個人事業主はいかにして孤独に耐え、寂しさを紛らわせているのか? ~個人事業歴10年のfreee社員に赤裸々に語ってもらった~
freeeは、「スモールビジネスに携わるすべての人が、 創造的な活動にフォーカスできるようにお手伝いすること」を生業にしています。freeeで働く社員の中には失敗に失敗を重ねてようやく成功をつかんだ元起業家がいたり、官僚の道を捨てて起業した強者がいたり、今回登場する元個人事業主がいたりと多彩です。
freeeは経営者や個人事業主向けにもサービスを展開しているので、実際に会社経営や個人事業を経験した人が社内にいるのは強みです。今回は、社会人になってからfreeeに入社するまでずっと個人事業主だった石塚さんに、「個人事業主はいかにして孤独に耐え、寂しさを紛らわせているのか」という話を聞いてみました。
石塚 正樹さんプロフィール
語学が趣味で6ヶ国語の検定に合格。TOEIC990。引っ越し15回、経験した職種38、旅行した国31ヶ国。教育系の法人を立ち上げたが、会計業務に使っていたfreeeがバグだらけだったため、バグのリストを持って乗り込んだところ採用される。サポート/テスターとしてfreee入社後、プログラミングを覚え品質管理担当のエンジニアに。
中山順司(インタビュアー)
ソフトバンクに新卒入社し、マーケティングと営業に携わる。2000年にネット業界に転身。旅の窓口(現楽天トラベル)で観光旅行コンテンツビジネスを立ち上げ、その後始めた個人ブログがキッカケで、ブログソフトウェアベンダーのシックス・アパートに入社。マーケティング、営業、パートナーリレーションを経て、Six Apart ブログを運営。2016年にfreee株式会社に入社し、編集長に就任。freee入社の経緯はこちら。
翻訳家としてうらやましがられたけど、仕事は好きじゃなかった
freeeに入社するまでは、ずっと個人事業主だったんでしたっけ?
今39歳で、37歳のときにfreeeに入社したんですが、これまでいろいろな仕事をやってきました。翻訳家、家庭教師、派遣社員、各種バイト等、職歴のバラエティには自信があります。
会社員歴がなかってってことは、確定申告は自分でやっていたと。
もっぱら白色申告メインですけど、してました。当時は確定申告の知識がなくって、白色申告のほうがカンタンでしたから。青色申告でやったのは2回くらいかな。
確定申告、めんどくさいですもんねー。どんな仕事をしてたんです?
翻訳の仕事歴が長くって、でも同時進行で短期の派遣の仕事も3ヶ月-1年スパンで何回か繰り返しました。派遣やって、フリーランスやって、勉強もして、でもって海外に行って…みたいなことが多かったです。
長年、個人事業主としてやってきて気付いたことは?
人が好きなんだなって気づきました。一人で家で働いていたときはさびしかったし、モチベーション維持も難しかったです。あと、そもそも翻訳の仕事が好きじゃなかった。
え?? 個人事業主って、好きなことで飯を食っている人種なのでは?
翻訳家を目指している人からは、「翻訳やってるんすか、かっこいいっす!自分もやりたいっす」って言われます。特に「在宅+翻訳」の組み合わせは羨ましがられますね。さらに「ゲーム翻訳」になると、日本文化好きの外国人からは神扱いされます(笑)。でも、「あぁ……そうなんだ(自分は好きじゃないけど)」って思ってました。自由に旅とかもできちゃう翻訳家というイメージに自分も惑わされてなってしまったので(笑)。
海外を旅しながら翻訳の仕事をしよう!→うまくいかなかった
翻訳家って、なんとなくだけどかっこいいイメージありますね。
翻訳の仕事自体はかっこいいと私も思っていて、めっちゃ尊敬の念を持ってます。ただ、自分にはあってなかった、すごい人には勝てないと思った、いい加減な気持ちでやっちゃいけない仕事だと思った、という気持ちも強いです。
個人事業主ってしがらみから解放されてて、自由を謳歌しているものだと思ってました。満員電車の通勤はない、詰められる会議はない、うざい上司や同僚もいない、面倒な飲み会とか名ばかり自由参加だけど実質強制参加のイベントもない。ストレス少なそうでいいな~ってのがサラリーマンのイメージなんですけど。
