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2019年07月12日(金)

コスト削減とは?コスト削減は4つの視点で包括的に取り組むべき

経営ハッカー編集部
コスト削減とは?コスト削減は4つの視点で包括的に取り組むべき

企業の存続、成長のためには、「利益の確保」が大前提であるのは言うまでもありません。そのために経営者は日々、売上の確保・拡大に注力しています。売上の確保・拡大と共に利益の確保に貢献するのはコスト削減ですが、こちらも経営者にとっては大変重要なテーマになっています。

1.コスト削減の意義

コスト削減の効果は売上獲得と比較するとよくわかります。仮に年商100億円、コスト90億円、利益10億円の企業があったとして、利益を20億円に倍増しようしているとします。このときに売上を増やそうとすると、新たに100億円分の営業努力が必要となりますが、コスト削減であれば、90億円のコストのうちあと10億円分をコスト削減することで、利益を倍増させることができます。利益の確保のためには、コスト削減がより確実に成果を出しやすいことがよくわかります。
 

2.コスト削減の目的

(1)低成長時代における企業存続
 
低成長時代には特にトップラインの売上が伸ばしにくい中で、コスト削減は企業が生き残るための最優先事項の一つになります。収益-費用=利益ですから、これからすると、収益としての売上が伸びないなら、利益を確保するには差しあたって費用 =コストを削減するしかなくなります。
 
(2)市場における競争優位を確保
 
激しい競争状況を前提にすると、値上げが難しくコスト削減を徹底しないと業界の競争に勝つことは難しくなります。
 
(3)イノベーションやビジネスモデルの再構築
 
思い切ったコストダウンを考えることで、イノベーションや、ビジネスモデルの再構築が生まれることがあります。
厳しい状況の中であえて高いコストダウン目標を設定することで、プロダクトのイノベーションやビジネスモデル自体の変革につながる可能性があります。
 

3.コスト削減の包括的な視点

各部門にコスト削減の要請は日頃から厳しく行っているものではありますが、経営的には以下、4つの視点で包括的に考えていく必要があります。
 
(1)管理会計の視点 
コスト構造の把握。今のコスト削減によってPL上のインパクトが期待できるか?
(2)戦略選択の視点 
競争力は高まるか、マーケティングの効果が高まるか?
(3)プロダクトやビジネスモデル革新の視点
そもそも今のプロダクトやビジネスモデルを変えることで、ビジネスの前提条件を変更したほうがよくないか?
(4)人件費の視点
人件費はコストダウンの対象か?
 
このような観点からコスト削減活動については、現場階層、管理者階層、経営階層のそれぞれの問題意識として取り組む必要があります。企業の各現場でコツコツとコスト削減活動を行うことはもちろん大切ですが、それだけだと大きな効果がでません。抜本的な経営革新のためには経営的な視点でのコスト削減が特に重要となります。
 

4.管理会計視点でのコスト削減(視点1)

上記3の(1)について。管理会計の観点でコスト削減を検討する際に有益なのは自社の収益構造を改めて把握することになる点でしょう。
 

原価と販管費のコスト削減

PL上のコストは、言うまでもなく原価と販管費に分かれます。
 

原価のコスト削減

原価のコストダウンにもっとも緻密に取り組んでいるのが製造業といえます。製品ごとの原価管理や、部品1個単位での原価削減を実現する努力をしています。製造業は原材料や部品の点数があまりにも多いため、早くからERPの活用がなされ原価計算がなされてきました。ERPのデータを駆使しての原価管理の手法について異業種企業は大いに研究の余地があります。品種少量生産の場合におけるコスト削減、コストのつくり込み方式によるコスト削減(トヨタ自動車の得意な原価企画=ターゲットコスティング)や生産現場におけるカイゼンの積み重ねなど様々な手法、取り組みが見られます。
 

販管費のコスト削減

販管費のコスト削減はすべての業種の企業活動が対象になっています。現場での目に見えやすい活動となるため、全員参加型のコスト削減運動がやりやすいものとなります。販管費のコストダウンはPL上の、金額の大きなもの、構成比率の高いものから検討を始めます。
 
