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2020年02月14日(金)

ケイパビリティとは?意味、具体例、コアコンピタンスとの違い、経営戦略での使い方、策定の仕方をわかりやすく解説

経営ハッカー編集部
ケイパビリティとは?意味、具体例、コアコンピタンスとの違い、経営戦略での使い方、策定の仕方をわかりやすく解説

ケイパビリティ(Capability)とは、「企業競争力を高める組織的な能力」という意味で、経営戦略を考える上で大変重要な概念です。経営の外部環境が激変する時代は、企業が保有する内部資源である組織や人材の環境適応力が企業の存続を左右する競争力となります。ケイパビリティの定義、コアコンピタンスとの違い、ダイナミック・ケイパビリティ等について事例を紹介しながらわかりやすく解説します。

ケイパビリティとは?

ケイパビリティの意味

ケイパビリティとは、経営では「企業競争力を高める組織的な能力」という意味で、経営戦略を考える上で大変重要な概念です。

そもそもケイパビリティ(Capability)の語源は、Capable(対応可能である)とability(できること)という意味があります。そのため、
個人の「能力」、「才能」、「手腕」などの発揮能力
製品の「性能」、「機能」など、製品の持つ特性
組織の「戦略を実行する組織力」「企業競争力となるビジネスプロセスを遂行する能力」
とも言い換えることができます。

ケイパビリティの重要性

グローバル化、高度情報化社会となり、企業は商品そのもので差別化することが困難な時代となりました。価格競争に巻き込まれず、顧客にどのような価値を提供して付加価値を得るのか。商品づくりの上流から下流まで、一連のビジネスプロセスのどこが企業の強みなのかを明確化して、競合他社との差別化を図ることが必要です。

仮に技術力を強みとしている企業が、お客様に良い商品を提供できていても、それが必ずしも企業競争力となるわけではありません。企業がその商品をどのように顧客に提供すれば競合よりも自社の価値を認めてもらえるのか。それが品質なのか、提供スピードなのか、アフターフォローなのか、といった技術力以外の「価値」の提供を可能とするビジネスプロセスを遂行できる組織力、つまりその企業独自の「ケイパビリティ」の勝負になっているとも言えます。

コアコンピタンスとケイパビリティの違い

ケイパビリティと類似する言葉に、コアコンピタンスという概念があります。

そもそもケイパビリティという概念は、ボストン・コンサルティング・グループのジョージ・ストークス、フィリップ・エバンス、ローレンス・シュルマンによる論文“Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy”で発表されました。

この論文では、「コアコンピタンスは特定の技術力や製造能力、ケイパビリティはバリューチェーン全体に及ぶ組織的能力」と定義しています。

コアコンピタンスとの比較

コアコンピタンスとケイパビリティの概念を比較すると以下のようになります。

  コアコンピタンス ケイパビリティ
フェーズ 戦略策定 戦略遂行
対象領域 主に技術力や製造能力など ビジネスプロセス(バリューチェーン)全体
差別化要素 製造、物流等の商品力の強化に係る技術的な強み、中核となるノウハウ等 組織力、人材能力、システム、ツールなどを有機的に組み合わせて構築した総合的な戦略実行力

コアコンピタンスは、企業の中核となる強みのことです。ゲイリー・ハメル、プラハラードの論文では、「顧客に他社が真似できない自社独自の価値を提供する企業の中核的な力」と定義されています。論文に紹介されている事例を具体的に見ていくと、コアコンピタンスとは、例えば、ホンダのエンジン技術やソニーの小型化技術、シャープの液晶技術といったものが事例として紹介されています。

即ち、コアコンピタンスの概念は、当初は主に競争力強化の源泉となる商品を生み出す中核的な技術力をコアコンピタンスと位置づけました。

ケイパビリティの概念の誕生

以前の経営戦略は商品や市場などの「モノ(製品、設備等)」を中心とした業界ポジショニングや競争優位性による戦略論が中心でしたが、近年の情報化社会の急速な進展により、商品そのもので差別化を図ることが難しい時代になり、企業独自の経営資源である「ヒト(組織、人材等)」「情報(ノウハウ等)」「時間(スピード等)」等が生み出すサービス価値を競争力の源泉とする企業が増えています。

このような、組織力、人材が顧客に提供するサービスの品質、スピード、顧客ニーズへの的確な対応力などが、企業の戦略を実現する実行力となり、こうした企業が独自に保有する目に見えない「現場力」や「ブランド」などが競争力の源泉になりうることから、ケイパビリティという概念が生まれました。

