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2019年07月17日(水)

フリーアドレスとは?背景やメリット・デメリット、今後の進化した活用方法を探る

経営ハッカー編集部
フリーアドレスとは?背景やメリット・デメリット、今後の進化した活用方法を探る

近年のIT技術の発達や働き方改革の進展に伴い、オフィススペースを有効活用するフリーアドレスが浸透してきました。しかし、フリーアドレスは単なるオフィス空間における所用スペースのレイアウト変更ではなく、その背景からもう一歩深く考察することで企業が人・モノ・金・知識の経営資源をどう活かすのかという課題に踏み込むことが可能となります。そこで、今回はフリーアドレスを巡る様々な観点から考えてみましょう。
 

フリーアドレスとは

フリーアドレスの定義

フリーアドレスとは、オフィス等において1人に対して1つの固定席を設けず、それぞれが自由に席を選べる空間を取り入れたオフィスレイアウトの一形態のことです。自社内において全部あるいは、一部の固定席を無くし、Wi-Fiを活用することによって、どこでも自由に仕事をすることが可能となります。企業としては、これによりオフィススペースのコスト削減とコミュニケーションの活性化を両立させることができ、メリットの多い施策と言えるでしょう。また、フリーアドレスと在宅勤務を組み合わせば、もっと床面積を削減できる可能性もあります。
 

フリーアドレスが広まってきた背景1~IT機器の性能向上とネットワークの技術革新

フリーアドレスが普及し始めた第一の転機は、IT機器の通信速度の向上や、クライアントサーバー型のネットワーク技術により、リモートワークが可能となって、ファシリティマネジメントの柔軟性が増してきたことによります。従来の、オフィスに来ないと仕事ができないという状況から、PCがあればどこでも仕事ができる環境に変わったことが大きいと言えるでしょう。
 
実際に、営業を始めとする外出率が高い部署では在籍率が50%を切ることが珍しくなく、以前は固定席の利用率が低くても家賃を払わねばならないという状況がありました。リモートワークがやりやすくなったことにより、直行直帰や在宅勤務を行うことで、オフィススペースはフリーアドレスの共有空間として運用できるようになったのです。
 
日本におけるインパクトのある代表的な取り組み例は、1997年に日本IBMが箱崎事業所においてフリーアドレスを活用し、8,000人分の席を4,500人分のフリーアドレス席に切り替えたことです。在宅勤務と併用することにより、大幅なコストダウンが実現できました。
 
こういった、1990年代後半のフリーアドレスは、コンサルタントや営業など社外で活動する社員を多く抱えている企業が経営効率向上のために推進していましたが、長らく一般的なワークスタイルとしては定着しませんでした。なぜなら、企業の多くの管理者としては部下が目の前にいる状態で仕事をしないと管理面での不安があったからです。
 

フリーアドレスが広まってきた背景2~働き方改革

しかしながら近年の働き方改革により、社員の働き方の多様性に合わせたオフィス環境の整備、在宅勤務の柔軟化がなされるようになってきました。特に最近ではオフィスか在宅かと言う二者択一的な働き方ではなく、会社の外にコワーキングスペースを借りるといった外部のフリーアドレス施設を活用するスタイルも定着しつつあります。
 
今や、スマホとパソコンがあればどこでも仕事はできますし、コミュニケーションツールの発達により、その場にいなくてもメッセンジャーやビデオチャットを活用すれば、情報伝達やオンラインでの会議などが可能となりました。この結果、フリーアドレスに対する違和感はますますなくなりつつあります。
 

フリーアドレスのメリット

フリーアドレスのメリット1~オフィス経費のコストダウン

フリーアドレスの目に見える経済効果はオフィススペースの削減によるコストダウンです。社員数と、在籍率などからフリーアドレスの必要面積の範囲を定め、その分の固定席のスペースを削減することができます。IT系など製造部門を持たない企業であれば、さらに思い切って一部をフリーアドレスとするのではなく、フリーアドレススペースを中心にオフィスを運営したり、在宅勤務中心にコワーキングスペースを借りたりするといった運営も可能です。また、最近では規模がそれほど大きくない企業の場合には、社員を全員在宅勤務にして本社自体を完全に無くしてしまうといった例も出てきています。
 