いや~、でも自己管理は大変ですよ。あこがれだけで始めるとギャップを味わうかも。そもそも翻訳の仕事が好きじゃなくて、ブラウザに閲覧制限かけるソフト入れたりしてたくらいですし(笑)。
翻訳仕事が嫌いだったこと、ことさらに強調してますね(笑)。
請け負い仕事だったこともあって、自分でがんばって営業して仕事を増やしたいとは思わなかったですね。依頼が来ると「あーあ、仕事が来ちゃった…」って落ち込んでいたくらい。他の個人事業主さんは、仕事が来ると「よっしゃ!」って喜ぶんだけど、自分はブルーでしたね。
完全に仕事の選び方を間違えたんじゃ…。
海外旅行が趣味だったので、それで救われたのかなという気はします。日本にいると寂しいけど、「そのぶん海外で遊んでやる!」みたいな。「そんな自分、かっこいい!」的な。だからいろんな言語も勉強したというのもあります。
英語以外も堪能なのはそういうことか~。
翻訳を続けられたのは、旅行しながらでもできる仕事だったのが大きいです。でも、いざ海外旅行中に働こうとしてみたところ、まったく仕事が進まずダメでした。
「病気+友達ナシ+独りぼっち」で部屋に横たわっているときの不安と恐怖は異常
想像以上に自己管理は大変っぽいですね。
自己管理しているつもりなのに、自然と夜型になってしまうのはなんなんでしょうね。就寝時間がどんどん遅くなっていき、ついに朝7時の就寝生活になりました。でも、不思議なことに7時で止まる。そこから朝型にシフトすることはないんです(笑)。
完全に昼夜逆転生活してる。それはそれで楽しそうではあるけど(笑)。
だれも命令・管理しないので、調子がいいときは夜にがんがん仕事して、翌日に調子を崩すのも”個人事業主あるある”です。ツラいのは、仕事しない限りお金が一銭も入ってこないこと。会社員なら極端な話、出勤さえすれば給与が出ますけど、個人事業主が二日酔いで翌日働けないと、完全に自己責任になってしまう。
働かない自由もあるけど、結果は甘んじて受けねばならないわけですね。健康面での不安は?
友人がいない時期に風邪をひいて、独りぼっちで部屋に横たわっているときの不安と恐怖は異常です。マイナスなことばかり考えてしまう。ひたすら締切に追われ、オンオフ切り替えも下手だったので、友達をつくる余裕がなかったのが原因ですね。
病気のときって、メンタルがどうしても悲観的になってしまうものですよね…。やはり持つべきは友達か。
ちなみに「翻訳やってます」と言うと、女性のウケはまあまあ良かったので、「モテない」的な切なさはあまり感じませんでした。むしろ、それがズルズル続けた原因なのかも。
翻訳家は女性にモテる…っと(メモメモ)。えっと、個人事業主視点で、会社員がうらやましいって思う瞬間は?
会社の経費で飲んでるとかのエピソードがうらやましいです(笑)。研修も、お金貰って勉強できるのってすごくない?って思います。あと、旅先で出会った人たちから「有給休暇で来ました~」って聞かされると、「ぐぬぬ…」ってなります。
福利厚生面では、勤め人って恵まれてますよね。では、個人事業主をしてて、悲しい瞬間は?
クレジットカードの作成を断られるとき。
定番ですね
個人事業主歴が長いと、なんでも時間単価に換算する癖がつく
健康管理とか運動不足の解消はどうしてました?
個人事業主って基本在宅なので運動不足になりやすいでしょう? 一日中じっとしていると、それはそれで睡眠の質が落ちるし、疲れも取れない。だから夜に5分ジョギングするのが習慣でした。
たったの5分!?
毎日続けられる時間と距離を試行錯誤した結果、5分がベストという判断です。長時間走る時間がもったいないですし。その代わり、効率を考えて全力疾走で5分家の外を走るんです。
うーん、いくらなんでも短すぎなような。
着替えるのもめんどうなので、普段着のまま爆走してました。
ユニークな運動習慣ですね…。食事面では?自炊をしたとか?