ケイパビリティの具体例

それでは、ケイパビリティとは具体的にどのようなものなのか、業種別の事例をみてみましょう。

製造業のケイパビリティの事例としては、ホンダのオートバイ事業の事例が代表的です。ホンダのオートバイ事業が米国で成長した成功要因として、①エンジン技術、②小規模ディーラーへのリテールサポート力があったと言われています。

このホンダのエンジン技術は、まさに商品力の核となるコアコンピタンスである言えます。さらに、その商品力を最大限に活かすための「ディーラーへのリテールサポート力」があったからこそ、ホンダが米国で販売網を確立できたと言われています。つまり、マーチャンダイジング、店舗レイアウト、販売手法、サービスなどのノウハウの提供、研修、管理システムなどの総合的なリテールサポート力が、コアコンピタンスの概念では説明しきれないホンダの真の強みであり、ケイパビリティであったと言えます。

小売業の事例では、ウォルマートのロジスティクスの手法である「クロス・ドッキング方式」の事例があります。ウォルマートの基本戦略は規模の経済による価格競争によるものであり、このコスト競争力がコアコンピタンスになりますが、このビジネスモデルを他社が模倣できなかった要因は、バリューチェーン全体にわたるコンセプトの統一やサプライチェーンの上流から下流までの総合的なビジネスプロセスを構築した点にあります。こうした大規模な仕組みの構築には巨額の投資が必要であり、従業員の意識改革も必要となります。こうした仕組みを実現できる組織力がケイパビリティであると言えます。

IT分野では、例えば、アップルの洗練されたデザイン性、イノベーションをもたらすコンセプトは、アップルのブランドを形成する重要な要素です。このテクノロジーとアートを融合させたビジネスプロセス全体をデザインする力、アップルストアなどでのそのコンセプトを体現する接客力を含めた企業文化がケイパビリティであると言えます。

なお、上記のアップルの事例のように、バリューチェーンを構成するマーケティング力やブランド力などが企業の中核的な競争力の源泉になりうることから、コアコンピタンスとケイパビリティの概念は非常に近いものになってきているため、現在はあまり厳密な定義の議論はされていないようです。

従来の経営戦略とケイパビリティ戦略の違い

こうした背景もあり、企業の競争力の源泉を内部資源を中心に強化していこうとする「ケイパビリティ・ベース競争戦略」という概念が生まれてきました。

経営戦略では、マイケル・ポーターをはじめとする「ポジショニングアプローチ」が有名です。特に、「ファイブ・フォース・モデル」では、
・新規参⼊のリスク
・企業間の競争
・代替品の脅威
・買い⼿とのパワーバランス
・売り⼿とのパワーバランス
といった5つの外部要因の分析によって、できるだけ競争を避けて競争優位を確⽴していこうとするアプローチがとられています。

一方、ケイパビリティは、端的に言うと、組織の内的要因を徹底強化し、また、環境変化への組織的な適応力を⾼めて競争優位性を確立しようとするアプローチとなります。

ケイパビリティによる競争の基本原則

ケイパビリティによる競争力を強化するための基本的な考え方は以下の通りです。

原則①競争力の源泉は、商品ではなくビジネスプロセスである
原則②競争優位性があるビジネスプロセスを継続的に顧客に提供できること
原則③バリューチェーン全体を効率化するためのインフラに投資する
原則④組織全体を変革するためCEOの責任で実行する

つまり、社会構造の変化や市場ニーズの変化に対して、参入障壁の高いケイパビリティを獲得するためには、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)のようなアプローチで、トップが顧客志向でビジネスプロセスを新たにデザインするという発想が必要になります。

コアコンピタンスもケイパビリティも陳腐化する

グローバル化の進展、デジタルトランスフォーメーション(DX)の拡大により、ますます製品や技術のライフサイクルが高速化し、あらゆる業界で破壊的イノベーションの可能性があります。ビジネスの常識が変わってしまうほどのイノベーションや社会環境の変化が起きてしまうと、自社のコアコンピタンスやケイパビリティも、もはや強みではなくなる可能性があります。

過去の成功体験やKFSは、既に陳腐化している可能性が高いため、企業の持続可能な発展を可能とする戦略を策定するためには、過去から現在に至る自社のケイパビリティを事象とデータで客観的に分析したうえで、今後の環境変化をPESTEL(政策、経済、社会、技術、環境、法律)の視点で見通し、「新たに獲得すべきケイパビリティは何か?」を明確にして環境変化に先手を打つことが大変重要です。

時代の変化に合わせて、自社の新たな強み、KFSを獲得していくこと、あるいは、自社が「ゲームチェンジャー」となり時代の変化を生み出していくことで競争優位性を確立していうこと支援も必要となるでしょう。

