Customer Satisfaction)との違いは、特にアンケート結果と業績とが相関関係にあることです。主な違いをまとめてみました。
①顧客満足度は業績連動が曖昧、NPS®は結果が業績と連動する
顧客満足度は、商品やサービスに対するユーザーの現在の満足度について把握するものですが、業績と連動するとは限りません。一方NPS®は、業績との相関が認められています。
出典:NPSホワイトペーパー(VinceNowinski)NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社資料より引用(図1、図2)
②顧客満足度は対象顧客のみ、NPS®は顧客と身近な友人や知人
顧客満足度は、商品やサービスに対する満足度を対象顧客に聞きます。NPS®は、商品やサービスに対する満足度を「顧客の友人や家族などへおすすめしたいか」という他者との関係に関する質問をして、顧客と身近な人に対する視点も含めて聞いていきます。身近な人にすすめることは、商品に対して愛着を持っている可能性が高いはずですので、対象顧客の商品やサービスに対する愛着度を知ることができます。NPS®を高めていく活動によって結果的に新たな顧客を生み出すことに繋げられます。
③顧客満足度は過去から現在、NPS®は過去から未来に向けた質問
顧客満足度は「購入した商品に満足していますか」といった対象顧客が今どう思っているかを聞きます。一方NPS®は、「今後この商品を家族や友人におすすめしたいですか。」といった未来に関する質問をします。そのため、過去から現在の評価だけでなく、今後も利用してくれるかどうかの評価も得ることができます。
NPS®のメリットと導入にあたっての注意点
NPS®には以下のような導入メリットがあります。
シンプルな指標で定量的に可視化できる
NPS®は質問がシンプルで、集計も容易なので調査がしやすいことが特長です。また、経営と現場との共通言語としても使いやすく組織全体に浸透しやすい指標です。そのため、「NPS®で〇〇ポイントを達成する」といったわかりやすいKPI(重要業績評価指標)として目標が設定しやすいため、振り返りをして改善活動につなげやすい指標です。
競合サービスと自社サービスを比較できる
NPS®は業界平均や競合商品やサービスとの比較によって自社の現状を診断できます。自社の商品やサービスが競合他社に比べてポイントが低ければ、その要因分析をすることで、商品やサービスのどの部分を改良する必要があるのかを検討できます。
業績との相関分析がしやすい
ハーバードビジネスレビュー、サトメトリックス、ベインアンドカンパニーなどの調査結果では、NPS®の高さと業績の相関が示されています。自社にとってどのように業績と連動しているかを、顧客ロイヤリティと連動する要因、たとえばどういったお客様に対する自社商品のどういった特長が評価されているからロイヤリティが高いのか、あるいは営業マンやコールセンターなどのどういったアクションの差によってロイヤリティの差が出ているのか、など関係を確認しながら導入、運用を測っていくことができます。
一方、NPS®を導入するにあたって、以下のような注意点があります。
NPS®は万能ではない
NPS®は、極めてシンプルに業績と相関がある重要指標を測定し、よりシンプルなマネジメントができるようにするためのものです。調査方法や商材によっては、必ずしも自社の業績と連動する結果がでるわけはありません。また、批判者の不満要因などはNPSの回答だけでは特定できませんので、より具体的なアンケートなどで、ロイヤリティに影響を与えている要因(ドライバー)明確にする必要があります。
不満要因を改善しても、必ずしもロイヤルティが高まるわけではない
顧客の不満要因を改善することが、必ずしも顧客ロイヤリティの改善や業績改善に直結しない場合があります。
たとえば、銀行業界の場合、批判者へのアンケート結果で、ATMの待ち時間が長いというお客様の不満が一番多いという結果が出たとします。たしかに、ATMの待ち時間はできるだけないほうが望ましいのですが、ATMの待ち時間が短縮しても、お客様の満足度が飛躍的に高まることはあまりありません。
