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2019年07月18日(木)

ワーケーションとは?仕事も休暇も同時に充実させる働き方

経営ハッカー編集部
ワーケーションとは?仕事も休暇も同時に充実させる働き方

近年は、情報通信技術(ICT: Information and Communications Technology)の発達により、インターネット環境さえあれば、オフィスを離れても仕事ができるリモートワークが普及してきました。さらに、リモートワークを一歩進め休暇と一体化させるワーケーションが、「働き方改革」や「地方創生」にもつながる働き方として注目されています。
 

ワーケーションとは

 「ワーケーション」(Workation)とは、「ワーク」(Work:仕事)と「バケーション」(Vacation:休暇)を組み合わせた造語です。これは、文字通り「働きながら休暇を取る」ことで、リゾート地などで休暇を兼ねて、リモートワークを行う労働形態を指します。つまり、仕事も休暇も同時に充実させる働き方なのです。
 

ワーケーションが始まった背景

もともとワーケーションは、2000年代にアメリカで生まれました。この制度が生まれた背景には、有給休暇取得率の低さが挙げられます。
 
アメリカの有給休暇取得率は、大手旅行サイト「エクスペディア・ジャパン」の調査(※1)によると、2018年では71%となっています。一見、高い数字に見えますが、他国――ブラジルやフランス、スペインが100%、メキシコやシンガポール、韓国が90%以上――と比べると、その取得率の水準が非常に低いことがわかります。
 
そもそも、アメリカは、先進国のなかで唯一、年次有給休暇を取得する権利が法律で保障されていません。そのため、全米旅行協会の調査(※2)によると、アメリカの労働者のおよそ70%が、職場での自分のポジションに悪影響があるのではないかと不安に思い、有給休暇を取得しづらいと考える傾向にあります。
 
一方、日本では、厚生労働省「就労条件総合調査」(※3)によると、その有給休暇取得率はさらに低く49.4%にとどまっています。ちなみに2017年の有給休暇付与日数は1人あたり平均18.2日で、実際の取得日数は9日となっています。また、前出の「エクスペディア・ジャパン」の調査(※1)によると、日本の有給休暇取得率は、2016〜2018年の3年連続で、主要各国のなかで最下位となっています。
 
このような状況下、日本でのワーケーションは、初めはフリーランサーなど、比較的に自由な働き方を選択できる職種にとどまっていました。2010年代前半になると、ニューヨークタイムズやフォーブスなどアメリカのメディアだけではなく、英BBCなどの欧米主要メディアでも報道され、世界的にもワ―ケーションが認知されるようになっています。
 
※1
エクスペディア・ジャパン 世界19ヶ国有給休暇・国際比較調査2018
 
※2
全米旅行協会
 
ニューズウィーク日本版 2017年5月31日
2016年のあいだに与えられた有給休暇の日数は平均22.6日間。そのうち、実際に消化された有給休暇日数は平均16.8日だった。
 
※3
厚生労働省 平成30年就労条件総合調査
 

従来のリモートワークとの違い

ところで、ワーケーションは、従来のリモートワークとは、どのように違うのでしょうか?
一般的に、リモートワークは、自宅やサテライトオフィスなど、事前に申請した特定の場所でのみ行います。日本での場合、育児や介護などの理由でオフィス勤務が難しい社員が、リモートワークを利用するケースが一般的です。
 
ただ、2013年には米Yahoo!が在宅勤務の原則禁止を発表し、2017年には米IBMが数千人の遠隔勤務者をオフィス勤務へと戻すなど、各企業がリモートワークを廃止してきたという経緯もあります。この理由は、社内コミュニケーションの取りづらさやコスト削減にならなかったことなど、リモートワークのデメリットが目立ち始めたためです。
 
一方で、ワーケーションは、旅先や帰省先などさまざまな場所で仕事をします。あくまで、従業員が「休暇をしっかり取る」という部分に着目した点がリモートワークと根本的に異なっているのです。ですので、社内コミュニケーションも休暇中の一定期間のみと限定でき、そもそもコスト削減自体を求めておりませんので、リモートワークのデメリットがそのままワーケーションのデメリットとはならないのです。
 