外注費:外注先の見直し
広告宣伝費:費用対効果の見直し、パブリシティの強化
賃借料:不動産業管理会社との交渉、在宅勤務とフリーアドレス導入
通信費:業務用携帯電話の法人プラン活用、チャット、ビデオチャット等への主たるコミュニケーション方法の切り替え
交通費:SFAを活用した無駄な訪問の排除、効率的な移動の徹底、出張に際しては宿泊サイト等を活用して低料金の宿泊施設を使用
印刷費:カラープリントの制限、モノクロ1/2のデフォルト設定
光熱費:LED照明の導入、早帰り運動の実施
 
たとえば以上のようなものとなります。
 

固定費と変動費によるコスト削減の検討

経営方針に活かすためのコスト削減の分析を行う場合は、コストを固定費と変動費に分けて検討することが有益です。高止まりしがちな固定費、売上の変動によって増減する変動費は、その企業の損益分岐点を左右するポイントになります。自社で発生する各種コストが固定費に分類されるのか、変動費に分類されるのか、それらの動きにより損益分岐点がどのように変動するのか、自社の収益構造を可視化することに役立つと言えます。
 
例えば、製造業においては直接労務費を固定費に入れるのか、変動費に入れるのかによって、経営方針が変わってきます。材料費・外注費は代表的な変動費ですが、労務費・製造経費の加工費にも変動加工費と固定加工費があります。そして直接労務費の扱いは議論になりがちです。直接労務費=作業人員とのイメージから、仕事の増減に比例して自由に人員を増減することができず、固定費とする考え方が根強い傾向にあります。これには多くの日本企業では終身雇用を前提に直接労務費を固定費としてきた背景があります。
 
しかし固定費としてみると、損益分岐点売上高が上がってしまうため、売り上げの大幅増を狙う必要が出てきます。そうすると、本来商品力の弱いものを販売するため、過剰な営業コストをかけた割には上手くいかないといった間違った努力をしてしまいかねません。
 
このように、管理会計の方法によっては経営方針に影響を与えるため、管理会計の設計をどう行うかが非常に重要なポイントになります。
 

コスト削減の切り口

コスト削減の切り口としては次のような観点を挙げることもできます。
 
(1)各業務プロセスにおける設計段階でのコスト削減の徹底
 
開発段階におけるコスト削減、調達段階におけるコスト削減、業務プロセスの改革によるコスト削減、システム化によるコスト削減など。
 
(2)生産方式の転換
 
製造業ではベルトコンベア方式からセル生産方式への転換などが挙げられます。また、食品やアパレルでは注文生産を増やすなど、なるべく在庫や廃棄ロスが発生しないような方式に変えます。
 
(3)部品点数の削減、部品の共通化、
 
これは組み立て型の産業で特に有効な方策と言えます。
 
(4)商品、サービス点数の絞り込み、様式の統一
 
BtoC型の業種であれば、出来るだけ商品数を減らし、管理コストを下げることが効果的です。
 
(5)不良品の削減、不良率の圧縮による 変動費比率の引き下げ
 
製品の歩留まりの引き上げ、不良品の削減、不良率の圧縮は現場における努力によって改善できます。
 
(6)集中購買によるコスト削減
 
購買調達面からのコストダウン方策であり、購買の集中化、計画化はコスト削減の有力な方策となります。
 
(7)納期の短縮、短納期化によるコスト削減
 
納期の短縮、短納期化、在庫減を通じてコストダウンが図られる。併せて、取引先の満足度も高められます。
 
(8)すべての方向からの一斉の取り組み
 
コストダウン活動に全員参加型の体制で取り組み全体コストの低減を図ります。このとき、ERPと直結させることでより確実な成果が見込めます。
 

参考:原価管理とは?原価管理の意味と経営への活用方法
 

5.競争優位を確保する戦略的視点でのコスト削減(視点2)

戦略的視点でのコストダウンの一例としては、「戦略的コストマネジメント」という考え方があります。これによると①バリュー・チェーン分析②戦略的ポジショニング分析、③コスト・ドライバー分析の三つが挙げられています。
 