フリーアドレスのメリット2~コミュニケーションの活性化

フリーアドレス施策により、固定席からフリーアドレスに切り替えることによって、今までコミュニケーションの少なかった人と隣り合わせで仕事をすることが可能となります。これにより、普段接しない社員とのコミュニケーションの活性化に繋がり、部署を越えた社員間の新たな交流の場にもなります。また、コラボレーションの活発化により、部門を越えた課題やアイデアの共有による知的生産性の向上にも繋がります。さらには、それぞれの業務プロセスを共有した上での、新サービスや新規事業の開発につながる可能性もあります。
 

フリーアドレスのメリット3~空いている場所に移動して仕事に集中

自分が集中したい場合には、今空いている場所に即時に移動して仕事をすることができます。社員からすれば、不要なコミュニケーションから逃れることもでき、ストレスのない働き方が可能となります。
 

フリーアドレスのデメリット

フリーアドレスのデメリット1~フリーアドレスに向かない業種、職種がある

一方で、フリーアドレス化には課題もあります。フリーアドレスはどんな業種でも簡単にできる訳ではありません。製造業や物流施設であれば、フリーアドレス化ができるのは一部でしかありません。
 
また、職種的には外回りの多い営業職には適していますが、経理部門や管理部門など腰を落ち着けて行う業務には適していません。また、そもそも席に張り付いていないと仕事ができないコールセンターなどには適用が困難です。
 

フリーアドレスのデメリット2~帰属意識の低下を招く

自身の固定席が無いことによって帰属意識の低下を危惧する意見もあります。社員はその部署や会社に所属していることを意識していますが、固定席がないと所属意識が薄れてしまい、一つのチームとして一緒に働くモチベーションの低下に繋がっていく可能性もあります。
 

フリーアドレスのデメリット3~結局場所が固定化する

フリーアドレスにすれば、ランダムに誰とでもコミュニケーションができると言っても、そのままにしておくとフリーアドレスに座る場所がだんだんと固定化してくるという傾向があります。結局いつもいるメンバーと一緒になり、新しいアイデアは何も生まれないといったこともあります。
 

フリーアドレスとサードワークプレイス

前述のように、近年の働き方改革の影響もあり、各企業が働く場所の多様化を進めた結果、ワークプレイスの多様化が起こっています。このためフリーアドレスの在り方自体も多様化しています。つまり、限定されたオフィス内のフリーアドレスだけではなく、様々なフリーアドレス形式の場所を併用するケースが増えてきているのです。
 
この時、オフィスでも家でもない、サードワークプレイスの台頭は見逃せません。サードワークプレイスは、先述のコワーキングスペース以外にもサテライトオフィス、シェアオフィスに加えて喫茶店、カラオケボックス、ロビー等の公共施設も含むと多様性に富んでいます。
 
これら、サードワークプレイスの利用方法は大きく分けて2つあり、営業などの移動の合間に使われる短時間の利用と、テレワークでの終日業務に使われる長時間の利用に分けられます。最近では、どちらにでも使えて、便利なコワーキングスペースを利用する事例が多く見られるようになりました。
 
サードワークプレイスでは社外も含めて多種多様な人が、フリースペースを中心に活用し効率良く働くことができるとともに、時には外部の人とコミュニケーションを行うことで知的生産に繋げることができます。施設側も積極的にイベントを仕掛け、入居者間のネットワーク形成やオープンイノベーションを生み出そうとしているケースもあります。このようにサードワークプレイス型のフリーアドレス施設を経営効率や働きやすさだけでなく、知的創造性を高めていくためにどう活用するかといった新たな視点も出てきています。
 

