在宅勤務を1年経験して、「仕事では相手に直に会い、顔を見て話すべし」という昭和的な考えは意外に的を射ていると悟った
こんにちは。シックス・アパートの作村です。第6回となる本稿では、『働き方改革』以降、直面するであろう”オンラインコミュニケーションの問題”について考えてみます。
オンラインコミュニケーションの問題とは、平たく言うと、いま自分が話している相手は自分が知ってる人なのか、まったくの他人なのか、はてはロボットなのか区別がつかないこと。そんなSF小説みたいな話…とお思いでしょうが、携帯電話やIP電話(VoIP)で送られてくる相手の声は合成音声であることはあまり知られていない事実です。
さて、前々回に引き続き、バリアフリー研究者の福島智氏の著書『盲ろう者として生きて―指点字によるコミュニケーションの復活と再生―』から得た内容をベースに、制約下におけるコミュニケーションのメカニズムについて書いてみます。
笑わないアイドルから、非言語的コミュニケーションの重要性を学ぶ
わたしの娘(2歳)もお気に入りの人気アイドルグループ欅坂46は、デビューしたその年に紅白歌合戦に出場し、新人にして頂点を極めたといわれる。Youtubeで彼女らのミュージックビデオを見てファンになった人も多いのではないかと思う。彼女たちの「歌詞への思い」をアイコンタクトと表情とダンスに乗せる様は、観る者を魅了する見事なプロモーションだ。
彼女たちは「笑わないアイドル」とも呼ばれている。顔の表情をほとんど変えず、同じ制服を着て、組体操のようにダンスを踊る。ひとりひとりの個性を意図的に抑えているように見える。表情豊かな従来のアイドルと比べると、どこか機械的で人形的で、ヒューマンスケール(体温を感じるくらいの距離感)からは程遠い。
そんな彼女たちがなぜこれほどの人気を集めるのか。身長・体重・肌の色・髪の色・服装・動作・アイコンタクト・声量・抑揚・沈黙・空間・時間…という言語以外のコミュニケーション要素が、彼女らのミュージックビデオに満ち溢れていることがわかる。彼女たちから、非言語的コミュニケーションの影響力は非常に大きいというヒントを得ることができた。このヒントをもとに、「テレワークにおける非言語的コミュニケーションの重要性」について考えてみたい。
なんだかんだ言って、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションは大切
「対話において、言葉で伝わる意味は30%~35%程度だと推測される」といわれている(Birdwhistell,1970)。そして、残りの65%~70%の非言語的要素の内訳は、こうなる(Vargas,1986)。
- 人体(身長、体重、体格、肌の色、顔の形、顔のパーツのバランス、髪型、髪色、化粧/タトゥーを含む身体的特徴。ゲーマー視点でいうと、MMOゲームのキャラ作成画面のそれぞれの項目)
- 動作(顔の表情と、ろくろを廻すに代表される手のジェスチャー)
- 目(アイコンタクト)
- 周辺言語(声質、声量、抑揚)
- 沈黙
- 身体接触(ボディコンタクト)
- 対人的空間(席次、雑音の有無、温度湿度、ホーム/アウェイ、食事をしながら等が組み合わさった複合的な要素)
- 時間
- 色彩(外見から身体的特徴を引いたものか?) ※カッコ内はわたしの独自の注釈
在宅勤務時の主なコミュニケーション手段は、メールかテキストチャットだ。そしてそれは、非言語的要素のほとんどすべてを失うコミュニケーション手段である。だから(2)、(3)、(4)の代替手段として絵文字やスタンプの活用は必然なのだろう。電話、ボイスチャットでは、(4),(5)以外を失う。
このようにコミュニケーションのメカニズムの縁に触れるだけでも、「仕事というのは相手に会って、顔を見て話すのが大事だ」と言う昭和的アナログ社長の言葉を一笑に付せないのがわかる。
ヤマアラシのジレンマを越えて
話を戻して、在宅勤務者同士がフェイス・トゥ・フェイスを大事にしすぎると、”ヤマアラシのジレンマ”に陥ることは1回目の記事で書いた。
●注釈:「ヤマアラシのジレンマ」とは ドイツの哲学者ショーペンハウアー氏の寓話に由来する。寒い日、ヤマアラシの雄と雌が身を寄り添って互いを温めようとするも、鋭いトゲのせいで傷つけあってしまう。近すぎず遠すぎない、ちょうど良い距離を見つけるという、「個人として自立する」と「社会で相手と共存する」のふたつの欲求の間で葛藤する心理を指す。
3人以上の会話の場合どうなるか。非言語的要素が失われた会話では、「発言者」がわからないと文脈的理解は難しいという。一般の会話では主語と目的語を省略することが多いが、非言語的要素の無い会話では、主語と目的語を省略するとまるで意味が掴めない。
極めつけは、「話しかける相手」の違いで言葉の意図が変わる点だ。
テキストチャットなら、発言者がわからないことは無いので、「話しかける相手」にメンション(@)を飛ばして、主語と目的語を省略しないように気をつけることだろう。ボイスチャットの場合、発言するときにまず名乗ること。話しかける相手が全体ではなく、個人の場合は「話しかける相手」の名前を呼ぶ、そして主語と目的語を省かないように気をつけることだが、正直言って面倒くさい。3人以上でオンラインミーティングを行う場合、ボイスチャットよりテキストチャットの方が優れている可能性があることがわかる。
コミュニケーションの専門家や研究者でなくても、「会って話すこと」の重要性は再認識できる。時間と場所の制約が少なく、メリットが多いとされているオンラインミーティングの課題も浮き彫りになる。
会話のメカニズムを完全に解明できればよいが、それは遠い将来になるだろう。どうしたってコミュニケーション・エラーは起こるし、仕事のミスに直結することもある。大切なのは、コミュニケーションのメカニズムを理解した上で、テレワークや在宅勤務の制度を作っているかどうかだ。
会議室が足りないなら、無駄な会議を減らせ?そういう問題ではない
最後に1つのクイズを出そう。
Q:社員が4人いると、最大でいくつのグループができますか?(ただし、2人組も1つのグループとみなす)
まず、全員が集まるグループが1つできる。次に、その人だけが居ないグループの数は人数と同じだから3人のグループが4つができる。そして、四角形の辺4本と対角線2本の合計で2人のグループが6つできる。したがって、1+4+6=11個のグループが作れる。
答えは、「11個のグループができる」だ。
わずか4人の組織で11個のグループができることを、ちょっと意外に思うかもしれない。会社の会議室が常に足らなくなるカラクリはここにある。全員の前では言いづらいこと、あえて全員の前で言いたいこと…コミュニケーションはいつだって繊細だ。会議室は有限でも、チャットルームなら無数に作れる。「会議室が足りないなら、無駄な会議を減らせ」と昭和的アナログ社長の言いそうな言葉を、一笑に付すことができる。
フェイス・トゥ・フェイスは重要だが、会議室は有限だ。オンラインミーティングはときに問題を生み出すが、チャットルームならいくらでも作れる。
結論はこうだ。たまには顔を合わせて会話して、自分の脳内イメージに保管している「相手の非言語的要素」をアップデート(上書き)しておくのがいいだろう。
欅坂46を知らないって人がいたらぜひこのミュージックビデオを見てほしい。なにかしら感じるものがあるはず(欅坂46のいちファンより)