いや、自炊はほぼしないです。材料の仕込みとか調理する時間がもったいない。個人事業主の癖かもしれないですが、なんでも時間換算して「やる・やらない」の判断をしてしまうんです。調理している時間があったら、コンビニとかで完成品を買って食べたほうがコストパフォーマンスが高いです。
まあ、それも一理ありますね。
お皿を洗うのも面倒なので、紙皿と割りばしですませます。
まじすか。徹底してますね。
僕の翻訳の仕事の単価が、当時1単語9~10円とかで、たとえば I have a pen だと4ワード=36~40円。調理に1時間とかかける時間があったら、総菜や弁当で時間節約するほうが賢いなって判断ですね。
うるさい上司はいない代わりに、自分で現実を見て反省する
家事を究極的に圧縮して、労働時間を最大化するって考え方はある意味正しい気もしてきました。
これまで当たり前だった作業を、費用対効果目線で見直すきっかけになったのはよかったかなと。「値段が違うAのパソコンとBのパソコン、どっちが費用対効果があるか」とか「このアームレスト1万円するけど、1,000ワード分と考えれば安いな」とか。
合理的でロジカルな考えになっていくわけだ。
飲み過ぎないってことは、けっこう注意してました。二日酔いで翌日仕事できないと収入ゼロだし、同じ理屈で病気にもなれないです。
ですよね。そのへんはシビアですね。
それと、パソコンが壊れたらおしまいだってのも意識してました。購入は自腹だし、いまのが壊れたらどうするかは常に考えていました。どこで新しいマシンを調達するか、どの機種を買うか…は常に脳内シミュレーションしていた気がします。
サラリーマンはそんな発想はしないしょうね。「壊れたら、購買部に頼んで最新機種を買ってもらえばいいや。むしろ最新マシンが使えるから好都合!」って考えがち。
クライアントはこっちの都合なんて知ったことじゃないです。個人事業主は、成果物を締め切りまでに納品することで信頼関係を作っていきます。会社員なら言い訳できても、個人事業主だと許されません。
「ごめんなさい、遅れちゃいました(てへぺろ)」は使えない。
てへぺろは無理ですね(笑)。「会社-会社員」の関係と違って、個人事業主の契約だと、クライアントは「育てる」という意識が当然ありません。下手な成果物を納品しても「ありがとうございます」と言われるだけで、その後シンプルに仕事が来なくなるだけ。これがキツいです。うるさい上司はいない代わりに、自分で現実を見て反省しなくちゃいけないです。
このへんの厳しさは、サラリーマン世界にはないものですね。
サラリーマンを経験せず、いきなり個人事業主になったので比較することはできないですけど、いまfreeeで働いてみて、頑張っている人が周囲にいると自分も頑張れます。一人のときは無理やり「頑張ろう」ってテンションを上げていたのが、いまはそれがありません。人に囲まれながら働くっていいな~って痛感してます。
大阪のユースホステルで旅人相手におしゃべりして、孤独から逃れた日々
独りぼっちで寂しかったって話してましたけど、どうやって解消するんですか。
一時期、大阪に住んでみたかったので、大阪に引っ越しました。昼間はふつうに仕事して、夜にユースホステルに行き、1~2時間くらい宿泊客とおしゃべりするってボランティアをしていました。お風呂も自由に使えるのでお得で、毎晩行ってましたね。
そんなボランティア、あるんですか。
施設側のサービスの一環ですかね。外人や日本人の旅人とお菓子食べながらだらだらしゃべるだけ。たまたま宿泊者のいない日は、職員さんとおしゃべりします。人のためでもあり、同時に自分の孤独を癒すためでもありました。
けっこう病んでましたね…。で、このおかげで、心のバランスは保てた?
保てた気がします。これがなかったら、家にこもって誰とも話さない生活を送ってたはず。2週間、誰とも口を利かないとか余裕でありましたし。不思議なもので、ずっとしゃべらない生活を続けていると、しゃべる能力が退化するのか、たまに話すときに噛んでしまうんです。
私は無口で友人がいない人間ですが、さすがに2週間しゃべらないって経験はしたことがない。
今思えば、SNSを活用して、もっと同業者同士でつながっておけばよかった。そうすれば孤独感も薄まったかも。ただ、いかんせん、翻訳の仕事に興味がなかったので…。
SNSがあれば、孤独を味わうこともない?バーチャルな関係性だけで、解消されますかね。
いやー、ある程度の効果はあると思いますが、やっぱりリアルに話す、かかわるのって大事ですよ。仮にその場限りの赤の他人との会話でもかまわないです。それでも得るものはあります。だって、そのへんのおばちゃんに話しかけられただけでテンションあがるんですよ。大阪って人懐こいおばちゃんが多いから、よく声をかけられました。大阪は、寂しさを紛らわすには結果的に良い街でした。
通勤電車と逆方向の電車に乗り、「世間に流されない自由人アピール」もしてしまった
ユースホステルでのボランティア以外に、どんな行動をして孤独を解消してました?
平日の昼間に酒を飲んで泥酔して、ぶらぶらしてました。「オレは自由人だぞ、こんなこともできるんだぞ」って誰に対してではなくアピールして、テンション上げてた過去なら。
ごめん、それはちょっと痛々しい。
通勤電車と逆方向に走る電車に意味もなく乗って、「世間に流されない、己の道を歩むオレ、かっけー」的な行動もアウト?