フリーアドレスの発展形としてのABW

こういったワークスタイル変革の中で、最近の考え方にABW(Activity Based Working)というものがあります。ABWはワーカーの行動を主体に捉えた概念で、ファシリティを中心に見るフリーアドレスから一歩進んだ考え方となります。つまり、ABWは用意してある場所に人が来るのではなく、仕事内容によってワーカー側が主体的に働く場所や机を選ぶといった働き方になります。
 
例えば、集中したい作業の時は静かな空間に移動し、企画の打ち合わせなどはリラックスできるソファに座って行う、あるいは集中力を再生するために仮眠を行うなど、ワーカー側が柔軟に最適空間を求めて移動を行います。ABWは周りの設備や環境よりも、ワーカー自身の仕事の目的や、仕事の成果を重視した働き方なのです。
 
つまり、ABWのメリットは、働く人の活動に合わせて働く場所が選べるという自己裁量度の高さにあります。ワーカーが主体的に状況に応じてパフォーマンスを出せる場所を選択できるようにすることでワーカーが成果を出しやすくなるのです。
 
ワーカーの成果を出すためにワークスペースの機能と品質が高まれば、生産性も高まり仕事に対するエンゲージメントも深まるという効果もあります。自ら心身を健康に保ち、リラックスした状態での業務が知的生産性の向上に繋がっていきます。今後は、ワーカー主体の生産性向上に向けたABWの考えが主流になってくると思われます。
 

フリーアドレスと「床ポートフォリオ」という考え方

コクヨ株式会社が運営するワークスタイル研究所ではABWの観点を踏まえ「床ポートフォリオ」という概念を提唱しています。オフィスやコワーキングスペースなど様々な働く場をすべて「床面積」としてみなし、企業側がコスト面なども考えた上で社員の働きやすさとオフィスコストの最適化を両立させるのが「床ポートフォリオ」という考え方です。つまり、ABWをオフィスの運用コストの面でも最適化しようというのが床ポートフォリオと言えます。
 
床ポートフォリオを決めるには、オフィスコスト、時間と利便性、拠点の必要機能を考えることが必要です。営業職の外回りなど業務時間内の移動を考慮すると、コワーキングスペースやカフェなどをサテライト的に複数利用することで、交通費や時間の大幅な削減が可能となります。実際にシミュレーションをしてみると、本社スペースを増床するより、分散化させたほうが経済合理性も高いという結果が出ているとのことです。また、将来のオフィスの増員が予想される場合でも、最初から増えた状態を想定してオフィスを借りるのではなく、その間コワーキングスペースなどを借りてしのいだほうが、コストが安くなるというシミュレーション結果もあります。   


上記の観点から床ポートフォリオという考え方は企業のファシリティマネジメントにあたって考慮するポイントの一つと言えます。
 

まとめ

フリーアドレス設備の外部拡張には必ず労務管理や人事制度の問題が付きまといます。形式的にはクラウドによる出退勤管理などで労務管理上の対応は可能です。しかし、根本的に重要なのは社員の働きぶりを費やした時間ではなく、生み出した成果によって評価する人事評価制度なのです。なぜなら、中長期的には評価制度が社員の働く姿勢を規定していくため、社員の意識を変えるには評価制度改革が必須となっています。(もちろん、新卒など自己管理の経験が乏しい場合は出勤をベースに業務設計するなど、社員のキャリアに応じた運用が必要ではあります。)
 
企業が追求すべきフリーアドレス化の本当の狙いは、社員が成果をあげるために主体的に業務設計を行い、行動するようになることです。これによってはじめてフリーアドレス化されたオフィス環境を導入した意味が出てくるのです。社員からすれば結果から見る業績評価には当初戸惑いもありますが、無駄な仕事がなくなり成果が上がるため、処遇の改善につながっていくことになるのです。

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