過払い返還請求も可能? 固定資産税の計算方法・納付方法を徹底解説!
はじめに
日本経済新聞に2016年3月29日、「過払い税金を企業が「奪還」固定資産税、5年で上場REIT15社」という記事が掲載されました。固定資産税はかねてから計算ミスの多発が指摘されており、これを突く形で上場REIT15社が過払いの固定資産税を取り戻したとのことです。
<参考> 過払い税金を企業が「奪還」 固定資産税、5年で上場REIT15社 (日本経済新聞)
しかし、固定資産税の計算は固定資産の評価を中心に非常に複雑なため、ほとんどの企業や個人は、「市町村から通知された税額をそのまま納税している」のが現実だと思います。 本稿では、固定資産税の通知額を確認する足がかりとして、税額計算の方法等の概要について基礎から解説します。
1)固定資産税の概要
固定資産税とは、1月1日時点における固定資産の所有者に対して、市町村が課税する税金です。固定資産税とよく似た税金として、都市計画税があります。都市計画税とは、都市計画事業又は土地区画整理事業に充てる目的で、1月1日時点における固定資産の所有者に対して、市町村が課税する税金です。 ※この2つの税金は、課税の仕組みなど共通する点が多いため、本稿では都市計画税の概要も併せて解説をします。
なお、2013年決算における固定資産税の税収は8.5兆円、都市計画税の税収は1.5兆円となっており、両者の合計で市町村民税の税収全体の47.6%を占めます。また、資産の評価額が課税標準となるため、景気の影響を受けにくく、市町村にとって重要かつ安定的な収入源となっています。
2)固定資産税の対象資産の範囲
(固定資産税)
固定資産税の課税対象となる資産は、「土地、家屋、償却資産」の3つです。償却資産とは、土地・家屋以外の事業の用に供することができる有形の固定資産で、その減価償却費が法人税法又は所得税法の規定により所得の計算上、損金又は必要な経費に算入されるものをいいます。 ※自動車税等の課税対象となる車両等については、償却資産の範囲に含まれません。
また、償却資産は、土地・家屋のように登記制度がなく、市町村にとって所有者や資産内容の把握が困難です。そのため所有者である法人又は事業主が、毎年1月末までに所有資産の状況について申告を行うこととされています。
(都市計画税)
「都市計画区域内の市街化区域における土地・家屋のみ」が都市計画税の課税対象資産です。市街化調整区域の土地・家屋や、償却資産は対象外です。よって、課税対象は固定資産税と比べて限定されます。
(非課税措置・免税点)
公園や私道など、公益性の高い土地は固定資産税が非課税となる措置が設けられているほか、同一人が所有する固定資産の課税標準額の合計額が、それぞれ土地30万円、家屋20万円、償却資産150万円の免税点に満たない場合、固定資産税は課税されません。
3)固定資産税の税額計算の仕組み
固定資産税及び都市計画税は、原則として下記の計算式で計算がなされます。
(計算式)
• 固定資産税 = 課税標準額 × 標準税率(1.4%) • 都市計画税 = 課税標準額 × 制限税率(0.3%) 原則として、納税者自身が固定資産税の計算を行うことはありません。固定資産税等の計算を行うのは市町村であり、納税者にはその計算結果が通知される「賦課課税方式」が採用されています。
(課税標準額)
課税標準の基となる固定資産の評価は、総務大臣が定めた固定資産評価基準に基づいて行われます。固定資産評価基準における資産別評価方法は、下表のとおりです。
[table id=20 /]
なお、土地・家屋の評価は、3年に1度評価替えを行います。本来評価替えは毎年行うべきですが、実務上困難なため、3年毎と決まっています。(直近の評価替えは2015年度)
次に、固定資産評価額に基づき、課税標準額を求めます。原則、固定資産評価額がそのまま課税標準額となりますが、政策的な特例措置として、宅地等については課税標準の軽減措置が設けられています。(詳細は後述)
(税率)
固定資産税の標準税率は1.4%です。標準税率とは、市町村が課税する場合に通常よるべき税率であり、市町村が必要と認める場合には、超過税率によることができます。2015年4月1日時点で、全国の地方団体の91.1%が標準税率を採用しています。
都市計画税の制限税率は0.3%です。制限税率とは、市町村が税率を定めるに当たって、それを超えることができない税率とされています。すなわち制限税率以下であれば、市町村は自由に税率を決定できます。