アウト(笑)。
ブログもやってたので、そこで自由人をアピールしてたのもいい思い出です。それなりに効果はあったかな・・でもあんまり続きませんでした。
寂しさからちょっと離れて、オンオフの切り替えで苦労する個人事業主って少なくないって聞いたことがありますけど、どうですか。
意識して切り替えしたり、ルーチンを用意している話は他の個人事業主からよく聞きます。屋外のほうがダレないのであえてカフェで仕事する、仕事専用の部屋(もしくはスペース)を作る、家の中でもスーツを着るとか。
みなさん、いろんな工夫をしているんですね。
僕もカフェで仕事することは多かったです。アカの他人に囲まれているだけでも、がんばろうって気にさせる効果はあります。でも、周囲の騒音はイヤなので耳栓はします。
着かず離れずの距離感ですね。
スタバとか、複数人で使うような大き目のテーブル席とかありますよね? ああいう場所で譲ってあげるとお菓子をくれるおばちゃんがいたりして、癒されます。そんなことを覚えているということは、よほどヒューマンタッチに飢えていたんでしょうね…。
「自分は社会の一部である、つながっているんだ」って実感が大事なのかも。
かもしれないです。自分が人とかかわることが好きってことに気づいたのはずっと後だったんですが(笑)。
バグリストをfreeeに持っていったら、いつの間にか入社が決まっていた
「在宅=パラダイス」ってわけじゃないことは覚えておいてほしいです。でも、会社員をやっていて、人間関係がわずらわしくて個人事業主に転身した人だと、「いくら一人でいても孤独じゃない。一人きりで働けることがうれしくて仕方ない」ってパターンもあるので、一概には言えないです。
個人事業主に戻りたいって思うことは?
自分でプロジェクトを立ち上げて、いろんな人を巻き込んだ活動を再開したいって気持ちはあります。もともとfreeeに入社する前は、宮城県の被災地でパソコンスクール的な活動をしていまして。
スクール?そんな活動をしていたんですか。
学習をイベント的なエンターテイメントに仕立てて体験させるって仕事をしたくって、一般社団法人も立ち上げました。で、会計ソフトが欲しいなって思って使い始めたのがfreeeだったんです。
元々はユーザーだったんだ。
ソフトウェアのバグを見つけるって仕事をしてたことがあるので、freeeを使ってみて、よくわかんなかったことを挙げてみました。で、サイトを眺めていたら求人情報に行き当たって、QA(Quality assurance)の求人をしてたので「まあ、話だけでも聞きに行くか」って思って、修正希望のバグリストを持って訪問してみました。入社する気なんて、ぜんぜんなかったです。
なにが人生を変えるか、わからないですな…。
代表(佐々木 大輔)の情報は、いっぱいネットで読んでたから知っていたのですが、会ったのはすみと(東後 澄人)さん。肩書がすごいし、猛烈におもしろい人で驚きました。freeeは、それまでは「会計作業をラクにするだけのツール」と思っていたのですが、データを使って今までにないようなレベルの役に立つサービスが作れそうってとこに気付かされました。で、あっという間に勢いで入社を決めてしまいました。
一般社団法人はいったんお休みさせたわけですね。
ええ。でも、今後は土日を使って少しづつ再開しようとしています。個人プロジェクトも好きだし、freeeの仕事も大好き。なにしろ、freeeの仕事が僕の人生で最も長く続いている仕事ですし(笑)。
説得力ある(笑)。
「できる」けど「好き」ではなかった仕事から、「したい」仕事へ
ぶらぶら散歩しているとき、ふと仕事のアイデアを思いつくことってあるじゃないですか。そうすると、「早く試したいっ!」って、居ても立っても居られなくなります。
ありますね。仕事とプライベートの境目が、いい意味で消える瞬間。
そういう気持ちになれることを仕事にするのが大事なんだなって思います。今思えば、自分のとって翻訳は「できる」だけど、「好き」ではなかったのかなと。本気で翻訳に取り組んでいる人には、勝てる気がしないって思いますから。
好きじゃない時点でビハインドですもんね。
なまじ英語ができるものだからやっていたけど、つらかったです。でも年月をかけて、やりたい仕事に出会えました。なんでもっと早く気づけなかったんだろう(笑)?
まあ、遠回りはしたけど、「したい仕事」が見えてきたということで、ハッピーエンドじゃないですか。
月並みな言い方ですけど、これからはまずます実力が重視される世の中になってきます。雇用形態を気にするのではなく、自分が何をしたいか&できるかのバランスをとってキャリア構築するといいんじゃないですかね。