損益計算書の書き方に見る利益を5段階に分けて得する理由!
会社の財務状況や経営成績などを表す書類として財務諸表というものがあります。大学で会計を学んだり、簿記の勉強をしたりした人であれば聞いたことがあると思います。財務諸表にはいくつもの書類がありますが、専門家以外の人であれば「貸借対照表(B/S)」「損益計算書(P/L)」「キャッシュフロー計算書(C/S)」だけをとりあえず押さえておけば問題ありません。前回は貸借対照表を紹介しました。今回は損益計算書について説明します。
前回の記事では、貸借対照表は「会社の健康診断書」、キャッシュフロー計算書「会社の家計簿」と説明しました。損益計算書はいわば「会社の成績表」です。損益計算書をものすごくシンプルにすると、以下の数式になります。
収益(売上)-費用=利益
収益は会社に入ってくるお金、費用は会社から出ていくお金です。その差が利益というわけです。これを会計期間(1年または半年)によって計算します。
実際に損益計算書を見てみよう!
それでは、損益計算書を簡略化したものを以下に示します。 損益計算書の基本構造は、上のような骨格になります。最終的な利益(当期純利益)まで、段階ごとに利益を提示するのです。
第1段階)売上総利益とは
売上総利益とは、売上高(売って得たお金)から売上原価(作ったり仕入れたりしたコスト)を引いたもの。一般的に「粗利」と呼ばれます。これは商品を作った時点での利益ということになります。
第2段階)営業利益とは
営業利益とは、売上総利益から販売費及び一般管理費(広告宣伝費や人件費など)を引いたもの。略して「販管費」と言われるものです。これは本業でどのくらい儲けているのかを示しています。
第3段階)経常利益とは
経常利益とは、営業利益に営業外収益(本業以外での収入。配当や利息など)を加え、その合計から営業外費用(本業以外での支出。株の損失など)を引いたものです。略して「ケイツネ」と呼ばれるもので、本業以外での損益を加味したものなのです。
第4段階)税引前当期純利益とは
税引前当期純利益とは、経常利益に特別利益(一時的な理由で生じた利益。土地や株式の売却など)を加え、その合計から特別損失(一時的理由で被った損失。災害や早期退職など)を引いたもの。あくまでも一時的な理由で生じたものなので、毎年必ず発生するものではありません。
第5段階)当期純利益とは
税引前当期純利益から税金を引いたものが「当期純利益」です。これは上の説明からもわかる通り、本業の損益、本業以外の損益、一時的な損益などを加味したものであり、大変重要な指標となります。
なぜこのように5段階で利益を出すのか?
なぜこのように利益を段階ごとに出しているのでしょうか? それは会社経営が「最終的な利益だけわかれば良い」というものではなく、「どのセクションで儲かり、どこで損しているのかを把握しなければならない」からです。
【例】
某メーカーA社を例に考えてみましょう。A社の損益計算書を見てみると、当期純利益が3000億円だったと仮定します。この数字だけを見ると、A社は今期の成績は良かったということになります。しかし、営業利益は500億円のマイナス、経常利益は100億円のマイナスでした。A社は工場やオフィスの売却などで特別利益を計上していたため、当期純利益がプラスになっていたということが明らかになったのです。このように、A社の当期純利益は一時的な要因によってプラスになっていたということがわかります。今期はプラスでも、来期にマイナスになる可能性があるので、健全とはいえません。このように、どこで儲けたのか(損したのか)が一目でわかるようになっています。 さて、ここからは損益計算書を読み解いて、自分の会社をチェックしてみましょう。
損益計算書を使って会社を分析してみよう!その1:本業で儲かっているの?
損益計算書のことを覚えたら、今度は会社の財務状況を分析してみましょう。損益計算書を読み解くいくつかのツール(指標)がありますので、ここで紹介していきます。
・売上総利益率(粗利率)
売上総利益率とは、「売上総利益÷売上高×100」という式で計算されたもの。売上高のうちの売上総利益の割合です。売上のうちどのくらいの利益を稼いだのかを割合(%)にしたものであり、他社と比較するときに役立ちます。
・営業利益率
営業利益率とは、「営業利益÷売上高×100」という式で計算されたもの。売上高のうちの営業利益の割合です。こちらも他社と比較するときに役立ちます。
・当期純利益率
当期純利益率とは、「当期純利益÷売上高×100」という式で計算されたもの。売上高のうちの当期純利益の割合です。
これらのうち、一番重要なのが「営業利益率」。営業利益率は本業の利益率を見ているので重要です。
損益計算書を使って会社を分析してみよう!その2:なぜうちの会社は給料が安いの?
・付加価値率
付加価値とは、その会社が生み出した価値のこと。「売上-他社から購入した材料など(材料費・外注費など)」という式で求められます。付加価値率の求め方は以下の通り。
付加価値率=付加価値÷売上×100
他社から仕入れる割合が少ない業種(IT業界)の場合は、一般的には付加価値率が高くなります。一方、他社から仕入れる割合が多い業種(小売業)の場合は付加価値が低くなる傾向があります。 しかし、この付加価値率というのは人手を考慮していません。そこで従業員数を考慮に入れた指標が必要になります。
・1人あたりの付加価値額(労働生産性)
労働生産性とは、社員1人がどれだけの付加価値を生み出しているかを示す指標。求め方は以下の通り。
労働生産性=付加価値÷従業員数
この労働生産性こそが、一般的にその会社の給与の高さに影響を与えます。従業員数が少ない、もしくは付加価値が高い企業が、労働生産性が高いと言えます。 しかしこの指標が直接給与に結びつくわけではなく、経営者による従業員への分配率を考える必要があります。そこで会社が生み出した付加価値を社内でどのように分配するかを調べるための指標を紹介します。
・労働分配率
労働分配率とは、会社が生み出した付加価値をどの程度給与に還元するかの割合を示したものです。以下の式で求められます。
労働分配率=人件費(社員全体の給料)÷付加価値×100
この労働分配率によって、付加価値に占める社員の給料がわかります。それ以外の付加価値については、会社への「内部留保」や債権者への利払い、株主への配当などに使われます。他社と労働分配率を比較すれば、どの会社の人が給料を多くもらっているのかがわかるというわけです(もちろん平社員と部長では受け取る給料は違いますが)。
まとめ
このように、損益計算書だけを見ても、様々な指標を使えば複数の会社を比較することが可能になります。また自分の会社が本業で利益を上げているのか、それとも本業以外で利益を出しているのかがわかるようになります。経営者や財務担当者ではなくても、ベンチャーやスタートアップ企業の社員であれば、損益計算書の見方をここで覚えておいたほうが役立つと思いますよ。財務諸表が読めれば、経営会議に参加することも可能でしょう。ぜひここで勉強してみてはいかがでしょうか?
TEXT=安齋慎平