4)固定資産税の軽減措置
原則的な税額計算の仕組みは上述のとおりですが、実際の納税額の決定に当たっては、税負担の軽減や激変緩和等の観点から、様々な特例措置が設けられています。以下で主な特例について紹介します。
(課税標準の軽減措置)
住宅用地は、住宅政策上の見地からその税負担を軽減するために、課税標準の軽減措置が導入されています。
[table id=21 /]
住宅用地の特例に関して最近話題となったのは、「特定空き家」に関する特例の適用除外です。従来は家屋が空き家であっても上記の住宅用地に該当して特例が適用されたため、土地の課税標準が最大1/6に軽減されていました。しかし、倒壊等の危険がある空き家が放置される問題が発生したため、2015年税制改正において、「特定空き家」に該当する場合には、軽減措置の対象外となりました。
また、2016年税制改正では、中小企業が取得する新規の機械装置について、一定の要件を満たす場合、3年間、固定資産税の課税標準を1/2に軽減する施策が創設されます。この制度は、史上初の「固定資産税による設備投資減税」として、赤字中小企業にも大きな効果があるものとして期待されています。
<参考資料> 平成28年度税制改正について - 中小企業庁
<参考ニュース> 中小の固定資産税軽減 機械など、設備投資後押し 政府・与党(産経ニュース)
(税額の軽減措置)
家屋は、新築住宅に係る固定資産税の減額特例が設けられています。下記の通り、住宅の種別に応じて3年間又は5年間、固定資産税額が1/2に軽減されます。
[table id=22 /]
なお、都市計画税は、家屋に係る税額の軽減措置はありません。
5)固定資産税の納税スケジュール・納付方法
(納税額の通知)
固定資産税の賦課期日は、毎年1月1日です。すなわち、1月1日時点における固定資産の所有者が納税義務者です。償却資産は、先述のとおり資産所有状況の把握のため、償却資産の申告書を1月末までに市町村に提出します。
市町村は入手した情報を基に、固定資産税と都市計画税の計算をし、賦課決定・納税通知書を作成して納税義務者に送付します。送付スケジュールは市町村により異なりますが、東京都23区は毎年6月1日に発送しています。
(納税方法)
納税義務者は、市町村から送付される納税通知書に従って納税します。納期限は第1期から第4期に分かれていますが、一括払いも選択可能です。一括払いした場合は、市町村によっては前納報奨金が交付されますが、近年は縮小・廃止する市町村が増えています。
納税方法は、金融機関、郵便局、コンビニなどで納付する方法のほか、口座振替や最近はクレジットカード払いに対応している市町村もあります。
(評価額の確認・不服の申出)
固定資産の評価額は、市町村の固定資産課税台帳に登録されます。固定資産の所有者は、その評価額が適正かどうか、他の土地・家屋と比較するため、土地(家屋)価格等縦覧帳簿を確認できます(縦覧)。
一例として東京都の場合、固定資産が所在する区にある都税事務所でのみ閲覧申請が可能となっています。(その他の都税事務所では閲覧不可) また、評価額に不服がある場合は、固定資産評価審査委員会に対して不服を申し出ることができます。不服の申出を行うには、固定資産課税台帳に価格等を登録した旨の公示の日から、納税通知書の交付を受けた日後60日までの間に、審査申出書を提出する必要があります。
<参考> 固定資産の価格に不服がある場合の手続き(東京都主税局)
<関連リンク> 固定資産税に減税はあるの?税率の軽減措置や納期などの基本知識を解説 固定資産税を最大限節税するために抑えておきたい3つのチェックポイント 固定資産税を滞納したらどうなるの? 滞納した場合の延滞金と対処法まとめ
まとめ
固定資産税の計算は非常に複雑です。税額計算は市町村が行いますが、計算結果が常に正しいとは限りません。専門的な詳細確認まで行うのは難しいと思いますが、せめて計算結果に違和感がないかを確認してはいかがでしょうか。 土地・家屋価格等の縦覧や、価格に不服がある場合の手続きについても、「そういう制度があるんだな」と、その存在を知っておくことが重要です。
<参考> 固定資産税っていくらかかるの?計算方法を徹底解説|計算例3選つき
<参考> 固定資産税のしおり(一般財団法人 資産評価システム研究センター)