お客様は、できて当たり前のように感じているような改善は、ロイヤリティ向上にはあまりつながりません。むしろ、クレーム時の対応をしっかりしたほうが、お客様にとっては満足度が高まる結果になる場合があるなど、何が本当の不満要因なのかを見極めて対応の優先順位を判断することが重要です。
このように、より顧客ロイヤリティあるいは不満との相関が高い要因、その原因となった顧客の体験などを分析して、たとえば顧客の不満要因となっている体験を従業員が自ら体験するといった対策を講じて改善につなげる必要があります。また、ネガティブな口コミの影響をどのように経済影響として換算するかなどの自社独自の分析も必要です。
重要なのは改善プランにつながること
NPS®の測定は顧客ロイヤリティを把握する最初のステップです。NPS®を効果的に利用するには、フォローアッププランを準備しておかなければなりません。
たとえば、スコアが非常に低かった場合、次にすべきことは何か、問題を解明するにはより詳細なアンケートを行うか、問題が特定できれば、それを解決するにはどのようなアクションをすればいいか、現場の営業マンやオペレーターがどのように行動を変えればいいか、あるいはそれを解消する資料や仕組みはないか、など顧客の不満を解消するためのアクションに落とし込んで、実行して効果を検証していくことが重要です。
実際にお客様の行動を分析してみると様々なことがわかってきます。たとえば、顧客の不満につながっていた要因を細かく分析してみた結果、営業担当者のメールの返信のタイミングが影響しているのではないか、という仮説を立てて改善効果を検証したところ業績が〇%改善した、といった事例が現場で出てくると、NPS®を導入する効果がより明確になります。
日本における11段階評価のスコアを正しく読み解く
0から10の11段階評価は米国の採点法で6点以下は落第点です。日本では中央値の5は標準とみなす人が多く、回答も5に集中する傾向があるという違いがあります。そのため、米国よりもNPS®のスコアが低くなる傾向があります。
とはいえ日本では使えないというわけではありません。そもそもNPS®は、業界平均や同業他社との比較や、時系列の変化と業績の相関を分析し、競合他社や自社の過去の状態と比較して相対的に評価するためのものです。NPS®の本来の目的を理解し、国民性などの傾向も踏まえたうえで、スコアを自社の業績向上につなげていくにはどうすればいいのか?という視点で正しく指標を活用する必要があります。
従業員エンゲージメントとの関係が重要
マサチューセッツ工科大学(MIT)の調査によると、EX(Employee experience:従業員体験価値)の高い企業は、NPS®が業界平均の2倍、2年以内の新製品・サービス開発率が2倍、企業収益が業界平均より26%高いという報告がされています。EXを数値として示すeNPS®が高いと、職場に対する信頼や愛着が高いだけでなく、生産性も向上し、離職率も減る傾向があります。
NPSは従業員エンゲージメントとの関係性も重視して要因を分析し、解決策を検討する必要があります。
(参考)MIT Sloan CISR” Employee Experience:Marketing it Easier to do Complex Work” Dery, K. , and Sebastian, I. (2017)
まとめ
顧客ロイヤリティの向上は、お客様を自社のファンになってもらうことです。お客様にファンになっていただくには、お客様に感動を提供できるような商品やサービスが提供できなければなりません。
近年の少子高齢化、労働力人口の減少により、多様な人材が流動化し、働き方改革による生産性の向上の取り組みや従業員エンゲージメントへの関心の高まっています。
従業員エンゲージメントを高めることで、お客様に感動体験を提供できるような商品やサービスが提供でき、その結果、顧客ロイヤリティが向上し、企業の業績が向上する。優秀な人材の獲得やイノベーションの創出にもつながり、さらに新たな商品やサービスが生み出される。こうした好循環を創り出すことができます。
NPS®やeNPS®は、自社の現状を映す鏡のようなものです。今後、NPS®はeNPS®との関係性の理解が進むことで、日本でも本格的に普及する可能性があります。まずは自社の従業員のエンゲージメントや顧客ロイヤリティを映す鏡を覗いて自社で検証してみてはいかがでしょうか。