マイナンバーで給与計算が変わる!変更点を税理士がわかりやすく解説
会社は、従業員等のマイナンバーを給与所得の源泉徴収票、雇用保険被保険者資格取得届、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届などに記載して、税務署や年金事務所といった行政機関に提出する必要があります。
したがって、会社は安全管理措置等を講じたうえで、従業員からマイナンバーを取得し、保管・利用・提供・廃棄といった特定個人情報等に関するライフサイクルを理解し、運営していく必要があります。
給与計算の段階からマイナンバーの取扱いについての十分な対策が必要となります。今回はマイナンバーによって企業の給与計算がどのように変わるのか、加来 昇 税理士に解説していただきました。
1)従業員からのマイナンバーの取得
1. 取得のタイミング
従業員からマイナンバーを取得する最も多い場面は、「給与所得者の扶養控除等申告書」のやりとりの時であると考えられます。
従業員は、その年の最初の給与の支払を受ける日の前日までに、「給与所得者の扶養控除等申告書」を会社に提出する必要があります。平成28年分の「給与所得者の扶養控除等申告書」にはマイナンバー記載欄が設けられます。また、それに記載が必要な配偶者や扶養親族がいる場合には、それらの者のマイナンバーも記載することになります。
「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出しない従業員(乙欄適用者など)については書面にマイナンバーを記載して提出してもらう方法により提供を受けるなどの対策も必要となるでしょう。 〈参考〉マイナンバー導入後の年末調整は何が変わる?変更点や注意点を公認会計士が解説
2. 取得の際の注意点
■利用目的の明示 マイナンバーは給与所得の源泉徴収票や給与支払報告書に記載が必要です。また、雇用保険被保険者資格取得届、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届などの社会保険関係書類にもマイナンバーを記載することになります。
会社がマイナンバーの提供を受ける際は、その利用目的を特定(※)して本人への通知などを行う必要があります。
※マイナンバーの提供を受けるための利用目的
- 源泉徴収票作成事務での利用
- 健康保険・厚生年金保険といった社会保険関係書類作成事務での利用
ただし、源泉徴収票作成事務や社会保険関係書類作成事務など、複数の目的で利用する場合は、まとめて利用目的を明示することも可能です。
■取得の際の本人確認 マイナンバーの提供を受ける際には、本人確認が必要となります。本人確認の最も簡単な方法は、個人番号カード(※1)の提示を受ける方法です。
個人番号カードの提示を受けられない場合には、通知カード(※2)と運転免許証等の顔写真入りの身分証明書で確認します。ただし、従業員に関しては、採用の際、本人確認を行っていることが一般的ですので、人違いでないことが明らかであると認める場合は、身分証明書の提示を省略することができます。 <参考> マイナンバーの本人確認をオンラインでやる方法を総務省に問い合わせてみた 国税分野における番号法に基づく本人確認方法(事業者向け)
※1 通知カードは、平成27年10月に日本国内に住民票を有する全ての者に付番を通知するために郵送されますが、通知カードには個人番号と基本4情報(氏名・住所・性別・生年月日)が記載され、顔写真はありません。 ※2 個人番号カードは、通知カードと一緒に送付される交付申請書により本人が申請することにより、平成28年1月から市町村が順次交付することとなります。表面には、氏名、住所、性別および生年月日が記載され、顔写真が表示されます。個人番号は裏面に記載されます。
■源泉徴収票を再発行する場合 例えば従業員が、住宅ローンの審査のために銀行提出用の源泉徴収票の再発行を依頼してきた場合、その従業員のマイナンバーを記載した源泉徴収票を発行することになります。
しかし、このような場合は、番号法で認められている特定個人情報(個人番号を内容に含む個人情報)の提供には該当しませんので、従業員は銀行に対して、マイナンバーが記載されている源泉徴収票を提出することはできません。
したがって、会社は、マイナンバー部分を復元できない程度にマスキング(黒塗り)するなどの工夫が必要であることを従業員に伝えるといった対応が必要となります。
2)マイナンバーの保管と廃棄
マイナンバーは、番号法において限定的に定められた事務を行う場合に限り保管し続けることができます。また、「給与所得者の扶養控除等申告書」などのように法令によって一定期間保存が義務付けられている書類は、その保存期間中、マイナンバーを保管することになります。
したがって、従業員から提供を受けたマイナンバーについては、その従業員が勤務している間は、源泉徴収票作成事務などで利用することから、継続的に保管することができます。
また、源泉徴収票の作成事務等で個人番号関係事務を処理する必要が無くなり、法令により定められている保存期間を経過した場合には、そのマイナンバーをできるだけ速やかに復元不可能な手段により廃棄・削除しなければなりません。
ただし、従業員が退職した場合には、退職したからといって、直ちにマイナンバーを廃棄すればよいというものではありません。会社は、従業員に退職金を支払う場合、その従業員からマイナンバーが記載された「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受ける必要があります。
「退職所得の受給に関する申告書」のように保存期間が法令で定められている書類は、その期間が経過するまではマイナンバーとともに保管しておく必要があるのです。また、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の被保険者資格喪失届などの社会保険関係書類にも、従業員のマイナンバーを記載する必要があります。
3)支払調書にもマイナンバー記載の必要
会社が給与計算をする場合、その延長線上には年末調整事務や法定調書作成事務等があります。法定調書の対象となる金銭等の支払等を受ける人については、その人のマイナンバーの記載も必要となります。
したがって、会社は、支払調書の対象となる支払先からも従業員と同様に安全管理措置等を講じたうえで、マイナンバーの提供を受ける必要があります。実務上取り扱う支払調書で、支払先のマイナンバーが記載されるのは、主に以下のものです。
- 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
- 不動産の使用料等の支払調書
- 不動産等の譲受けの対価の支払調書
- 不動産等の売買または貸付けのあっせん手数料の支払調書
- 配当金、剰余金の分配及び基金利息の支払調書
<参考>【マイナンバー導入】法定調書への記入・提出方法・注意点まとめ
4)まとめ
以上のように、給与計算手続きはマイナンバー導入により大きな影響を受けます。会社は、給与計算ソフト等の更新はもちろんのこと、マイナンバーの取得、安全管理措置等、保管、利用、提供、廃棄に至るまで全てを理解したうえで給与計算手続きを行う必要があります。
どのような方法が最善策なのかを考え、または専門家の助言を聞くなど、きちんとした対応をとることが望ましいでしょう。