”みなし残業”とはどのような制度なのか?背景と中身、仕組みを解説
会社は、会社で定めた労働時間(所定労働時間)を越えて仕事をした分(残業)については、その残業分についても、賃金を支払う必要があります。 しかしながら、受け取った賃金の残業時間と、実際の残業時間に応じて計算される賃金が合わないケースもあります。これは、ただちに違法というわけではありません。
ここでは、いわゆる「みなし残業」と呼ばれる内容について、見ていきたいと思います。
1)「みなし残業」とは?
①みなし労働時間制
「みなし残業」は、それも含めて「みなし労働時間」と呼ばれる制度の下で出てくる状態です。実際の労働時間によらず、一定の時間を労働したものと「みなす」仕組みです。
②みなし労働時間制の背景
この制度が、労働基準法で定められたのは、昭和63年。日本の経済活動において、サービス業などに代表される第三次産業の占める割合が増えたことによる社会情勢の変化に対応するため、労働時間に柔軟性を持たせることをひとつの目的として制度化された変形労働時間制と併せて定められました。
③みなし労働時間制の種類
みなし労働時間制には、労働時間の算定が困難な場合の「事業場外労働」と、仕事のクォリティや専門性により、仕事の方法や時間配分を労働者に委ねる「裁量労働制」があります。
2)事業場外労働によるみなし労働時間制
①対象となる仕事
この制度は、会社側の指揮監督が及ばず、労働時間を算定するのが難しい仕事が対象となります。わかりやすい例で言えば、外回りで、なおかつ直行直帰の多い営業職などがこれにあたります。
ただし、全ての営業職等を対象にできるわけではなく、携帯電話などで、会社の指示を受ける場合や、外出前に社内で指示を受け、仕事を終えた後、会社に帰ってくる場合などの、会社の指揮監督が及んでいるときはこの制度は適用されません。
②原則的な取扱い
労働時間の全部又は一部を会社の外で仕事をしたとき、その労働時間を算定しがたい場合は、所定労働時間を働いたとみなします。たとえば、所定労働時間が8時間であれば、会社の外での労働時間が、8時間より長くても短くても、8時間とみなすわけです。
③例外的な扱い
しかし、先述の場合、たとえば繁忙期など、会社の外での仕事が普通に考えて8時間で終わることがないのが通常である場合は、その仕事をする上で必要な時間を働いたとみなします。ここにみなし残業が含まれることになります。
3)裁量労働制によるみなし労働時間
①裁量労働とは何なのか?
専門性が高い仕事や、会社経営の方向性を決めるような仕事に従事する労働者に、仕事のやり方や時間配分を委ねる必要がある場合に適用されるのが、裁量労働制です。
なお、裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」の2種類があります。
②専門業務型裁量労働制
対象となる仕事が19業務定められています。主なものとしては、研究開発、取材・編集、デザイナー、SE、証券アナリスト、弁護士、公認会計士などがあり、専門性の極めて高い業務と言えます。
この制度を採用するには、会社と労働者による取り決めとなる「労使協定」により定めて、労働基準監督署へ届け出ることが必要です。その労使協定の中で、1日の労働時間として算定される時間をみなし労働時間として定めることになります。
③企画業務型裁量労働制
対象となる仕事は、「事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析」で、この仕事のやり方や時間配分について、会社は具体的な指示をしないことが条件です。
企画業務型は、専門業務型よりも要件が厳しく、「労使委員会の設置」「対象となる労働者の範囲を定め、その労働者の同意を得ること」などが必要で、この労使委員会において、1日の労働時間として算定される時間をみなし労働時間として定めることになり、労働基準監督署へ状況を定期報告する義務があります。
4)みなし労働時間制の問題点と固定残業
①固定残業について
会社によっては、基本給とは別の諸手当で「残業代」として金額を固定して支給するところもあります。これも「みなし残業」と言えます。残業が多くても少なくても、この金額で固定させることで、人件費の固定化や、固定残業の枠内で労働時間を切り上げようとする労働者の業務意欲を促すことなどが、この制度の採用理由として挙げられます。
ただ、このような給与形態を採る会社は、長時間残業が常態化しているケースが多く、固定した残業代を超える残業をした場合、その分の賃金が固定の名の下に支給されない可能性があります。
②みなし労働時間制の問題点
みなし労働時間制で問題になるのは、固定残業のケースと同様、実際の労働時間が、みなし労働時間より長いことが多くなるなど、みなしと実情に大きな開きが出てくる可能性があるということです。この場合は、みなしている労働時間を見直す必要があります。
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5)まとめ
労働時間の業務の効率化を図ることを目的とした、みなし労働時間制ですが、みなしの時間以上に仕事をすることが多くなると、当然ながら問題になります。時間設定を見直す必要があるため、みなし労働時間制の労使協定や労使委員会の決議には、3年以内の有効期限を定めることが義務付けられています。
見直しの機会に、労使双方でうまく、話しあいができればよいですが、もし入社前であれば、募集要項で、みなし労働時間制の採用があるかどうか、残業代は固定なのかを確認する方が良いかもしれません。