遺産を相続した場合にかかる確定申告などのルールについて
少子高齢化が進む中、実家の土地などを相続しなければならない方も増えているでしょう。また、そういった方の中には、相続税の支払いや確定申告などの税務関係を気にしている方も多いはずです。
遺産相続にかかる確定申告などのルールについて解説します。
相続の場合、確定申告は原則不要
結論から言うと、相続は所得ではなく「継承」であるため、確定申告は必要ありません。そのため、20万円を超える相続を受けた場合でも、所得として確定申告書に記入する必要はないということです。
ただし、不動産を相続した際に、その物件を賃貸していて家賃収入を得ている場合や、相続した物件をすぐに売却して利益を得た場合などは、状況が異なってきます。
亡くなった人の代わりに確定申告をするケース
亡くなった人が不動産経営による収入を得ていた場合は、1月1日から死亡した日までの納税の申告が必要です。これは「準確定申告」といい、相続人が手続きをしなくてはなりません。一般的には、相続人全員の署名を付記した準確定申告書を提出します。
通常の確定申告では、1月1日から12月31日までの所得を、翌2月16日から3月15日までに申告します。準確定申告の場合は、死亡日が3月15日「以前」か「以後」かによって扱いが変わります。
亡くなった日が年始から3月15日以前の場合は、死亡する前年1年分の所得と、死亡した年の1月1日から死亡日までの所得をそれぞれ計算し、相続の開始があったことを知った翌日から4ヶ月以内に準確定申告と納税を行います。
一方、3月15日以降から年末までの場合は、相続の開始を知った翌日から4ヶ月以内に、その年の分の準確定申告と納税を行います。というのも、亡くなった日が3月15日以降であれば、その前年の確定申告を終えているはずだからです。
相続で取得した不動産の家賃収入は確定申告が必要
続いて、相続で「故人からアパートなどの収益を生む不動産を相続した場合」についての確定申告です。
不動産収入は所得なので、確定申告が必要です。ただし、相続の過程で「誰が不動産の所有権を持つのか」などがはっきりしないこともあります。その場合、遺産分割協議がまとまるまで、不動産は相続人全員の共有財産とされるため、法定相続分に従って所得税を納めることになります。協議がまとまったら、相続人ごとにそれぞれ計算して所得税を払うことになるわけです。
もし、不動産の管理を1人が引き受けていた場合、「管理している人の収入として申告し、遺産分割協議がまとまった後に、それぞれ相続分に合わせた所得として所得税を納める」というやり方だと、税務調査で修正させられる可能性もあるため、注意が必要です。
相続した株式を売却する場合の所得税は?
では、遺産の中に株式が含まれていた場合はどうでしょうか。株式に限らず、土地、建物など相続した財産を売却した場合には、「相続税の取得加算費の特例」を受けることができます。これは以下の場合において、譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に、譲渡した財産に対応する相続税額を加算することができるという特例です。
- 相続によって財産を取得した個人に相続税の負担が発生した場合
- 相続の開始があった日の翌日から3年10ヶ月以内に相続した財産を売却した場合
相続税を払った上に、さらに譲渡所得として所得税も課せられたら、たまったものではないですよね。そのため、税負担が重ならないようにするための制度が設けられています。株式には、土地や建物など不動産に対する控除の特例などがありませんので、相続税を払うために株式を売却する方などは、この特例を受けるべきでしょう。
そもそも相続税は全員が支払うのか?
相続税は全員が支払わなくてはならないわけではありません。まず、相続税には「基礎控除」という、税金が免除される範囲があります。計算式は以下の通りです。
基礎控除額:3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が妻と子ども2人の場合、3,000万+600万×3人=4,800万円分が控除額となります。また、生命保険金や死亡退職金については、「500万×法定相続人の数」までは非課税となります。
なお、土地・建物といった不動産、銀行預金などの財産から、借入金や未払金等といった債務を引いたものが正味の遺産額になります。故人が生前通院していた場合の未払い医療費や、葬儀費用や個人で受け取ったお香典などは、遺産額から差し引くことができるので、葬儀屋さんの費用やお寺に支払ったお布施などの領収書などは保管しておきましょう。
(出典:国税庁「No.4152 相続税の計算」)
自宅の相続には特例が受けられる
先に説明した、基礎控除を超える額の遺産を受け取った場合、相続税が発生します。ただし、相続税対策として知っておきたいのが、「小規模宅地等の特例」です。小規模の不動産については、「小規模宅地等の特例」が適用されます。
この特例を受けると、亡くなった人が所有していた事業用宅地や居住用宅地における330平方メートルまでの「限度面積」に限り、通常の相続税評価額から80%減額をした額が相続の課税対象額となるのです。
事業用の土地や居住用の土地は、ストレートに生活基盤に関わってくるため、路線価で相続税を評価した場合、残された家族の生活が立ちゆかなくなる可能性があるためです。
配偶者が自宅の土地を相続した場合には、問題なくこの特例を受けることができます。一方、子どもが自宅の土地を相続したケースの場合、引き続き居住していれば問題ありませんが、申告期限(死亡日から10カ月)までに売却してしまうと、特例が受けられなくなります。
(出典:国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」)
税務署に「忘れてた!」は通用しない
このように、相続には残された家族の生活を守るためのさまざまな控除があり、一般庶民の場合はそれほど相続税の心配をする必要がないことが分かるかもしれません。
ただし、アパートなどの収益を生む不動産を相続した場合には、不動産収入に対しての確定申告が必要です。税務署は、財産の多い家庭をあらかじめマークしているので、税務調査が入った場合に「忘れてた!」という言い訳をしても通用しません。
株や不動産の相続などは手続きも多いので、忙しかったり不明点があったりする場合は、税理士や司法書士などのプロに依頼してみましょう。