ワーケーションのメリット・デメリット

それでは、ワーケーションの導入にあたって、そのメリットとデメリットを考えてみましょう。

ワーケーションのメリット

ワーケーションのメリットは、生産性の向上、ワークライフバランスの改善、社会・地域活動への貢献の3点が挙げられます。

メリット1.生産性の向上

第一のメリットは、ワーケーションの活用によって、従業員の生産性向上が期待されることです。ワーケーションは基本的には旅先や帰省先で仕事をする労働形態のため、従業員は仕事時間以外の早朝や夕方以降の時間にリフレッシュすることができます。仕事ばかり、あるいはお休みばかりですと、日常がマンネリ化しがちですが、ワーケーションを導入すれば、メリハリをつけて仕事に臨むことが可能です。そのため、休暇中の限られた時間で仕事に集中でき、そのうえ休暇後も業務へのモチベーション上昇が見込めるのです。

メリット2.ワークライフバランスの改善

第二のメリットは、ワーケーションの実施によって、従業員のワークライフバランスの改善にも効果があると考えられている点です。仕事と休暇を組み合わせるワーケーションでは、日本の労働環境ではなかなか難しい長期休暇も取りやすくなります。また、ワーケーションを活用すれば、仕事のスケジュールが埋まっていても、旅先や帰省先で家族とのプライベートな時間をゆっくり過ごすことができるのです。

メリット3.社会・地域活動への貢献

第三のメリットは、ワーケーションによって、地域貢献活動にも貢献できる点です。従業員は、ワーケーションで仕事を継続しながら地域に滞在することができるので、地域を主体とした企業のCSR活動(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)やCSV活動(Creating Shared Value:共通価値の創造)に参加できます。また、従業員個人としても地域での中長期滞在が可能となるため、地域でのボランティア活動や外国での語学学習にも集中できるのです。このほかにも、都会と地域の人材や企業が交流することで、のちのち地域観光の振興や地域への企業誘致などにも繋がっていくと期待されています。

ワーケーションのデメリット

一方で、ワーケーションには、デメリットもあります。想定されるデメリットは、労務管理の複雑さ、休暇先での業務環境の整備、コミュニケーションコストの増加の3点となります。

デメリット1.労務管理の複雑さ

第一のデメリットは、従業員の労務管理が複雑になることです。休暇先で仕事をするワーケーションでは、上司は、従業員が勤務時間をどのように過ごしたかを、実際に目で見てチェックできません。また、タイムカードなど従来の勤怠管理システムでは、ワーケーションには対応できないことも予想されます。そのため、ICTを駆使した新規の勤怠管理システムを導入したり、仕事の結果で判断する裁量労働制や結果による人事評価制度などを採用したりするなど、ワーケーションに適した社内制度を整備する必要があります。

デメリット2.休暇先での業務環境の整備

第二のデメリットは、休暇先でも業務を遂行できる環境を整備しなければならないことです。休暇先のリゾート地では、常にWi-Fi環境があるとは限らないうえ、安全性の低いWi-Fiを利用することでの情報漏洩リスクなども想定されます。そのため、企業側は、従業員にワーケーション専用のモバイルWi-Fiルーターを支給するなどの対策を採用しなければない場合もあります。また、パソコンやスマートフォン、各種資料も、休暇先で盗難・紛失などの被害に合う可能性もあります。ワーケーションだけではなく、社外業務全般における情報漏洩のリスク・マネジメントが重要となるのです。

デメリット3.コミュニケーションコストの増大

第三のデメリットは、ワーケーションを利用したときの社内コミュニケーションが、テレワークやリモートワークと同様に、対面コミュニケーションよりもコストが大きいという点でしょう。休暇先で仕事をする日時や業務範囲を明確に決めなければ、オフィスで働く上司や同僚への確認事項や依頼事項ばかり増え、休暇が台なしになることとなります。また、テレビ会議の際は、対面で集まるオフィス勤務の従業員たちで盛り上がった会話には、遠隔地からはなかなか参加しづらいものがあります。

各社、団体のワーケーション対応の取り組み

上記を踏まえて、各企業が導入したワーケーションの取り組みを見てみましょう。

ケーススタディ1:日本航空(JAL)