企業活動は単独で成り立っているというよりも、調達、製造、出荷、販売、マーケティング、サービスといった、取引先も加わった企業の一連のバリュー・チェーンを通した価値創造活動として行われています。バリュー・チェーン分析は競合のバリュー・チェーンと対比しつつ、コスト削減が競争優位に生かせる分野を検討して行くというアプローチとなります。
 
これによって、相手と差別化をする方向にいくのか、得意分野に集中するのか、はたまたコスト競争を仕掛けるのかといった自社のポジショニングを検討します。
 
そして、原価を発生させる主因となるものをコスト・ドライバーとして設定し、それらのドライバーを操作することによって、競争優位を確保することを目的としています。
 
また、WebのECが中心の企業であれば、顧客のユーザー体験を分析し、マーケティングプロセスを中心にコストを見直していく方法もあります。
 

6.イノベーションやビジネスモデル改革の視点でのコスト削減(視点3)

コスト削減の発想を抜本的転換することをめざします。まずは目標設定を、数%のコストダウンでなく、2割、3割さらにはコスト半減などとして大きな目標を掲げます。これにより、コストダウンの方法が旧来の方法の延長でなく、発想を抜本的に切り換えたものになる可能性が出てきます。したがってビジネスモデルを変えてしまうことも起こります。
 
分かりやすい例としては、Adobe社のビジネスモデル転換例があります。Adobe Creative Suiteは売り切り型で、毎年、あるいは隔年でバージョンアップしていく度ユーザーが購入するというソフトでした。売上高にして3,000億円以上を叩きだす圧倒的に強い商品でしたが、一方で、CDに焼き、箱詰めにして、世界中の物流に乗せるといった、膨大なコストがかかっていたのです。このコストを維持するために、バージョンアップごとに値上げをしていくという価格戦略も必要でした。思い切ってこのコストをゼロに出来ないかと考えたのが同社の発想の視点の一つです。コストをゼロにするとなると、ビジネスモデル全体を見直さざるをえません。そこで、一次的に売り上げが落ちてもクラウドの課金ビジネスに切り替えたほうがより安定成長が見込めるとの判断に至りビジネスモデル転換に踏み切ったのです。

また、コスト削減の目標設定自体が単年度のPLを意識したものが多い中、PLの数字をあえて追わないという意志決定もあります。BSの改善に目を向け、在庫を減らしキャッシュフローを増やすことにより注力し、現時点でのキャッシュの持ちを高め、より戦略的なM&Aの機会をうかがうといった戦略もあります。つまり管理会計の設計自体をイノベーションしていくという視点もあるのです。
 

7.人件費視点からみたコスト削減(視点4)

人件費は、コスト削減のテーマの中でも特にセンシティブなものとなります。人件費をコストダウンすると確実に社員のモチベーションが下がり、肝心のトップラインの売上を落としてしまうことになりかねないからです。逆に、社員のモチベーションを上げたことで、売上を目標以上に増やすといったことも可能となります。つまり人件費は考え方一つでコストにもなり、投資にもなるという性格を持っています。
 

社員の経営感覚育成

コストダウンだけでなく、会社全体の数字を社員にも公表することで入りと出のバランスをもって社員にも経営感覚を持たせるという取り組みは有益です。コストダウンをやるにしても、なぜやるかを本質的に理解するためには、入りと出の関係を理解する必要があるからです。
 

顧客との対応の改善

経営について意識の高まった社員が顧客との接し方を工夫することで、顧客の声が聴ける部分と聴いてはいけない部分を判断できるようになることで顧客への適切な対応ができるようになります。
  
ほとんどの顧客は、自社のコスト構造を合理的に話せば、事情を理解してくれるはずです。
顧客とのコミュニケーションの改善によって、必要以上にコストがかかる不採算取引を無くすことができるようになるのです。
 

まとめ

コスト削減は現場での「無駄遣い」の排除といった社員が取り組むイメージが強いですが、このように見ていきますと、経営者の判断によって推進されるべき重要な事項のひとつあることが分かります。むしろ自社の経営戦略と一体のものであるともいえるでしょう。コスト削減も現場に指示して終わりにせずに、経営者が取り組んでいくことが企業の経営力向上に貢献するものと考えられます。

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