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2016年11月24日(木)

配偶者控除が消えて「夫婦控除」が始まる? 経営者が気にしておくべきポイントとは

経営ハッカー編集部
配偶者控除が消えて「夫婦控除」が始まる? 経営者が気にしておくべきポイントとは

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「近々、配偶者控除がなくなり、代わりに夫婦控除が導入されるかもしれない」という話題が、世間の関心を集めています。政府内において、現行の所得税の配偶者控除の見直しが検討されているためです。早ければ、2017年税制改正にて行われる模様です。そして、配偶者控除の代わりに導入が検討されているのが「夫婦控除」なのです。

夫婦控除とはどういう内容なのでしょうか。そして、配偶者控除の廃止と夫婦控除の導入が実施された場合、経営者たちはどのように対応したらよいのでしょうか。

配偶者控除の成り立ちと廃止の理由

所得税の配偶者控除制度とは、世帯主のパートナー(多くの場合は妻)が働いていない場合、あるいは働いていたとしても小遣い程度の収入しかない場合に、年間合計所得が38万円以下ならば、その配偶者一人につき世帯主の課税前の所得額から38万円を差し引く制度のことです。昭和38年、日本が「男は外で働き、女は家を守る」というスタイルで高度経済成長期を迎えるにあたり、税金を安くすることで妻の夫への貢献についても税制上評価しようという趣旨により導入されました。

その導入時からおよそ50年が経過した現在、人は性別に拘束されることなく、自由に生き方を選べるようになりました。同時に、夫婦の在り方も、昭和の頃と大きく様変わりしています。女性であっても家庭にとどまることなく起業したり管理職となったりしてバリバリと働く人は少なくありません。また、妻の収入が夫よりも上回り、「母が家計の大黒柱」となっている世帯も増えてきました。

このような背景から、平成の今、配偶者控除制度導入時の家庭のモデルケースは崩壊し、共働き世帯が専業主婦世帯を上回っています。

しかしその一方、相変わらず夫の収入が家計の柱となっている家庭では、妻が税金などによる余計な出費を気にして、働きたい気持ちを抑えてパートやバイトに甘んじているケースも依然として残っています。

そんな現況を鑑み、より現代に合わせた税制にすべく検討され始めたのが「配偶者控除制度の廃止」と「夫婦控除の導入」なのです。

導入が検討されている夫婦控除とは何か

夫婦控除とは、夫婦のどちらかの所得の額が38万円以下であるかどうかに関係なく、夫婦両方の所得を合算し、その合計額が一定額以下ならば夫婦の所得額から控除をしようという制度です。早ければ2018年から実施されるとの話ですが、控除を夫婦一方の所得から行うのか、それとも夫婦それぞれの所得が対象となるのかといった具体的な話はまだ決まっていません。ただ、間違いなく言えるのは、「夫婦控除が始まったら、パートやバイトに甘んじて消極的に妻が働いている世帯が損する仕組みになる」ということです。

慶應義塾大学の土居丈朗教授の試算に基づいたグラフをご覧になると分かりますが、夫婦控除が導入された場合、共働き世帯が所得税上、もっとも有利となる可能性が極めて高いのです。反対に、導入後、もっとも重く税金がのしかかるのは単身者世帯になりそうだという結果になっています。つまり、夫婦控除制度の導入により、単身者の結婚と専業主婦の就職が今以上に進むことが容易に予測できます。

参考:「配偶者控除の見直し試算」の注目ポイント(東洋経済)

夫婦控除が始まったら経営はどうなる?

