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2019年06月11日(火)

連結決算とは?連結財務諸表の基本ルール

経営ハッカー編集部
連結決算とは?連結財務諸表の基本ルール

子会社を保有する企業がIPOを目指すとき、知っておかないといけない会計知識の一つに連結決算があります。本稿では、連結決算を理解するために、法的に定められている連結会計基準(連結財務諸表に関する会計基準)の基本ルールを中心に解説します。

連結決算とは

連結決算とは、一言でいえば法的に要請される様式で連結財務諸表を作成することです。連結財務諸表とは、支配従属関係にある2つ以上の企業からなる集団(企業集団)を単一の組織体とみなして、親会社が当該企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を総合的に報告する計算書類であるとされています。
 
つまり、当該上場企業に対し投資家が投資判断をするときに、複数の会社から成っている企業グループの実態を把握するためには、単体ではなく連結した状態で見る必要があることから、連結決算が求められているのです。そして、この連結財務諸表を作成するプロセスが連結会計と言われているものです。
 
なお、連結財務諸表に対して、個別会社を単位として作成される財務諸表を「個別財務諸表」または「単体財務諸表」として区別します。

参考:連結会計とは?連結会計の意味とルールを詳しく解説

連結決算で作成する連結財務諸表とは

連結財務諸表の内訳は、連結貸借対照表、連結損益計算書および連結包括利益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書となっています。また、付属的な書類として、注記、および連結附属明細表の提出が求められています。
 
これらの作成方法は、大元の法律である金融商品取引法を所管する金融庁の企業会計審議会で取り決められた連結会計基準(連結財務諸表に関する会計基準)として公表されており、これに従った運営がなされています。

連結決算の法的根拠~金融商品取引法による要請事項

企業が子会社を持っている場合、連結決算は上場準備段階から監査法人の指導を受けて実施することになりますが、監査法人がなぜそのようなアドバイスをするのか理解するためには、自身でも法的な根拠を知っておくことが大切です。
 
上場企業が連結決算を行い、連結財務諸表を開示しなければならない法的な根拠は金融商品取引法に拠っており、また、同法に位置付けられている株式市場である各証券取引所の運営ルールにも対応する必要があるのです。

1.金融商品取引法による有価証券報告書および四半期報告書の提出

上場企業は、事業年度ごとに有価証券報告書を提出することが義務付けられています。(金 融商品取引法第 24条第1項)。有価証券報告書はインターネットを利用して一般に情報公開するEDINET(Electronic Disclosure for Investors’NETwork)を通して閲覧できるようにします。
 
この有価証券報告書は、原則として、事業年度終了後3 ヶ月以内に提出しなければならないとされています。また、四半期報告書の提出も求められています。

2.有価証券上場規程による決算短信の提出

証券取引所の上場企業には、有価証券上場規程が適用されます。それによると、上場会社は、事業年度又は連結会計年度に係る決算が確定次第、所定の「決算短信(サマリー情報)」により、直ちにその内容を開示することが義務付けられています。(東証の場合、有価証券上場規程第404 条)。決算短信の開示は、TDnet(Timely Disclosure network、適時開示情報伝達システム)を利用して行われます(有価証券上場規程第414 条第1 項)。
 
上場企業は、有価証券上場規程に基づく適時開示として決算日後1ヶ月程度で決算短信を開示することになっています。
 
これらの法令や規定により、連結財務諸表における連結株主資本等変動計算書、注記を除いた連結計算書類は四半期ごとに作成し、開示する必要があります。
 
以下に連結会計基準に基づき、連結決算で要請される決算処理の中で、ポイントになるものを抜粋し解説を加えて示していきます。

1.連結財務諸表作成における一般基準

連結決算を行うときに則る基本ルールとして、連結会計基準の中にまず下記が定められています。

(以下に続く下線部分は連結会計基準からの引用です。)

連結の範囲

・親会社は、原則としてすべての子会社を連結の範囲に含める。

連結の範囲を決め、一連の決算処理に当たっては、重要性の原則が適用されます。
重要性の原則とは、企業会計に関して、定められた方法で正確な計算を行うが、その目的は、投資家など利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるので、重要性の乏しいものについては、簡便な方法での処理が認められていることを言います。

