薩摩藩の人事評価基準に学ぶ 「自らは挑戦しなかったが、挑戦した人の手助けをした者」の評価法
こんにちは。赤丸急上昇のSaaS型CMS MovableType.net を提供するシックス・アパートで、昨年から在宅で働いている作村です。
前回の『「テレワークを許すと社員はサボるんじゃない?」って質問されまくるので、その理由を考えてみた』は多くの人に読んでもらいました。ありがとうございます。第4回となる本稿では、『働き方改革』以降の人事評価の仕組みついて考えてみます。
バリアフリー研究者の福島智氏の著書『盲ろう者として生きて―指点字によるコミュニケーションの復活と再生―』から得た知見をベースに、成果至上主義に自らブレーキをかける私たちの心(こころ)について書いてみます。
生産性やアウトプット等の経済的価値のみで人々を評価して序列化する社会
働き方改革の文脈で、
「新しいシステムの導入で、会議時間を◯◯時間減らしました(キリッ)」 「育児や介護で休暇が取りやすくなる仕組み、”◯◯制度”を導入しました(ドヤァ)」
などのニュース記事をよく見るようになった。
しかし、ちょっと天邪鬼なわたしは、
「その会議、ほんとうに減らしてよかったの?」 「有給休暇を取りやすくするのが先では?」
と邪推してしまう。
特に、フルタイム・テレワークなどの新進的な働き方を導入する企業の「成果至上主義」、「自由放任主義」などの言葉からは、正体不明の怖さすらおぼえる。
自宅の湯船に体を沈め、「その怖さの原因はなんだろうなー」と考えながら、据え付けのテレビをぼんやり見ていた。番組は、Eテレの「SWITCHインタビュー 達人達(たち)」。興味深い内容だった。全盲ろう者で、バリアフリー研究者でもある福島智教授は、相模原市の障害者施設殺傷事件は私たちの日常と地続きの事件だと述べていた。
福島智氏の話を聞いてるうちに、自分の中で何かが弾けた。企業が働き方改革を進めたくても進められない理由はいくつかある。仕事の評価方法やコミュニケーション・エラーなどのさまざまな障害を超えるヒントが、バリアフリーの話を通して垣間見えた気がした。
※神保町の三省堂にも丸の内OAZOの丸善にも在庫がなかった本
相模原市の障害者施設殺傷事件を、「私たちの日常と地続き」だとする氏の見解は、すなわち、人びとを生産性やアウトプットなどの経済的価値のみで評価して序列化する社会への警鐘だった。生産性が低い人、アウトプットを出せない人から淘汰される社会。そして、既に私たちは気がついている。城の石垣が音を立てずに静かに崩れていく様子を感じている。その淘汰の毒牙は、いずれ私たち自身にも届くことを。だから成果主義や自由主義に対し、無意識にブレーキを掛けてしまう。
400年以上前にあった、薩摩藩の人事評価基準
江戸時代、現在の鹿児島県方面を領有していた薩摩藩の人物評価序列の教え(出典は不明)を紹介したい。現世(うつしよ)の働き方改革のために、400年の時空を超えて、本当にあったのかも不明なこの教えは、これからの評価制度の軸となるかもしれない。
それは、
- 一番:何かに挑戦し、成功した者
- 二番:何かに挑戦し、失敗した者
- 三番:自ら挑戦しなかったが、挑戦した人の手助けをした者
- 四番:何もしなかった者
- 五番:何もせず批判だけしている者
注目すべきは、(三)「自ら挑戦しなかったが、挑戦した人の手助けをした者」だ。(一)とその裏表の存在の(二)の生産性の高い人やアウトプットを出せる人を支援する人をちゃんと評価することを定めている。ちなみに、(四)はマネージャーにとってはある意味計算できる存在。(五)も推進役の(一)、(二)の認知バイアスを取り除く大事な役割を担う者だ。
現代企業では、(序列ではなくて)以下のように3つのタイプに分けてみてはどうか。
タイプ[X]:会社の売上と利益の拡大を担う人 (線路や道路を敷設して製品を流通に乗せる人) タイプ[Y]:会社の課題解決を担う人 (意外な場所にダムや陸橋を建設して有様を変える人) タイプ[Z]:[X]と[Y]が活動しやすい環境の保守を担う人
3タイプそれぞれに別の評価指標が必要だ。最初から社員を3タイプに割り振るのではなく、評価するときに3つで最も指標の高いタイプで評価するのはどうだろう
「成果主義もけっこうだが、その成果を出しやすい環境づくりは誰がやるのだろう?」 「実力が発揮しやすいように、オフィスや会議室の机の上をキレイにしてくれるのは誰だろう?」 「トラブルやエラーの発生を未然に防ぐために、数字の突き合わせをしてるのは誰だろう?」
妖精さん(Pixie)ですか? 小人さん(Leprechaun)ですか?
いや、総務や経理のバックオフィススタッフや、サービスや製品品質のために働くQA(品質保証)部隊、それから営業支援部隊など、いわゆる縁の下の力持ちと呼ばれる人たちだ。
「世界は誰かの仕事で出来ている」【ジョージア】 エメラルドマウンテンブレンド 山田孝之 TVCM「おつかれ、俺たち。」
評価が難しくても、AIに代替されない職種
CRMで有名な某企業のプリセールスエンジニア(他にサポートエンジニアとか営業支援などと呼ばれる職種)は営業チームに所属し、サポートした営業とチームの結果に連動して評価されているときく。
オックスフォード大学マーティンスクールの「コンピューター(AI/ロボット化)の影響を受けやすい未来の仕事」に関する調査レポートの中で、コンピューターに代替されにくい仕事TOP20の中にプリセールスエンジニアが14位でランクインしている。直接的な成果で評価しにくいこのような職業が、ロボットに代替されにくい職業として評価されていることは、見逃せない示唆だ。
華々しい舞台の裏で、それを支える人達がいる。 野に咲く草花は私たちを和ませる。
<おまけ> 時は202X年。人間の代わりにAI(人工知能)が働く時代。一昔まえの人間たちはAIはタダで使える労働力だと思っていたらしいが、この時代の標準的なAIは従量制料金で、1時間あたりの料金は9,800円(税別)。AI達の個性に合わせて働き方を改善するメカニズム(仕組み)を持つ企業は収益性を増し、高価だがより優秀なAIを必要なときだけ働かせる。メカニズムを持たない企業は安価だが性能の劣るAIを長時間労働で酷使し、毎月ダブル定額の上限料金まで働かせる。金属疲労で疲弊したAI達は……(以下略