確定申告で間違いの多い「受取保険金」の取り扱いを解説
フリーライター(元東京国税局職員)の小林義崇です。
国税庁のホームページでは、「確定申告の際に誤りの多い事例(こちらのQ19)」を公開していますが、この事例のなかでも多くの人に関係するのが、「受取保険金の申告漏れ」です。受取保険金は、その内容によって、所得税、贈与税、相続税という3パターンの税が関係しますので、どの税の手続きが必要か判断する方法を、今回の記事で解説します。
保険金にかかる税金は「負担者」「被保険者」「受取人」の組み合わせで決まる
医療保険や生命保険などに加入すると、「被保険者」に指定された人に病気や死亡など一定の保険事故が発生した場合や、保険期間の満期を迎えた場合に、「保険金受取人」(以下「受取人」)が保険金を受け取ることができます。
保険に加入する際には、「被保険者」と「金受取人」をあらかじめ決める必要があり、たとえば、「お父さんが亡くなったら、息子が保険金を受け取る」という契約であれば、被保険者はお父さん、そして受取人は息子ということになります。
税を考えるときには、これら被保険者と受取人に加え、「保険料の負担者」も影響します。これら3つの当事者の組み合わせによって、受取保険金は、所得税、贈与税、または相続税という3種類の税金のいずれかの対象になります。
国税庁は、「確定申告の際に誤りの多い事例」のひとつとして、受取保険金の申告誤りを挙げています(国税庁ホームページのQ19)が、これは、「本当は所得税として申告すべきなのに、相続税の対象だと勘違いしてしまった(その結果所得税は申告漏れ)」といった間違いが多いためでしょう。
判断を難しくしている原因には、「保険契約者ではなく、実際の負担者で判断する」という理由もあります。保険契約をする場合、被保険者や受取人に加え、必ず保険契約者も設定しますが、実は税の判断においては、「保険契約者」が誰であっても影響しません。
以下の表は、被保険者が死亡した場合の受取保険金の扱いですが、このとおり、保険契約者は関係ありませんので、本来は負担者で判断すべきところを、契約者で判断しないように注意しましょう。
<国税庁ホームページより引用>
所得税は、「自分で払って、自分がもらうケース」と覚えよう
受け取った保険金が所得税の対象となるのは、たとえば以下のようなケースです。
ポイントは、「保険料の負担者」と「受取人」が同一人物という点です。自分が保険料を払い、自分が保険金を受け取る場合、被保険者が誰であろうと、すべて所得税の対象となります。
このため、被保険者、負担者、受取人のいずれも同一人物という場合も、やはり所得税の対象になります。具体的には、Aさんが保険料を負担し、Aさんの入院に対する保険金を、Aさんが受け取るというパターンです。同様に、Aさんが保険料を支払っている保険契約が満期を迎え、Aさんが保険金を受け取った場合も、やはり所得税の対象です。
所得税を計算する場合、一括で受け取れば「一時所得」。年金払いで受け取る場合は「雑所得」として税額計算をします。一時所得であれ、雑所得であれ、受取保険金から、支払保険料を経費として差し引くことができ、一時所得については、さらに特別控除50万円を引いた金額を2分の1にした金額が課税対象になります。このため、一般的には一括で受け取った方が税額は低く抑えることができるでしょう。
具体的に経費とできる支払保険料を確認するには、保険会社からの通知で把握できますので、差し引きした結果、プラスになる(所得が発生する)場合、保険金を受け取った翌年の2月15日から3月15日までに確定申告と納税をする義務が生じます。
「被保険者」「負担者」「受取人」がバラバラなら、贈与税
次に紹介する贈与税の対象となるパターンは、たとえば以下のようなケースです。
父親が死亡したことで、息子に保険金が支払われるわけですが、実際に保険料を支払っているのは母です。息子は保険料を一切負担せずに保険金を受け取ったということですから、「母から息子にお金を渡した」のと同様、贈与税の対象となります。
また、満期保険金の受取りでも、保険料負担者と保険金受取人が別人の場合は、贈与税の対象となります。
贈与税の場合、さきほど説明した所得税とは異なり、経費として支払保険料を引くことはできず、受取保険金の金額がそのまま課税対象となります。その分、税負担は重くなってしまいますから、保険料負担者と受取人を違う人にするのは、税金の点ではデメリットが大きいと言えます。
贈与税は、年間110万円までは非課税で申告不要(相続時精算課税方式を選択した人は除く)ですが、それを超える場合など申告を必要とする場合、保険金を受け取った翌年の2月1日から3月15日の間に贈与税の申告・納税をする必要があります。贈与税の申告書は、所得税の申告書とは書式が異なりますので、税務署で必要な様式をもらうか、国税庁ホームページを利用しましょう。
保険料の負担者が死亡すると、相続税の対象に
次に、相続税の対象となるパターンです。相続税は、個人が死亡し財産の相続があったときに課せられるものですので、やはり「死亡」がポイントになります。たとえば、以下のケースを見てみましょう。
このように、相続税の対象になるのは、保険料負担者が死亡しているケースです。ここで、相続税に多少詳しい方であれば、「相続税は、死亡した個人が亡くなった時点の財産に対して課されるものでは?」と疑問に持たれるかもしれません。
たしかに、死亡保険金は、被保険者が死亡した“後”に支払われるものですから、一見相続税の対象ではないように見えます。しかし、相続税には、「みなし相続財産」という考え方があり、相続財産と同じような実態があれば、相続税の対象となるのです。上記のケースは、お金を払った個人が亡くなり、相続人が受け取ったわけですから、みなし相続財産と判断され、やはり相続税の対象となります。
一方、ややイレギュラーなケースですが、相続税の対象となるにもかかわらず、「みなし相続財産」ではないというパターンもあります。
この場合、被保険者は父ですから、まだ保険金は支払われません。しかし、「保険金を受け取る権利」を持つ母が亡くなっているため、母の相続人の誰かが、権利を引き継ぐことになります。亡くなった人に子がいれば、子が相続人になり、もし子どもがいなければ、祖父母(母の母)、祖父母もいなければ叔父叔母(母の兄弟)等、血縁者の中で相続人が決まります。
権利を誰が相続するかは、遺言で指定された人か、遺言がなければ相続人同士による遺産分割協議により決まりますが、権利を取得した人が相続税を負担することになります。
相続税の計算においては、契約している保険金の金額そのものが課税対象になるわけではなく、「もともと権利を持っていた人が亡くなった時点で、その契約を解約するとした場合に支払われる解約返戻金の額」を基準に評価します。
このように、保険金を受け取る権利を相続した場合、金銭をまだ受け取っていない段階で税金が発生するということを覚えておきましょう。