 連結決算日

・連結財務諸表の作成に関する期間は 1 年とし、親会社の会計期間に基づき、年 1 回一定 の日をもって連結決算日とする。
 
・子会社の決算日が連結決算日と異なる場合には、子会社は、連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行う。

親会社及び子会社の会計方針

・同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計 方針は、原則として統一する。

2.連結貸借対照表の作成基準

次に、連結貸借対照表についての作成基準です。

連結貸借対照表の基本原則

・連結貸借対照表は、親会社及び子会社の個別貸借対照表における資産、負債及び純資産 の金額を基礎とし、子会社の資産及び負債の評価、連結会社相互間の投資と資本及び債権と債務の相殺消去等の処理を行って作成する。

連結決算の特徴として相殺消去があります。これは例えば、親会社が保有する子会社株式が、投資勘定として親会社の資産に計上され、子会社が自己株式として資本に計上している場合、単純に連結合算すると同一のものが二重に計上されることになるので、相殺消去を行うということです。債権債務の相殺消去も、同様に二重計上を防ぐために行います。

子会社の資産及び負債の評価

・連結貸借対照表の作成にあたっては、支配獲得日において、子会社の資産及び負債のすべてを支配獲得日の時価により評価する方法(全面時価評価法)により評価する。

投資と資本の相殺消去

・親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本は、相殺消去する
・親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本との相殺消去にあたり、差 額が生じる場合には、当該差額をのれん(又は負ののれん)とする。

親会社が投資した時点から、子会社の企業価値(株価)が上昇している場合は、上昇分(あるいは下落分)をのれん(あるいは負ののれん)として評価し、計上します。

少数株主持分

・子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分は、少数株主持分とする。

支配獲得日の子会社の資本は、親会社に帰属する部分と少数株主に帰属する部分とに分け、 前者は親会社の投資と相殺消去し、後者は少数株主持分として処理します。

債権と債務の相殺消去

・連結会社相互間の債権と債務とは、相殺消去する 

相殺消去の対象となる債権又は債務には、前払費用、未収収益、前受収益及び未払費用で 連結会社相互間の取引に関するものを含みます。

連結貸借対照表の表示方法

以下は、作成時の記載ルールです。

・連結貸借対照表には、資産の部、負債の部及び純資産の部を設ける。

(1) 資産の部は、流動資産、固定資産及び繰延資産に区分し、固定資産は有形固定資産、 無形固定資産及び投資その他の資産に区分して記載する。
(2) 負債の部は、流動負債及び固定負債に区分して記載する。
(3) 純資産の部は、企業会計基準第 5 号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基 準」(以下「純資産会計基準」という。)に従い、区分して記載する。
 
・流動資産、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産、繰延資産、流動負債及び固定負債は、その性質を示す適当な名称を付した科目に明瞭に分類して記載する

3.連結損益及び包括利益計算書又は連結損益計算書及び連結包括利益計算書の作成基準

次に、損益関係書類についての作成基準です。

・連結損益及び包括利益計算書又は連結損益計算書及び連結包括利益計算書は、親会社及 び子会社の個別損益計算書等における収益、費用等の金額を基礎とし、連結会社相互間の取引高の相殺消去及び未実現損益の消去等の処理を行って作成する。

包括利益とは、当期純利益に加えて、「その他の包括利益」(その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益、外貨換算調整勘定などの変動額)を含んだものです。連結包括利益計算書は、連結損益計算書の中に内包するか、もしくは並記する形で作成します。

連結会社相互間の取引高の相殺消去

・連結会社相互間における商品の売買その他の取引に係る項目は、相殺消去する。

未実現損益の消去

・連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産、固定資産その他の資産に含まれる未 実現損益は、その全額を消去する。

未実現損益とは、連結会社内で商品などの棚卸資産の売買取引などを行ったとき、親会社には内部利益が計上されているが、当該商品は期末に在庫として子会社に保有されたままの場合には、当該商品に含まれる未実現利益を消去する必要があります。

