働き方改革の目的と事例。大中小企業のユニークな制度を紹介!
日本人の労働環境を大きく変える「働き方改革」が急速に進行しています。働き方の多様化、業務効率化、生産性向上などを目的とした働き方改革ですが、企業の取り組み事例も実にさまざまです。
今回は、働き方改革の目的や背景について解説し、すでに働き方改革を進めている企業のユニークな事例を紹介します。
働き方改革の目的と背景とは?
そもそも、政府が企業に対し、働き方改革の取り組みを促すようになった背景はなんでしょうか。厚生労働省が発表した「働き方改革〜1億総活躍社会の実現に向けて〜」には、こう述べられています。
“働く方々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講じます。”
厚生労働省「働き方改革」パンフレットより
つまり働き方改革とは「多様柔軟な働き方の実現」「長時間労働の是正」「公正な待遇の確保」が大きな目的となっています。その背景には、日本の生産年齢人口(15〜64歳)の著しい減少と生産性の低さが深く関係しています。
労働人口減少と生産性向上が急務
皆さんもご存じのように、現在の日本では少子高齢化が進んでおり、総務省によれば、生産年齢人口はピークを迎えた1995年の8,716万人から、2020年には7,341万人、2050年には5,001万人にまで減少します。一方で、生産性の低さも課題です。公益財団法人・日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2018」によると、日本の時間当たりの労働生産性は4,733円で、OECD加盟36ヵ国中20位。1位のアイルランドが9,710円と比較すると約半分。6位のアメリカが7,169円と比較すると、2/3程度。さらに主要先進7ヵ国でみると、1970年から2017年に至るまで50年近く最下位という結果になっています。
これらの諸問題を解決すべく、働き方改革関連法では、ひとりでも多くの労働者が意欲的に働ける環境づくりを目的として「時間外労働の上限規制」や「年次有給休暇の取得義務」「勤務間インターバル」「同一労働同一賃金」など法制度の見直しがされました。
さまざまな有名企業で行なわれている、働き方改革の事例
現在では、多くの企業で働き方改革が実践されている一方で、一体なにから手を付けていいのかわからない、といった悩みを抱えている企業も多く存在するのではないでしょうか。ここでは企業がどのような働き方改革を実行したのか、事例とともに紹介します。
テレワーク、フレックスなどの活用で業務効率化を実現
◆株式会社アシックス(およびアシックスジャパン株式会社)
株式会社アシックスは海外事業の売上がグループ全体の80%に達するなど、グローバル化が急速に進んでおり、外部環境も多様化してきています。そのため、海外拠点や取引先に柔軟に対応するため、コアタイムなしのフレックスタイム制度や勤務間インターバル制度を設けています。またワークライフバランスの確保や健康経営の観点から、サマータイム、スポーツ休暇を制度化し、「ASICS健康経営宣言」を制定。従業員とその家族の適正体重維持者率が74.5%に達するなどスポーツ用品メーカーらしい取り組みで結果を残しています。
◆カゴメ株式会社
長時間労働を是とする風潮が社内にあり、収益構造の変革と社員の女性比率50%を中長期目標に掲げていたカゴメ株式会社は、2014年に経営トップのメッセージで20時以降の残業を禁止にしました。また在宅勤務制度、選択制時差勤務制度など多様な働き方を推進した結果、従業員の平均残業時間(月間)が2012年に17.5時間だったのが、2018年には14.9時間まで低減することに成功。全社でスケジューラ利用による仕事の見える化を徹底し、さらなる生産性向上を目指しています。
AI、IoTなど最先端テクノロジーの導入
◆清水建設株式会社
長時間労働が慢性化し、技能者の高齢化、担い手不足が深刻な建設業界。清水建設株式会社は、いまだに「4週4休」が大半となっていることなど業界全体の構造改革を先導すべく、まずは年休の推進、長時間労働の抑制を目標に掲げ、さまざまな取り組みを実行しています。生産性向上にICTの積極活用や柔軟な働き方の促進として「在宅勤務制度」の利用を積極的に促しています。またAIやIoT、センシングなどの最先端技術による効率化を同時並行で進めています。自立型ロボットと人が協働する次世代型生産システム「シミズ スマート サイト」では、ロボットが適用する工種では70%以上の省人化を目指しています。
◆株式会社三井住友銀行
