有価証券報告書とは?競合分析や営業にも使える"有報"を税理士が解説
有価証券報告書とは?
有価証券報告書(ゆうかしょうけんほうこくしょ)という言葉、大企業でも管理部門の方以外、初めて耳にする方も多いのではないでしょうか?慣れた方は、「有報」(ゆうほう)という呼び方をすることが多いかもしれません。
有価証券報告書とは、簡単に言うと、上場会社など、一定の要件を満たす会社(有価証券の発行者)が、金融商品取引法に基づいて、投資家の投資判断を支援するため、事業年度ごとに継続して会社業績等を提出(開示)する書類です。3月決算の会社であれば、概ね6月下旬に提出されます。
数字だけでなく、様々な視点から会社の業績と将来の見込みを記載した、会社の「公式ガイドブック」のようなものと考えたらよいでしょう。
この記事では、有価証券報告書に普段なじみの薄い方のために、基本的な事項を整理しつつ、よくある疑問について、説明したいと思います。
1) 有価証券報告書を提出する会社と提出期限
1. 有価証券報告書の提出義務者
まず、原則として次に掲げる有価証券の発行者は、事業年度ごとに有価証券報告書を提出しなければなりません。簡単に言うと、市場に株式が流通している上場企業と、一定数以上の株主数があり、特定の条件を満たした企業は投資家保護の観点から、有価証券報告書を提出しなければなりません。
提出義務者の詳細は、関東財務局のWEBページをご参照ください。 企業内容等開示制度の概要(関東財務局)
2. 有価証券報告書の提出期限
有価証券報告書は、原則として事業年度経過(決算日)後、3カ月以内(外国会社の場合は6カ月以内)に提出しなければなりません。ただし、一定の条件を満たすと延長も認められています。
延長企業の一覧は、日本取引所グループのWEBページで確認することができます。言語や会計基準の相違で期日内の提出が困難な外国企業と不適切な会計処理があった東芝グループが延長となっていますが、大部分の企業では期限内に提出されます。
2) 有価証券報告書の内容と閲覧方法
1. 有価証券報告書の内容
実際に、有価証券報告書の現物をご覧になるほうがわかりやすいと思いますが、記載事項は以下の通りです。二部構成ですが、ほとんどの情報が「第一部 企業情報」に記載されています。
各企業ともこの構成に沿って作成しているので、だいたいどのあたりのページにどういう内容があるか覚えておくと、必要な情報を素早く効率的に入手可能です。
第一部 企業情報
なお、毎年細かく記載要領が変わるので、企業の経理部など作成実務の担当部署では、記載内容が記載要領に沿っているかどうかのチェックがかかせません。
2. 有価証券報告書の閲覧方法
有価証券報告書は、金融庁の運営するEDINET(エディネット)というサイトの「書類検索」から無料で閲覧が可能です。使い方も簡単ですので、詳しくはサイトのヘルプを参照ください。
なお、縦覧(自由に見ること)先・縦覧期限の詳細は、同じく関東財務局のHPを参照ください。
※一部の提出書類は、紙ベースでも縦覧可能 ※関東だけではなく、近畿財務局等お住まいの地域の財務局でも縦覧することができます。
3)有価証券報告書と間違いやすい書類
有価証券報告書と間違えられやすい書類として、以下の2つがよくあげられますので対比表にまとめておきます。
1. 決算短信
上場企業の作成実務上は、決算短信をベースに有価証券報告書も作成していくので、同一企業で両書類を比べてみれば、会社業績や記載内容が同一若しくは、ほぼ同一であることに気付かれると思います。 両方入手できる場合は、確定値が有価証券報告書なので、そちらを参照しましょう。
なお、四半期ごとの決算短信と四半期報告書とでも上記の関係が当てはまります。
2. 有価証券届出書・有価証券通知書
有価証券届出書・有価証券通知書は、一定の条件を満たす有価証券の募集や売り出し(いわゆる新株発行など)をする際、その発行者が、その都度金融庁に提出する開示資料です。
基準の詳細は、関東財務局のHPを参照ください。
有価証券届出書・通知書と有価証券報告書は、決算短信よりも名前は似ていますが、別物です。特定の企業の個別の新株発行などの際に、届出書・通知書で株式発行により調達した資金の使途を確認したり、その募集に応じたりするために投資家が検討する資料です。会社の公式「株式発行ガイドブック」と理解しておけばよいでしょう。 なお、基準を満たす募集や売り出しをしたのに有価証券届出書・通知書を提出しないと、金融庁HPに掲示されます。未公開株式などの勧誘を受けた際に、詐欺にあわないためには、こういったところをチェックすることも重要です。
有価証券届出書を提出せずに有価証券の募集を行っている者の名称等について(金融庁)
4)有価証券報告書と罰則
有価証券を提出しなかったり、虚偽の記載をした場合は、刑事罰、行政罰、民事責任、上場廃止等の重い罰則を受けます。こちらも詳しくは別の機会に譲り詳細は割愛しますが、例えば、ライブドア事件やオリンパス事件などが世間を騒がせました。
5)有価証券報告書の効果的な使い方4つ
では、無料で手に入る有価証券報告書を実際に、どう使うのがよいのか?今回、詳細は割愛しますが、以下の4つの活用方法をご紹介させていただきます。
1. 株式購入の参考
もともと、投資家のために投資情報を提供することを目的とした資料であるため、投資に関係する情報が網羅的に説明されています。ネット情報のような不確かな情報ではなく、不正がない限り、真正な情報が記載されています。そのため、その会社の株式や社債を買うべきか?将来伸びそうか?ということを判断する際の需要な参考資料になります。
2. 業界分析、自社との経営指標の比較
上場企業の企画部門は、必ずと言ってよいほど同業他社の有価証券報告書をきちんと読み込み、他社分析しています。中小企業の方であっても、同種の上場企業が行う業界環境の分析、またその会社の経営方針や、営業利益率、損益分岐点、販管費率、一人当たり売上高、投資額などの経営指標などは自社との比較に役立つことと思います。
3. 就職・転職活動
あまりやっている人は多くないですが、有価証券報告書を読み込めば、従業員数や平均年齢、離職率(平均勤続年数)、平均年収、パート比率などが推測、分析できます。就職、転職の際に、できるだけ良い企業に入社したいというのは皆同じですが、有価証券報告書を見ることで、こういった就職・転職活動に活用することもできてしまうのです。
4. 営業活動
有価証券報告書を見て企業を分析したり、経営課題の項目を見れば、その企業が何に困っているかわかってきます。原価が高いのか?離職率が高いのか?訴訟をいっぱい抱えているのか?研究開発を積極的にしているのか?中小企業の皆さんからすれば、大企業とのビジネスチャンスや営業活動のきっかけになるキラリと光る情報が有価証券報告書には眠っています。
まとめ
このように、有価証券報告書は無料で手に入る質の高い情報であり、使い方によっては非常に役立つ書類です。
これまで一度も有価証券報告書を読んだことがない人は、一度、興味のある企業の有価証券報告書をご覧になってみてはいかがでしょうか?
この記事は、UKトラストグループ様に寄稿いただきました。 経営ハッカーでは、記事制作にご協力いただける方を募集しております。 お申し込みはこちらから