ダイナミック・ケイパビリティとは

ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティの違い

こうした新たなケイパビリティを再構築する力が重要であることから、さらデイビット.J.ティース教授は「ダイナミック・ケイパビリティ」という戦略論を提唱しました。

⼀般的なケイパビリティは、製造技術や資材の調達、マーケティングなどのビジネスプロセスを円滑に実⾏するための⼒と言えます。

これに対して、ダイナミック・ケイパビリティとは、環境変化に応じて、ケイパビリティを適切に再構築し続ける⼒を意味します。既存のスキルやシステムなどを利⽤して新しい市場を創造する⼒であり、「変化に対応的な自己変革能力」であるとも言えます。

ダイナミック・ケイパビリティの3つの要素

もう少し具体的に紹介すると、デイビット.J.ティース教授は、「ダイナミック・ケイパビリティとは、企業が技術・市場の変化に対応するために、その経営資源の形成・再形成・配置・再配置を実現していく模倣不可能な能力のことである」と説明しています。

ダイナミック・ケイパビリティは以下の3つの要素に分解できます。

①環境変化に伴う脅威を感じ取る能力(Sensing:感知)

②環境変化を機会と捉えて、既存の資源、業務、知識を応用して再利用する能力(Seizing:捕捉)

③新しい競争優位を確立するために組織内外の既存の資源や組織を体系的に再編成し、変革する能力(Transforming:変革)

参考
「ダイナミック・ケイパビリティと経営戦略論」慶應義塾大学教授 菊澤研宗(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー)
https://www.dhbr.net/articles/-/3068

ダイナミック・ケイパビリティの事例

上記のハーバード・ビジネス・レビューの菊澤教授の記事では、米国コダック社と富士フィルムの事例が紹介されています。

米国コダック社はフィルム事業を主力に展開していましたが、環境変化に適応できず2012年に経営破たんを余儀なくされました。

一方で、富士フィルムは既存のケイパビリティを再利用した多角化戦略により新たな競争優位性を確立することに成功しました。自社の写真フィルムの技術から液晶を保護するための特殊な技術に展開し、この分野で独占的な地位を確立しました。また、フィルムの乾燥を抑えるコラーゲンを用いた技術を応用した化粧品の開発、さらにエボラ出血熱の特効薬として注目される医薬品の開発に着手しています。こうした新規事業を成功させようとする戦略的な思考と企業風土自体が富士フィルムのケイパビリティであるとも言えるでしょう。

ケイパビリティ戦略の立案方法

ケイパビリティ戦略は、経営戦略策定の定番手法となるSWOT分析による過去~現在~未来を見据えたKFS(成功要因)分析が有効です。

具体的には、

1.自社を取り巻く経営環境の変化を見通す(4C分析)
2.自社の強み・弱みを内部環境、外部環境の視点で洗い出す(SWOT分析)
3.今後のKFS(成功要因)を明確にする(SWOTクロス分析)

の手順で実施します。

なお、ケイパビリティは、コアコンピタンスと同様の視点で、模倣可能性(Imitability)、移転可能性(Transferability)、代替可能性(Substitutability)、希少性(Scarcity)、耐久性(Durability)の5つの視点で評価することが可能です。

現状分析にあたって重要なことは、過去、現在、未来の時間軸で、自社の過去のKFS、現在の立ち位置、今後のKFSを見通することにあります。自社のケイパビリティを踏まえて、今後のKFSの獲得に向けて、自社の新たなケイパビリティを構築していくことが戦略の実現力を高める企業競争力の源泉となると言えるでしょう。

まとめ

企業は環境適応業であると言われます。激変する経営環境の中で、企業が持続的な成長を遂げるためには、新たな環境変化に適応できるかどうかが成否を決すると言っても過言ではありません。

ダイナミック・ケイパビリティの視点は、こうしたいかなる環境変化にも適応できるような自社の内部に宿る強みをどのように伸ばし、競合他社にとって参入障壁が高い新たな強みを獲得していくかという、外部からは見えにくいけれども極めて重要なノウハウづくりであり、非常にクリエイティブな戦略的な思考が必要です。

グローバル化、デジタルトランスフォーメーションの時代に競争優位性を確立するには、自社がゲームチェンジャーになることも視野に、イノベーションを目指した新たなケイパビリティの獲得に向けた取り組みが必要となります。

今後の外部環境の変化を見据えたうえで、自社の内部資源を分析し、新たなケイパビリティを獲得していくことを通じて、いかなる環境変化にも適応できる強固なダイナミック・ケイパビリティを構築していくことが肝要です。

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