銀行単体で約3万人の従業員が働く三井住友銀行は、「業務効率化の推進」を働き方改革の重点項目にしています。2017年度からRPAを活用した業務の自動化を本格的に導入しており、初年度で約700業務、110万時間分の作業を自動化することに成功しました。この業務効率化と並行して、テレワークや時差出勤の制度も導入しワークライフバランスの確保を推進しています。時間外勤務も減少傾向にあり、有給休暇の取得率も2017年度実績で68%と、目標としていた70%の目前まで到達しています。
企業価値への共感度を高め、働きがいを創出
◆株式会社Plan・Do・See
2018年度「働きがいのある会社」で2位にランクインした株式会社Plan・Do・Seeは、国内外で17のホテル・レストランを運営しています。同社は1993年に設立のベンチャー企業で、働きがいはあるものの長時間労働が慢性化し、燃え尽きて短期間で離職する人が多いことが課題となっていました。そのため労働時間の短縮と企業価値への共感度を高めることを目標に、人事評価制度の見直し、社内システムの改善を行い、採用活動や社員の研修に大きく投資しています。上場企業の1人あたりの研修費用が3万7000円であるのに対し、同社は約22万円かけるなど、長く働ける職場づくりを実現しました。
企業それぞれの個性が光る、ユニークな事例集
近年、独自の方法で働き方改革に取り組む企業も増加しています。ユニークな取り組みは就活を行う学生や転職希望者の目にも留まりやすく、採用への好影響も期待できます。
◆リゾート地でも勤務できる「ワーケーション」-日本航空株式会社(JAL)
日本航空の取り組み「ワーケーション」は、仕事(work)と休暇(vacation)を組み合わせた造語で、国内外のリゾート地や帰省先、地方でのテレワークを推奨する制度です。ワーケーションは旅先で仕事ができるため、すぐに息抜きができるほか、仕事場の環境が変わることで仕事のオンオフが切り替えられるメリットもあります。家族や友人との旅行の機会を得られることから、従業員の満足度向上にもつながっています。
◆1日6時間勤務を推奨-株式会社ZOZO
日本企業の多くは、8時間労働を基本としていますが、ZOZOでは新しい働き方の提案として、6時間労働を推奨する独自の取り組み「ろくじろう」を実施しています。この制度は、従業員に対して6時間勤務を強制するものではありません。しかし、「会議のための会議」になりがちな定例会議がアジェンダをもとにした生産性のある内容に変化したり、連絡事項を書類ではなく口頭で行うようになったりと、生産性の向上に役立っています。さらに従業員のタイムマネジメントの意識も向上することで、ワークライフバランスの確保にもつながっています。
◆自分を育てるための6年間-サイボウズ株式会社
「100人いれば100通りの働き方があってよい」という人事制度の方針を持つサイボウズ株式会社では、育児休暇制度とともに「育自分休暇制度」を定めています。35歳以下で転職や留学など、環境を変えて自分を成長させることを目的とした人を対象に、退職という形をとったうえで6年以内の復職を可能としています。社外で新たなスキルやノウハウを得た社員を受け入れる体制をとり、組織全体の強化を図っています。
◆女性が長く働くための「マカロン」-株式会社サイバーエージェント
ライフイベントを経た女性が、長く継続して働ける職場環境を目指した株式会社サイバーエージェント。「ママ(mama)がサイバーエージェント(CA)で長く(long)働く」という意味の新制度「macalon(マカロン)」は、女性に寄り添った制度として注目されています。子どもの急な発病時や登園禁止期間に在宅勤務できる「キッズ在宅」といった育児に関するもの以外に、女性特有の体調不良の際に取得できる特別休暇「エフ休」、妊活の専門家に個別カウンセリングで相談ができる「妊活コンシェル」など、広く女性の希望を叶えるための制度が整えられています。
◆上下関係が一切ない組織「ホラクラシー」-ダイヤモンドメディア株式会社
ダイヤモンドメディア株式会社では、「意思決定の権限が個々に分散した、自律的・自走可能な組織」である「ホラクラシー」体制を採用しています。上下関係やマネジメントが存在せず、フラットな関係で全員が仕事をしており、働く時間や場所、休みも自分で決定するようになっています。またすべての情報がオープンになっており、各人の報酬も従業員全員で行う360度評価を採用。従業員がセルフマネジメントを行う成熟した組織を目指しています。
多様な働き方の選択を叶えるための「働き方改革」
働き方改革が進行している中で、一部からは「形式的に業務時間は減らされているが、業務量が変わらないため重労働になっている」という声もあります。
長時間労働の是正は目的ではありますが、手段ではありません。企業は、どうすれば業務効率化を図れるか? 生産性を向上するためには? 従業員満足度を創出するためには? という視点で、課題に取り組む必要があります。
業態や組織のカルチャーによって取り組みの事例は多種多様です。各社の事例をヒントに自社にフィットする働き方改革を進めていきましょう。