では、夫婦控除が始まったら、経営者の皆さんは何に注意すべきなのでしょうか。以下の点が挙げられます。

(1)配偶者控除対象となっている従業員を今一度チェック

夫婦控除になった場合には、夫婦それぞれの所得を按分してから差し引くのか、それとも収入が高い方の所得から差し引くのかについてはまだ不明です。しかし、前提条件となる「夫婦の所得の合算」は、夫婦それぞれの所得が相互に分かっていないとできません。そのため、夫婦がお互いに相手の所得を把握し、会社に申告する必要があります。

他、導入されてまだ1年しかたっていないマイナンバーも、今後、年末調整や確定申告で必要となるのは必至です。そのため、マイナンバーについても併せて確認し合っておくべきでしょう。

現実には、世の中風通しのいい夫婦ばかりではありません。「妻の勤務先を知らない、教えてもらえない」夫も数多くいますし、逆に「夫に収入を知られると取り上げられるのが怖いので言いたくない」という妻も少なくありません。制度が個別の夫婦の事情まで斟酌してくれないのは厄介ですが、把握しなければ、専業主婦世帯と同等の扱いを受けることになりかねません。「夫婦控除の恩恵を受けたいのならば、確認しようよ」と、従業員を促すしかないでしょう。

(2)妻の収入が何から得ているものなのかを要チェック

「ウチの妻は家にいてばかりで専業主婦だから大丈夫」と思っている従業員も案外いるものです。そういうケースほど注意しなくてはなりません。なぜなら、今、在宅やハンドメイド、コンサルティングや占いで稼ぐ「ママのプチ起業」が流行しているからです。

インターネットが20年経って市民の生活インフラとして定着したからなのですが、これ以外にも、彼女たちを応援するべく、ママのお小遣いの範囲でスキルや起業支援講座を学べたり、マッチングサイトを通じて在宅でも仕事ができたりなど、外に出なくても仕事ができる環境が整っていています。在宅でコッソリ月20万円稼いでいても、夫には一切打ち明けず、飄々としている妻たちも少なくありません。

このプチ起業の所得は、パートやバイトといった給与所得とは異なり、「事業所得」あるいは「雑所得」というカテゴリに入ります。「事業所得」「雑所得」の場合、計算式は企業会計と同じく、「売上-経費(仕入やその他諸経費)=所得額」となります(雑所得の場合、マイナスはゼロとしてカウントします)。そして所得が発生した年の翌年3月15日までに確定申告をしなくてはなりません。

プチ起業の場合は、妻たちが夫に仕事していることを打ち明けたがらないケースが多数ひそんでいます。だからといって放置していいわけではありません。

配偶者控除であっても、従業員の家庭の夫婦双方がどういう仕事をしていくらの所得があるのかを経営者がきちんと把握しておくべきですが、夫婦控除の場合は、「夫婦合算」が前提であるため、夫婦ともに正確に申告しないと損する仕組みになっています。

また、年末調整で夫婦控除を行うとなったら、その責任は会社にのしかかってきます。万一、翌年の確定申告で、従業員の妻がプチ起業をしていてその所得額が年末調整での申告額と異なった場合、年末調整をやり直さなくてはなりません。

従業員から「社長!なんで言ってくれないんですか!」と言わせないためにも、また、年末調整のやり直しというムダ作業を防ぐためにも、事前にしっかりと調査・把握をしておきましょう。

実施されたら波乱含みの夫婦控除。政府の配慮に期待

夫婦控除制度は、現代の世帯の多くを占める共働き夫婦を支援するものとして位置付けられています。しかし、その一方、制度の導入により、多くの問題が発生する恐れもあります。

妊娠・出産、病気や介護で働けない専業主婦世帯にとっては高負担となるでしょう。一人世帯で貧困から抜け出すのに精いっぱいで結婚どころではない人は、より生活苦に陥ることになりかねません。更に、共働きであっても、夫が生活費を入れないために母子で苦しんでいる経済的DVの世帯については、夫婦控除のオトク感が、夫の妻子に対する経済的暴力をより強める原因になるかもしれません。

政府には、こういった人間の基本的人権に絡む問題も配慮したうえで、制度設計を行うことを期待したいものです。

税理士、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年に税理士登録。外国人の国内の起業支援経験あり。現在、会計や税金に関するWeb記事執筆を中心に活動している。税金や金銭、経済的DVに絡む心理についても独自に研究しセラピーを行う。共著に「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)がある。ブログ「税理士がつぶやくおカネのカラクリ

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