大手航空会社のJALは、2017年からワーケーション制度を設けました。パイロットやキャビンアテンダントなど一部職種を除く社員を対象に、7〜8月のあいだで最大5日間、帰省先も含む国内外でのワーケーションを認めています。ワーケーションの実施においては、会社支給のノートパソコンとスマートフォンを利用して仕事を行ないます。その特徴は、あらかじめ長期休暇の予定に合わせて仕事をする「長期休暇タイプ」と、緊急の仕事が入ったときに旅行先でテレワークを行う「緊急対応タイプ」に分かれていること。JALでは、2017年度夏期には11名、2018年度夏期には78名と年々利用者が増加しており、今後もワーケーションの活用が予想されます。

ケーススタディ2:Uber

カーシェアリングサービスの大手Uberは、通常は一緒に働くことのないメンバーで少人数のチームを作って、旅に出かけるというワーケーションを実施しています。このワーケーションの特徴は、課題解決型プロジェクトであるということ。「ドライバー体験をより良いものにするための作戦を考える」など一定の課題に対して、メンバーがクリエイティブな答えを探すのです。このワーケーションは、休暇よりも労働環境を変える意味合いが強く、その成果が実際に同社の事業やサービスに反映されることもあるため、従業員のモチベーション上昇につながっています。ちなみに、Uberのワーケーションは公募制で行われています。

ケーススタディ3:日本テレワーク協会

テレワークの普及啓発団体である一般社団法人日本テレワーク協会は、和歌山県、長野県と協力のもと、「ワーケーション」全国フォーラムの開催を企画(2019年7月18日開催)するなど、ワ―ケーションの普及に努めています。ワーケーションの解説、企業の取り組み事例、自治体の取り組みや、導入企業の事例などを発表するとともに、「ワーケーション自治体協議会」(通称:ワーケーション・アライアンス・ジャパン(WAJ))の設立に向けた協力確認書の署名式を実施します。

ワーケーション用の専用施設

ワ―ケーションはネット回線があればどこでもできますが、設備の充実を考慮するなら専用施設の利用も有効です。近年では、「働き方改革」推進に伴い、ワーケーション用に特化した施設も誕生しています。その代表的なものをご紹介しましょう。

三菱地所「WORK×ation Site(ワーケーション・サイト)南紀白浜」

不動産大手の三菱地所は2019年5月7日、和歌山県白浜町にワーケーションオフィス「WORK×ation Site南紀白浜」をオープンしました。このワーケーションオフィスは、最大16人が利用可能なスペースを、1日10万円(税別/1社占有の貸し付け)で利用することが可能です。その特長は、空港から車で約5分の好立地で、人気のリゾート地・南紀白浜を楽しむことができること。三菱地所は2019 年度中に、全国で同様のワーケーションオフィスを新たに3拠点ほど開設する予定です。
 

東急シェアリング「東急バケーションズ」

ワーケーション事業を日本でいち早くサービス化した東急シェアリング。同社はもともと、会員制シェアリングリゾート「東急バケーションズ」を全国に展開していました。そのなかでも、熱海や箱根強羅、伊豆高原、軽井沢など、都心から1時間半圏内の施設は、ワーケーション・オフィスとしても提供しています。2LDKの広々とした間取りは、家族と過ごすプライベートな空間と仕事に集中できる空間を分けることができます。メリハリをつけて仕事に臨む方式のワーケーションには、適した施設です。
 
参考:経営ハッカー リゾートで仕事!地を使った創造力とモチベーションを上げる新しい働き方「ワーケーション」

まとめ

ワ―ケーションは、一定の効果はありそうですが、いざ自社の制度として考えてみると導入が大変と言った面もあります。そこで、まずは事業年度の節目に前年度優績チームだけが、リゾート地で、次年度事業計画を詰める合宿に参加できるといった企画ものとして前例を作っていくことが有効かもしれません。あるいは、有給取得率が低いことを問題視している企業であれば、強制的にワ―ケーションを実行し、有給取得を実現するといったこともあるでしょう。ワ―ケーションの実施にあたっては工夫次第でいろいろな取り組みができるのではないでしょうか。

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