表示方法 

以下は、作成時の記載ルールです。

・連結損益及び包括利益計算書又は連結損益計算書における、営業損益計算、経常損益計 算及び純損益計算の区分は、下記のとおり表示する。
 
(1) 営業損益計算の区分は、売上高及び売上原価を記載して売上総利益を表示し、さらに販売費及び一般管理費を記載して営業利益を表示する。

(2) 経常損益計算の区分は、営業損益計算の結果を受け、営業外収益及び営業外費用を記載して経常利益を表示する。

(3) 純損益計算の区分は、次のとおり表示する。

①  経常損益計算の結果を受け、特別利益及び特別損失を記載して税金等調整前当期
純利益を表示する。

②  税金等調整前当期純利益に法人税額等(住民税額及び利益に関連する金額を課税
標準とする事業税額を含む。)を加減して、少数株主損益調整前当期純利益を表示す
る。

③  少数株主損益調整前当期純利益に少数株主損益を加減して、当期純利益を表示す
る。
 
・販売費及び一般管理費、営業外収益、営業外費用、特別利益及び特別損失は、一定の基 準に従い、その性質を示す適当な名称を付した科目に明瞭に分類して記載する。

4.連結株主資本等変動計算書の作成

次に、連結株主資本変動計算書の作成についてです。

企業会計基準第 6 号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」(以下「株主資本等変 動計算書会計基準」という。)に従い、連結株主資本等変動計算書を作成する。

連結株主資本等変動計算書とは、連結会社間における貸借対照表の純資産の部の一会計期間における変動額のうち、主として、株主に帰属する部分である株主資本の各項目の変動事由を報告するために作成されるものです。

5.連結キャッシュ・フロー計算書の作成

次に、連結キャッシュ・フロー計算書の作成についてです。

「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」(平成 10 年 3 月 企業会計審議会)に 従い、連結キャッシュ・フロー計算書を作成する。

「キャッシュ・フロー計算書」が対象とする資金の範囲は、以下のようになります。

(1) 手許現金及び要求払預金。普通預金、当座預金、通知預金が相当します。定期預金は、ここにいう要求払預金には該当しません。 

(2) 現金同等物。容易に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わない短期投資。市場性のある株式等は換金が容易であっても、価値変動リスクがあるため、現金同等物には含まれません。

6.連結財務諸表の注記事項

次に、注記事項の項目になります。

・連結財務諸表には、次の事項を注記する。
 
(1) 連結の範囲等連結の範囲に含めた子会社、非連結子会社に関する事項その他連結の方針に関する重要な事項及びこれらに重要な変更があったときは、その旨及びその理由

(2) 決算期の異なる子会社 
子会社の決算日が連結決算日と異なるときは、当該決算日及び連結のため当該子会社について特に行った決算手続の概要

(3) 会計処理の原則及び手続等

①  重要な資産の評価基準及び減価償却方法等並びにこれらについて変更があったと
きは、企業会計基準第 24 号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以
下「企業会計基準第 24 号」という。)に従った注記事項

②  子会社の採用する会計処理の原則及び手続で親会社及びその他の子会社との間で
特に異なるものがあるときは、その概要

(4) 企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を判断するために重要なその他の事項

まとめ

上場企業は法令や証券取引所の規定にしたがい、連結決算を行い、情報開示を行うことで投資家のみならず、あらゆるステークホルダーに対し価値を高めていく使命を負っています。
 
法令などのルールは一見ややこしく見えますが、実際には運用の歴史を経て、整然と整備されてきており、大元の法律となる金融商品取引法の項目だけでもざっと見ておくと、全体が俯瞰できるようになります。法令の根拠に遡ることで、その背景にある枠組みを知ることができ、情報開示のルールを所与のものとして単に従うのではなく、その根底にある意味を理解できるようになります。
 
この結果、監査法人や、主幹事証券とのやり取りもよりスムーズにいくようになるでしょう。

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